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非数値的効果の評価方法

学習のポイント

投資による効果には,金額的には測定できない効果もあります。ORとはいえないでしょうが,実務的にはこのような評価方法が重要ですので,参考として掲げます。

キーワード


非数値的効果評価の重要性

非数値的効果の例示

いままで手計算で行っていた給与計算をパソコンで行うときの効果を考えましょう。

単純に考えれば,手計算のときには毎月60人時の労力を要したのが,パソコンを使えば10人時でできるとします。1人時の人件費が1000円だとすれば,毎月5万円の人件費節約になりますので,パソコンの買取費用が20万円ならば,4ヶ月で回収できるといえます。これは簡単ですね。
 でも,人事部の人は給与計算だけしているのではありません。給与計算が容易になったとしても解雇できないのであれば,人件費は減少しません。逆に,給与計算よりももっと付加価値の高い業務につかせる機会があるならば,5万円より多くの利益が出るでしょう。
 パソコンを使うことにより,手計算のときと比較してミスが減るとしたら,その効果はどうでしょうか。再計算の人時だけでなく,信頼が増加するというメリットもあります。手書きでの給与明細とパソコンでの活字印刷ではどうでしょうか。

さらには,パソコンで計算した結果を銀行にオンラインで送ることにより,銀行振り込みにすることができます。これまでおカネを運搬したり勘定していた危険を防ぐことができます。
 このようなことにより,社員全員に情報化への関心が高まるとか,担当者のパソコンに関する知識が高まるなどの効果はどうでしょうか。

このような効果を金銭的に評価するのは困難ですね。

効果の種類

一般に投資の効果には定量的効果,定性的効果,戦略的効果があります。定量的効果とは数値的に測定できる効果です。それには人件費のようにズバリ金額的に測定できる場合と,ミスの回数のように金銭に換算するには困難でも数値として測定できるものがあります。
 定性的効果とは,効果があることは明白であるが単純な測定ができない効果です。信頼が増加するとかおカネの運搬時に引ったくりに会う危険などは測定が困難ですね。
 戦略的効果とは,パソコンの導入は単に給与計算が目的ではなく,これを引き金にして自社の情報化を推進することによって業務革新をしようというような効果です。この観点では給与計算そのものでは損失が発生しても,社員や担当者の情報化への対応ができるようになればよいのです。逆にいえば,他社が先に情報化で成功して,より顧客ニーズにあった製品を安価に提供するようになったら,自社は競争に負けてしまいます。

このように投資での効果は,定量的効果よりも定性的効果さらに戦略的効果のほうが大きいのです。それを評価することが必要なのですが,定性的・戦略的になるにつれて,評価が難しくなります。

非定量的効果の評価方法

評価表による評価

一般に行われている方法は,図のような評価表を作成する方法です。「ミスの減少」「貨幣取り扱いの回避」「情報への関心増大」などの効果項目を列挙します。単に思いついたものをあげるのではなく,広く全体を見渡してもれのないように,大区分,中区分,小区分と体系化して列挙します。
 次に,全体を100点として,各評価項目に50点満点とか30点満点というようなウェイトを与え,その各項目について5段階法で評価するのです(評価が5のとき満点)。例えば50点満点の項目で,評価が3ならば30点になります。現在の状況は2だが情報化により4の段階に高めることが期待できるのであれば,現在は8点なのが16点になその合計がこの投資の効果とするのです。
 この点数を金銭的にどう換算するかは,かなり困難ではありますが,このようにして定性的効果や戦略的効果を定量的に把握することができます。

評価表でのいろいろな工夫

単に列挙項目を直接評価するのではなく,「あるべき姿」と「現在の状況」を比較して,この投資でどのレベルまでの達成を期待するのか,そのときの点数はどうか,それが達成できる確率はどうかというように,評価の方法を工夫することができます。

あるいは,優れている他社の状況(これをベストプラクティスといいます)と自社の状況を比較して,この投資によりどの程度追いつくか(これをベンチメーキングといいます)を基準にして評価することもあります。

また,列挙項目間の関係に注目することも大切です。項目Bを達成するには項目Aが達成されなければならないというような順序関係もありましょうし,項目Cと項目Dが達成すると相乗効果によりCとDの合計以上の効果が得られるというような関係もありましょう。
 そのような関係を次のように図式化することもよく行われています。

評価表の意義

このような評価表は多分に主観的なものですから,これでもって「正しい」意思決定ができるというわけではありません。しかし,これを作成することにより,次のようなメリットがあるのです。

コンセンサスが得られる
項目の列挙,重み付け,評価のプロセスにおいて,関係者全員が誰がどのような理由によりそのようにしたかの理解が得られます。めいめいがが勝手な主張をしていたのが,評価表を作ることにより,同じ土俵で議論できるようになります。
 その結果に全員が賛成できれば,一応これがこの時点では「正しい」評価であると考えることができます。いくつかの項目において対立点があれば,それを重点に再調査しようとか,決定での留意点とすることができます。
測定項目の決定
評価表作成のプロセスにおいて,この投資が成功したかどうかを評価するために,何を測定すればよいかが明確になります。これは次の事後学習のために重要なことなのです。
事後の学習
投資プロジェクトの途中において,情勢が変化したときに,それが与える影響を検討して,計画を変更する必要があるかどうかを検討することができます。
 投資が実現した後に,計画したときの評価表と実際の結果を比較することにより,投資の成否が評価できるだけでなく,次の計画をよりよくするための学習ができます。これを繰り返すことにより,企業全体としての計画立案の能力が向上します。

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