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採算計算でのリスク分析

学習のポイント

実際の投資では取得価額も不確定な要素がありますし,まして将来の利益や残存価値は不明なことが多いのです。そのようなときには,楽観的あるいは悲観的なケースを想定して,確率的に評価することがあります。


確率的な考え方

将来のことはわからないとはいっても,経験や調査によりある程度の予測はできるでしょう。ここでは,取得価額500万円と年利10%は確定できるとして,次のような事態が確率的に予測できたとします。

 利用年数:
  a1:6年間(20%)
  a2:5年間(60%)
  a3:4年間(20%)
 毎年の利益
  b1:220万円(30%)
  b2:200万円(50%)
  b3:130万円(20%)
 残存価額
  c1:50万円(50%)
  c2: 0万円(50%)

全体では,3×3×2=18ケースがあることになります。それらについて,発生する確率と現在価値を求め,現在価値の高い順に並べると下表が得られます。

 ケース 年数 毎年利益 残価  確率% 現在価値 確率累積
  A   6  220 50   3   486  100
  B   6  220  0   3   458   97
  C   6  200 50   5   399   94
  D   6  200  0   5   371   89
  G   5  220 50   9   365   84
  H   5  220  0   9   334   75
  I   5  200 50  15   289   66
  J   5  200  0  15   258   51
  M   4  220 50   3   232   36
  N   4  220  0   3   197   33
  O   4  200 50   5   168   30
  P   4  200  0   5   134   25
  E   6  130 50   2    94   20
  F   6  130  0   2    66   18
  K   5  130 50   6    24   16
  L   5  130  0   6  -  7   10
  Q   4  130 50   2  - 54    4
  R   4  130  0   2  - 88    2
                  平均値=238万円

すなわち,この投資では,非常に有利な場合もありますが,採算がとれない(現在価値がマイナスになる)危険も10%の確率で起こると予想され,最悪の場合は現在価値で88万円の損失になる場合が2%あります。

このように多くのケースについて計算して,期待利益と発生確率の関係をグラフにすると下図のようになります(このグラフは上の計算結果とは無関係)。

分析での留意点

このような分析を見て,危険があるので投資をしないか,その程度の確率や損失ならば投資に踏み切るかは,意思決定者の判断の問題であり,ここでの採算計算手法の範囲ではありません。しかし意思決定者としては,バラツキが大きいのは困ります。それを小さくするには,できるだけ正確な将来予測をすることが必要になります。しかし,それには多大な時間と費用がかかりますので,どの程度の正確さで満足するかが問題になります。

このようなアプローチをするときは,重要な不確定要素を見落としていないか,逆に大して影響を与えない要素を調査するような無駄がないかを考えることが必要です。この例でいえば,次のようなことに留意するべきでしょう。

残存価格について
残存価値の50万円は現在価値にすれば28万円(6年)~34万円(4年)です。これは取得価額500万円の5%程度であり,しかも取得価額はその値がそのまま現在価額になります。残存価値の調査よりも取得価額の調査のほうが重要といえましょう。
毎年利益の精度について
毎年の利益が大きく影響するのは当然ですが,対象期間5年を例にすれば,220-130=90万円の違いは334-(-7)=341万円に相当し,1万円あたり3.8万円になりますが,これは[M→P]が3.791であることからも容易にわかります。そのことから現在価値で100万円程度の精度が必要ならば,26万円/年程度の精度で予測する必要があります。
対象期間について
毎年の利益200万円,残存価値=0万円のときの対象期間4,5,6年間での現在価値は,それぞれ134,258,371万円であり,1年につき120万円程度の違いになります。一般に使用期間が短い投資ではこれが非常に大きな影響を与えます。

計算プログラム