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情報検索系システムの概要


情報検索系システムとは、基幹業務系システムで収集蓄積したデータを、エンドユーザが使いやすい形式のデータベースにして公開し、エンドユーザがEUC(End-user Computing)により、多様な切り口で検索加工する利用形態です(参照:「情報検索系システムの特徴」

このような利用形態は、
  1970年代にDSS(Decision Support System:意思決定支援システム)として始まり、
  1980年代を通して情報検索系システムとして普及し、
  1990年代にはデータウェアハウス
  2000年代にはEI(Business Intelligence)
へと名称や概念を変えつつ発展してきました(注:「パイプ曲線」)
ここでは、これらを総称して情報検索系システムといいます。

用語・概念

データウェアハウスの提唱者であるインモン(W.H.Inmon)は、「目的別に(subject-oriented)、統合化された(integrated)、時系列に保管し(time-variant)、更新をしない(non-volatile)という特徴を持つ、マネジメントの意思決定を支援するデータの集合である」と定義しています(参照:「データウェアハウスの定義」)。

分析を主とする利用をOLAPといい、それには多次元データベースが適しているといわれています。その多次元データベースを取り扱うソフトウェアをOLAPツールといいます。
 OLAPツールは、売上データベースを、商品を縦軸、年月を横軸にして表示したり、ある商品について、支店別の月別変化をグラフ表示するなど、データベース設計時に想定される処理をエンドユーザが簡単に行うことを目的にしています(参照:「OLAPと多次元データベース」)。

(広義の)データウェアハウスは、全社的なデータの保管庫としての(狭義の)データウェアハウスと、各部門の利用に特化したデータマートに区分できます(参照:「データウェアハウスとデータマート」)。OLAPツールは、データマートで用いられるツールだといえます。

「遠距離配送のトップ10列挙」「併買されることが多い商品の組合せ」など、事前に想定されなかった要求には、OLAPツールは限界があります。想定外の問題に対処するには、全社的なデータの保管庫であるデータウェアハウスから、必要なデータを選択し、多様な切り口で集計するような手段を講じる必要があります。
 そのような加工手段のうち、大量データの分析により、気づかなかった貴重な情報を発見したり仮説検証する技法をデータマイニングといいます(参照:「データマイニング」)。その目的のために、高度な統計的手法が使いやすい形で利用できるツールが提供されています。従来から行われていたORの現代版だともいえます。

最近では、パソコンを起動したとき、担当業務に特化した画面を表示する社内ポータルが普及しています。それには、基幹業務系システムの入出力や電子メールなどへのリンクもありますが、OLAPツールやデータマイニングなどを業務に合わせてカスタマイズしたものもあります。それをEIといいます(参照:「EI」)。

情報検索系システムの利点

情報検索系システムの特徴は「必要な人が、必要なときに、必要な情報を容易に得ることができる」ことにあります。
 基幹業務系システムで月次処理により得意先別に商品売上表が得られますが、エンドユーザは月の半ばで自分の担当得意先の状況がほしいことがあります。また、売上集計表も得意先別集計ではなく、納入先別や府県別で集計したいことがあります。このように、日常的な情報入手手段として、情報検索系システムは役立ちます(参照:「情報検索系システムの日常業務への適用」)。
 情報検索系システムは計画業務で効果を発揮します。遠距離配送例を調べて中継基地やルートを改善したり、併買状況を調べて陳列位置を工夫したりできます(参照:「情報検索系システムの計画業務への適用」)。

このような情報提供をIT部門に依頼していたのでは、得られるまでに時間がかかりますし、IT部門の負荷が増大してしまいます。情報検索系システムの普及により、それを回避することができます。
 さらに重要なことは、情報検索系システムの普及を前提にすることにより、基幹業務系システムを小規模に絞ることができることです。これにより、経営環境の変化に情報検索系システムを即応して改訂できるようになるので、経営の観点からも重要です(参照:「情報検索系による基幹業務系の簡素化」)。

情報検索系システム運用での問題点

このように、情報検索系システムは、エンドユーザやIT部門の生産性向上に役立つのですが、運用が不適切だと、期待した効果が得られないばかりでなく、期待とは逆の状況に陥ることがあります。

情報検索系システムの提供方式には、エンドユーザが簡易ツールにより公開ファイルを検索加工する「公開ファイル提供方式」と、IT部門があらかじめ「1をクリックしたら○○集計表。2なら△△分析表」のようなメニューを作成しておく「個別メニュー提供方式」があります。
 前者では、エンドユーザは多様な情報を得ることができますが、簡易ツールの操作方法やファイルの内容を理解している必要があります。それに対して後者では、コンピュータ知識はほとんど必要ありませんが、メニューにない情報を得ることができません。IT部門はメニュー増加要求で負荷が増大してしまいます。両者の適切な組合せが必要です(参照:「公開ファイル提供方式と個別メニュー提供方式」「ユーザの情報システム部門への過度依存症」)。

とかくエンドユーザは、情報の内容よりも出力画面や帳票の体裁にこだわる傾向があります。必要な情報は短時間で入手できたのに、きれいなグラフに加工するのに長時間かけるなど、目的と手段を混同しがちです。これでは生産性の向上にはなりません(参照:「ユーザの過度体裁愛好症」)。

Excelなどにより、エンドユーザが独自で簡単なシステムを構築することは望ましいことなのですが、なかには本来、基幹業務系システムとしてオーソライズしてシステム化すべき分野を対象にしていることがあります。これらはブラックボックスになっていることが多く、人事異動での引き継ぎや財務処理の内部統制を困難にしてしまいます(参照:「ユーザの過度自作愛好症」)。