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劣化による最適取替期間

学習のポイント

設備は年数がたつにつれて保守維持に要する費用が増大しますから,長期間にわたって使用すると毎年の費用が増大します。また頻繁に更新したのでは取得費用がかかります。費用全体を最小にする最適取替期間を求める方法を考えます。

キーワード

劣化取替,維持費用,最適取替期間,年価


劣化取替の考え方

設備や機械は,長年利用すると保守費用が増大しますので,適当な時期に新品に更新することが必要になります。長期間使い続けると保守費の増大により全体の費用が大きくなりますし,短期間で取り替えれば取得価額による費用が増大します。すなわち,最適取替期間があるはずです。このような問題を劣化取替の問題といいます。

ここで「最適」とは,使用期間中の全費用を使用年数で割った1年あたりの費用が最小になる期間であると考えればよいでしょう。すなわち年価Mを最小にする年数nを求めることになります。

簡単な数値例

取得価額は500万円で毎年の保守費用は,1年目を100万円とし,その後150万円,200万円というように直線的に増加する設備があります。いつ廃棄しても残存価額は0円であるとします。基本事項を理解するために,年利=0%としましょう。

1年ごとに取り替えるのであれば,その全費用は500+100=600万円で期間が1年ですので毎年の平均費用は600/1=600万円になります。2年ごとに取り替えるのであれば,2年間の総費用は500+100+150=750万円ですから,2年間の毎年の費用は750/2=375万円/年になります。9年後は保守費用が取得費用になりますので,8年までについて同様にすれば下表のようになります。これより最時取替期間は最も年平均費用の小さい4年あるいは5年であることがわかります。

  年  各年費用  費用累計 年平均費用
  0   500   500
  1   100   600  600
  2   150   750  375
  3   200   950  250
  4   250  1200  300 ←最小
  5   300  1500  300 ←最小
  6   350  1850  308
  7   400  2250  321
  8   450  2700  338

次に,残存価値が毎年変化するケースを考えましょう。1年後に200万円で,毎年40万円づつ減少し,0円になった後はそのままである(解体費はかからないか取得価額に含まれる)とします。そのときは次表のようになりますから,3年ごとに更新するのが最適です。

  年  各年費用  費用累計 残存価値 差引全費用 年平均費用
  0   500   500
  1   100   600  200   400  400
  2   150   750  160   590  295
  3   200   950  120   830  277 ←最小
  4   250  1200   80  1120  280
  5   300  1500   40  1460  292
  6   350  1850    0  1850  308
  7   400  2250    0  2250  321
  8   450  2700    0  2700  338

年利を考える場合

年利が10%のときは,保守費用や残存価値を現価に換算すること,毎年の平均費用を計算するときに,年数で割るのではなく現価を年価に換算することになります。

 2年ごとに取り替えるとすれば,次のようになります。
  0年後費用 1.000×500=500.0
  1年後費用 0.909×100= 90.9
  2年後費用 0.826×150=123.5
  ----------------------------------------
             費用累計=714.4
  残存価値  0.826×160=132.2
  ----------------------------------------
               現価=582.2
       → 年価=0.576×582.2=335.3万円/年
となります。同様に計算すると下表が得られ,最適取替期間は4年になります。
  年 各年費用 現価換算 費用累計 残存価値 現価換算 差引全費用 年平均費用
  0  500  500  500
  1  100   91  591  200  182   409  432
  2  150  124  715  160  132   582  335
  3  200  150  865  120   90   775  312
  4  250  171 1036   80   55   981  309 ←最小
  5  300  186 1222   40   25  1197  316
  6  350  197 1419    0    0  1419  326
  7  400  205 1624    0    0  1624  334
  8  450  210 1834    0    0  1834  344

ここでは,説明の都合で8年間のすべてにわたって計算しましたが,一般的には,各年費用が単調に増加し残存価値が単調に減少するときには,年平均費用は次第に減少しある時点から増加するようになります。ですから上の例でいえば5年目までを計算すれば,最適解が4年であると決定できます。


理解度チェック

第1問

  1. Aさんは次のように考えました。上の「年利を考える場合」で,毎年現価換算を2回も計算しているのは面倒なので,各年費用-残存価値(=名目損失)を求めそれを累計した値を現価換算して累計するほうが簡単だと思いました。それで作表してみたら,費用累計の値が上表と大きく異なることに気づきました。どこに間違いがあるのでしょうか?

      年 各年費用 残存価値 名目損失 現価換算 費用累計
      0  500       500  500  500
      1  100  200 -100  -90  410
      2  150  160  -10   -8  402
      3  200  120   80   60  462
      4  250   80  170  116  578
      5  300   40  260  161  739
      6  350    0  350  197  936
      7  400    0  400  205 1141
      8  450    0  450  210 1351

    2年目の費用累計を例にしましょう。簡単にするために年利は無視します。
     正解では次のようになるはずです。
       正=0年目の費用+1年目の費用+2年目の費用-2年目の残存価値
     ところがAさんの計算では,
         A=0年目の費用+(1年目の費用-1年目の残存価値)+(2年目の費用-2年目の残存価値)
        =正-1年目の残存価値
     になっています。すなわちAさんは,それまでの残存価値を累計しているのです!

  2. Bさんは次のように考えました。どうせ年価を出すのだから,年利=0%として各年での差引全費用を資本回収係数[P→M]により年平均にすればよいと思いました。すると次のようになり3年が最適になりましたが,数値が変です。Cさんの指摘では,BさんがPとしているのは実はSなのだから[S→M]にする必要がある。[S→M]=[S→P]×[P→M]であるからBさんの結果に[S→P]をかければ正しい答になるだろうというのですが,かえって変になりました。Bさん,Cさんに誤りの理由を説明しなさい。

      年  各年費用  費用累計 残存価値 差引全費用 [P→M] 年平均費用 [S→P] 年平均費用
      0   500   500                  (Bさん)       (Cさん)
      1   100   600  200   400  1.100  440  0.909  400
      2   150   750  160   590  0.576  340  0.826  281
      3   200   950  120   830  0.402  334  0.751  251
      4   250  1200   80  1120  0.315  353  0.683  241
      5   300  1500   40  1460  0.264  385  0.621  239
      6   350  1850    0  1850  0.230  426  0.564  240
      7   400  2250    0  2250  0.205  461  0.513  236
      8   450  2700    0  2700  0.187  505  0.467  235

    2年目の差引全費用(590)を考えます。
         Bさん            正しい0年目の価値
       0年目費用の名目費用       0年目費用の名目費用
      +1年目費用の名目費用      +1年目費用の現価
      -1年目残存価値の名目費用    -1年目残存価値の現価
      +2年目費用の名目費用      +2年目費用の現価
      -2年目残存価値の名目費用    -2年目残存価値の現価

    ですから,Bさんの590は,現価でもなければ終価でもありません。Cさんの指摘も誤りです。


計算プログラム