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ハイプ曲線(hype-cycle)


流行語のような専門用語をバズワード(buzzword)というのだそうだ。IT業界はバズワードであふれている。以前からある概念と同じようなことに,あたかも新しい概念であるかのように新しい名前をつけて,商売にする連中もいる。そのなかには長期的に重要な概念として定着するものもあれば,一時の流行で忘れ去られるものも多い。
 将来発展するものに関心を持たないのはバカだし,やがて消えてしまう流行に飛びついてはしゃぐのもバカだ。

バズワードについて,著名なリサーチ・コンサルタント会社であるガートナー社は,ハイプ曲線(hype-cycle)という面白いモデルを発表している。
 詳しくは,次のサイトを参照してくれ。
ガートナーのサイト
   ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2008年」を発表 2008年
    ( http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20080827-01.html
   ガートナー、1,650のテクノロジの成熟度を評価したハイプ・サイクル・スペシャル・レポートを発行 2009年
    ( http://www.gartner.co.jp/press/html/pr20090908-01.html
   「新しいハイプ・サイクル縦軸の評価尺度:期待度」 2010年
    ( http://www.gartner.co.jp/b3i/research/100209_itm/
解説
   栗原潔「ハイプ曲線でITの先を読む」2001年
    ( http://www.itmedia.co.jp/enterprise/0107/30/01073006.html
   栗原 潔「ハイプ曲線再考~ITの「墓場」を分析する」2002年
    ( http://www.itmedia.co.jp/enterprise/0206/17/02061788.html

ハイプ曲線とは,次のようなものだ

ハイプ曲線

実際には,この曲線の上に「シンクライアント」や「クラウドコンピューティング」などのIT技術が配置されるのであるが,ここでは省略している。ガートナーは,上記文献発表後,図のように変更した。。文献での名称をカッコ内に示しておく。なお,用語は図のものを用いるが,その説明は初心者にわかりやすいような内容にした。そのため,厳密な定義にはなっていない。さらに最近は、縦軸の「認識度」を「期待度」に変更している。

テクノロジの「黎明期」(黎明期)
インターネットの普及により,IT革命などという用語がでてきた。以前から情報化社会などといわれていたが,IT革命のほうがインパクトが強い。そして,それへの期待度が上がる。
過度な期待のピーク期(流行期)
しかも商売上の過剰宣伝,マスコミの囃し立てにより,期待がバブル状態になる。IT革命の波に乗り遅れると,企業は潰れるし,国家経済も崩壊してしまうと騒ぎ立てる。特に「米国では~,日本では~」と日本は遅れていると叱咤激励する。それに影響されたのか,IT革命の影響は産業革命より大きいというアンケート結果もあったほどだ。
幻滅期(反動期)
ところが世の中はそんなに甘くない。そのうちに期待が薄れると反動が訪れる。そのうちに「米国の直輸入ではなく,日本の環境に合致した~」が出現すると反動期にさしかかる。マスコミもバッシング記事を書き立てる。そして30冊の図書が出た後は,その用語を題名にした本は絶対に売れなくなる。
啓蒙活動期(回復期)
世の中が冷静さを取り戻すと,啓蒙活動が行われる。たとえば,「IT投資をすれば儲かるのではない。儲かる経営戦略があり適切な分野にITを使えば儲かるのだ」というまともな議論がなされるようになり,改めて受け入れられるようになる。技術の分野では,それを活用する環境が整備されてくる。「マスコミが取り上げなくなった。やっと実務に根付いたのだ」といった人もいる。
生産性の安定期
本来の価値に見合った地位を得て,長期的に安定した状況になる。
 なお,この図には示されていないが,そのうち,「IT革命」を「ユビキタス」というように類似の概念に新しい用語を創作する者が現れ,それの黎明期になり,古い用語はいつの間にか忘れ去られてしまう時期が訪れる。

なかには,「過度の期待」すら迎えずに(迎えても高くならずに)消えてしまう技術もあるし,幻滅期(反動期)にそのまま消えてしまう技術もある。ガートナーは,啓蒙活動期(回復期)を迎えられなかった技術を6つのパターンに分類している。最後のものを除けば,すべて敗者復活の可能性がある。

エンベデッド(埋め込み)
この技術だけでは存続しなかったが,他の技術のなかに埋め込まれた形で実際に用いられているもの。
ニッチ(隙間市場)
特定の分野に限定され広く利用されるまでにはならなかった技術。エキスパートシステムは,当時は人工知能として情報システムの一翼を担うような期待をされたが,結局はカナ漢字変換など特殊な分野以外では忘れ去られてしまった。
フェニックス(不死鳥)
安定期に行く前に消えたようになったが,何らかのきっかけで注目されるようになった技術。昔、文書のマークアップ言語としてSGMLが提唱されたが、あまりにも複雑なので普及しなかった。インターネットの普及によりHTMLがポピュラーになっているが、これはSGMLをベースにしたものである。
スリーパー(大穴)
フェニックスと同じようだが,将来的に復活して主流になる技術。基本的な理論は優れているのに当時は実現する技術がなかったのが,最近の動向により実用化されたために大爆発することがある。オブジェクト指向が優れていることは,1970年代からいわれていたが,一部の研究者あるいは愛好者の間でほそぼそと生きながらえていた。それがJavaやUMLに刺激され,一挙に主流へとブレークした。
ゴースト(幽霊)
技術そのものは存続できなかったが,その基本にあるコンセプトが新しい技術のもとで取り入れられ復活する技術。仮想化技術は、レガシー環境では当然のことであった。それがオープン環境になると、都合が悪いので話題から消え去った。2000年代後半になると、やっとその技術が実用になったので、あたかも新概念であるかのようにもてはやされるようになった。
エクスティンクト(絶滅)
より優れた技術が出現し葬り去られ,将来も復活しそうにもない技術。レコード(→CD),汎用コンピュータ(→パソコン+ネットワーク)など多くの技術がある。

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