主張・講演エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

イモづる的利用が利益を生む

連続的に経営革新を行うには創造性のある人を支援する必要があります。それには,思いついたらすぐに結果が得られ,それを分析して問題を発見しすぐにその結果が得られるといったイモづる的な利用が効果的です。また,それを実現するには情報検索系システムのEUCが不可欠なのです。


「イモづる的利用」とは?

経営状況がセチがらくなってきますと,情報システムへの要求も複雑になってきます。石油での流通システムを例にしましょう。昔の流通システムならば,「いつ,何を,どれだけ,どこから,どこへ,どのような方法で,どの業者で,いくらで配送したか」が正確に処理されれば十分でした。ところが現在(というよりかなり以前から)では「流通コストを下げるにはどうするか」を解決できないと,マトモなシステムとは評価されません。おそらく,次のようなことをするでしょう(実際とは異なりますが)。

  1. ともかく長距離をローリーで運べば運賃がかかるので,「長距離配送実績リスト」を出力します。
  2. その得意先への供給カットや価格アップも考慮するために,該当する得意先について過去数年間の「売上高・利益額推移表」を出力します。
  3. それを調べた結果,非常によい得意先なので,配送方法の改善で対処しようということになります。その方法として,途中の油槽所まで船で運び,そこからローリーで運ぶ案を考えて「運賃試算表」を作成します。
  4. その油槽所の能力限界が気になりますので,取扱量がどこまで増やせるか「油槽所能力シミュレーション」を行います。
  5. もっと適切な位置に他社の油槽所があるので,それを使わせてもらうことを検討します。あるいは共同油槽所の提案を考えます。そのために「油槽所運営費用算出シミュレーション」を行います。
  6. 自社の製油所から得意先に運ぶのではなく,近くにある他社の製油所で生産してもらうことを考えます。その替わりに自社製油所で他社製品を生産することも考えます。それを大規模に行うために「他社共同での輸送最適化モデル」なども作成します。
  7. 共同化を徹底するために,製油所や油槽所などのサプライ部門を合併させます。そこまで進むのであれば,両社全体の合併を考えます(!?)。

この例を考察すると,次のことが重要であることがわかります。

事前にはわかっていない
どのような情報を必要とするかは事前にはわかっていません。「長距離配送実績リスト」にしても,それを出しているのであれば長距離輸送の検討が必要だということがわかっていたのですから,既にその対策が行われているはずです。今までに気づかなかった切り口での処理が必要になるのです。しかも,その結果を分析することによって,新しい要求が発生するのであって,それを事前にシステム化することはできないのです。このように,ある結果をみて次の要求をするという繰り返しを,私はイモづる的利用といっています。巷では問題発見・仮説検証などと大げさな表現をしていますが,イモづるのほうが適切ではないでしょうか?
試行錯誤のプロセスが重要である
上のようなプロセスは一本道ではありません。いろいろな案があり,その大部分は否定されて少数のいくつかが日の目を見るのです。ですから,膨大な試行錯誤が行われ,その過程でよい案があれば即座に実現に移されるのです。特別な「○○表」を得るとか,特定のシステムを構築をすればよいというのではありません。

なぜEUCなのか

EUCが普及していない環境では,情報システム部門に依頼して結果を送ってもらうことになりますが,その環境でイモづる的利用をするのは不可能です。

試行錯誤の回数が多すぎる
このような要求に対して,当初の数回では情報システム部門も快く引き受けてくれるでしょうが,回数が増加するにつれて文句をいうようになるでしょう。しかも,依頼者自身が依頼しにくくなり,適当なところで打ち切ってしまいます。そのために,よりよい案が発見されない危険があります。それに両者での意思疎通が悪いために,依頼したことと異なる処理をすることもあり,それによる試行錯誤回数も増大します。
ターンアラウンドが長すぎる
この環境では,個々の要求に対して情報システム部門はプログラムを作成しますので,依頼してから結果を得るもでには数日を要するでしょう。依頼回数が多いと数ヶ月や数年かかってしまいます。経営環境はそれを待ってはくれません。

それに対して,情報検索系システムが整備されており,依頼者がそれに習熟しているならば,ターンアラウンドは数分に短縮されますし,コンピュータは何百回の試行錯誤をしても文句はいいません。すなわち,イモづる的利用をするに情報検索系システムでのEUCが不可欠なのです。

イモづる的利用が利益を生む

情報検索系システムの利用には,「1を押せば○○集計表,2なら△△分析表」といった個別処理メニュー提供方式もありますが,これは事前にこのような要求がくることを承知しているから作成できるのであり,従来からわかっている業務の管理段階での改善にとどまります。それも重要でしょうが,創造的解決に結びつくことが少ないので,その効果も知れています。

画期的な業務改革や経営戦略を考えるには,イモづる的な利用が必要です。当然,実効果が得られる確率は少ないのですが,それが得られたときは,それに要した当人の人件費やコンピュータ費用どころか,全情報システムの費用すら賄って余るほどの利益が期待できるのです。個別処理メニュー提供方式がヒットを目的としたものとすれば,イモづる的利用はホームランを狙ったものといえましょう。

逆にいえば,イモづる的利用は創造性向上を支援するものです。それができる人を支援することが企業競争に勝つのです。また,そのような人は現状では少ないでしょうが,そのような人を少しでも増やすことが,企業にとって重要なことでしょう。いいかえれば,このような利用ができるようになることが,本来の情報リテラシーなのです。


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