主張・講演エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

コミュニケーション系システムへの期待

電子メールや電子掲示板などのグループウェアや知識を共有して組織の創造性を高めるナレッジ・マネジメントなどを総称してコミュニケーション系システムといいます。やや教科書的ですが,コミュニケーション系システムへの期待が高いことを説明します。


グループウェアの目的

情報伝達の迅速化,情報共有化
電子メールは,情報の伝達を容易に迅速に行うのに役立ちます。電子掲示板は,社内全員がそれを読み,必要に応じて書き込むことにより,情報を共有化することができます。
意思決定の迅速化
一般社員からトップに直接メールすることができ,またその逆ができます。そのようなことは電話や手紙でもできますが,電子メールのほうが抵抗感がないので,もっと円滑に行うことができます。また,電子掲示板をトップが見ることにより,現場の動きを把握できるし,トップが社の方針などを掲示板に掲げることにより,直接に全社員に伝えることもできます。このように,意思決定を迅速化することができます。
組織のフラット化
トップと一般社員が直接に情報を交換できるようになると,中間管理職の任務のうち,単に上と下との間のパイプ役としての任務は不要になります。それにより,組織そのものが階層の深いピラミッド型組織からフラットな文鎮型の組織になります。
組織の再編成
電子メールや電子掲示板は,組織の壁を超えた情報交換を活発にするので,従来の部や課の意味が薄れてきます。情勢の変化によりダイナミックに組織を変えることができるようになります。これが進むと,組織の業務は固定した組織内で行う必要すらなくなります。さらには,企業内に限定する必要すらなくなり,必要に応じて,社外の専門家との協同作業で行うようなことも起こってきます。すなわち,グループウェアの活用は,組織そのものを変えることにもなるのです。
組織の活性化
このような組織では,各人が上司の指示で行動するのではなく,自律的に行動することが求められます。それを円滑に行うには,大幅な権限委譲をすることが必要になります。また,中間管理職は管理をすることだけではなく,プロジェクトリーダとして,自ら業務を行いプロジェクトを率いていくことが要求されます。このような変化により組織が活性化されます。
組織の創造性向上
情報を共有化することにより,各人が共通の目標を持って行動することができます。電子掲示板に質問や意見を掲げれば,全社の経験者からノウハウやサゼスションが得られます。専門家がその分野でのノウハウを整理して登録しておけば,初心者がそれを見ることにより,適切な行動をとることができるようになります。すなわち,個人の知識が組織全体の知識となり,個人の意見が大勢の意見により高められます。グループウェアは,このように組織の創造性の向上に役立つのです。

ナレッジ・マネジメントの目的

ナレッジ・マネジメントは,自分の持つ個人の知識を組織全体の知識にしたり,質問や意見に対して全社からの応答を期待することですから,その目的はグループウェアでの電子掲示板の目的と似ています。

知識の種類

ここでは「知識とは何ぞや?」という哲学的な問題は避けることにします。知識には,個人知と組織知,形式知と暗黙知があるといわれています。

個人知と組織知
企業は,個人である社員の集合体でもありますし,部や課などの組織の集合体であり企業そのものが組織です。個人は,経験や学習により多くの知識を持っています。人脈なども立派な知識です。教養や趣味は,一見,企業とは関係がないように見えますが,思わぬときに役立つものです。また企業には,特許,ノウハウ,技術,顧客リストなど組織としての知識があります。
形式知と暗黙知
形式知とは,文章などにより表現されている知識のことです。仕様書,図面,資料などがそれにあたります。これらの知識は,教えることができますし,それを教わった人が同じ知識を持つことができます。それに対して,個人の経験や教養などは個人の頭に入っているだけで,他人がそれを簡単に知ることはできません。また,組織文化や慣例などのように,みんなが知っているのに文章として明示されていない知識もあります。このような知識を暗黙知といいます。

SECIモデル

野中らによれば,組織での知識の取得は,暗黙知と形式知の相互変換により行なわれ,それをスパイラル的に進めることによって,組織の知識が向上するとして,SECIモデルを示しています。ナレッジ・マネジメントとは,このSECIのサイクルを効果的に行なう方法論であるともいえます。

共同化(Socialization)
個人の暗黙知を組織の暗黙知に変換するプロセスです。個人が知っていることや思っていることを,口頭や行動によって他人に伝えることにより,その知識が組織に広まります。正式なルールになってはいないが,大勢がそれを認めており,それに従って行動している段階になります。しかし,個人により解釈には差があります。
表出化(Externalization)
組織の暗黙知を形式知に変換するプロセスです。組織の多くが認めていることをノウハウ集や基準などに文章化することにより,組織全員の知識になりますし,認識の違いが少なくなります。場合によっては,これが規定化されることもあります。
連結化(Combination)
表出された多くの知識を組合わせて,より統一された体系にしたり,より高い知識にするプロセスです。この段階で知恵にまで進むこともあります。
内面化(Internalization)
組織の形式知から個人のより高い暗黙知へと進むプロセスです。連結化の段階は,まだ「頭で理解し,表面的に行動している」段階ですが,それが進んで,個人の「心や体に染み込み,自律的に行動する」段階になります。すると,ここで個人の暗黙知が発生します。

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