2012年12月に、政権が民主党から自民・公明両党に戻り、第二次安倍内閣が発足し、2013年6月に「世界最先端IT国家創造宣言」(
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou1.pdf
)を閣議決定しました。
2020年までに、「世界最高水準のIT利活用社会を実現する」ことを目標にしたもので、e-Japanなどと同様に、国の中長期IT戦略を示したものです。
この戦略には、e-Japanのような通称はまだつけられていません。単に「新戦略」といわれています。
1.閉塞を打破し、再生する日本へ
2.世界最高水準のIT利活用社会の実現に向けて
1.革新的な新産業・新サービスの創出及び全産業の成長を促進する社会
2.健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会
3.公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会
1.革新的な新産業・新サービスの創出と全産業の成長を促進する社会の実現
(1)オープンデータ・ビッグデータの活用の推進
(2)ITを活用した日本の農業・周辺産業の高度化・知識産業化と国際展開
(3)幅広い分野にまたがるオープンイノベーションの推進等
(4)IT・データを活用した地域(離島を含む。)の活性化
(5)次世代放送サービスの実現による映像産業分野の新事業創出、国際競争力の強化
2.健康で安心して快適に生活できる、世界一安全で災害に強い社会
(1)適切な地域医療・介護等の提供、健康増進等を通じた健康長寿社会の実現
(2)世界一安全で災害に強い社会の実現
(3)家庭や地域における効率的・安定的なエネルギーマネジメントの実現
(4)世界で最も安全で環境にやさしく経済的な道路交通社会の実現
(5)雇用形態の多様化とワーク・ライフ・バランス(「仕事と生活の調和」)の実現
3.公共サービスがワンストップで誰でもどこでもいつでも受けられる社会の実現
(1)利便性の高い電子行政サービスの提供
(2)国・地方を通じた行政情報システムの改革
(3)政府におけるITガバナンスの強化
1.人材育成・教育
2.世界最高水準のITインフラ環境の確保
3.サイバーセキュリティ
4.研究開発の推進・研究開発成果との連携
1.本戦略のPDCAサイクル等の推進管理体制
2.目標・進捗管理における評価指標
3.規制改革と環境整備
4.成功モデルの実証・展開
この宣言では、ITが「あらゆる領域に活用される万能ツールとして、イノベーションを誘発する力を有している」として、経済再生・成長戦略の柱が、IT戦略であるとしています。
従来の国のIT戦略は、IT戦略本部が決定していましたが、今回は閣議決定の形式で公表されました。安倍首相の唱えるアベノミックスの「第3の矢」である成長戦略の一環であることを示す狙いがあったのでしょう。
2001年に策定したe-Japan戦略でも「5年以内に世界最先端のIT国家になる」ことを目標にしていましたが、ランキングはむしろ低下してしまいました。その原因として、行政でのITの利活用が縦割りで国民の利便への対処が不十分であったこと、国家プロジェクトとしての情報資源活用への取り組みが不十分であったことがあります。
その反省から、省庁横断的な立場を強調するために、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部の呼称を、従来の「IT戦略本部」から「IT総合戦略本部」
(
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/)としました。
また、政府CIO制度が創設され、内閣官房に置かれる内閣情報通信政策監として位置付けられ、IT総合戦略本部にも参画することになりました。
この主要3分野につき、IT総合戦略本部は工程表 ( http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou4.pdf)を策定しました。2014年度と2015年度で集中的な取組を行い、先進国と同水準の環境を整え、その後の発展へとつなげることにしています。
新戦略は広範囲でのIT利活用を対象にしていますが、そのうち、話題性の高いものを列挙します。これらは、必ずしも新戦略の最大項目ではないし、以前の「i-Japan戦略」や「新たな情報通信技術戦略」でも示されていた事項ですが、この戦略でも引き継がれ実現が期待されています。
行政機関の保有する公共データを提供するサービスは以前から重視されてきました。提供データの拡大だけでなく、その二次加工を可能な形式で提供する重要性が認識されるようになりました。それをオープンデータといいます。
それにより、透明性・信頼性の向上、国民参加・官民協働の推進が図れるだけでなく、編集、加工、分析等をした新規サービスがの創出や企業活動の効率化等が促されると期待されています。
2012年6月、IT戦略本部は「電子行政オープンデータ戦略に関する提言」(a href="http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei/honbun.pdf" target="_blank">
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei/honbun.pdf)を策定しました。
新戦略の工程表では、2013年度にデータカタログサイトの試行版を立ち上げ、2014年度から本格運用を実施、2015年度末には、他の先進国と同水準の公開内容を実現する目標を掲げています。それとともに、2014年度オープンデータの利用制度や新産業創出支援制度を整備するとしています。
1960年代から、社会保障制度や税制を一体的に捉えるために、国民の一人一人に番号を付けることが必要だといわれてきました。反面、プライバシーの観点や行政の国民監視の懸念もあり、実施が先延ばしになっていました。
その間に基礎年金番号、住民票コードなど用途を限定した番号が多数作られ、行政間での連携ができず、行政サービスが非効率だと指摘されてきました。
次第に、統一コードの重要性に関する合意形成が進み、具体的な検討が行われるようになりました。
民主党政権は、2011年に内閣官房「社会保障・税番号大綱」( http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/pdf/110630/honbun.pdf)を策定し、翌年に法案を提出したが、衆議院解散により廃案。政権交代した安倍内閣で2013年5月に「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(マイナンバー法)」( http://law.e-gov.go.jp/announce/H25HO027.html)として成立しました。その番号を「マイナンバー」といいます。
工程表は、法律成立以前に策定されたので、詳細を掲げていませんが、2017年からマイポータルの運用開始を予定し、それまでに各種環境整備を行うとしています。
マイナンバーは、市町村長より個人へ「紙の通知カード」で郵送され、本人の申請によりマイナンバーカードが交付されます。そのカードには、基本4情報(氏名、住所、性別、生年月日)と顔写真およびICチップが組み込まれます。これは、身分証明書としての利用やマイポータルでの利用に使われます。
マイナンバーは、税務分野だけでなく、年金、労働、福祉、医療などの社会保障分野や災害対策での利用や地方公共団体での特定事務での利用が想定されています。
マイポータルとは、個人が自宅や行政機関設置のパソコンから、マイナンバーカードを用いて、自分の情報や各種行政サービスの閲覧・手続ができる個人用ホームページのようなしくみです。
民間企業での個人情報に利用できれば、活用分野が飛躍的に拡大されるのですが、個人情報取扱への懸念もあり、今回では民間企業が法定調書へマイナンバーを記入すること以外の利用は認めないことにしています。
ITを活用した災害対策、エネルギーの最適管理、交通システムの高度化はについても、その重要性が指摘されており、IT戦略の主要な分野とされてきました。新戦略では、大規模地震発生の危険性増大、東日本大震災の体験、原発依存からの脱却、東京オリンピック開催など緊急課題になっています。