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複数案と追加利回り法

学習のポイント

単一の投資案を評価するのではなく,複数の案のうちから最適な案を採用するための評価方法を考えます。年利が与えられているのであれば,それぞれが独立した投資案だとして現在価値の高いものを選べばよいのですが,ROIの高い案を選ぶという方法では,独立した案と同様にすると誤った結果になりますので,追加投資という考え方が必要になります。

キーワード

追加投資,ROI(内部収益率),追加利回り法


追加投資とは

料理での松・竹・梅とか自動車でのスタンダード,プレミアム,デラックスのように,同じ製品でも価格や品質に違いがあるとき,どれかを採用するのですが,そのうちのどれを採用すればよいかという問題があります。次の問題を例にします。

ある設備を購入する必要があるのですが,次のA,B,Cの候補があります。どれを選択するべきでしょうか。どの設備も使用年数は5年であり,5年後の残存価値は0円とします。

       取得価額  毎年利益
         万円  万円/年
   A    500   200
   B    750   280
   C   1000   340

現在価値法による評価

年利が与えられていれば現在価値法が利用できます。年利を10%とするならば,5年間の年利10%の年金現価係数[M→P]は3.791ですから,A案のDCFは,-500+3.791×200=258万円になります。同様にB案は312万円,C案は289万円になりますからB案を採用することになります。

次に差額でのチェックをしてみましょう。[B-A]の評価では,-250+3.791×80=53>0ですから,B案はA案より有利ですし,[C-B]は-250+3.791×60=-23<0なので,C案はB案とくらべて不利になります。結局,B案が最適になります。

下表は年利を5%,10%,20%としたときの結果です。年利により最適な案が異なることに注意してください。

                  -----現在価値-----
       取得価額 毎年利益  年利5% 年利10% 年利20%
         万円 万円/年  4.329 3.791 2.991 ←[M→P]
 単純投資
   A    500  200   366  258  ★98
   B    750  280   462 ★312   87   ★が最適
   C   1000  340  ★472  289   17
 追加投資
  B-A   250   70    53   15  -41   プラスなら追加する
  C-B   250   60    10  -23  -71   マイナスなら追加しない

単純投資と追加投資

年利が10%のときを考えます。仮に取得価額がこれよりも400万円づつ高かったとすると,各投資の現在価値は,A案=-142万円,B案=-88万円,C案=-111万円になってしまいます。すべてマイナスだからどれも採用しないというのでは題意に反しますし,そのうちマイナスの度合いが少ないB案にするというのも,不自然さが残ります。このとき追加投資という考え方を取り入れれば,上表の追加投資と一致するので,論理がはっきりします。

追加利回り法による評価

A,B,Cがそれぞれ独立の投資案であるならば,ROI(内部収益率)が大きいほうが有利になります。A案のROIは,年数n=5,現価P=500,年価M=200として計算プログラムを用いれば年利i=28%となります。同様に,B案のROIは26%,C案のROIは20%になりますので,A案を選択することになります。

       取得価額  毎年利益  ROI
         万円  万円/年    %
   A    500   200   28 ←最大
   B    750   280   26
   C   1000   340   20

ところが,この場合は「いずれか1つを採用しなければならない」のですから,少なくともA案を採用すると仮定して,それに750-500=250万円を追加投資したら毎年280-200=80万円/年の追加利益があり,それが有利ならばB案を採用することになります。n=5,P=250,M=80ですから,その追加投資のROIは18%です。さらにB案からC案への追加投資のROIは7%になります。すなわち,年利が7%以下ならばC案が最適になり,18%以下ならばB案,それ以上ならばA案が最適になります。このように,追加分についてROIを計算して評価する方法を追加利回り法といいます。

       取得価額  毎年利益  ROI
         万円  万円/年    %
  B-A   250    80   18
  C-B   250    60    7

追加利回り法の注意点と応用

無資格案の削除

A案とB案の間に,取得価額600万円,毎年利益220万円/年のD案が提案されました。そのときの評価を追加利回り法で考えましょう。

追加利回りの表を作ると次のようになります。それでB-Dが大きいのでB案が最適だとしたいのですが,B案にするにはD案が前提になるのでは困ります。

       取得価額  毎年利益  ROI
         万円  万円/年    %
  D-A   100    20    0
  B-D   150    60   29
  C-B   250    60    7

図を描いてみると,A-B-Cでは上に凸になっているのですが,Dがあるためにそこだけが凹になっています。このDのような案は無資格案として削除する必要があります。それを上の表でいえば,追加順にROIを計算したときに大→小の順にならでいれば全体が凸になり,途中に順が違う案があれば,その案を削除することと一致します。

資金金利と最適案

資金調達が困難な場合を考えます。投資資金が600万円までは金利5%で調達できますが,それ以上を調達するには10%の金利がかかるとしたら,A,B,Cのどれが最適になるでしょうか?

このような問題を解くには,下のような横軸を資金,縦軸を金利とするグラフを描くのが便利です。追加投資のROIは右下がり,資金調達の金利は右上がりになります。この図から[B-A]はROI>調達金利なので有利ですが,[C-A]ではROI<調達金利になるので不利になります。すなわち,B案が最適案になります。


理解度チェック

  1. 次の追加投資案があります。利用期間は5年。無資格案を削除して,最適案とROIの関係を求めなさい。

           取得価額  毎年利益
             万円  万円/年
       A    100    50
       B    200    80
       C    300   130
       D    400   140
       E    500   180
       F    600   207

    追加投資の表を作ると下のようになります。取得価額がすべて同じですから,毎年利益の大きいものがROIも大きいのは当然ですので計算しませんでしたが,大→小の順序が異なるのは[B-A]と[D-C]ですから,BとDが無資格案になります。

           取得価額  毎年利益
             万円  万円/年
      B-A   100    30  Bは無資格案
      C-B   100    50
      D-C   100    10  Dは無資格案
      E-D   100    40
      F-E   100    27

    BとDを除いて追加投資の表を作りROIを求めると次の表になります。

           取得価額  毎年利益  ROI
             万円  万円/年    %
      C-A   200    80   29
      E-C   200    50    8 Eが無資格案
      F-E   100    27   11

    ここで新規にEが無資格になります。それを削除すると次の表になります。

           取得価額  毎年利益  ROI
             万円  万円/年    %
      C-A   200    80   29
      F-C   300    77    9

    この結果から次の結論が得られます。

         年利(%)  最適案  投資金額
        29-      A    100
         9-29    C    300
          - 9    F    600


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