主張・講演エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

情報化リーダーをヒーローにしよう

EUCの推進では,利用部門に情報化リーダーのようなキーマンを設置することが重要です。ところがややもすると,そのよう人を便利屋として使ってしまいがちです。それではその人の将来にも不適切ですし,周囲の人もそのようになりたくないと思いますので,EUCは発展しません。EUCの成果をあげるには,情報化リーダーをヒーローし仕立てることが重要なのです。


利用部門へのローテーションが必要

残念ながら,情報システム部門と利用部門との間のローテーションは,他部門間のそれと比較して,かなり低調です。

人事異動のグラフ

その理由は多様ですが,その一つには,情報システム部門の管理者が優秀な部下を転出すると担当システムの維持発展ができないということがありましょう。しかし,情報システム部門から利用部門へ転出させることは,通常のキャリアパスとして必要なだけでなく,次のようなメリットがあります。

利用部門でのメリット

EUCの推進
EUCの普及には,各部門で情報技術に詳しい人が必要です。それを利用部内で育成するのは困難です。情報システム部門から提供してくれれば助かります。
情報システム部門のアウトソーシング
情報システム部門が戦略部門になることが期待されています。そうするためには,部門内のローカルな小規模システムの構築や改訂などは,利用部門がベンダーと直接に交渉する必要があります。しかし,情報システムや情報業界の取引慣行には特殊なものがあるので,それを理解できる人が必要になります。

情報システム部門でのメリット

EUCの推進
EUCの推進には,現場での相談者や指導者が必要です。また,情報検索系システムが普及すれば基幹業務系システムの規模を小さく簡素化することができます。情報システム部門で1名減るよりも大きな戦力になる可能性があります。
利用部門での情報システム部門の理解
とかく利用部門は,情報システムは特殊な技術であり情報システム部門は特殊な部門だ思いがちです。情報システム部門や情報システム部門に対する理解が増せば,システムへの要求も適切になるでしょう。

転出要員を便利屋にするな,ヒーローにしよう

とかく転出要員を便利屋にする風潮があります。これは非常に危険です。

作業の押し付け
利用部門に転出する要員の処遇に留意する必要があります。「コンピュータなんて面倒くさい。ちょうどよいヤツがきた。これからは情報のことはすべてアイツに任せよう」というような状況のところに放り込まれたのなら悲劇です。EUCの推進どころか,基幹業務系システムのデータ入力やワープロでの清書まで押し付けてきます。
作業の困難と周囲の無理解
CSS環境では,LANの故障とかデータのバックアップなどいろいろな作業がありますが,その苦労は周囲にはわかりません。完全な状態で当然でありトラブルがあると叱られます。しかも,相談する相手がいないので,すべて一人で解決しなければなりません。
部内で浮いてしまう
「これから部内の打ち合わせをするが,営業の話だし,キミはコンピュータで忙しいから出席しなくてもいいよ」などといわれ,営業部門にいるのに営業のことがいつになってもわかりません。情報技術の発展は急速なのに,それに触れる機会が少ないので,情報技術者としても取り残されてしまいます。

このような存在を,まわりの若い人が見たらどうでしょうか? 「変に情報などに関心を示したら,あの人のようにされてしまう。自宅では情報技術の勉強をしても,会社では知らないふりをしておこう」という気持ちになります。これではどんなに情報が重要だとか,EUCを推進しようなどといっても,実現するはずがありません。

それに対して,転出以前に利用部門の上司とよく話し合って,転出要員をヒーローにしましょう。情報システム部門は,彼の要求はある程度無理だと思っても支援するし,利用部門では彼を「情報」要員ではなく「業務改革」要員として扱うようにします。

利用部門の上司は,早く部門事情を理解させるために,できるだけ会合に列席させたり話し合いをします。部内にも業務改革のスタッフであることを理解させます。両部門の支持があれば成果があがりますし,周囲の評価も上がります。そうなると,情報技術に関心のある若い人は彼のような業務につきたいと思い,自主的に彼に協力しようとしますので,彼の日常的な負荷が低減され,さらに効果のある業務をするでしょう。このような好循環の状態になれば,特にキャンペーンをするまでもなく,情報リテラシーが向上します。


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