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リアルオプション法

学習のポイント

将来の利益が不明確なときには現時点で決定するのではなく,さらに調査をしたり,部分的な投資だけにして状勢を見ることが行われます。それに適した方法にリアルオプション法があります。これは概念が難解で高度な数学を用いますので,ここでは計算方法には触れずに,イメージ的な紹介にとどめます。

キーワード

リアルオプション法,金融工学,ブラック‐ショールズの公式,ラーマン法,FRICTO


現在価値法では,将来利益の現価累計が投資額よりも大であれば投資し,小であれば投資しないという方法でした。下図のように将来利益の現価累計を軸にすれば,投資額より右ならば投資をして,左ならば投資をしないということになります。たとえば,投資額を100億円(大きな値ですね!)として,将来利益の現在価値が95億円だったとすれば,左側ですので投資をしないことになります。

この100億円や95億円は絶対的なものではなくバラツキがあります。100億円が90億円で済むこともありましょうし,景気の動向によっては95億円が110億円になるかも知れません。すなわち,左になるかも知れないし,右になるかも知れないのです。

ですから現実にはこのような巨大で複雑な投資をするときには,時間と費用をかけて調査をするとか,最初は部分的な投資だけにして様子を見ながら追加投資をするのが通常です。ところが,調査をすれば費用はかかりますし,一般に分割投資をしたのでは得られる利益が遅れるのでキャッシュフローが悪化するでしょうから,現在価値法によれば,その調査すら認められないということになります。理論と現実の間に大きな矛盾があります。

その矛盾を解決する方法に「リアルオプション法」があります。これは金融工学でオプション価格を評価するための理論ですが,最近は多様な投資での費用対効果の評価に利用されるようになりました。しかし,かなり難解な概念や高度な数学を用いますので,ここでその内容を説明するのは不適切です(そもそも私自身が理解できていないのが理由ですが)。それで,イメージ(それもかなりいい加減な)を紹介するだけにします。

上の図はX軸だけですが,将来利益にバラツキがあるとすれば,そのバラツキの程度をY軸にとると次のような図表になります。この図表から次のような評価をします。

アの部分
バラツキが大きいと(グラフの上のほう),有利になるか不利になるかはっきりしませんので,現時点で投資を決定するよりも,もっと調査をしたり状況の変化を見るほうがむしろ安全でしょう。
イの部分
あまりバラツキが大きくなく,しかも利益が大きい(Yが中程度でXがかなり右側)であれば,投資するのが適切だということになります。
ウの部分
同様にYが中程度でXがかなり左側であれば,投資を却下することになりましょう。

ところで,投資額を100億円,将来利益の現在価値が95億円でその標準偏差が25%のときは,図でのP点(アの部分)になるので,さらに検討するべきだということになります。Q点が投資するべき境界ですので,投資を前提とするならばQとPのX軸での差,すなわち約11億円を調査費とすることが正当化されるということになります。

これは常識とも一致しますね。するとこの図の曲線をどのようにして作るのかが問題になります。ラーマン法という計算方法により作成するのですが,上記のような理由により省略します。また,リアルオプション法ではブラック‐ショールズの公式がよく用いられますが,それも省略します。

投資判断には,柔軟性、リスク、収支、コントロール、タイミング、その他の6要素(これをFRICTOといいます)が重要ですが,特に大規模で複雑な案件では,柔軟性,リスク,タイミングの検討が重要になります。それの検討にリアルオプション法が役に立つといわれています。


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