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摺り合わせ技術とモジュール化技術

日系企業の輸出不振の原因として、日本の技術は「摺り合わせの技術」であり「内向きの技術」が多く、製品のコモディティ化、グローバル化に伴う技術の「モジュール化」への対応に遅れがちだと指摘されています。
 これを携帯電話を例にして説明します(必ずしも適切な例とはいえませんが、身の回りのわかりやすい例として取り上げます)。

摺り合わせ技術とは

「摺り合わせ技術」とは、自動車のように多数の部品があり、性能を上げるには部品間の組合せを考えて部品を最適なものに調整する技術です。携帯電話でいえば、軽量化・薄型化の要請が先にあり、そのなかで多様な機能を埋め込むために、個々の部品を特化した仕様にするような技術です。日本では、「匠の技」の職人技が尊重されますが、多分に「摺り合わせ」的な職人技といえましょう。
 しかも、その技術は特定の機器、あるいは自社内に限定されがちです。それを「内向き技術」といいます。以前の携帯電話では各社がそれぞれのOSを採用しており、部品も「摺り合わせ」技術を駆使しており、他社機種はもとより自社機種でも新機種のたびに改良され、互換性の乏しいものでした。
 これが、日本人の顧客が期待する多機能高品質の要求に一致し、さらに「摺り合わせ」「内向き」技術に拍車をかけたといえます。着うたフル機能、お財布機能、ワンセグ機能などの機能はその好例でしょう(参照:「カメラ付携帯電話」「携帯電話の進化」
 人口1億人強という規模の国内市場は、国内だけで大きなシェアを得れば、それなりのビジネスができます。それが、内向きな摺り合わせ技術に向かわせ、海外市場への積極的な参入意欲を生まなかったのだという意見もあります。

しかし、そのような機能は世界的に受け入れられません。日本が独自の進化をしたということで「ガラパゴス現象」といわれました。携帯電話のトップメーカーであるノキアは、このような特殊市場での事業をあきらめて撤退しました。それで、日系企業の独占になったのです。

日本市場が恒久的に増大するのなら、海外メーカー参入の障壁として有効な戦略ですが、既に飽和状態になっています。海外に進出する必要があります。ところが、その市場では、巨大な人口をもつ途上国での需要が急増しています(図表)。その大部分は低所得で、環境が不十分な地域にいます。携帯電話が必要なのは固定電話網が未整備だからということすらあります。
 そのような利用者にとって、ガラパゴス機能は無用な長物で、安価で電話機能だけでよいことになります。


出典: Garbagenews.com「世界のモバイルユーザーの推移をグラフ化してみる」
(元資料:Portio Research Mobile Factbook 2009)

モジュール化技術とは

一般に需要が多くなりメーカーが多くなると、コストダウンが大きな目標になります。それには部品の大量生産が必要になるので部品専業メーカーが出現します。それを可能にするには機種間での互換性が前提になり標準化が行われます。「モジュール化」とは部品の標準化だといってよいでしょう。モジュール化することにより、高度な技術が不要になるため参入メーカーが増加し、さらにはコスト競争により国際分業が行われ、価格は劇的に低下します。 (図表)

出典:小川紘一「プロダクト・イノベーションからビジネスモデル・イノベーションへ
―日本型イノベーション・システムの再構築に向けて(1)―」2008年

モジュール化・グローバル化による価格の劇的下落の例

競争力の3段階変化

価格は劇的に低下すると、途上国を含めた全世界での需要が急激に増大します。それが「グローバル化」です。すなわち、競争力は次の3段階でパラダイムシフトが起こります。 (図表)

出典:経済産業省「情報経済革新戦略」2010年

競争力の3段階変化

モジュール化対策の重要性

日本企業は、液晶やCDなどいろいろな分野で先端技術をもっていました。しかも摺り合わせ技術により、優秀な製品にしていました。逆にいうと、その成功があだになり、世の中がモジュール化段階に入っているのに遅れてしまう傾向があります。 (図表)
 韓国・台湾・中国などは、そのような歴史を持たなかったのが幸いして、モジュール型の生産に早期に取り組むことができ、しかも生産コストが安価なことから有利な展開ができたのだといえます。しかし、そのうちにコスト競争の観点からBRICsへ移行するでしょうし、これらの国や地域はより付加価値の高い先行技術での競争者となるでしょう。

出典:小川紘一「プロダクト・イノベーションからビジネスモデル・イノベーションへ
―日本型イノベーション・システムの再構築に向けて(1)―」2008年

モジュール化・グローバル化に乗り遅れた日本企業のシェア喪失