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設備投資の採算計算-概要

学習のポイント

企業では,費用をかけて販売店舗や生産設備を購入したり情報システムを構築したりすることによって長期的な売上増大やコストダウンなどの利益を得ています。このようなプロジェクトを設備投資といいます。このシリーズでは,提案された投資案が投資に要した費用と期待できる利益とを比較して,その投資案を採用するか却下するかを決定するための基本的な考え方を理解することにあります。

キーワード

設備投資,採算計算,キャッシュフロー,DCF(ディスカウント・キャッシュフロー),内部収益率,現価,現価係数,終価,終価係数,年価,年金現価係数,資本回収係数,減価償却,現在価値,現在価値法(現価法),年価法,追加利回り法,最適取替期間


基本的な考え方

簡単な例により,設備投資の採算計算の概要を説明します。
 現時点で500万円の投資をすることにより,将来6年間にわたり毎年末に100万円の利益(売上増大による収入増加やコストダウンによる支出減少などから,その設備の維持にようする支出増加を差し引いた額)が期待できるという投資案があったとします。この投資案を採用するべきでしょうか,却下するべきでしょうか?

キャッシュフロー

設備投資の採算計算では,キャッシュフロー(おカネの流出・流入の増加・減少のこと)を明確にすることが基本になります。投資時期を現時点(0年後)として,利益側(流入の増加あるいは流出の減少)をプラス,損失側(流入の減少あるいは流出の増加)をマイナスとすると,この投資案のキャッシュフローは次のようになります。

   年  キャッシュフロー その累積
   0   -500    -500
   1    100    -400
   2    100    -300
   3    100    -200
   4    100    -100
   5    100       0
   6    100     100

6年間全体では,キャッシュフローは100万円のプラスになりますので,この投資案を採用するほうが却下するよりも有利,すなわち採用するべきだとの結論になります。

年利

ところがこの500万円を銀行から借りて投資するのであれば借入金利を考えなくてはなりません。自己資金を使う場合でも,その500万円を他の業務に使えば利益が期待できますから,それを考慮した金利(内部収益率)がかかると考えるべきでしょう。

ここでは,年利(1年間の金利)を10%(=0.1)としますと,現時点での100万円は,1年後には100×1.1=110万円,2年後には100×1.1=100×1.1×1.1=121万円になります。逆にいえば,1年後の100万円は現在の価値では100/1.1=90.9万円,2年後の100万円は現在価値では100/1.1であるといえます。

このような割引率を現価係数といいますが,上の表のキャッシュフローを現価係数で割り引いたものをDSF(ディスカウント・キャッシュフロー)といいますが,DSFを用いると次のようになります。

      名目での           割引後のキャッシュ
   年  キャッシュフロー 現価係数  フロー(DCF)  その累積
   0   -500    1.     -500.0   -500.0
   1    100    0.909    90.9   -409.1
   2    100    0.826    82.6   -326.5
   3    100    0.751    75.1   -251.3
   4    100    0.683    68.3   -176.2
   5    100    0.621    62.1   -114.1
   6    100    0.564    56.4   - 57.7

  

このようにして求めた「-57.7」は,この投資の対象期間全体での現在価値を示しています。その値がマイナスなので,この投資案は却下するべきだと評価されます。

設備投資の採算計算とは,投資案を採用したときの対象期間全体でのキャッシュフローの変化を与えて,上のような計算方法によりDCFを求めて,投資案の採用・却下を決定する方法です。

採算計算の方法

このシリーズでは,DCFの考え方を基礎にして,いろいろなケースにおける採算計算の方法を理解します。それらの概要を説明します。

前提知識

採算計算での数学的基礎(or-dcf-suugaku
先に「現価係数」が出てきました。対象年数をn年,年利をiとして,現価(0年後-現時点-での価値)をP,終価(n年後の価値)をSとしたとき,[S→P]の換算係数を現価係数,[P→S]の換算係数を終価係数といいます。また,上表の1~6年の100万円/年のように毎年のキャッシュフローが同じとき,それを年価Mといいますが,[M→P](年金現価係数)や[P→M](資本回収係数)などの係数を求める公式を知っておくと便利です。現価・終価・年価の換算方法を理解します。
採算計算の計算プログラム(or-dcf-program
「数学的」というと尻込みする人もいるでしょうが心配ありません。実務的には上記の換算係数の数表ができていますし,Excelなどの表計算ソフトを用いて計算することもできます。ここでは,もっと簡単に計算できるように採算計算専用のプログラムを用意しました。このシリーズでの計算の多くは,フォームに数値を入力するだけで計算できます。
現在価値法(DCF法)(or-dcf-genka
このページの最初で示した方法,すなわちキャッシュフローを現在価値(現価)に割り引くことにより,DCFを計算して評価する方法について,もう一度整理をします。この方法は以降の各種手法の基礎になります。

実務での注意事項

減価償却と税金(or-dcf-shokyaku
会計計算での利益や損失は,会計原則や税法によるルールに基づいた概念なので,採算計算にそれを用いるのは不適切なのです。会計計算では,設備取得は現金と固定資産との等価取引ですから損失にはならず,その固定資産を長期間にわたり減価償却することが損失として計上されます。しかし,法人税などの税金は利益に比例しますから減価償却により税金が少なくなり,税金が少なくなることはキャッシュフローでの流出減少になります。実務での採算計算ではこれを考慮することが必要になります。減価償却や税金の取り扱いは税法の理解が必要ですし,このシリーズでは採算計算の考え方を理解することが目的ですから,以降ではこれについては考慮しないことにします。
採算計算とリスク(or-dcf-risk
採算計算では長期の将来にわたるキャッシュフローを想定する必要がありますが,将来のことは不確実ですので,唯一の数字で意思決定するのは危険です。それを避けるために,多様なケースを想定することが必要になります。その考え方を理解します。しかし,各手法のたびにそれを説明するのは冗長になりますので,以降では省略します。
(参考)リアルオプション法(or-dcf-real-option
将来の利益が不明確なときには現時点で決定するのではなく,さらに調査をしたり,部分的な投資だけにして状勢を見ることが行われます。それに適した方法にリアルオプション法があります。これは概念が難解で高度な数学を用いますので,ここでは計算方法には触れずに,イメージ的な紹介にとどめます。
(参考)非数値的評価(or-dcf-hisuchi
投資による効果には,金額的には測定できない効果もあります。ORとはいえないでしょうが,実務的にはこのような評価方法が重要ですので,参考として掲げます。

採算計算の各種手法

複数案からの選択-年価法(or-dcf-nenka
現在価値法では単一の投資案の評価をしましたが,ここではA案とB案のうちどちらが有利かという複数案からの選択を考えます。たとえばA案では利用年数が5年でB案では7年だとすると,現在価値でのDCFを用いたのでは6年目をどう考えればよいのかが疑問になります。それを避けるためには毎年の年価で比較するのが適切であることを理解します。なお,この方法は買取とレンタルとの比較にも有効です。
追加投資の評価-追加利回り法(or-dcf-tuika
スタンダード,プレミアム,デラックスなどのように,少なくともスタンダードは必要であるが,プレミアムやデラックスのように追加投資をするべきかどうかの問題を考えます。この3案を独立案として単純に評価したのでは「少なくともスタンダードは必要」の条件が無視されることになります。
劣化による最適取替期間(or-dcf-rekka
ここまでは設備の使用年数は与えられたものとしてきました。設備は年数がたつにつれて保守維持に要する費用が増大しますから,長期間にわたって使用すると毎年の費用が増大します。また頻繁に更新したのでは取得費用がかかります。費用全体を最小にする最適取替期間を求める方法を考えます。
投資の緊急性(or-dcf-kinkyu
パソコンのように取得価額が毎年低下するときには,来年まで購入を待ちたくなります。しかし,それを続けていればいつになっても購入できず,パソコン活用による利益が得られないともいえます。ここでは価格が低下する投資について現時点で投資するか来年まで待つかという緊急性に関する問題を考えます。

理解度チェック

過去問題: 「採算計算」