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情報機器生産の国際比較

キーワード

パソコン・携帯電話・スマートフォンのメーカー別シェア(国内、世界)、日系企業、国内生産、自給率、国際分業、摺り合わせの技術、モジュール化、ガラパゴス現象、情報経済革新戦略


パソコン等の日本・世界のメーカー別シェア

注意:この分野での、メーカーシェアは激しく変化しています。
・新興国需要の急激な増加により、新市場を対象に激しい競争が行われています。
・競争力アップや低採算化による、メーカーの企業の買収や撤退が活発です。
・調査期間や調査方法の違いにより、調査機関による違いもあります。
そのため、ここに掲げたシェアやランキングは、現在とは異なることがあります。

パソコン、携帯電話、スマートフォンについて、日本と世界ではメーカー別シェアが大きく異なります。日系企業の世界的シェアは非常に小さいのです。これは、日本企業あるいは日本市場の特異性が関係しており、後述の日本電子工業の問題点指摘へのイントロにあたります。

パソコン

日本でのパソコン普及率はほぼ飽和状態になり、パソコンの国内出荷量はほぼフラットな状況になりました。また、買い替えや2台目の需要が主になり、デスクトップ型の比率が下がり、ノート型の比率が増大する傾向にあります。 (図表)

日本ではNEC(レノボ)・富士通・東芝だけで約50%を占めるなど日系企業が優勢ですが、世界では日系企業全体でも10%程度です。世界では、HP・デルの米国勢とレノボ(中国)やエイサー(台湾)、エイスース(台湾)のアジア勢が争っています。
 パソコンの心臓部であるCPUは、インテルとAMD(共に米国)が独占状態になっています。液晶モニターでは、韓国(サムソン、LG電子)と米国(デル、HP)の企業が上位を占めています。

パソコンメーカーシェアの図表: 現状国内推移世界推移

携帯電話

日本国内における携帯電話の普及率は90%を超え、需要の多くは子どもの成長による新規需要と新機種への買替需要なので、国内需要は低下傾向にあります。なお、日本では、通話よりもメールの利用が多いなど、他国と比較して顧客ニーズが多様です。それで、3G対応、ワンセグ対応など多機能・高性能へのニーズやデザインの多様化などが行われてきました。このような日本独自の発展を揶揄をこめて「ガラパゴス現象」といわれています。

このような特徴は、日本企業の得意とする分野で、外国メーカーの参入を困難にしてきました。そのため、日系企業が大半のシェアをもっています。

ところが、全世界では発展途上国での普及が急速に進んでいます。そこでは携帯電話は文字通り電話なのであり、余計な機能のために高級品を買う状態ではありません。そのため、日本からの輸出はほとんどなく、世界的シェアはほとんどない状態です。
 携帯電話のトップメーカーは、以前はフィンランドのノキアが高いシェアをもっていたのですが、現在ではサムソンやLG電子など韓国メーカーがトップになっています。

携帯電話メーカーシェアの図表: 現状国内推移世界推移

スマートフォン

日本が従来型携帯電話の多機能化や軽量化を進めている間に、米国ではスマートフォンが出現し、日本でも2000年代末頃から、アップルのiPhoneの発売を機に、急速に普及しました。出荷高では既に従来型携帯電話を超え、近いうちに利用者数でも超える状況です。 「スマートフォンの歴史」

世界のスマートフォンのメーカー別シェアは、以前はノキアやRIM(BlackBerryのメーカー)が強かったのですが、現在では、サムソンとアップルで50%以上のシェアをもっています。
 日本企業の世界シェアは5%程度で、日本国内では、もはや日系携帯電話メーカー企業の独占はならず、アップルが首位になり、サムソンもシェアを高めています。

スマートフォンメーカーシェアの図表: 現状世界推移

電子工業の状況

日本産業界の低迷や空洞化が深刻な問題として指摘されています。ここではIT産業に関係の深い電子工業を対象にします。

「日系企業」シェアと「国内生産シェア」

日本企業は、中国や東南アジアで海外生産をしています。それも含めて日系企業といいます。それに対して、日本国内での生産を国内生産といいます。国内生産のなかには外資系企業が日本で生産していることもありますが、電子工業ではその割合は非常に小さいので、国内生産は日系企業によるものだとしても、あまり変わりません。
 自給率とは、国内需要に対する国内生産の比率です。貿易統計では、海外生産した製品を日本で販売したり、部品を同じ企業の日本工場で組み立てたりしても輸入になりますし、国内生産した部品を同じ企業の海外工場に送れば輸出に算入されます。
 日本企業の競争力の視点では、海外生産も含めて世界全体と比較するのが適切でしょう。一方、日本の競争力や空洞化の視点では、国内生産と比較するのが適切でしょう。

どちらのシェアも低く、しかも低下が進んでいる

1980年代の日本は電子立国を掲げ、最大の輸出国でした。それが現在では、日本企業の海外移転や韓国・中国企業の成長により、日本の国内自給率(国内需要/国内生産)は急激に下がってきました。パソコンは2000年代中頃に自給率60%切りました (図表) し、携帯電話も2010年に60%を切りました。 (図表)

電子工業全体でも同じことがいえます。電子工業全体の全世界生産高は200兆円程度(ITソリューション・サービスを除くと150兆円程度)で、横ばい状況になっています。 (図表)
 これには、価格の下落が急速なことも原因です。価格は世界経済の状況と生産稼働との関係により敏感に変動します。
 電子工業全体における日系企業のシェアは20%程度ですが、年々低下傾向にあります。

しかも、日系企業は国内生産から海外生産へシフトしています。コンピュータおよび情報端末の分野での日系企業シェアは約20%ですが、国内生産でのシェアは5%にもなりません。AV機器は日系企業の得意とする分野で、世界の50%近いシェアをもっていますが、国内生産では10%強に過ぎません。 (図表)

パソコンも携帯電話も「メーカー別シェア」では日系企業が大部分を占めているように見えます。それなのに、輸入が多いことを疑問に思うかもしれません。パソコンや携帯電話の大部分は、日本の生産部門が海外で生産をして輸入し、日本の販売部門が日本ブランドで販売しているからです。また、海外メーカーがOEMで生産し、日本企業のブランドで販売していることも多いのです。

国際分業が進展している

自給率が低いことから日本が輸入国だと決めつけるのは早計です。輸出もしながら輸入もしていることが多いのです。一般に、低価格の製品はコストが安い海外からの輸入に頼り、国内では付加価値の高い高技術・高品質製品を生産して輸出する傾向があります。製品による国際分業(水平分業)です。 (図表)

それよりも顕著などが、素材-部品-製品組立の工程における国際分業(垂直分業)です。例えば、日本は携帯電話を製品として輸入していますが、それに用いるカラー液晶、ダイオード、電池、ヒンジなどの部品では、日本メーカーは世界でトップのシェアをもっており、日系企業だけでなく海外メーカーもそれを利用しています。ですから、低価格携帯電話の比率が増加しても、それらの電子部品や半導体の輸出が増大するのです。 (図表)

出典:経済産業省「情報経済革新戦略」2010年

国際分業による部品等の輸出の伸び推移

電子工業全般でいえば、最終製品としての電子製品では低迷していますが、その部品では日本企業が卓越した技術をもっていますし、半導体そのものの生産シェアは次第に低下していますが、半導体製造に必要な機器や機材は日本企業のシェアは非常に高いのです。世界で独占的な70%以上のシェアをもっていたり世界のトップリーダーになっている企業も多くあります。 (例)
 特に期待されているのが組込みソフトウエアの分野です(参照:「組込みソフトウェア」)。家庭電化製品から自動車や工場設備機器まで、多くの機器はそれに組み込まれたマイクロコンピュータで制御されています。そのソフトウェアを組込みソフトウェア(Embedded Software)といいます。
 組込みソフトウェアでは、日本が最高の技術をもっています。その典型的な例がロボットです。生産台数も稼働台数も世界で群を抜いています。 (図表)
 また、日本が輸出している機械や機器類の開発コストの40%以上が組込みソフトウエア開発費だといわれています。 (図表)

電子工業の問題点と対策

垂直型の国際分業だといっても、そのうちに電子部品や半導体の分野も海外メーカーが進出するのは当然です。このままでは、日本の電子工業は衰退の一途をたどることになります。(参照: 「最近の国内生産撤退事例」

摺り合わせ技術とモジュール化技術

日系企業の輸出不振の原因として、円高、人件費格差、法人税格差などが指摘されていますが、それよりも根本的な原因として、日本の技術は「摺り合わせの技術」であり「内向きの技術」が多く、製品のコモディティ化、グローバル化に伴う技術の「モジュール化」への対応に遅れがちだと指摘されています。

液晶、HDD、半導体など多くの電子製品は、それらの需要が比較的小さい時代では、日本は最高のシェアをもっていました。それどころか、日本の技術がそれら製品の実用化を立証したともいえるのです。確かに日本の技術は優れているのですが、自社製品に特化して磨きをかける「匠の技」でした。
 ところが、製品の需要が高まると、低価格化へのニーズが多くなります。低価格化するには、各種部品を標準化して互換性を持たせる必要があります。それを「モジュール化」といいます。それにより、劇的な生産者の拡大、生産コストの低下が起こります。
 韓国や中国は、モジュール化の波にのり、世界的なシェア拡大に成功しました。日本企業(国も)は、そのイノベーションに対応できる体質になっていないことが問題なのだと指摘されています。(参照: 「摺り合わせ技術とモジュール化技術」

イノベーションへの対応が緊急の課題

日本が電子立国として存在するためには、先行的な摺り合わせ技術が必要なことは当然です。しかし、モジュール化へのキャッチアップ、さらにはそれへの移行のリーダー的存在であることも重要です。それには、企業だけでなく国の政策が必要です。

経済産業省は、そのような観点から、2010年に「情報経済革新戦略」を公表しました。副題は、「情報通信コストの劇的低減を前提とした複合新産業の創出と社会システム構造の改革」となっています。すなわち、グローバル化、モジュール化の動向に際して、
 ・コモディティ化圧力をかわす対応
 ・複合技術の推進
 ・データ・コンテンツの活用分野
 ・人材の育成
などについて、企業や国が真剣に取り組むことが重要だとしています。 (説明)


理解度チェック: 正誤問題選択問題記述問題