主張・講演エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

そもそもEUCとは? EUCの定義と形態

このシリーズで用いる用語の定義をしておきます。情報システムを利用形態から区分すると,基幹業務系システム,情報検索系システム,コミュニケーション系システム(グループウェア),パソコンの利用の4つになります。そして,EUCを「情報システム部門以外の人が,コンピュータを自主的に操作することにより,自分あるいは自部門の業務に役立てること」と定義します。すると,基幹業務系システム以外の3つは,すべてEUCになります。ですから,現在での情報システムの大部分がEUCですので,EUCという概念をなくすほうがよいと思います。


情報システムの利用形態による区分

オフィス業務の情報システムを対象にしますと,利用形態から次の4つに区分することができます(詳細は「Web教材・情報システムの利用形態とEUC」参照)。

情報システムの利用形態
基幹業務系システム
いわゆる「販売システム」や「会計システム」のように,主として全社的な大量データを定例的に定型的に処理をする分野です。これは,業務の仕方を情報システムによりルール化したものだともいえます。正確性・迅速性・効率性などが要求されますので,実際のプログラム作成やシステムの運用管理は(外注をするにせよ)情報システム部門が行うのが通常です(「Web教材・基幹業務系システム」参照)。
情報検索系システム
基幹業務系システムで収集蓄積したデータを,ユーザが使いやすいように編集して公開し,「必要な人が必要なときに必要な情報を」取り出せるようにしたシステムです。その典型的なものがデータウェアハウスです(「Web教材・情報検索系システム」参照)。
コミュニケーション系システム
電子メールや電子掲示板などのグループウェア,それの発展であるナレッジ・マネジメントやワークフロー管理システムなどの総称です。通常はインターネットでの電子メールやWebページ閲覧などもこれに入りますが,ここではそれらは「パソコンの利用」として除外しています。基幹業務系システムや情報検索系システムがデータの加工を前提としているのに対して,コミュニケーション系システムでは主に加工しない文書の伝達の迅速化や情報の共有化を目的としています(「Web教材・コミュニケーション系システム」参照)。
パソコンの利用
「ワープロ」「表計算」「インターネット」などの分野です。基本的な文房具だともいえますので,列挙のなかには入れましたが,私は「情報システム」として取り上げる時代ではなくなったと思っています。

エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の定義

EUCの定義は多様ですが,私は「情報システム部門以外の人が,自主的に自らコンピュータを操作して,自分あるいは自部門の業務に役立てること」と定義しています。

EUCの定義
「情報システム部門以外の人」
一般的にはエンドユーザといいますが,簡単にユーザともいいます。また,情報システム部門以外の部門を利用部門とかユーザ部門といいます。さらにユーザと利用部門を混同して使うこともあります。
「自主的に」
基幹業務系システムでのデータ入力や帳票出力をすることまでもEUCに入れる人もいますが,私はそれは基幹業務系システムを運用するために強制されている作業なので,EUCの範疇には入れないことにしています。
「自らコンピュータを操作して」
なかには操作を他人に頼みアウトプットを見るだけの人もいるでしょうが,ここではそれは入れません。また,ここでのコンピュータとは大型汎用コンピュータやコンピュータとしての携帯電話も含みます。でも「情報機器」とすると通常の電話や湯沸器までも含むので困ります。
「自分あるいは自部門の」
ユーザのなかには,他人のために作ってやる人もいるでしょうが,本来は情報提供者側の仕事であり,その人がたまたま利用部門に所属していただけのことですので,EUCとはいわないことにします。
「業務に役立てる」
パソコンゲームで遊んだりインターネットでポルノサイトをアクセスするのまでEUCに入れるのは不適切です(それが仕事だという人もいるでしょうが,例外的事項だとして無視します)。

情報システムを逆歴史的体系で認識する

この4利用形態は歴史的には基幹業務系システム→情報検索系システム→パソコンの利用→コミュニケーション系システムの順で出現し発展してきました。しかし,情報システムを正しく(?)認識するには,それと逆の順序で考えるほうが適切です(「論文 情報システム利用形態の体系に関する考察」参照)。
 特に,基幹業務系システムと情報検索系システムの関係では,歴史的には情報検索系システムは基幹業務系システムが提供しきれない非定例的・非定型的な情報を提供するという補完する位置づけでした。ところが現在では,基幹業務系システムはルールに従ったデータを情報検索系システムに提供するという位置づけに主客が逆になってきました。

逆歴史的体系
  1. インターネットに接続したパソコンは,企業の情報システム云々に関係なく存在するのだ。すべての情報システムは,これを基盤として成立するのだ。
  2. コミュニケーション系システムは,インターネットの環境を組織内の利用のために限定・特化した形態である。
  3. 組織での情報には加工を前提とするデータがある。それに特化したものが情報検索系システムである。
  4. 情報検索系システムを維持するために,データを正確に効率的に提供する方法を標準化して制度化したものが基幹業務系システムである(これについては「情報システムの構築方法」で詳細に説明しています)。

●もはや「EUC」は死語なのだ

このようにいうと「エンドユーザという言葉がユーザを蔑視しているので・・・」と思う人がいるかもしれません。そのような議論が流行したことがありますね。でもエンドとは「究極の」とか「目的の」という意味なので蔑視語ではありません。それにUCといったらコーヒーではないか,あるいはJavaとの関係はなどと誤解されません。

情報システムの4形態のうち,基幹業務系システムを除くすべてがEUCになります。現実にコンピュータ資源の大部分はEUCに費やされています。情報システムの大部分がEUCだとすると,大部分のものに名前をつけ,一部分のものが無名であるというのは奇妙です。EUCという言葉をなくして,基幹業務系システムのように専門の提供者が作成・運用するシステムをPIS(プロフェッショナル情報システム)とでもしたらどうでしょうか? でも人工知能でのエキスパートシステムでは,医者や技術者など業務を知っているユーザのことを専門家というので,これも不適切でしょうか。


本シリーズの目次へ