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国のIT政策概要

キーワード

IT基本法、e-Japan戦略、IT新改革戦略、i-Japan戦略、新たな情報通信技術戦略、世界最先端IT国家創造宣言


戦略名 IT基本法 e-Japan戦略 e-Japan戦略Ⅱ IT新改革戦略 i-Japan戦略2015 新たな情報通信技術戦略 世界最先端IT国家創造宣言
公表年月~目標年 2000年11月制定,2001年1月施行 2001年1月~2005年 2003年7月~2005年 2006年1月~2010年 2009年7月~2015年 2010年5月~個別設定 2013年6月~2020年
特記事項 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関して以下を定めた法律
①基本理念及び施策の策定に係る基本方針
②国及び地方公共団体の責務
③IT戦略本部の設置
④重点計画の作成
IT戦略本部による横断的主導体制の確立
IT基本法実現への第1次5ヵ年計画
e-Japanのほぼ達成した分野を削除し重点をさらに具体化 e-Japan戦略Ⅱ路線の発展 リーマンショック後の経済危機に対応して前倒し
策定直後に民主党へ政権交代により実効を得る前に見直し
考え方や表現は異なるが、主要分野は前戦略と大差なし
3年後に自・公に政権交代により長期計画は次戦略で見直し
アベノミクス実現の一環として閣議決定
2020年の東京五輪を見越した長期計画
達成目標 高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する 5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す ITの利活用による、元気・安心・感動・便利な社会の実現を目指して いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現 国民主役のデジタル安心・活力社会の実現を目指して 新たな国民主権の確立 閉塞を打破し再生する日本へ
世界最高水準のIT利活用社会の実現
重点分野 基本方針
①高度情報通信ネットワークの一層の拡充等の一体的な推進
②世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成
③教育及び学習の振興並びに人材の育成
④電子商取引等の促進
⑤行政の情報化
⑥公共分野における情報通信技術の活用
⑦高度情報通信ネットワークの安全性の確保等
⑧研究開発の推進
⑨インフラ
⑩安心できるIT社会
⑪高度IT人材
⑫人的基盤づくり
⑬研究開発
⑭国際的な協調及び貢献
①超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策
②電子商取引と新たな環境整備
③電子政府の実現
④人材育成の強化
○先導7分野
①医療
②食
③生活
④中小企業金融
⑤知
⑥就労・労働
⑦行政サービス
○新しいIT社会基盤
①次世代情報通信基盤
②安全、安心な利用環境
③研究開発
④IT人材、学習振興
⑤国際関係
①医療
②環境
③ITによる安全・安心な社会
④ITS(高度道路交通システム)
⑤電子行政
⑥IT経営
⑦豊かな生活
⑧ユニバーサルデザイン社会
⑨インフラ
⑩安心できるIT社会
⑪高度IT人材
⑫人的基盤づくり
⑬研究開発
⑭国際競争力
⑮国際貢献
○3大重点プロジェクト
①電子政府・電子自治体
②医療
③教育・人材
○産業・地域の活性化及び新産業
○デジタル基盤の整備
①国民本位の電子行政の実現
②地域の絆の再生
③新市場の創出と国際展開
①革新的な新産業・新サービスの創出及び全産業の成長を促進する社会
②健康で安心して快適に生活できる世界一安全で災害に強い社会
③公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会

2000年頃の状況

コンピュータ技術の進歩、インターネットの発展などにより、どこでも意識せずにITを活用する高度情報化社会(ユビキタス社会)が到来していることが広く認識されるようになりました。農業革命、産業革命に匹敵する広範囲に大きな影響を与える急激な変化であるとされ、IT革命といわれるようになりました。2000年に開催された九州・沖縄サミットではIT革命が主なテーマの一つになり,「グローバルな情報社会に関する沖縄憲章」が発表され、2000年末の流行語対象になったほどです。

1980年代末からのダウンサイジング、1990年代中頃からのインターネットの普及など、IT環境は大きく変化しました。
 1980年代中頃まで、日本は高度成長を遂げ国際競争力は「Japan as No.1」とまでいわれました。それが1988年頃からのバブル崩壊、1997年頃からの平成不況により、日本経済は急速に低下しました。この重要なときに、不況のため十分なIT投資ができなかったのです。

日本の国際競争力は、米国どころかアジア諸国・諸地域にも後れを取ってしまいました。その原因の一つがIT革命への対応が不十分であると指摘されていました(「米国のデジタルエコノミーと日本の失われた十年」)。そのような状況を打破するためには、官民をあげてIT化の推進が重要であるとして、国は、長期的なIT推進戦略を進めてきました。

国のIT推進戦略

IT基本法
2000年11月に「IT基本法」(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)が成立,2001年1月から施行されました。ITの推進を国の重要政策であるとし,その方向付けと推進方法を示したものです。 →参照:「IT基本法とe-Japan」

IT基本法の実現のために、その後、継続したIT推進戦略が策定されました。どの戦略もPDCAサイクルにより運営され、ほぼ毎年改定が行われてきました。

e-Japan戦略
IT基本法により設置されたIT戦略本部は,2001年1月にe-Japan戦略を取りまとめました。
 IT基本法の目的を実現するために,「2005年までに世界最先端のIT国家となる」ことを目標に,重点5分野を掲げました。
 ・世界最高水準の高度情報通信ネットワークの形成(ブロードバンドの普及)
 ・教育及び学習の振興並びに人材の育成(小中高校でのIT教育、高度IT人材の育成)
 ・電子商取引の促進
 ・電子政府・電子自治体の実現
 ・高度情報通信ネットワークの安全性及び信頼性の確保
e-JapanⅡ戦略
e-Japanの中頃になると、ブロードバンドの普及、通信料金の低廉化などは、目標を超えて達成されました。
 他の重点分野では、基盤整備だけではなく、それらの成果を享受するには利活用の面を重視するべきだとされました。
 それで、2003年にe-Japanの期間中ではありますが、全面的に見直してe-JapanⅡが策定されました。
  e-JapanⅡでは、「ITの利活用による「元気・安心・感動・便利」社会を目指す」ことをキャッチフレーズに「IT基盤を活かした社会経済システムの積極的な変革」を行うとしています。  そのために、「先導的取り組み」として、医療、食、生活、中小企業金融、知、就労・労働、行政サービスの7分野と、それを支える5つの「新しいIT社会基盤整備」を掲げました。
参照:「e-JapanⅡ戦略」
IT新改革戦略
しかし,未だ多くの課題が残されています。特に電子政府の分野では、多様なシステムを構築したのに利用度が極めて低いものがあり、批判されました(参照:「「e-Japanの達成状況」)。
 また,ユビキタス社会といわれるようにITの発展は急速ですので,継続的な推進を行う必要があります。
 それで,IT戦略本部は2006年に第2次5ヵ年計画とでもいうべき, IT新改革戦略を発表しました。2010年までに「世界のIT革命を先導するフロントランナーになる」ことを目標にして,「いつでも、どこでも、誰でもITの恩恵を実感できる社会の実現」をするとしています(参照:「IT新改革戦略」「IT新改革戦略の達成状況」
i-Japan戦略
IT戦略本部は、2009年7月にIT推進の第3次5ヵ年計画である「i-Japan戦略 2015」を策定しました。本来ならば、IT新改革戦略の最終年である2010年に策定するのですが、2008年に発生したリーマンショックに続く深刻な経済危機に対応するため、前倒しにしたものです。
 「国民主役のデジタル安心・活力社会の実現」をキャッチフレーズにして、次の政策を推進するとしています。
    1 三大重点分野
      (1) 電子政府・電子自治体分野
      (2) 医療・健康分野
      (3) 教育・人財分野
    2 産業・地域の活性化及び新産業の育成
    3 デジタル基盤の整備
 また、電子政府の推進体制の整備、過去の計画のフォローアップを進めるとともに、2013年までに国民電子私書箱の整備をするとしています。
→参照:「i-Japan戦略」
新たな情報通信技術戦略
2009年8月に、自民・公明党から民主党への政権交代がありました。IT戦略本部は2010年5月に「新たな情報通信技術戦略」(新IT戦略)を公表しました。これは、新政権によるIT推進施策の基本方針であるといえます(参照:「新たな情報通信技術戦略」)。
3つの柱
 1.国民本位の電子行政の実現
   ・申請手続きの便宜向上「行政キオスク端末」「国民ID制度」
   ・行政の見える化や行政刷新
   ・2次利用可能な形で行政情報を公開(後述)
 2.地域の絆の再生
   ・情報通信技術を活用した在宅医療・介護・見守り「どこでもMY病院」
   ・学校教育・生涯学習の環境を整備
   ・全世帯ブロードバンドサービス利用「光の道」の完成
 3.新市場の創出と国際展開
   ・情報通信技術導入や規制撤廃等による新市場創出
   ・スマートグリッド、ゼロエネルギー住宅、交通渋滞低減
   ・海外市場における知的財産権及び国際標準獲得等
それ以外に
 4.安全・安心な情報セキュリティ環境の実現
 5.政治活動に関する電子化(選挙運動でのインターネット利用、電子投票など)
を掲げています。
 体系や表現の相違はありますが、全般的には前政権での施策と大きく異なることはありません(本文では、「政府・提供者が主導する社会から納税者・消費者である国民が主導する社会への転換」であり、「過去のIT戦略の延長線上ではない」と強調していますが)。i-Japan戦略での重点施策は、新たな情報通信技術戦略でも引き継がれています(i-Japanとの対比)
 2011年3月に発生した東日本大震災への対応のため、IT推進戦略は相対的に関心が弱まる傾向がありました。また、2012年12月に、政権が民主党から自民・公明党に戻りました。そのような事情により、「新たな情報通信技術戦略」の結果を評価するのは困難です。
世界最先端IT国家創造宣言
第二次安倍内閣は、2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」( http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou1.pdf )を閣議決定しました。
(参照:世界最先端IT国家創造宣言
 2020年までに、「世界最高水準のIT利活用社会を実現する」ことを目標にしたもので、これまでの「戦略」と同様に、国の中長期IT戦略を示したものです(この戦略には、e-Japanのような通称はまだつけられていません。単に「新戦略」といわれています)。
 「目指すべき社会・姿」として、次の3分野を掲げ、その実現手段や工程表を示しています。

1.革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会の実現
(1)オープンデータ・ビッグデータの活用の推進
(2)ITを活用した日本の農業・周辺産業の高度化・知識産業化と国際展開
(3)幅広い分野にまたがるオープンイノベーションの推進等
(4)IT・データを活用した地域(離島を含む。)の活性化
(5)次世代放送サービスの実現による映像産業分野の新事業創出、国際競争力の強化

2.健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会
(1)適切な地域医療・介護等の提供、健康増進等を通じた健康長寿社会の実現
(2)世界一安全で災害に強い社会の実現
(3)家庭や地域における効率的・安定的なエネルギーマネジメントの実現
(4)世界で最も安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現
(5)雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現

3.公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会の実現
(1)利便性の高い電子行政サービスの提供
(2)国・地方を通じた行政情報システムの改革
(3)政府におけるITガバナンスの強化

関連法律・施策
2回の政権交代を通して、3党の間でIT推進に関して本質的な対立は少ないことが認識されたようです。体系や表現は異なりますが、「新たな情報通信技術戦略」の政策は、ほとんど新戦略に引き継がれています。
 例えば、「2次利用可能な形で行政情報を公開」を「オープンデータ・ビッグデータの活用の推進」、「スマートグリッド、ゼロエネルギー住宅、交通渋滞低減」を「健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会」として引き継いでいます。

2010年代に策定されたIT関連の法律・施策を掲げます。この多くは、以前の自公政権時代に検討され、民主党政権で足がかりが確立し、現在の自公明政権で実現しました。

  • 改正公職選挙法(2013年4月)
    政見や個人演説会の案内、選挙活動を撮影した動画などをWebサイトや電子メールで提供できることになりました(制限はある)。
    参照: インターネット選挙運動等に関する各党協議会「改正公職選挙法 ガイドライン」第1版本文
  • 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)(2013年5月)
    国民一人一人に番号を割り振って所得や納税実績、社会保障に関する個人情報を一つの番号で管理する制度の関連法。2017年1月から
    利用開始
    参照: 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」条文マイナンバー制度
  • 政府CIO法(内閣法等の一部を改正する法律)2013年5月
    この宣言を推進するために、各府省のCIOを統括し、各府省のIT投資や技術標準、セキュリティなどの運用状況を横串で管理し、政府情報システムの刷新を円滑に進めるのが役割です。従来の情報通信技術(IT)担当室と2012年に設置された政府CIO室とを統合して、「情報通信技術(IT)総合戦略室」が設置されました。 IT戦略本部をIT総合戦略室と改称して、より広い観点からIT戦略の企画・立案・推進を担当し、IT総合戦略室は府省横断的な取り組みを明確な責任と迅速な決定の下に推進することになりました。
    参照:情報通信技術(IT)総合戦略室「内閣法等の一部を改正する法律(政府CIO法)の概要について」本文
  • 改正個人情報保護法(2015年9月)
    特定の個人を識別できないように個人情報を加工し、個人情報を復元できないようにした「匿名加工情報」は、一定の条件のもとで第三者に提供できるようになりました。それによる様々なビッグデータを組み合わせて分析することにより、新規のビジネスが創出されたり、サービスの変化が得られる効果があります。2017年5月に全面施行されました。
    参照:「個人情報保護法」条文個人情報保護法
  • 官民データ活用推進基本法(2016年12月)
    国や自治体、民間事業者がもつ「官民データ」の活用を推進することにより、個性豊かな地域社会の形成並びに新たな事業の創出並びに産業の健全な発展及び国際競争力の強化を図ることを目的にしています。改正個人情報保護法やオープンデータ基本指針などの基本理念になるものです。
    参照:「官民データ活用推進基本法」条文官民データ活用推進基本法
  • オープンデータ基本指針(2017年5月) オープンデータとは、特定のデータが、一切の著作権などの制限なしで、全ての人が利用・再掲載できるような形で入手できることです。ここでは、主に行政が保有している多様な調査統計データを加工しやすい形式で公開することを指しています。
    2012年に、「新たな情報通信技術戦略」の一環として策定された「電子行政オープンデータ戦略」と官民データ活用推進基本法を受けて、オープンデータに関する基本的ルールを定めたものです。政府のオープンデータ全体の横断的検索を可能にするデータカタログサイト「DATA.GO.JP」に登録し公開するとしています。
    参照:IT総合戦略本部「オープンデータ基本指針」本文オープンデータ

理解度チェック: 正誤問題選択問題記述問題