Web教材一覧経営と情報

SIS(戦略的情報システム)

キーワード

SISの概要、アメリカン航空の例、DP部門からIT部門へ、戦略部門化、アウトソーシング、CIO


SISの概要

1980年代後半になると、企業戦略に「競争」の概念が重視されるようになりました(参照:「ポーターの競争戦略理論」)。それにともない、競争優位を確立する(他社との競争で自社が有利な状況にする)ために、戦略的に情報システムを活用することが注目されるようになりました。ワイズマン(Charles M. Wiseman)は、それをSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)と名づけました(1985年)。
 従来、情報システムは経営者・管理者・担当者などの業務を支援することが目的だとされてきました。それに対して、下記のような座席予約システムやオンライン受注システムなどは、業務の支援というよりも、情報システムそのものが企業戦略実現のために利用されています。

アメリカン航空の座席予約システム

初期のSISの有名な例に、アメリカン航空(AA)の座席予約システムがあります。以前からAA社内では、オンラインによる座席予約システムがあったのですが、旅行代理店では、店員が台帳を調べたりAAに電話をしたりして予約をしていました(写真)。おそらくAAでは、社内の電話対応や端末操作作業の合理化を図るのが目的だったのでしょうが、その予約端末を旅行代理店に配置して、オンラインで直接予約ができるようにしたのです。
 旅行代理店の担当者は、従来の方法よりもこの方法のほうが便利なため、他の航空会社よりも優先的にAAに予約するようになり、AAの売上が急速に増大したのです。その後、他社の便も予約できるようにしたため、他社からの手数料が得られるようになり、利益が増大しました。さらに、これらのデータを活用して、スケジュール変更や運賃値下げなどの戦略的な対策をとることが容易になり、AAは業界での競争優位を獲得しました。

企業間ネットワークの発展

SISを構築するには,企業間ネットワーク(参照:「ネットワークの発展」)が不可欠です。あえてSISというまでもなく,企業間でデータをオンラインで交換することは業務の合理化になります。さらに企業間ネットワークは企業間の業務協力へと発展します。
 特にメーカー、物流業者、小売店をネットワークで結び、顧客情報をキャッチして、顧客ニーズに合致した製品やサービスを提供することにより、競争で優位に立つという事例が多くみられます。(参照:「VMIとQR・ECR」

その後,企業間ネットワークはますます発展し,1990年代中頃からのインターネットの急速な普及により,多様な利用形態が出現し,ビジネスに大きな影響を与えるようになりました。(参照:「EC(電子商取引)」「SCM」
 日本でも,1985年に第3次通信回線の開放によって,企業間ネットワークが自由に構築できるようになり,SISの適用が急速に広まりました。(日本でのSIS初期例)

しかし、当事者によると「あえてSISを意図したのではない。SISの概念が普及する以前から、業務改革にITを活用することを考えて構築したのだ」そうです。それで「振り返ればSIS」だと評した人もいました。

経営におけるITの位置づけの変化

SISの概念の普及により、経営におけるITの位置づけが大きく変化しました。
 EDPSからOAまでの概念では、情報システムは人間の仕事を支援することが目的でした。ところがSISでは、情報システムそのものが経営戦略の実現に役立つと認識されるようになったのです。そのため、「情報は第4の経営資源」とか「ITは企業競争の武器」といわれるようになりました。

それまで、経営戦略が先にあり、その戦略に応じてITの活用を考えるべきだとされていました。「経営戦略→IT戦略」の関係だったのです。ところが、ITの活用が経営戦略に影響を与えるようになると、「IT戦略→経営戦略」の関係も必要となります。すなわち、経営者はITの動向に注目して、それを自社の戦略に取り込むことが重要だといわれるようになりました。(参照:「情報化戦略の位置づけ」

IT部門の変化とCIO

SISは、ITを担当するIT部門に大きな影響を与えました。従来の支援目的の時代では、IT部門の任務は対象者のニーズによる情報システムを構築し運用すること、すなわち、DP業務(Data Processing、データ処理)が主任務でした。
 ところが、SISにより、IT部門は経営戦略とIT活用との統合を図るIT戦略を策定し実現することが主任務になったのです。それをIT業務といいます(現在、情報システム部門をIT部門といいますが、そういわれるようになったのはこれが理由です)。
 IT部門として活動するには、IT部門を企画部のような戦略部門として経営の中枢に位置づけるのが適切です。また、DP業務も担当させたのでは、IT業務に専心できません。そのような理由により、DP業務をアウトソーシングしたり子会社化する傾向が進みました。(参照:「IT部門の戦略部門化とアウトソーシング」

IT部員に求められる知識や資質も大きく変わりました。経営戦略を認識したりIT動向の経営戦略に反映させるためには経営者との密接な意見交換が必要になりますし、IT戦略が他の部門の活動に大きく影響することから、他部門との対話能力が求められます。さらには企業間をまたがるシステムが多くなるので、他社との折衝能力が求められます。(参照:「IT部門の根本的変貌」

経営の観点からITを運営することをITガバナンスといいます(参照:「ITガバナンス」)。ITガバナンスを確立し、戦略部門になったIT部門を指揮するために、経営陣からCIO(Chief Infomation Offcer)というIT最高責任者を任命するようになりました。(参照:「CIO」
 このCIOがIT活用の要になるのですが、日本では兼任CIOが多くCIOの任務が不十分で、日本の競争力が低迷している一つの理由だといわれています。(参照:「ITの適用分野での国際比較」


理解度チェック: 正誤問題選択問題記述問題