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毎年価格が低下する機器について,現時点で購入するか来年まで待つかといった投資の緊急度の問題を扱います。
緊急度,価格低下
パソコンの価格は毎年低下しています。現時点で購入すると,来年にはもっと安価に入手できるのではないかとちゅうちょします。しかし,そうしているといつになっても購入することができず,それを活用した利益を得ることができません。現時点で購入するのと,来年まで待つのとどちらが採算計算的に有利かを考えます。このような問題を投資の緊急度の問題といいます。
パソコン利用による効果を毎年10万円/年であるとし,現時点でのパソコンの価格は20万円ですが,来年には20×0.9=18万円,再来年には18×0.9=16.2万円というように毎年10%の割合で安くなると予想されているものとします。また,パソコンは3年で更新するものとし,残存価値や処分費用は無視することにします。年利は10%とします。
1年間のパソコン価格の差である2万円と10万円を比較したのでは,他の条件が無視されてしまいます。また,「現時点で購入すれば,購入による年平均費用は20×0.4021=8万円/年であり,それで10万円の利益が得られるのだから購入するのがよい」としたのでは,価格低下の条件が無視されてしまいます。
現時点で購入する案をA案とし,来年まで待つ案をB案として,数年間の比較をしてみましょう。両案とも来年からのパソコン利用による利益は同じですので相殺して利益=0とします。ほとんどの数値をプラス表示するために費用支出側をプラスで表示します。
-----A 案---- -----B 案----- A-B
年 価格 現価係数 名目費用 現価 累計 名目費用 現価 累計
0 20.0 1. 20. 20. 20. 0. 0. 0. 20.
1 18.0 0.909 -10. -9.1 10.9 18.0 16.4 16.4 -5.5
2 16.2 0.826 0. 0. 10.9 0. 0. 16.4 -5.5
3 14.6 0.751 14.6 10.4 21.3 0. 0. 16.4 4.9
4 13.1 0.683 0. 0. 21.3 13.1 8.9 25.3 -4.0
5 11.8 0.620 0. 0. 21.3 0. 0. 25.3 -4.0
6 10.6 0.564 10.6 6.0 27.3 0. 0. 25.3 2.0
7 9.5 0.513 0. 0. 27.3 9.5 4.9 30.2 -2.9
8 8.5 0.466 0. 0. 27.3 0. 0. 30.2 -2.9
9 7.7 0.424 7.7 3.3 30.6 0. 0. 30.2 0.6
10 7.0 0.386 0. 0. 30.6 7.0 2.7 32.9 -2.3
これでは[A-B]が交互に出てきますので,どちらが有利かは何ともいえません。100年位までやればわかるかも知れませんが,それではあまりにも能がありません。それで数式を使って考えましょう。このように問題を数学の問題に置き換えることを定式化といいます。
t年後のパソコン価格はCrt で表せます(C=20万円,r=0.9)から,その現価は
Crt/(1+i)t=C×{r/(1+i)}t
となります。ここで q=r/(1+i) とすれば,C×qt と表せます。
n年ごとに更新するのであれば,A案の現在価値累計Paは,
Pa=-R/(1+i) +C×{1+qn+q2n+q3n+・・・}
となりますが,この{ }のなかは,1/(1-qn)ですので,
Pa=-R/(1+i)+C/(1-qn)
と表せます。
B案の現在価値累計をPbとすると(B案では利益に相当するものはないので),
Pb=C×(q+qn+1+q2n+1+q3n+1+・・・)
=Cq×(1+qn+q2n+q3n+・・・)
=Cq/(1-qn)
となります。
A案とB案の差をP(=Pa-Pb)とすれば,
P=-R/(1+i)+C/(1-qn) - Cq/(1-qn)
=-R/(1+i)+C(1-q)/(1-qn)
となります。
ここで,n=3,i=0.1,R=10万円,C=20万円,r=0.9ですから,q=r/(1+i)=0.9/1.1=0.818,qn=0.8183=0.548となるので,
P=-10/1.1 + 20×0.182/0.452
=-9.09+8.05
=-1.04 < 0
となります。Pa<PbですからA案のほうが費用が小さいので有利であると評価できます。
とっつきにくい数式を使いましたが,数式を用いることにより,いろいろな効果があるのです。たとえば次のようなことがわかります。これらは数表だけのアプローチでは得られないでしょう。
Pa=Pbとなるときは,
R/(1+i)=C(1-q)/(1-qn)
が成立します。さらにq=r/(1+i) ですから,
R/C=(1+i-r)/(1-qn)
となります。
r=1(パソコン価格が低下しない)とすれば,q=1/(1+i) ですから,
右辺=i/{1-(1+i)-n}=[P→M]
∴R=Cの年価
が成立します。これは直感とも一致するでしょう。
また,i=0とすれば,
右辺=(1-r)/(1-rn)=1/(1+r+r2+・・・+rn-1)
ですから,
C=n年間のRをパソコン価格低下率で現在価値に換算した値
となり,これも直感と一致します。これらはこの定式化が妥当であることの傍証になります。
右辺でi=0.1,r=0.9とすると,q=0.818,q3=0.548,右辺=0.44となりますので,R=0.44×Cになります。すなわち1年間の利益がパソコン価格の44%以上あるならば,すぐに購入したほう(A案)が有利だということになります。ここではC=20万円,R=10万円で50%ですから同様の結果になったのです。
Cはパソコンの価格ですし,nRは年利や価格低下を考えないときのパソコン利用期間でのパソコンによる利益ですから,nR/Cはパソコンによる利益の尺度(○○倍というような)と考えられます。この数値例では3×10/20=1.5になります。左辺でiやrをいろいろ変化させてみて,それが1.5/3=0.5よりも大きくなるかどうかを検討することができます。
「A案もB案も2年後以降の利益は同じであるから相殺する」ことができます。ですからRsやRs2の値はこの計算には無関係であり,上の式を修正する必要はありません。「引っ掛け」問題で失礼!
s>1+iのときは,将来の1年の利益の差が無限大になるので,考えるまでもなくA案が有利になります。ここではs<1+iのときだけを考えます。
この場合では,A案とB案の無限年での利益の差Dは
D=R/(1+i)+(Rs-R)/(1+i)2+(Rs3-Rs2)/(1+i)3
+・・・+(Rs∞-1-Rs∞)/(1+i)∞-1)
={R/(1+i)×(1-1/(1+i))}
×{1+s/(1+i)+(s/(1+i))2+・・・}
=R{i/((1+i)(1+i-s))}
となります。(ここでs=1とすればD=R/(1+i) となります)
これで本文のPを修正すれば,
P=-R{i/((1+i)(1+i-s))}+C(1-q)/(1-qn)
となるので,P=0のときは,
R/C={(1-q)/(1-qn)}×{(1+i)(1+i-s)/i}
が成立します。q=r/(1+i) ですから
R/C=(1+i-r)(1+i-s)/{i(1-qn)}
={(1+i-r)/(1-qn)}×{(1+i-s)/i}
とも表現できます。
ここでs=i+1=1.1(学習効果で10%利益向上が図れる)とすると,1+i-s=1+0.1-1.1=0なので,R/C=0となります。すなわち無条件でA案を採用することになります。これはs<1+rの仮定と一致します。
また,s=1とすれば,R/C=(1+i-r)/(1-qn)となり,本文の結果と同じになります。
s=0.05であっても,(1+i-s)/i=1.05/0.1=10.5となりますので,結果に大きな影響を与えることがわかります。