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設備投資の評価方法

学習のポイント

ここでは,設備投資を評価する基本であるDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)の概念を理解して,単一の投資案に関する代表的な採算計算の方法である現在価値法(現価法,NPV)を学習します。また,その応用として,投資の利益率であるROIの概念や資金の早期回収のための回収年の概念を理解します。

キーワード

キャッシュフロー,DCF(ディスカウント・キャッシュフロー),DCF法,現価係数,現在価値,現在価値法(現価法,NPV),IRR(内部収益率),ROI(投資利益率),回収年

参照:JavaScriptの計算プログラム


現在価値法(NPV法 Net Present Value)

設備の取得から廃棄までの全期間において,その投資による各年のおカネの流入・流出の増減をキャッシュフローといい,一般的には利益側をプラス,損失側をマイナスで表示します。
   利益側(プラス)  流入の増加や流出の減少
   損失側(マイナス) 流入の減少や流出の増加

各年のキャッシュフローを年利により割り引いて現在価値に換算したものをディスカウント・キャッシュフロー(DCF)といいます。

現在価値法(現価法,NPV-Net Present Value-ともいいます)とは,各期のキャッシュフローを年利を与えて現価に割り引いた累計額(すなわち正味現在価値)がプラスなら採用し,マイナスならば却下するという方法です。

具体的な数値例で説明しましょう。現時点で500万円の設備を購入すると,使用期間は5年間であり,その5年間は毎年末に200万円の利益があり,5年後に50万円で売却できるとします。この投資案を採用するべきか却下するべきかを検討します。

上記の条件をキャッシュフローとして表現すると,次のようになります。現時点を0年後と考えると,全期間は5年間になります。0年のキャッシュフローは設備の購入費用ですからマイナス500万円になります。1~5年のキャッシュフローは200万円の利益はですからプラス200万円であり,さらに5年では50万円で売却できる(プラス側のキャッシュフローの増加)ですので200+50=250万円になります。これを表にすると次のようになります。

  年後  キャッシュフロー  その累積
   0    -500    -500
   1     200    -300
   2     200    -100
   3     200     100
   4     200     300
   5     250     550

現価係数

投資の資金を銀行から借りれば借入金利がつきます。自己資金を使う場合でも,この投資をしなければ他の投資をして利益をあげるのですから,資金活用の利率が考えられます。それをIRR(Internal Rate of Return:内部収益率)といいます。それらを総合してここでは年利といいます。仮に年利を10%(=0.1)とすると,1年後の100万円は現時点での100×(1/1.1)=100×0.909=90.9万円,2年後の100万円は現時点での100×(1/1.1)=100×0.826=82.6万円になります。この0.909や0.826を現価係数といいます。

年利を10%として各年の現価係数を求め,上表の各年のキャッシュフローを割り引いてDCFを求めると次の表になります。結果として正味現在価値が289.2万円でプラスになるので,この投資を採用することになります。

   年 名目のキャッ 現価係数   割り引いた   DCF累計
     シュフロー  (10%)   DCF
   0  -500  1.     -500.0  -500.0
   1   200  0.9091  181.2  -318.2
   2   200  0.8265  165.3  -152.9
   3   200  0.7513  150.3  -  2.6
   4   200  0.6830  136.6   134.0
   5   250  0.6209  155.2   289.2 ←正味現在価値
 次のような記号を用います。
   P:初期投資額(=500万円)
   n:対象期間(=5年)
   M:t年末の利益(名目額)(=200万円/年)
   S:n年後の残存価値(名目額)(=50万円)
   i:年利(=10%=0.1)
 t年後のX円の現在価値はX/(1+i)ですから,
   Sの現在価値はS/(1+i)
   Mの現在価値はM/(1+i)
となります。
 それで,全体の現在価値Aは,
   A = -P + M1/(1+i)+ M2/(1+i)2 + ・・・ + M/(1+i) + S/(1+i)
となります。
 実際に値を入れて計算すると,
   A = -500 + 200/1.1 + 200/1.12 + ・・・ + 200/1.15 + 50/1.15
     = -500 + 181.2 + 165.3 + 150.3 + 136.6 + 124.2 + 31.0
     = 289.2 > 0

現在価値法と年利の関係

上の投資案で年利が40%ならば,
   A = -500 + 142.9 + 102.0 + 72.9 + 52.1 + 37.2 + 9.3
     = -83.7 < 0
ですので,この投資案は却下されることになります。

このように,同じ投資であっても年利の違いにより,採用されることもあれば却下されることもあること,年利が高くなるに従って採用される条件が厳しくなることを理解してください。では,「年利が高い」ということはどのような経営状況なのでしょうか?

市中金利が高いとき
企業とは,銀行などからおカネを借りて,それを有効に活用することにより利益をあげるのだと考えれば,市中金利が高いときには,それに従って内部収益率が高く設定されます。
資金が乏しいとき
市中金利が低くても,なんらかの理由により借りることができないときは,限られた資金で投資することになります。そのときには多くの投資案から有利な投資案を厳選することになります。内部利益率の高い投資案から順に採用することになるので,採用されるためには高い年利が要求されます。
将来が不明確なとき
将来の見通しが不明確で,将来の利益がもっと小さくなる危険があるときは,将来の影響を少なくするために,高い年利を要求されることが考えられます。

年価法(NAV法 Net Present Value)

現在価値法では全体の現在価値を投資年初で行っています。年価とは、その現在価値を毎年度末に同額の利益に分割したものです。耐用年数 n, 金利 i のとき、現在価値 P と年価 M の間には、
  M=P×i/{1-(1+i)-n}
の関係があります。
 Pの大小とMの大小は一致するので、現在価値ではなく年価で評価しても同じ結果が得られます。

年価法の長所は、耐用年数が異なる投資間での比較が容易になることです。
 例えば、投資案件Aでは期間5年、Bでは6年としたとき、6年目にはAは存在していないので比較ができません。
 それを解決するには、Aに投資したのなら5年後もAに投資することにし、Bも同様にするとすれば、最小公倍数の30年の期間の計算をすることになります。それに対して年価法なら、AとBの年価を比較するだけでよいのです。
 さらに年価は、レンタルやリースでの年間費用だと考えることもできるので、買取りにするかリースにするかの比較にも使えます。

内部収益率法(IRR法 Internal Rate of Return)

先に(現価係数で)示した、内部収益率(internal rate of return:IRR)による方法です。
 ある投資案件のIRRは、現在価値法での現在価値が0になる年利として計算されます。上の数値例でA=0となるような年利(i)を求めると約30%になります。
   A = -500 + 153.8 + 118.3 + 91.0 + 70.0 + 53.8 + 13.5
     = 0.6 ≒ 0

このとき「この投資のIRRは30%である」というように表現します。そして,投資案のIRRが社内の標準的なIRRより高ければ採用し低ければ却下するとか,多くの投資案があるときにIRRの高いものを優先して選択します。
 現在価値法と内部収益率法は、金利(IRR)を与件として現在価値を計算するか、IRRを変数として現在価値が0になる値を求めるかの違いだけですので、考え方は同じです。

投下資本利益率法(ROI法 Return On Investment)

投資案件の予想利益を投下する資本額で割った数値により判断する方法です。
 考え方は、IRR法と似ており、計算方法もほぼ同じですが、IRR法では利益や費用をキャッシュの増減で把握するのに対して、ROI法では会計上の利益と資本コストを用います。この違いは減価償却の簿価評価で顕著になります。IRR法でばキャッシュの最大活用を目的としているのに対して、ROI法では会計上の利益を重視していることにあるようです。
 また、IRR法では期間での割引率を重視していますが、ROI法では金利を考慮しない簡便計算で済ますこともあります。

回収年法(PBP法 Pay Back Period)

回収年とは,投資に要した費用とその後の利益の累計が等しくなる期間であり,「元が取れる」までに要する期間のことです。上記の数値例を用いれば,年利を考えないときの回収年は2~3年,年利が10%のときは3年が回収年になります。

        年利=0のとき            年利=10%のとき
   年  名目のキャッ その累計     現価係数   割り引いた   DCF累計
      シュフロー                  DCF
   0   -500  -500     1.     -500.0  -500.0
   1    200  -300     0.9091  181.2  -318.2
   2    200  -100     0.8265  165.3  -152.9
   3    200   100 ★   0.7513  150.3  -  2.6 ★
   4    200   300     0.6830  136.6   134.0
   5    250   500     0.6209  155.2   289.2

投資をしてから利益を得るには数年の期間がかかります。ところが将来のことはわからないことが多いので不安があります。たとえば1年以内に回収できる投資であれば安心して投資できるでしょうが,回収に10年もかかるのでは,その間に市場が大きく変化して期待した利益が得られないこともあるでしょうし,その間の損失が経営を圧迫するかもしれませんから,その投資を決定するにはかなりの不安があります。

短期間で元が取れるのであればともかく安心ですので,多くの投資案件があるとき,回収期間が短いものから優先的に採用するとか,投資を行うには回収期間を○年以内にするというような基準を設けることもあります。

しかし,回収年法はあくまでもリスク回避を目的としたものであり,投資の採算計算を目的としたものではありません。たとえば次のB案はA案よりも採算的には有利なのに回収年では長くなってしまいます(簡単のために年利=0としました)。

             A案               B案
  年   キャッシュフロー その累積    キャッシュフロー その累積
  0     -500   -500      -500   -500
  1      200   -300        50   -450
  2      200   -100       150   -300
  3      200    100 ★     250   - 50
  4      200    300       350    300 ★
  5      200    500       450    750

理解度チェック

第1問

  1. 初期投資額500万円,5年後の残存価値50万円で,1~5年後の利益がそれぞれ50,130,180,160,140万円と見込まれる投資案があります。ROIを10%としたとき,この投資案を採用するべきでしょうか却下するべきでしょうか。

     年末  名目利益  現価係数   DCF    累積値
      0  -500  1.000 -500.0  -500.0
      1    50  0.909   45.5  -454.5
      2   130  0.826  107.4  -347.1
      3   180  0.751  135.2  -211.9
      4   160  0.683  109.3  -102.6
      5   140  0.621   74.5  - 28.1
     残存    50  0.621   31.1  +  3.0
    わずかではあるがプラスなので採用するべきである。


計算プログラム