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新たな情報通信技術戦略


IT戦略本部は2010年5月に「新たな情報通信技術戦略」を公表しました。
 2009年に長期政権であった自民党から民主党に政権交代がありました。新たな情報通信技術戦略は、新政権によるIT推進施策の基本方針であるといえます。

これ以前のIT政策論

「新たな情報通信技術戦略」策定以前に、民主党のIT状況の認識と推進戦略を示すものとして、経済産業省から「原口レポート」と「情報経済革新戦略」が発表されていました。

「原口レポート」2009「原口レポートⅡ」2010
当時の原口一博総務大臣によるITに関するビジョンです。「原口レポート」では、地域主権型社会への転換を目指す「緑の分権改革推進プラン」と,ICTの活用による持続的な社会の実現を目指す「ICT維新ビジョン」をまとめたものです。次の3本柱について、目標値や実現時期を示しています。
  • 地域の絆の再生
    ブロードバンド普及のための法的規制を全面的見直し(光の道)、デジタル教科書の配布,行政オンラインサービスの利便化、全国民を対象にしたEHR(Electronic Health Record)まど
  • 暮らしを守る雇用の創出
    ITC関連投資の倍増による経済成長とグローバル展開支援、そのための高度ICT人材育成、地域ICT推進リーダーの育成など
  • 世界をリードする環境負荷の軽減
    二酸化炭素の排出削減等のためのICTを活用したスマートグリッドの展開、中央官庁でのテレワーク推進など
「原口レポートⅡ」では、前レポートをさらに具体的な内容、数値目標を示したものです。
経済産業省「情報経済革新戦略」2010
副題を「情報通信コストの劇的低減を前提とした複合新産業の創出と社会システム構造の改革」としています。ICTだけでなく、電子工業全般を対象にして、現在の世界的シェアを失っている原因を、日本の技術が「摺り合わせ技術」「内向け技術」に偏っており、世界的に進む「モジュール化」による情報通信コストの劇的低減に対応できないでいると分析しています。
また、日本が先行している交通・水道・電力などの社会インフラとそれを制御しているICT技術をさらに発展させて海外進出することが重要だと指摘しています。
参照:「情報機器生産の国際比較」

IT戦略本部「新たな情報通信技術戦略」2010の内容

Ⅰ.基本認識

  ・情報通信技術革命の本質は情報主権の革命である。
   国民主権の社会を確立「知識情報社会」への転換が求められる。
  ・過去のIT戦略の延長線上ではなく、重点戦略(3本柱)に絞り込んだ戦略である。
   これまでの関連政策が効果を上げていない原因を徹底的に追求した。
  ・別途策定される新成長戦略と相まって、我が国の持続的成長を支えるべきものでもある。

Ⅱ.3つの柱と目標

 1.国民本位の電子行政の実現
   ・申請手続きの便宜向上
   ・行政の見える化や行政刷新
   ・2次利用可能な形で行政情報を公開
 2.地域の絆の再生
   ・情報通信技術を活用した在宅医療・介護・見守り
   ・学校教育・生涯学習の環境を整備
   ・全世帯ブロードバンドサービス利用「光の道」の完成
 3.新市場の創出と国際展開
   ・情報通信技術導入や規制撤廃等による新市場創出
   ・スマートグリッド、ゼロエネルギー住宅、交通渋滞低減
   ・海外市場における知的財産権及び国際標準獲得等

Ⅲ.分野別戦略

 1.国民本位の電子行政の実現
  (1) 情報通信技術を活用した行政刷新と見える化
   ⅰ)これまでの情報通信技術投資の総括とそれを教訓とした行政刷新
   ⅱ)行政サービスのオンライン利用に関する計画の策定
   ⅲ)行政ポータルの抜本的改革と行政サービスへのアクセス向上
      電子政府の総合窓口(e-Gov)の利便性向上、行政キオスク端末
   ⅳ)国民ID制度の導入と国民による行政監視の仕組みの整備
      国民ID制度を導入、公的ICカードの整理・合理化、自己情報開示
   ⅴ)政府の情報システムの統合・集約化
      クラウド技術を活用した「政府共通プラットフォーム」
   ⅵ)全国共通の電子行政サービスの実現
      行政手続に係る電子的フォーマットの標準仕様
   ⅶ)「国と地方の協議の場」の活用
  (2) オープンガバメント等の確立
   ⅰ)行政情報の公開、提供と国民の政治決定への参加等の推進
      e-Gov等の双方化
   ⅱ)行政機関が保有する情報の活用
      地理空間情報、統計調査等の二次加工可能な提供
 2.地域の絆の再生
  (1) 医療分野の取組
   ⅰ)「どこでもMY病院」構想の実現
      医療・健康情報の電子化
   ⅱ)シームレスな地域連携医療の実現
   ⅲ)レセプト情報等の活用による医療の効率化
   ⅳ)医療情報データベースの活用による医薬品等安全対策の推進
  (2) 高齢者等に対する取組
   ⅰ)高齢者等に対する在宅医療・介護、見守り支援等の推進
   ⅱ)高齢者、障がい者等に優しいハード・ソフトの開発・普及
   ⅲ)テレワークの推進
  (3) 教育分野の取組
  (4) 地域主権と地域の安心安全の確立に向けた取組
   ⅰ)地域の活性化
      ふるさとコンテンツの製作・配信基盤の整備
      生産・加工・流通の一体化等の推進
   ⅱ)災害・犯罪・事故対策の推進
 3.新市場の創出と国際展開
  (1) 環境技術と情報通信技術の融合による低炭素社会の実現
   ⅰ)スマートグリッドの推進と住宅やオフィスの低炭素化
   ⅱ)人・モノの移動のグリーン化の推進
   ⅲ)情報通信技術分野の環境負荷軽減
  (2) 我が国が強みを持つ情報通信技術関連の研究開発等の推進
      技術分野の競争力強化、国際標準の獲得や知的財産の活用
  (3) 若い世代の能力を活かした新事業の創出・展開
   ⅰ)デジタルコンテンツ市場の飛躍的拡大
      「知的財産推進計画2010」、非商業分野におけるデジタルアーカイブ化を促進
   ⅱ)空間位置情報サービスその他の電子情報を活用した新市場の創出
      位置情報のコード体系、情報互換の標準的データ仕様
   ⅲ)高度情報通信技術人材等の育成
  (4) クラウドコンピューティングサービスの競争力確保等
      高効率なデータセンターの国内立地促進
  (5) オールジャパンの体制整備による国際標準の獲得・展開及び輸出・投資の促進
   ⅰ)アジア太平洋地域内の取組
   ⅱ)国際物流における貨物動静共有ネットワークの構築
      電子タグの国際標準化、貨物動静の共有ネットワーク
   ⅲ)情報通信技術グローバルコンソーシアムの組成支援
   ⅳ)情報通信技術による公共調達市場の拡大
 4.安全・安心な情報セキュリティ環境の実現
 5.政治活動に関する電子化
  (1) 選挙運動におけるインターネットの活用
  (2) 電子投票
  (3) 国会活動における電子化

Ⅳ.今後の検討事項

 1.実施体制の確立
    IT戦略本部による工程表の策定、費用対効果を含めた徹底的な検証
 2.情報通信技術の利活用を阻む既存の制度等の徹底的な洗い出し
    企画委員会を中心に「情報通信利活用促進一括化法(仮称)」を検討

ここでの「企画委員会」とは、2010年3月に設けられたIT戦略本部内の組織で、IT戦略にに関する重要事項の検討、施策の進捗管理等を担当する委員会です。内閣府特命担当大臣(科学技術政策)が座長になり、国家戦略室及び関係府省の副大臣又は大臣政務官であって座長が指名する者が委員になっています。それに伴い、IT戦略本部の「IT関連規制改革専門調査会」と「IT戦略の今後の在り方に関する専門調査会」は廃止されました。

このように、「新たな情報通信技術戦略」は「原口レポート」や「情報経済革新戦略」とほぼ一致した内容になっています(当然ですが)。なお、「新たな情報通信技術戦略」の「基本認識」では、「政府・提供者が主導する社会から納税者・消費者である国民が主導する社会への転換」であり、「過去のIT戦略の延長線上ではない」と強調していますが、ICTに関する現状認識や推進方法に政権により大きな本質的な差異がないのも当然です。自民党政権での最後の5ヵ年計画である「i-Japan戦略 2015」2009と対比すると、体系や表現の違いはありますが、似通った内容になっています。

i-Japanとの対比

1 三大重点分野
 (1) 電子政府・電子自治体分野
         →国民本位の電子行政の実現
      「国民電子私書箱」→「国民ID制度」
 (2) 医療・健康分野
         →医療分野の取組、高齢者等に対する取組
      「日本健康コミュニティ」→「どこでもMY病院」
 (3) 教育・人財分野
         →教育分野の取組、若い世代の能力を活かした新事業の創出・展開
2 産業・地域の活性化及び新産業の育成
         →地域主権と地域の安心安全の確立に向けた取組
3 デジタル基盤の整備
         →新市場の創出と国際展開

「新たな情報通信技術戦略」の特徴