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減価償却や税金を考慮した現在価値法

学習のポイント

以前に,投資案の採用・却下をキャッシュフロー(おカネの出入り)を現在価値に割り引いたDCF(ディスカウント・キャッシュフロー)により評価する方法を学習しました。それとは別個に会計計算による投資評価が従来から行われています。会計計算では減価償却の概念が重要になります。減価償却に基づく採算計算は投資評価としては不適切なのですが,税金は減価償却に基づいており,それがキャッシュフローに大きく関係するので,これに関する取り扱いの基本を理解します。

キーワード

会計計算,減価償却,現在価値法,DCF,耐用年数


会計による採算計算

減価償却

会計では取得に要した費用はそれと同価値の資産になると考えるので,そこでは損得が発生しません。取得費用は設備は年とともに価値が下がりますので,毎年その価値下落分を損失と考えます。その価値下落を減価償却といいます。

減価償却の方法は,毎年同じ金額を償却する定額法と,投資当初は償却額を大きくその後は小さくする定率法があります。定額法では取得価額の10%が残存価額になり,90%までが償却の対象となります。それを法定耐用年数で割ったものが,毎年の減価償却額になります。残存価額や法定耐用年数は法律で定められており,企業が任意に決めることはできません。なお,ここでは話を単純にするために定額法で考えます。また,

例えば,取得価額500万円,法定耐用年数6年間の設備ですと毎年の償却額は,
  毎年の償却額=500×0.9/6=75万円/年
となり,各年の償却額と償却後の簿価(会計帳簿上での価値)は次のようになります。

   年 年初簿価 償却額 年末簿価
   0           500
   1  500  75  425
   2  425  75  350
   3  350  75  275
   4  275  75  200
   5  200  75  125
   6  125  75   50
   7   50   0   50
   8   50   0   50

会計計算とDCFの違い

減価償却を考慮すると,取得価額の500万円は0年目の損失ではなく,1~6年の減価償却額75万円による損失となります。また,6年目には50万円が帳簿上の資産として残りますが,ここでは売却価格の50万円が一致していますので,売却により簿価が消滅したことになりますから,利益の増減には関係しません。それで会計上の利益は,1~6年すべてが100-75=25万円/年になります。

6年間の利益総額は25×6=150万円になりますが,これは(取得価額-500)+(6年間の利益合計600)+(6年後の売却利益50)=150万円と一致します。すなわち,減価償却を考慮した会計計算もキャッシュフローも同じ結果になるのです。

ところが,これを年利で現在価値に割り引いたDCFで比較すると大きな差がでてきます。年利を10%として,DCFによる方法と会計上での計算について比較してみましょう。DCFでは正味現在価値は-37.2になるのでこの投資は却下されますが,会計計算では108.6もの利益が出る有利な投資案と評価されてしまいます。

           DCFによる評価     会計計算による評価
  年  割引率   名目利失   割引後   名目利失   割引後
  0 1.000  -500 -500.0     0    0.0
  1 0.909   100   90.1    25   22.8
  2 0.826   100   82.6    25   20.7
  3 0.751   100   75.1    25   18.8
  4 0.683   100   68.3    25   17.1
  5 0.621   100   62.1    25   15.5
  6 0.564   100   56.4    25   14.1
 処分 0.564    50   28.2     0
 合計         150  -37.2   150  108.6

減価償却の問題点

上記のように,会計計算を投資評価に用いるのは不適切なのです。そもそも会計計算は,会計原則や税法などに基づいて企業成績や納税額を示すことが目的なのですから,それとは異なる採算計算に用いることはできないのです。

取得価額と償却額
会計計算では取得価額を償却額で延払いするのですから,残存簿価を0としても年利を考慮すれば償却額の合計は取得価額よりも少なくなり,安価で購入できたことになります。
簿価と実際の価値
減価償却による設備の価値低下は,定額法でも定率法でも計算を容易にするための方法であり,その設備の特徴を反映したものではありません。定額法では耐用年数が過ぎた後の残存簿価は一律に10%と定められています。しかし現実には,その簿価で売却できないどころか廃棄に費用がかかることすらあります。あるいはソフトウェアを使い続けるときのように,現実には価値が低下しないケースも考えられます。
耐用年数と実際の利用年数
減価償却での耐用年数は,法律に定められた法定耐用年数を用います。ですから企業が勝手に設定することはできません。実際の利用年数は保守費用の増加や新技術の出現などのより決定されるのですから,法定耐用年数を投資評価に用いることは不適切です。

税金の影響

企業は所得税などの税金を納めています。その税率をここでは仮に40%とします。毎年の利益は100万円ですが,減価償却額75万円は税法上は損失になりますので,課税所得の増加は100-75=25万円になり,税金の増額は25×40%=10万円になります。そのために税引後の利益は100-10=90万円になります。6年後の残存設備の処分は,50万円で売れるので利益は50万円増加しますが,残存簿価50万円の消滅は損失になりますので,会計上は利失は発生しません。

採算計算ではキャッシュフローを把握する必要があります。0年に500万円のキャッシュ流出があり,1~6年後に90万円/年のキャッシュ流入があることになります。それを現在価値に割引したDCFの累積は下表のように-108万円となります。上表のDCFによる計算結果-37.2と比較すると税金を払うだけ不利になります。

  年   利益 減価償却 課税所得 税金増加 キャッシュフロー 現価係数   DCF
  0 -500                  -500   1.    -500.0
  1  100  75   25   10      90   0.909   81.8
  2  100  75   25   10      90   0.826   74.4
  3  100  75   25   10      90   0.751   67.6
  4  100  75   25   10      90   0.683   61.5
  5  100  75   25   10      90   0.621   55.9
  6  100  75   25   10      90   0.564   50.8
 処分   50  50    0    0       0   0.564    0.0
 合計  150 500  150   60      40         -108.0

このケースでは,法定耐用年数と実際の耐用年数が同じであり,残存設備の処分価額と残存簿価が同じでしたので計算が簡単でした。もし実際の耐用年数が5年だとすると,その時点で5年後に簿価を消滅させることになりますが,その全額を損金に算入できるかどうかが問題になります。逆に耐用年数が7年とすると,7年目には利益額がそのまま課税所得になります。

実務での採算計算では,このように税金を考慮する必要があります。しかし,それには採算計算の考え方とは直接に関係が少ない税法の実務知識が必要になりますので,ここでは深入りしません。


理解度チェック

第1問

  1. 1~6年間の減価償却額が,それぞれ190万円,120万円,70万円,40万円,20万円,10万円(合計450万円)であり,それ以外の条件は上記と同じであるとき,税金を考慮したこの投資案の評価をしなさい。

      年   利益 減価償却 課税所得 税金増加 キャッシュフロー 現価係数   DCF
      0 -500                  -500   1.    -500.0
      1  100 190  -90  -36     136   0.909  123.6
      2  100 120  -20   -8     108   0.826   89.2
      3  100  70   30   12      88   0.751   66.1
      4  100  40   60   24      76   0.683   51.9
      5  100  20   80   32      68   0.621   42.2
      6  100  10   90   36      64   0.564   36.1
     処分   50  50    0    0       0   0.564    0.0
     合計  150 500  150   60      40          -90.9

    注:1~2年度は収支がマイナスである。この投資だけをしている企業では決算がマイナスであっても税金がマイナスになる(補助してくれる)という制度はない。しかしここでは,他に多くの事業をしており,全体での決算はプラスになっていると考えた。


計算プログラム