対象製造業の仮定
製造業の生産方式は多様ですが、ここでは主として、環境変化が少なく、ほぼ固定した製品を見込生産している形態の製造業を対象にしています。
その他の形態での参照先
・環境変化が急激で技術イノベーションが重要な形態:
技術戦略技法
・主として受注生産の形態:
見込生産と受注生産
・多品種少量生産の形態:
多品種少量生産
生産管理システム(Production Management System)
生産管理システムの目的
JISでは「生産管理を系統的に行うために、生産に伴う現品、情報、原価(価値)の流れを統合的、かつ、総合的に管理するシステム」と定義しています。在庫低減や原価低減を行いながら、納期短縮、数量確保などの顧客満足を達成することを目的とするシステムです。
- 納期遅れ防止
受注システムで指定された納期が守られるように、製品在庫システムで指定されたときに指定された数量を生産すること。
- 在庫低減
コスト削減の主要な手段です。生産部門で対象となる在庫には、部品・原材料在庫、中間品在庫、仕掛品在庫、完成品在庫などがあります。また、計画変更などに伴う余剰在庫の低減もあります。
- 生産計画変更への即応
顧客からの要請により、小ロット多頻度配送が求められ、注文の変更も頻発します。それに対処するため、生産計画の(サイクルタイムは短くなり、生産に要するリードタイムの短縮が必要になります。
- 生産能力の有効活用
生産コストを下げるために、最小限の生産設備で稼働率を上げること、待ち時間を減らすことが必要です。
- 総合管理システム
このような要請に応えるには、生産計画、原材料・部品の調達計画などを総合的に管理し無駄の発生を抑えること、そのためにシステム化を図ることが必要になります。これが生産管理システムの目的です。
生産管理を取り巻く要因
外部要因
生産管理からみれば、与件に相当するものです。
- 社会からの制約
環境保全や労働環境改善などの要請にコンプライアンスとして応える義務があります。
- 社内の外部システム
生産計画を正確に作成するためには、販売計画、需要・受注、製品在庫などからの情報を正確に、タイムリーに把握する必要があります。それらのシステム化が求められますし、システム間の連携が重要になります。
内部要因
以下のような情報を収集・整理してデータベースとして管理する必要があります。
- 製品による制約
品質情報。規格・標準など
- 生産能力の制約
設備、人員、金型部品など
- 技術能力の制約
部品表、故障率、歩留まりなどの現状把握
- 運用能力の制約
部品・仕掛品・製品の在庫把握、製造・調達のリードタイムなど
生産管理システムの構成
企業の特徴により異なりますが、次のようなサブシステムから構成されます。
- 生産システム
生産管理システムの同意語とされ、そのときは生産指示から製品完成までの全プロセスを計画し、実施し、報告するシステムとされます。狭義には、物理的な生産プロセスを対象にするシステムの総称を指すこともあります。その場合は、生産技術分野まで含むこともあります。
- 製造管理システム
必要な製品を製造するために、必要部品、加工、組立てなど製品を製造するプロセスを管理します。
- 製造実施システム
製造工程の状態の把握や管理、作業者への指示や支援など、製造現場で用いるシステムです。
- 需要予測
製品の需要予測や受注予測だけでなく、設備計画など、長短期の計画を検討する前提条件を検討します。
- スケジュール
年単位の計画から日次計画までの各期間を対象にしたスケジュールを作成、結果との分析を行ないます、
製造管理システム
- 製番管理
個別生産や小ロット生産での代表的な管理方式です。
製造指令書を発行するときに、その製品に関するすべての加工と組立の指示書を準備し、同一の製造番号をそれぞれにつけて管理をおこなう方式です。
個別製品や小ロットに製造番号(製番)を付与します。この製番は、受注から原材料、部品まで統一して使用され、発注伝票、生産指示書、入庫伝票、出庫伝票、原価計算書に至るすべてのデータでの共通番号になります。
- 追番管理
設計変更が発生しない製品の個別連続生産に用いられます。
個々の製品ではなく、同一品種の製品、部品、仕掛品にそれぞれコードを付けます。加工や組立プロセスでは、どのコードの部品を幾つ使って、どのコードの製品を作ったかという情報になります。
この方式の基本情報は部品表です。またMRPは、この方式をベースにしています。
そのため、設計変更が多く、部品表が頻繁に変わる生産方式に適用するには限界があります。
- MRP(Material Requirement Planning、資材所要量計画)
製品の生産計画により、部品表と部品在庫表から、部品の必要量を算出します。部品の調達日数や加工・組立作業日数などを組み入れて、生産日程計画や調達日程計画を作成します。
参照:MRP
- ERP(Enterprise Resource Planning)
- CIM(Computer Integrated Manufacturing)
その後、MRPは適用範囲を拡大し、生産能力、原価計算、流通なども取り込み、最終的には企業全体を対象とする統合基幹業務システムへと発展しました。
参照:MRP
- SCM(Supply Chain Management)
部品メーカー、組立メーカー、配送業者などの供給に関係する企業が、情報を共有することにより協力して、顧客満足を実現するために、納期の短縮と流通在庫の削減を同時に実現する経営手法です。
参照:MRP
MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)
製造現場での製造工程の状態の把握や管理、作業者への指示や支援などに特化したシステムです。
生産ラインの各製造工程における、スケジュール管理、設備や機械の制御、品質検査などを作業者にわかりやすく可視化することにより作業を支援します。また、その結果を把握して、次工程のMESや上位の生産管理システムに渡します。
需要予測等
当然ですが、長期の予測は不確定要素が多いので予測幅が広く信頼性の低いものになり、期間が短くなるにつれ精度が向上します。そのため、時間の推移や環境の変化に伴い、常に更新する作業が重要になります。
また、予測は「当てる」ことだけが目的ではありません。予測には、何らかの前提があります。「当たらなかった」のは、前提の認識が不十分だったのか、予測までの論理が不適切だったことによります。それを記録して次回に活かすことが「当たる」確率を高くします。
参照:予測手法の概要
シミュレーション
予測そのものではありませんが、予測や計画のデータを利用して、将来の状況を机上実験することをシミュレーションといいます。
- 各年の製品予測値と、生産能力の計画値、部品の調達能力値などを設定します。
- ある年の製品販売量(生産量)を、次の条件での最小値に修正します。
生産量≦生産能力、生産量≦部品の調達能力、生産量≦前年の生産量×伸率限界
- 各年の予想財務諸表を作成し、必要に応じて計画を修正します。
その際、製品や部品の価格変化なども考慮して再計算するなども行います。
スケジュール
期間計画
- 長期計画
5年以上程度の長期の将来にわたる計画です。「どうなるか」よりも「どうしたいか」が主になるので、計画というより戦略に属するかもしれません。
- 中期計画
3年程度の将来が対象です。現在の状況が影響する期間です。短期計画を策定するための前提になります。
- 短期計画
年度計画になります。中期計画を達成するために、その初年度としてどうするかと、現在の状況からどこまでできるかの両方からの検討になります。
生産日程計画
いつ、どれだけの製品を生産するかの計画を受けて、具体的に生産するための計画です。
定例的な業務では、計画の日数(スパン)で区分します。プロジェクトでは、全体計画や工程別作業計画などで区分します。
- 大日程計画
マスタースケジュールともいいます。年度、半期、四半期が対象になります(プロジェクトの場合はプロジェクト全体)。詳細な内容よりも大まかな検討で、月単位レベルで作成します(この単位をタイムバケットといいます)。
- 中日程計画
数か月が対象になります。プロジェクトでは工程別作業計画ともいいます。大日程計画の一部の期間を対象にして、プロジェクトの工程やサブシステム、担当チーム、などに分割してそれぞれの計画をより詳しく作成します。
- 小日程計画
週間作業計画ともいいます。タイムバケットは日単位です。各担当者や各担当グループの作業工程ごとに、具体的に詳細な作業予定を作成します。
スケジュール管理
主にプロジェクトでのスケジュールが対象になります。
- 可視化と図法
スケジュールでは、全体を見通せること、作業と作業の関係が把握できること、作業者が自分の担当がわかることなどが重要です。可視化(見える化)をするには、図表にするのが適切です。
- ガントチャート
作業別あるいは作業者別に,計画と実績とを対比することにより,作業の遅れや問題点を確認して,対処するのに用います。
- アローダイヤグラム
各作業を矢線で表し、先行作業と後続作業の関係を矢線図で表現したものです。これを用いてネックになる作業の組(クリティカルパス)を見つけるPERT、さらに全作業を短縮するCPMがあります。
- PDM(プレシデンス・ダイアグラム法)
アローダイヤグラムと似ていますが、作業をボックスで表現し先行作業と後続作業の関係を矢線図で表現したものです。連続する2つの作業の間にリードとラグの概念を持ち込むことにより、「先行作業Aが終了しなければ、後続作業Bは開始できない」というような依存関係も表示できます。
- EVM(Earned Value Management)
プロジェクトの時間と費用の管理を同時に行うための図法です。横軸に開発期間、縦軸に予算消費額をとり、計画と実績をプロットし、マイルストーン時点で、その差異を測定し、完了までに計画値を達成するための方策を検討します。
- マイルストーンと進捗報告
スケジュール管理では、進捗状況を把握して、必要に応じて是正措置を行うPDCAサイクルで管理します。そのためには、管理するのに適切な時点をマイルストーンとして設定し、定期的およびマイルストーン時点で進捗報告を行いレビューすることが必要です。
生産管理システムの導入
「生産管理システムの導入」は一つのプロジェクトですから、基本的には
プロジェクトマネジメントの方法論と同じです。
- 基本方針の明確化
経営戦略やIT戦略の関係から生産管理システムの必要性および導入プロジェクトの基本方針を策定し、関係者に周知します。
- プロジェクト組織の編成
生産管理システムは、生産全般だけでなく、販売や購入などサプライチェーンに大きな影響を与えます。設備投資では財務にも影響を与えます。他のシステムとの関係も深い特徴があります。
そのため、組織の編成には広い関係者あるいはその代弁者の参画が求められます。
- 具体的な機能の明確化
基本方針を実現するために、生産に関する現状と将来像を分析して、生産管理システムの具体的な機能を明確にします。
システム開発でいえば、RFP(提案依頼書)あるいは要件分析の作成段階になります。
- 適用範囲・スケジュールの決定
全工場、全製品群を対象にしたビッグバン開発にするのか、一部の工場や生産ラインから開始するのかを決定します。
- 資源見積りと確保
スケジュールに合わせた人員、ハードウェア、ソフトウェアなどを算出し、その承認を得ます。
- ベンダの決定
システム開発、パッケージソフトなどのベンダを選定し、契約をします。