本章では、IT活用のコンセプトが歴史的にどのように変化してきたかを鳥瞰します。これは決して懐古趣味ではありません。現在、問題になっていることが、当時でも重視されていたことを示して、問題提起としたいのです。また、かなり以前の状態にとどまっている企業も多いのです。
また、ここでは多様な用語や概念がでてきます。これらは、後続の章でも用いられますので、理解しておいていただきたいのです。そのため、後続の章と重複する部分もあります。
1.1 全体の流れ
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1.2 EDPS、MIS:コンピュータ導入初期
(1960年代中頃~1980年代中頃)
(1)EDPSと基幹業務系システム
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OR(オペレーションズリサーチ)
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コンピュータの特徴は、膨大な計算を迅速に正確に計算することにあります。その観点では、事務処理よりも科学技術計算に向いているといえます。実際、初期のコンピュータは、弾道計算に用いられたといわれています。企業でも、機械やプラントの設計に、いち早く利用されるようになりました。
本章ではビジネス分野に限定するので、この分野については割愛しますが、OR(オペレーションズリサーチ)について簡単に言及しておきます。
(2)MIS
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- ITの効果をあげるには業務の標準化や見直しをせよ。
- 縦割りシステムにするな。全社的なIT計画が必要だ。ITの効果を高めるには、部門の壁を超えたIT活用が必要なのだ。
- それには、経営者や利用部門の積極的関与が重要だ。
- 近年、ロジカルシンキングが話題になった。とかくプレゼンテーション技術に流れがちだが、本来は「合理的なものの考え方」にある。ORは、その考え方のヒントになる。
- 意思決定、管理統制を正確・迅速に行うためには、ITの活用が効果的である。ITにより、情報伝達機能としての中間管理者を減らして組織をフラット化できる。
- 技術レベルを無視したIT活用は効果をもたらさない。
これらは半世紀も前から指摘されていたのに、現在でも同じことがいわれている。その原因は何か?
1.3 DSS、OA、EUC:コンピュータ利用の大衆化
(1970年代後半~1980年代中頃)
ネットワークやパソコンの発展により、エンドユーザ(IT部門以外の人)がコンピュータを利用するようになりました。
(1)DSSと情報検索系システム
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(2)パソコンの普及とOA
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- 情報検索系システムは、日常的な非定例的・非定型的な情報入手に役立つだけでなく、問題発見・仮説検証のツールとして役立ち、業務改善、業務改革に必要である。
- このような利用では、業務担当者自らがコンピュータを利用することが必要である。
- 情報検索系システムを主、基幹業務系システムはそれに正しいデータを提供する従の立場だという認識も必要である。
- オフィス業務の生産性向上が重要なことは、1980年代でも重視されていた。
1.4 SISとBPR:経営戦略とIT活用の統合
(1980年代中頃~1990年代中頃)
これまでのコンピュータは、人間の仕事を手助けすることが目的でした。それが、経営戦略実現の武器としての利用されるようになったのです。それにより、ITの位置づけが根本的に変り、IT部門の任務も変わりました。
(1)SIS
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(2)BPR
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(3)ダウンサイジングとグループウェア
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- ITは経営戦略実現の武器である。経営戦略策定には、IT活用動向をウオッチする必要がある。
- 特に、企業間ネットワークの活用が重要だ。すなわち、企業の壁を超えたIT活用を考えよ。
- 変化に対応するために、IT部門の戦略部門化、CIOの職制が重要だ。
- ITは業務革新のインフラである。業務改革を実現するには、それに合致した情報システムの構築が必要になる。
- そのため、経営戦略とIT戦略の統合をするCIOの任務がさらに重要になった。
4半世紀も以前に指摘されていたことが現在もいわれている理由は何か?
- ダウンサイジングの流れは、IT活用のパラダイムシフトである。
- コンピュータ(計算機)だけでなく、コミュニケータ(情報伝達機)としての機能が重視されるようになった。
- グループウェアにより組織の壁が崩壊する。逆に、組織の壁を崩壊させないと、グループウェアの効果は得られない。企業文化と密接な関係がある。
1.5 インターネット:IT革命-広範囲に急激な変化
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(1990年代中頃~現在)
本来ならば、この時代を詳細にすべきですが、経営者が実際に体験されていること、本シリーズ全体がこの時代を対象にしていることから、ここでは簡単に記述することにします。
- 従来は企業に入らないと本格的なIT利用をする機会がなかった。ところが、インターネットの普及により、企業に入る以前にIT利用技術は習得している。むしろ、インターネットが主体であり、企業システムがローカルな位置づけになったのである。
- インターネットは中小企業・ベンチャー企業の成長機会である。他方、従来成功していた企業がインターネットへの対応が遅れたために崩壊する。IT動向への対応が企業存亡に直結するようになったのである。
- 情報システム構築の短期化が求められている。しかし、その副作用にも考慮する必要がある。
- ハードウェアもソフトウェアも「所有から利用へ」と移行しつつある。
1.6 現在のIT活用状況
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本章の冒頭で、「歴史的な鳥瞰は懐古趣味ではない」といいました。経営におけるITの位置づけが変化してきたことは、経営者も認識しているはずです。それなのに現実では、ITの活用レベルが未だ50年前、20年前の状態にとどまっている企業が多いのです。
- 50年前、30年前に指摘されていたことが、現在でも実現できていない。当然、当時と現在では状況が異なり、当時は対応したと思っていたことが、事態が深刻になったため、さらに根本的な対応が必要になったとはいえる。しかし、あまりにも「古くて新しい問題」が多すぎるといえないだろうか?
1.7 IT基盤と利用形態の変遷
ここまでは、ITの歴史的変化を経営との関連から述べてきましたが、それをIT基盤の変遷、利用形態の変遷の観点でまとめました。再度「1.1 全体の流れ」の全体図を参照してください。
IT基盤の変遷
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ITの利用形態とEUC
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