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単一の投資案を評価するのではなく,複数の案のうちから最適な案を採用するための評価では,利用年数が同じであれば現価を比較すればよいのですが,利用年数が異なる場合は現価比較は不適切であり,年価を比較するのが適切であることを理解します。これは買取とレンタルとの比較にも利用できます。
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A案は取得価額は500万円で5年間使え,B案は取得価額は700万円ですが7年使えます。これらの投資により毎年200万円/年の利益が期待できます。なお,年利10%,残存価値0円とします。A案とB案のどちらが有利でしょうか?
年数 取得価額 毎年利益 現価
万円 万円/年 万円
A 5 500 200 258
B 7 700 200 274
現在価値法によれば,年数5年の年金現価係数[M→P]は3.791なのでA案の現価は-500+3.791×200=258万円になりますし,B案は年数7年なので[M→P]は4.868であり,現価は-700+4.868×200=274万円になります。それで「B案のほうが有利である」としがちです。
ところが,6年目ではB案では業務を行っているのにA案では行っていないことになりますが,A案を選択した場合でも何らかの手段により業務を継続していると考えるのが適切でしょう。そう考えると,単純に現価で比較することは不適切だといえます。
ここで,将来的に市場や技術動向に変化がないと仮定しましょう。そのときには,現時点でA案を選択するならば,5年後にもA案を選択し,10年後もそうするでしょう。同様にB案を選択するならば,7年ごとにB案を繰り返すと考えるのが適切でしょう。
年利がiで使用年数nを1期間としたときの現価がPであるとき,それが永久に続くとするならば,全体での現価Qは,
Q=P{1+(1+i)-n+(1+i)-2n+(1+i)-3n+・・・}
となりますが,無限級数の和の公式から
Q=P/{1-(1+i)-n}
で求められます。
この公式で比較すれば,A案でのQは258/(1-1.1-5)=680万円となり,B案でのQは274/(1-1.1-7)=562万円となります。すなわちA案のほうが有利なのです。この方法は正しい結果を与えますが,ここでの680万円とか562万円という額は,直感的に理解しにくい数値ですね。それよりも次の年価法のほうがわかりやすいでしょう。原理は同じです。
無限回取替での現価:A案=680万円,B案=562万円 →A案が有利
A案を例にします。現時点から5年間を対象にすれば,年数5年で年利10%の資本回収係数[P→M]は0.264ですから,取得価額の年価は500×0.264=132万円/円になるので,毎年の利益は200-132=68万円/年となります。また5年から10年までの期間でも5年での取得価額を6~10年の年価にすると132万円/年になり,6~10年の毎年の利益は68万円/年になります。11~15年でも同じです。このように,年価によれば1期間だけを考えればよいことになります。
A案の年価は68万円,B案の年価は200-700×0.2054=56万円/年になりますので,A案のほうが有利となります。
年価:A案=68万円/年,B案=56万円/円 →A案が有利
A案の年価Mが68万円とは,「毎年末に68万円の利益がある」ということですが,その利益が無限に続くとすれば(年利i=10%=0.1),その利益全体の現価Pは,
P=M{(1+i)-1+(1+i)-2+(1+i)-3+・・・} (★1)
=M/i
=68/0.1=680万円
となり,無限回取替でのQと一致します(当然ですね)。すなわち,[無限回取替での現価=年価/年利]であり年利はA案もB案も同じ値ですので,無限回取替あるいは年価法のどちらで計算しても同じ結果になるのです。
A案は設備を買い取りましたが,それと同じ設備をレンタルで借りるC案があるとします。レンタル費用は毎年130万円で年末に支払うものとします。他の条件はA案と同じとします。
上記のようにA案による毎年の利益は68万円でした。C案のレンタルでの毎年の利益は200-130=70万円ですから,C案のほうが有利になります。このように,年価による評価は買取とレンタルとの比較にも使えるのです。
後払いレンタルでの年価:A案=68万円/年,C案=70万円/年 →C案が有利
なお,レンタル費用を年初に支払うとすれば(このほうが一般的です),C案でのレンタル費用の年末での終価は130×(1+0.1)=143万円/年になり,毎年の利益は200-143=57万円/年になります。これはA案の年価68万円/年よりも小さいので,A案のほうが有利となります。
前払いレンタルでの年価:A案=68万円/年,C案=57万円/年 →A案が有利
別の方法で比較します。A案もC案も収入は同じなので,費用だけを考えればよいことになります(このように共通の事項を比較対象から削除することにより,比較が容易になります)。費用の現価を比較してみましょう。
C案が先払いレンタルのとき,無限回のレンタル費用の現価を求めます。このときは,先の(★1)は次のようになります。
P=M{1+(1+i)-1+(1+i)-2+・・・} (★2)
=M(1+i)/i
=130×1.1/0.1=1430万円
A案では5年おきにM=500万円の投資が必要でした。それを無限回繰り返したときの現価Pは,
P=M{1+(1+i)-5+(1+i)-10+・・・}
=M/{1-(1+i)-5} (QとPの式を参照)
=500/(1-0.621)=1319万円
となり,A案のほうが有利になります。
前払いレンタルでの合計費用現価:A案=1319万円,C案=1430万円 →A案が有利
年価法は,使用年数が同じ複数案の評価でも正しい結果を与えます。単一の投資案の評価でも正しい結果を与えます。ですから,現価で評価するよりも年価で評価するほうが汎用的な方法だといえます。それにもかかわらず現価による方法が多く利用されているのは,現価のほうが投資による利益の規模を直感的に理解しやすいからなのです。