主張・講演エンドユーザ・コンピューティング(EUC)の光と影

情報検索系システムによる基幹業務系システムの合理化

「必要な人が必要なときに必要な情報を容易に入手できる」ようにすることが情報検索系システムの目的であるといわれますが,それは狭義の目的であり,広義の目的としては,情報検索系システムを普及させることにより,基幹業務系システムを含む情報システム全体の合理化を図ることや情報システム部門の活性化を実現することにあります。


情報検索系システムの広義の目的

企業環境は激変しています。基幹業務系システムは業務のしかたを規制するものですから,環境変化に即応して基幹業務系システムを改訂することが求められます。また,基幹業務系システムは企業の隅々にまで行き渡っていますので,基幹業務系システムへの改訂要求は頻発しています。ところがそれに応える情報システム部門は,人員増加どころか削減の対象になっていますし,IT革命といわれるように,経営戦略と情報技術の統合という戦略的な業務につくことが期待されています。
 それで情報検索系システムにより,簡単なことは情報システム部門の手を煩わせないでユーザが自分で解決してほしいと思っています。また,情報検索系システムの普及が進めば基幹業務系システムの規模を縮小できるので,改訂や再構築が容易になるとの期待もあります。すなわち,情報検索系システムの運営は,単にユーザが簡単に情報を入手できるようにするだけでなく,情報システム全体を合理化すること,情報システム部門の負荷を削減することなどの一環として認識することが必要なのです。

情報検索系システムによる基幹業務系システムの簡素化

情報検索系システムの普及により,基幹業務系システムの規模を小さく簡素化できます。情報検索系システムが行なわれていないときには,図のすべての範囲を基幹業務系システムとして構築する必要がありますが,情報検索系システムが普及した段階では,点線の外部をEUCに任せて,基幹業務系システムは点線の内部だけをカバーすればよいことになります。

出力系の簡素化

出力帳票のなかには,請求書,給与支払書,決算書のような,外部に提出したり会計の基本となったりする帳票(これを仮に「基幹帳票」という)と,得意先別売上状況表や商品別在庫回転率のような管理のための帳票(仮に「管理帳票」という)があります。基幹帳票は厳密な正確性が要求されるし,ユーザに任せたのでは不正の危険もあるのでEUCには適しません。それにたいして,管理帳票では正確性よりも迅速性や有効性が重要ですし,不正行為にはあまり関係がないので,検索加工をEUCで行うことができます。

一般に管理帳票はその種類が非常に多く,経営環境や業務の変化によりニーズが変わります。それを基幹業務系システムから外すことができれば,基幹業務系システムの改訂要求は非常に小さくなります。

入力系の簡素化

購買システムを例にすれば,基幹業務系システムでのデータは「いつ,どこから,何を,いくつ,いくらで買ったか」が必要なだけですが,利用部門にとっては,そのデータを入力する以前に,予算,見積,承認などの多くのプロセスがあり,基幹業務系システムに渡すデータはその結果だけなのす。

従来の基幹業務系システムのデータ入力では,情報システム部門が入力画面のシステムを作成し,利用部門がその画面でデータを入力していました。しかし,上記のような事情を考えれば,これらのプロセスをカバーするワークフロー管理システムを構築し(これは基幹業務系システムと異なり,利用部門が中心で構築する),その一部のデータを基幹業務系システムに渡せばよいといえます。出力系ほどではありませんが,これにより基幹業務系システムの規模を小さくすることができます。

中核系の簡素化

昨日までの累積ファイルを今日発生したデータで更新するとか,月末時に他のファイルと関連づけるなどの処理を中核系とします。出力系や入力系はヒューマン・インタフェースに大きく関係するのにたいして,中核系はロジックの分野です。前者を基幹業務系システムから外せれば,基幹業務系システムはデータファイルの操作が主になります。ヒューマン・インタフェースのプログラムではCOBOLのような逐次的処理言語で記述する必要がありますが,ファイル操作のプログラムでは,簡易言語やユーティリティなどで記述できるので,プログラム記述量は数十分の1になります。すなわち,中核系は,EUCが普及しても規模が減少することはありませんが,処理内容は同じでもシステムの開発や改訂の作業はかなり容易になります。

簡素化の程度

情報検索系システムの普及により基幹業務系システムの規模は抜本的に小さくなります。ここに掲げた数値はプログラムのステップ数なのか開発にかかる時間なのかあいまいですし,数値そのものも実証的なものではありませんが,一般的な事務処理での典型的な値だといえます。

上段は,未だ情報検索系システムが普及していない段階です。全体として100の規模になっています。中段は,利用者が公開ファイルからの検索加工など簡単な利用ができた段階です。出力系の80%がEUCへ移行したので,この部分では規模が50から10になりました。入力系では,基幹業務系システムが提供した標準的な入力画面のシステムを,利用者が自分に使いやすいようにカスタマイズできることにより,基幹業務系システムで個別の入力画面を提供しないで済むことにより,30の規模が20になりました。

下段は,EUCが非常に普及した段階です。この段階になると,入力系はワークフロー管理システムの一部になりますので,基幹業務系システムとしては非常に簡素化されます。出力系も情報検索系システム化が進みますが,ここでは既に大部分が移行しているとして数字には入れませんでした。また,この段階ではEUCを前提としたシステム設計が行なわれますので,中核系を簡易言語やユーティリティなどで記述できるとして,20の規模が10になるとしました。

結果として,当初の100の規模が30になりました。システムの規模が大きくなると,それの開発や改訂に要する労力や費用は指数的に増大します。逆にいえば,規模が30%に減少したことは,開発や改訂の労力や費用は30%よりもっと小さくなるのです。

情報検索系システムを前提とする効果

情報検索系システムを前提として基幹業務系システムを構築することは,次のような効果があります。

データ中心アプローチになる

情報検索系システム用の公開ファイルは,ある特定の帳票出力を目的としたのではなく,多様な切り口による多様な加工ができることを目的にしています。データを部品として活用するそのために,データをRDBで持つのが一般的です。基幹業務系システムの目的が情報検索系システムに正しいデータを提供することにあるとすれば,基幹業務系システムのアウトプットは,正規化されたファイル群になります。すなわち,自然にデータ中心アプローチになるのです。

全体に統合されたシステムになる

情報検索系システムでは,売上ファイルや購買ファイルなどのイベントファイル以前に,得意先マスタや商品マスタなどのマスタファイルの整備が要求されます。このようなマスタファイルは,多くの部門で共通に必要としますので,たとえば販売システムでの得意先コードや購買システムでの供給先コードを,相手先コードとして共通に体系化するのが自然な発想です。そのために,個々のシステムでのイベントファイルでのコードが共通のものにするのが容易になりますので,あえて意識しなくても統合化したシステムにしやすいのです。

収集すべきデータが明確になる

基幹業務系システムはデータの収集が大きな目的ですが,情報検索系システムを検討することによって,どのようなデータを集めればよいか,その精度や新鮮度はどの程度が必要かが明確になります。それにより,基幹業務系システムでのもれを防いだり,過度のシステムにならないようにするなどの効果があります。


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