主張・講演

エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

情報活用のためにはエンドユーザ・コンピューティング(EUC)が重要だといわれ,多くの企業でEUCの推進が積極的に行われています。私は世界的にも早期な1978年に情報検索系システムでのEUCを企画して実現し,その後,その発展に努力してきました。また他社へのアドバイスもしてきましたが,EUCの推進方法が不適切で期待とは逆の状況になっている例も見聞しました。ここでは,EUC推進について,落とし穴に気をつけて事前に回避することが必要であることを,教科書的な事項ではなくノウハウ的に説明します。


そもそもEUCとは? EUCの定義と形態

情報システムを利用形態から区分すると,基幹業務系システム,情報検索系システム,コミュニケーション系システム(グループウェア),パソコンの利用の4つになります。そして,EUCを「情報システム部門以外の人が,コンピュータを自主的に操作することにより,自分あるいは自部門の業務に役立てること」と定義します。すると,基幹業務系システム以外の3つは,すべてEUCになります。ですから,現在での情報システムの大部分がEUCですので,EUCという概念をなくすほうがよいと思います。

情報検索系システムのメリットはどこにあるか

EUCの形態のうち,最も情報システム部門に関係の深い情報検索系システムについて考えます。情報検索系システムのメリットには,@狭義の目的:ユーザが多様な情報をほしいときに得られる,A広義の目的:情報検索系システムの普及により,基幹業務系システムが簡素化され,情報システム部門に余裕ができる の二つの面があります。

イモづる的利用が利益を生む

狭義の目的として,問題発見や仮説検証のツールとしての利用があります。それをここではイモづる的利用ということにします。その説明を通して,なぜEUCが必要なのかを考察します。

情報検索系システムによる基幹業務系システムの合理化

広義の目的を考えます。激変する経営環境に即応した基幹業務系システムにするには,改訂が容易なシステムにする必要がありますが,それにはシステムの規模を小さくすることが効果的です。情報検索系システムを普及することによって基幹業務系システムを簡素化することができます。このように,情報検索系システムを情報システム全体の合理化の一環として認識し運営することが重要です。

ユーザが情報検索系システムの発展を阻害している

情報検索系システムのメリットは大きいので,多くの企業がその推進をしています。しかし,その運用を誤ると広義の目的が達成できないばかりか,期待とは逆の状況になる危険があります。その危険のうち,ここではユーザに起因するものを取り上げました。

ユーザの過度依存症

情報検索系システムは,個別帳票メニュー提供方式と公開ファイル提供方式があります。個別帳票メニュー提供方式はユーザにコンピュータ知識を要求しませんし操作も容易ですので,とかくこの方式になりがちです。しかし,これを普及してしまうと,情報システム部門の負荷が大きくなり,基幹業務系システムもかえって複雑になるなど,多くの危険をはらんでいます。早期のうちに,公開ファイル提供方式での普及をしないと,将来の発展が期待できません。ところが,ユーザがあまりにも情報システム部門に依存しており,情報システム部門がそれに迎合しているために,公開ファイル提供方式での普及が阻害されていることが多いのです。

ユーザの過度体裁愛好症

ユーザは,とかく情報の内容よりも体裁にこだわります。しかしそれが過度になると,本来の目的であったユーザの生産性向上が得られないばかりか,スーパーユーザの反乱により情報ガバナンスの無政府状態を招く危険すらはらんでいるのです。

コミュニケーション系システムの理想と現実

EUCのもう一つの形態であるコミュニケーション系システム(グループウェア)について考察します。この利用は単に情報伝達の迅速化や情報の共有化などに役立つだけでなく,組織の活性化にも貢献することが期待されています。しかし,それは社員の相互信頼の高い組織での期待であり,そうでないときは,かえって期待とは逆な結果になる危険もあるのです。

コミュニケーション系システムへの期待

電子メールや電子掲示板などのグループウェアや知識を共有して組織の創造性を高めるナレッジ・マネジメントなどを総称してコミュニケーション系システムといいます。やや教科書的ですが,コミュニケーション系システムへの期待が高いことを説明します。

コミュニケーション系システムの問題点

コミュニケーション系システムは個人が積極的に発言しなければ意味がありません。その動機付けに失敗すると,よしんば表面的には活用されているように見えても,実際の効果が生まれない危険があります。

EUC推進のノウハウ

EUCを推進するには,パソコンやネットワークの整備,グループウェアなどのソフトウェアの整備,ユーザへのパソコンやインターネットの操作方法の普及などが必要なのは当然です。ここでは,教科書的な内容を網羅するのではなく,あまり話題になることがないが,実際には重要なことを掲げます。

「ユーザ辞書」を整備せよ

情報検索系システムが普及しない原因,あるいは個別帳票メニュー提供方式に流れて公開ファイル提供方式が不評である原因の一つに,ユーザが公開ファイルの内容が理解できないことがあります。これを解決するための手段として「ユーザ辞書」があります。ここでは,ユーザ辞書が持つべき機能,その構築方法をなどを示します。

情報化リーダーをヒーローにしよう

EUCの推進では,利用部門に情報化リーダーのようなキーマンを設置することが重要です。ところがややもすると,そのよう人を便利屋として使ってしまいがちです。それではその人の将来にも不適切ですし,周囲の人もそのようになりたくないと思いますので,EUCは発展しません。EUCの成果をあげるには,情報化リーダーをヒーローし仕立てることが重要なのです。

業務統合部門にEUC支援グループを

営業本部とか本社経理部などのように業務を統合している部門のことを,ここでは業務統合部門といいます。エンドユーザを支援するグループをここではIC(インフォメーション・センター)といいます。ICを情報システム部門内と利用部門に置くことは当然ですが,それを業務統合部門にも設置することが望まれます。