Web販売戦略
店舗販売とWeb販売とは、目的も運用も大きく異なります。Web販売を単なる1店舗だととらえるのは不適切で、Web販売に合致したマーケティングや運営を考える必要があります。
- クリック・アンド・モルタル(OtoO)戦略
Web店舗と実店舗の両方の特徴を組合わせたマーケティング戦略を採用するのが効果的です。それをクリック・アンド・モルタル(クリックはインターネット、モルタルは建物の意味)あるいはOtoO(Online to Offline)といいます。
例えば色の種類が多いTシャツの販売を考えます。実店舗では陳列面積の制約により、すべての色の商品を揃えることはできません。それに対して、Web販売では全色(商品実物がないものまで)を陳列できます。実店舗ではあまり売れない色でも、ネット環境ではロングテール現象により、売れることがあります。
また、スタンダードの安価な商品はインターネット販売するが、凝った商品は店舗で相談して作成するというように商品を区別する場合もあります。
店舗で「他の色はWebサイトで」とか、Webページで「特殊な仕様は店舗でご相談」というように、Webサイトと実店舗が連携することにより相乗効果が得られます。
- 取引形態の検討
Webページでは単に商品の紹介をするだけで、実際の受注は電子メールや電話で受ける形態から、取引の全プロセスをWebページで行う形態、さらには、受注情報を生産や出荷の情報システムに連動させる形態まで、多様な形態が考えられます。これらの形態の違いにより、Webサイトの構築や運用にかかる費用が極端に異なります。
- サイト運営形態の検討
自営でWebサイトを設置して運用するのであれば、自由な運営ができますが、費用もかかるし、セキュリティ対策などへの考慮が必要になります。サイバーモールに出店するのであれば、多様な制約がありますが、簡単に開店できますし、運用も任せられます。この間の形態として、自社独自のシステムを構築して、サーバの管理だけを委託するホスティングサービスやハウジングサービス、システムの一部を他社に依頼するSaaSなどが考えられます(参照:「運用外部委託の種類」、「SaaSの概要」)。
来店から購入までのプロセスでの工夫
BtoCのサイトを開設しただけでは、注文がくることを期待できません。
・Webサイトへのアクセス(来客数)を増加させる
・商品販売ページに到達する割合(到達率)を増加させる
・実際に購入する割合(購入率)を増加させる
・再来店率(リピート率)を増加させる。さらに口コミで紹介してもらう
ことによって、売上が増大するのです。
アクセス数増加対策
- URLの表示
ともかく最初にアクセスしてもらうには、そのサイトの存在を広く知ってもらうことが大切です。それには、
・名刺、封筒、包装紙など自社印刷物にURLを明記する。URLを示した広告をする
・ポータルサイトに登録する。バナー広告をする
など、多様な手段があります。
- 検索エンジン対策
サイトに到達するには、サイトのURLを入力して直接にアクセスするよりも、検索エンジンあるいは他のサイトからのリンクを経由して到達するほうが多いのです。
そのため、検索エンジンで上位に表示されることが、アクセス数を増加させる効果的な手段になります。そのような検索エンジン対策技術をSEO(Search Engine Optimization)といいます(参照:「SEO:検索エンジンに適したWebページとは」
- 著名サイトへのリンク依頼
SEO技術は多様ですが、最も効果的なのはアクセスが多く信頼の高いサイトからリンクされていることです。また、そのサイトからのリンクで直接にアクセスされることも期待できます。業界団体(協会)や商工会議所、市役所などのWebサイトにリンクを依頼することが大切なのです。
- 販売以外のページも有効
単なる販売目的だけのサイトでは、リンクを張ってもらうのは困難です。地域の銘菓ならば、その地域の伝承や銘菓の由来など関連するテーマでレベルの高いコンテンツのページがあると、当方から依頼しなくてもリンクをしてくれることが多いのです。
到達率向上対策
- WebアクセシビリティとWebユーザビリティ
高齢者や身体障害者が支障なくWeb閲覧できるようにWebページを作成することをWebアクセシビリティといいます。アクセシビリティに配慮することは、思いやりではなく社会の義務なのです。また、一般の人が利用する際の便利さのことをWebユーザビリティといいます。顧客満足を得るにはユーザビリティへの配慮が必要です。これらはJIS規格になっています。
- 過剰画像は逆効果
Webアクセシビリティで最も考慮すべきことは過剰な画像を避けることです。目が不自由な人には画像をクリックするのは困難です。しかも、画像が多いと表示に時間がかかります。アクセスしたときに応答時間がかかると、消費者は違うページに移ってしまいます(8秒が限界といわれ、最近は2秒ルールともいわれています)。興味を持たせるためにデザインも重要ですが、画像が多くて重くなるのは逆効果なのです。
- ナビゲーション
Webサイトのスタートページは看板ではありません。店内案内なのです。既にお客はここへアクセスしている(店内に入っている)のですから、どこに行けば目的が達せられるかを知りたいのです。閲覧者が簡単に目的のページに到達できるように、各ページへのリンクを明確にすることが必要です。
また、スタートページ以外のページからも、目的のページへ容易に行けるように、現在の位置と目的ページとの関係がわかりやすいようにする必要があります。それをナビゲーションといいます。どのような内容があるのか、商品を探したり注文するにはどうするのかなど、利用者が求めている情報を容易に見つけられるようにナビゲーションすることが重要です。Webアクセシビリティ、Webユーザビリティの規格でもこれを重視しています。
- サイトマップ
Webサイト内のページ構成を一覧表にした案内ページです。各ページからこのページへのリンクがあれば、閲覧者は目的ページを容易に知ることができます。
- パンくずリスト
このページの先頭に「スタートページ>Web教材>システムの活用」とありますが、このように、スタートページから現在のページへの足取りを表示したものをパンくずリストといいます。童話『ヘンゼルとグレーテル』で、主人公が森で迷子にならないように通り道にパンくずを置いていったのが語源だそうです。
購買率向上対策
- 適切な品揃え
販売のページに到達した人が、実際に購入するには、商品に魅力がなければなりません。実店舗での顧客とインターネットでの顧客の特性が異なる場合、その特性に合致した品揃えが求められます。さらには、過去の購買記録から、個人別に異なるページにしているサイトすらあります。
- 買わせる工夫
単に美しい写真を掲げるだけでなく、興味を持たせる工夫が必要です。
例えば、伝統銘菓のサイトならば、お菓子の由来やお菓子のある生活などの記事を掲げるとか、農産物の直販サイトならば、生産者が無農薬野菜にかける想いや作業日誌を掲げて、「生産者の顔が見える」ようにすることが、安心を与え、購買につながります。
- 適切なプレミアム
インターネットでの販売では、価格が大きな要因になります。個人情報が得られ、販売コストが削減できるのですから、それを還元することが求められます。しかし、それは実社会での価格にも影響しますので、プレミアムの工夫をする必要があります。
- 信頼を得る
実際に受注を得るには、この店舗が信頼のおける店舗であり、顧客情報の管理やセキュリティ対策を重視していることを示す必要があります。そのためにも、プライバシーマークやセキュリティポリシーなどを明示すること、代金決済にいくつかの選択ができるようにすることなどが必要です。また、問い合わせや苦情を受けるためのメールアドレスも明示するべきです(参照:「BtoCへの消費者の不安と対策」)。
リピート率向上対策
- 受注後のシステム
受注を受けてからの生産や出荷のプロセスを検討する必要があります。実店舗の場合は、納入先が限定されており、受注の締め切り時間が決まっていますし、特別な理由がなければ納品量も安定しています。それに対して、Web販売では、不特定多数から24時間注文がきますし、受注量に大きなばらつきがあります。このような状況の変化に適切に対応できる体制がないと、誤送や納品遅れが生じて信用を失うことになります。
- ページの更新
来店のたびに新しい発見があるように、Webページを常に更新することが必要です。秋になっても夏のデザインになっているようでは、このWebサイトに関する熱意を疑われてしまいます。
- SNSなどの活用
実店舗でのダイレクトメールに相当するのが、メーリングリストやSNSの活用です。単に購入勧誘の広告だけではなく、顧客同士あるいは顧客と店舗間でのサロン的な環境にすることにより、固定客化・サポータ化が進みます。BtoCでは口コミが最大の効果があるといわれています。また、あえて不利な内容も掲載することにより信頼が高まることもあります。
しかし、このような手段を利用するには、特定電子メール禁止法や個人情報保護法への配慮が必要です。
このように、Web販売のシステムが成功するかどうかは、Webサイトを開設するというIT活動よりも、協会などにリンクを依頼するとか、商品やサービスをどうするかといった非IT活動のほうが大きな影響を与えているのです。
UI/UX
リピート率向上対策として、近年、UI/UXが重視されています。
UI(User Interface)とは、利用者がWebサイトを訪問したときの使いやすさのことです。画面のデザインやフォントなどの好感度、必要なページに到達するための適切なナビゲーション、誤解を生じないわかりやすい表示など、利用者とWebサイトの接点をよくすることです。
UX(User Experience)とは、このWebサイトを利用して得られる経験や満足など全体的な概念です。魅力のある商品、注文にあたっての問い合わせシステムの整備、注文後の状況報告や納期、商品への満足など、Webサイトだけでなくサービス全体が対象になります。
UXに満足した利用者はリピート客になる確率が大になりましょう。UIが貧弱であれば、悪い印象を持つので満足が得られませんし、途中でサイトから去ってしまうでしょう。
このように、UIはUXの一部だといえます。優れたUIが優れたUXになるとは限りませんが、優れたUXにするためには、優れたUIであることが必要不可欠です。
UIはWebページデザイナーの分野、UXはサービス提供者の分野だといえますが、両者の意思疎通が重要になります。