スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第1章 ITへの期待の変化

インターネット


1990年代中頃から急激に普及したインターネットは、2000年頃には身の周りの生活から国家経済にいたるまで、ITが広範囲で深刻な影響を与えていることが認識され、IT革命といわれるようになりました。
 2000年代中頃になると、インターネット活用の発展はWeb2.0といわれるようになりました。これは特定の技術や利用環境を指すものではなく、全般的に以前とは質の異なる状況になったことを指す言葉ですが、ビジネスの面でも大きな影響を与えています。そして、あらゆる局面に情報機器の存在すら知らずに、IT利用をする社会になり、ユビキタス社会といわれるようになりました。

企業内利用の変化

社内ネットワークにインターネット技術が取り入れられました。インターネットでのTCP/IPという通信プロトコル(取り決め、方式)が、社内ネットワークにも採用され、インターネットと社内ネットワークがシームレスに接続されるようになったのです。また、多くのソフトがWebブラウザで入出力するようになりました。従来は、販売システムや会計システムなど、個々のシステムにより、操作方法(アイコンやファンクションキーの機能づけ)が異なっていましたが、それらがブラウザに統一されたのです。ダウンサイジング頃のオープン化は、メーカーや機種の違いは吸収しましたが、Windows、MacOS、UNIXなどOSの壁がありました。それが、著名なブラウザはどのOSにも搭載できるし、ブラウザ間の違いもあまりありません。本来のオープン化が進んだのです。

インターネットでのブラウザの利用は、すでに社会的常識になっています。新システムを説明するのに、業務の説明だけすればよく、操作方法の説明は不要になります。誤操作も少なくなりました。さらに大きな変化は、社員がコンピュータを利用するのは、これまでは企業が用意したITインフラによりはじめて利用できる環境でした。それが日常に使っていることが企業でも同じように使えるのだという環境になったのです。日常と企業がシームレス化したともいえる変化です。

反面、 インターネット発展の影の面として、セキュリティ対策が従来と比べて深刻な問題になってきました。単に自社の情報資源を保護するだけでなく、社会的責任としての重要性が指摘されるようになりました。セキュリティ対策に関しては第5章で扱います。

取引先、関係会社とのネットワークの変化

インターネットの利用は、事業所間や関係会社間のオンライン接続に大きな影響を与えました。それまでは、遠距離を公衆回線や専用回線で結んでいたのですが非常に費用がかかりました。それが、インターネットでは、互いに市内通話料金でよくなり、さらにブロードバンドの常時接続になったので、通信料金を気にする必要がなくなりました。
 従来では、その通信プロトコルも多様でした。企業間で接続するにはOSの違いがありました。これらの打ち合わせをしないと、オンラインができなかったのです。そのような準備がほとんど不要になりました。さらには「自社・自部門でWebページを公開した。そこにアクセスしてデータ入出力をしてくれ」とするだけでよくなったのです。

ビジネスへの影響

インターネットで成功するには、それをうまく活用するビジネスモデルが重要であり、実社会にくらべて資金力が少なくて参加できます。それで、インターネットは中小企業やベンチャー企業が大企業と互角に戦える土俵だともいわれます。実際に、Yahoo!や楽天のように、インターネットを活用した新しい業種が出現しました。既存の業種でもオンライン書店やオンラインバンキングなど従来と異なる業態が発展しました。グローバル化の波やそれに呼応した規制緩和により、新規参入の機会が増大しましたが、それらの多くはインターネットをうまく活用して既存産業に立ち向かい成功しました。

逆に、インターネットの発展は過去に成功したビジネスモデルに打撃を与えました。例えば、銀行は各都市の目抜き通りに立派な店舗を展開するのが競争優位の源泉でした。ところが、インターネットバンキングでの取引コストは窓口取引に比べ非常に安価なので、店舗を持つことが負債になり、店舗閉鎖が行われるようになりました。また、製造業では、巨大な系列を構築することが部品調達や販売での優位性を得る手段でした。ところがインターネットによる取引が発展すると、より適切な取引相手を全世界に求めることができます。限定された系列内取引がかえって不利になってしまったのです。まさに「成功は失敗のもと」であり、「過去の資産は負債」になるのです。

ビジネスへの影響で最も顕著なのは、インターネットによりEC(Electronic Commerce:電子商取引)が急激に発展したことです(詳細:「電子商取引})。
 ECは、取引の相手により、BtoB:Business to Business、企業対企業での取引)とBtoC:Business to Consumer、企業対消費者での取引)に区分できます。
 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」によると、2007年のBtoBの規模は、絶対額250兆円、EC化率25%に達しており、米国を超えています。それに対してBtoCは、5兆円、1.5%程度です。急速に伸びていますが米国と比較して低い状態です。
 BtoBは、単に受発注のオンライン化だけでなく、企業間連携へと発展してきました。
 BtoCでは、サービスの提供や商品の品揃えに大きな変化が起こりました。サービス提供の面では、例えば「旅の窓口」のように、多数の企業が提供している宿泊予約、列車座席予約、イベント予約などを総合的に行えるサイトが発展してきました(参照:「マッシュアップ」)。商品の品揃えの面では、従来は「80:20の法則」として売れ筋商品重視の商品政策がとられてきましたが、取引あっせんのサービスやデジタル商品の販売では、従来は死に筋商品として排除すべきだとされたものの販売高が多いことが見直され、ロングテール現象といわれています(参照:「ロングテール現象」)。

販売促進戦略も変わりました。2008年の日本の総広告費が6兆6926億円のうち、インターネット広告費は6983億円になり、2009年には新聞広告を抜き、2010年にはテレビ広告の半分程度の売上規模になるといわれています。
 ネット広告で効果的なのは、検索エンジンで上位にランクされることです。そのためのテクニックをSEO(Search Engine Optimization)といい、SEOをビジネスとする業界もあります。しかし、最も有効なのは、著名なサイトからリンクしてもらうことだといわれています。それには、リンクしてもらうだけの価値のあるコンテンツが求められます。

このように、経営へのITの影響が大きくなるだけでなく、その変化が急速になっています。過去の成功が失敗にならないように、柔軟な経営戦略が重要になってきたのです。それでCIOの重要性がますます高まり、CIO=CFO(社長)であるべきだといわれるまでになりました。

情報システムでの変化

経営環境が激変しています。新規のサービスを他社より早く提供することが重要な戦略になります。そのため、かなりの規模の情報システムでも、3カ月程度で構築して実働させるなど、短期化が求められるようになりました。そのための方法論も発展してきましたが、開発側での労働強化や品質の低下などの副作用も問題になっています。

インターネットが高速化し常時接続が当然な環境になると、サーバをベンダに設置しても効率が低下しなくなります。また、セキュリティ対策や要員確保の面からも、サーバを社外に置くほうが適切になってきます。
 自社専用のサーバをベンダに設置して管理してもらう方式をハウジング、ベンダのサーバを共同利用して利用度に応じて料金を支払う方式をホスティングといいます。

さらに進んで、情報システムの構築や運用までもベンダに委託するようになりました。ベンダは、汎用的なアプリケーションパッケージを用意しておき、利用企業のニーズにあわせて修正します。このようなベンダを以前はASP(Application Service Provider)といっていましたが、近年はSaaS(Software as a Service)というようになり、最近はクラウドコンピューティングといわれるようになりました(参照:「SOAとSaaS」)。これらは、ニュアンスの違いはあるものの、本質的には同じようなものだといえます(これらの違い)
 すなわち、ハードウェアもソフトウェアも「所有から利用へ」と移行する動きになってきたのです。
 なお、極端には業務そのものまでアウトソーシングすることもあります。それをBPO(Business Process Outsourcing)といいます。
→参照:「運用外部委託の種類」

ASPがある業務全般を対象にするのに対して、SaaSでは業務機能のうち、ユーザが必要とするものだけをサービスとして提供し、利用者は複数のベンダのサービスを組み合わせて業務を行うのだとか、ASPはベンダ側で処理するのに対し、SaaSではそれ以外にソフトウェアをダウンロードして用いる方式もあるなど、あえて相違を強調する人もいますが、本質的には同じものだといってよいでしょう。

電子メールのツールだけでなく、受発信したメール自体もインターネット側に保管するサービスは普及しています。ワープロソフトや表計算ソフトもインターネットで利用できるようになりました。従来はパソコンに所有していたものを、インターネットのどこかのサーバにある資源を利用することになります。このようなサービス形態をクラウドコンピューティングといいます。
 ビジネスの分野でも、このようなサービスが進みつつあります(当然有料ですが)。そうなると、自社にはインターネットに接続するパソコンがあるだけで、サーバも、ソフトウェアも、データまでインターネットの向こう側にあるということになります。