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マーケティング戦略技法

学習のポイント

「顧客満足とマーケティング」で、企業の存続には顧客満足を得るためのマーケティング戦略が重要であることを学習しました。
 本章では、マーケティング戦略を策定するための技法を理解します。

キーワード

マーケティング、マーチャンダイジング、市場細分化、セグメンテーション、ドミナント戦略、ダイレクトマーケティング、データベースマーケティング、ワントゥワン(1 to 1)マーケティング、3C、競合分析、アドバンテージマトリックス、4C、マーケティングミックス, 4P, 製品戦略, 商品政策, 製品差別化, 計画的陳腐化, 価格戦略, 価格弾力性, コンジョイント分析, スキミング戦略, ペネトレーション戦略, チャネル戦略, ロジスティクス、流通政策, AIDMA, プル戦略, プッシュ戦略,アウトバウンドマーケティング、インバウンドマーケティング、サービスマーケティング、ソーシャルマーケティング、ソーシャルメディアマーケティング、SMM, イノベーター理論,イノベーター,アーリーアダプタ(オピニオンリーダー)、キャズム理論、バスモデル、ブランド戦略、CM・PR戦略、コーポレート・アイデンティティ,CI、IMC、インフルエンサーマーケティング、リーンスタートアップ


マーケティング戦略の基本概念

マーケティングの定義

平たくいえば、社会的責任や顧客満足の観点から「誰に、何を、どのようにサービスするか」を考えることだといえます。

類似語にマーチャンダイジングがあります。アメリカ・マーケティング協会では、マーチャンダイジングを「適正な商品またはサービスを、適正な場所で、適正な時期に、適正な数量を、適正な価格で、マーケティングすることに関する諸計画である」と定義しています。すなわち、マーチャンダイジングは「何を」と「どのように」の具体的手段に特化した分野であり、マーケティングの一部であるといえます。

市場細分化

マスマーケティング
ある商品・サービスの成長期や成熟期において、最大のシェアを持つリーダー企業としては、すべての消費者を対象にして、画一化された方法でマーケティングすることが効率的であり、有効です。このようなマーケティング戦略をマスマーケティングといいます。
市場細分化(セグメンテーション)
消費者の価値観が多様化した現在では、マスマーケティングが有効な市場が少なくなっています。
このような環境では、何らかの基準で消費者層(市場)を限定し、その消費者層にマッチしたマーケティング戦略をとる必要があります。
市場を何らかの基準によりいくつかの層に区分することを、市場細分化(セグメンテーション)といい、限定した市場(ターゲット)に特化したマーケティング戦略をセグメントマーケティング(ターゲットマーケティング)といいます。
市場細分化の基準
市場細分化を検討するには、次の4つの基準(変数)の切り口で分類します。
 ・ジオグラフィック基準(地理的基準)地域や天候、人口密度など
 ・デモグラフィック基準(人口統計的基準)年齢、性別、職業、収入など
 ・サイコグラフィック基準(心理的基準)価値観、ライフスタイルなど
 ・行動変数基準:製品に対する知識、態度、使用、反応など
このうち、特定の消費者特性に絞ったマーケティング戦略を(狭義の)ターゲットマーケティング、特定の地域に限定した戦略をエリアマーケティングと区別することもあります。
ベネフィットセグメンテーション
近年、消費者の観点でのベネフィット分析による市場細分化が重視されるようになりました。それを、ベネフィットセグメンテーションといます。
ドミナント戦略
市場細分化とは、いいかえれば限定した市場に経営資源を集中させることです。ドミナント戦略とは、限定地域への集中出店戦略です。
小売業が特定地域内に集中して出店することで経営効率を高めるとともに地域内でのシェアを拡大し、他社の優位に立つことを狙う戦略です。代表例がコンビニエンスストアです。

ダイレクトマーケティング

ダイレクトメールで代表されるように、消費者に直接アプローチする販売促進手段の一つですが、店舗を持たない通信販売業者や訪問販売会社による小売販売活動をダイレクトマーケティングということもあります。流通の面では、生産者が小売店などの中間業者を介さずに消費者に直接販売する形態を指すこともあります。
 セグメントマーケティングの観点では、メール送付先(消費者)の選定、送付先による内容の違いなど、限定した消費者に特化した販売促進手段であり、ターゲットマーチャンダイジングだともいえます。
 ここでは、ダイレクトマーケティングとは、Webも含む通信手段によるターゲットマーチャンダイジングの総称だとします。

ダイレクトマーケティングの類似用語

データベースマーケティング
見込み客を選び、その人に適した情報を提供するには、顧客の個人情報や購買履歴などのデータを収集した結果をデータベース化して分析することが必要です。これを重視したマーケティング手法です。
ワントゥワン(1 to 1)マーケティング
データベースマーケティングを究極的に進めると、最後には一人一人を対象にしたアプローチになります。この動向は「顧客から個客へ」といわれています。Webページを閲覧すると、最近購入した商品やアクセスしたキーワードに関連する商品の広告が多くなることがありますが、これもワントゥワンマーケティングの一つでしょう。
CRM(Customer Relationship Managemen)
CRMとは、顧客満足度の向上を目的とした顧客との関係を管理するマネジメント手法です。顧客の個人情報や購買履歴などの収集・分析をしますし、その情報をワントゥワンマーケティングが用いることもあります。この観点では、ワントゥワンマーケティングはCRMの一側面だともいえます。

マーケティング戦略の代表的手法

マーケティングは、企業の利益確保や企業発展のために最も重要な分野です。そのため、多様な戦略手法が提唱されています。その代表的なものを列挙します。このうち4Pが最もポピュラーであり、ここでは4Pをベースに説明します。

マーケティングミックス(4P)

マーケティングには次の主要な要素があり、マッカーシーの4Pと呼ばれれいます。マーケティング戦略とはその4Pを総合的に組み合わせて展開することであり、マーケティングミックスといいます。
・Product(製品戦略)
・Price(価格戦略)
・Place(流通チャネル戦略)
・Promotion(販売促進戦略)

3C

外部環境の市場と競合の分析から、自社の戦略に活かす分析をします。
・Customer(市場):市場規模、成長性、顧客ニーズ、購買決定プロセスなど
・Competitor(競合):競争相手からいかに市場を奪うか(守るか)という視点
・Company(自社):競合とともにSWOT分析。重要戦略の策定

競合分析

競合企業を分析することにより自社の成功要因を導き出す方法です。3Cを具体的に展開する分析方法です。
競争企業に限定した「SWOT分析」ともいえますし、市場における自社の位置づけを明確にする「ポジショニング分析」にも似ています。
一般に、詳細な比較項目を列挙し、市場調査なども利用する大規模な分析です。

アドバンテージマトリックス

業界と自社の関係に注目した戦略です。 →参照:「ポジショニング分析」
・規模型:大規模・高収益
・特化型:市場細分化による特化
・分散型:小規模企業に分散,規模優位性が乏しい
・手詰まり型:業界全体が衰退

4C

4Pを顧客の視点を重視したものです。
・Customer Value(顧客にとっての製品価値、顧客ニーズ)≒Product
・Customer cost(顧客の負担)≒Price
・Convenience(入手の容易性)≒Place
・Communication(コミュニケーション)≒Promotion


 

4Pおよび関連戦略

Product:製品戦略・商品政策

製品や製品戦略とは製造業において使用される用語で、流通業や小売業では一般に商品や商品政策といいます。

製品戦略の策定

製品戦略を立てるにあたって、次の3要因を検討する必要があります。

●製品差別化
 自社製品を他社製品よりも優れていることをアピールする必要があります。これを(広義の)品質ということもあります。
・コア機能:顧客の本質的ニーズを満たす機能
・形態:コアに付随する製品特性や品質、パッケージ、ブランド、ネーミングなど
・付随機能:アフターサービスや保証などの付加機能

●計画的陳腐化
 製品はいつかは需要を満たしてしまいます。新需要や買い替え需要を生み出すには、性能がよい。デザインがよいといった高品質の製品を提供して、あえて既存製品を陳腐化させることが必要です。

商品政策

マーチャンダイジング(merchandising)ともいいます。適正な商品またはサービスを、適正な場所で、適正な時期に、適正な数量を、適正な価格で、マーケティングすることに関する諸計画のことです。(参照:「小売業の情報システム」

Price:価格戦略

一般的な価格設定法

製品の特徴により多様な価格設定法があるが、通常はこれらを総合的に考えて価格設定します。

●価格弾力性
一般に価格を下げれば販売量は増加するが、1個あたりの利益は小さくなります。価格を上げれば、逆の現象になります。利益を最大に価格を求めるという問題があります。
需要の変化率/価格の変化率を価格弾力性といいます。価格弾力性は、需要や価格により変化するので、かなり複雑なモデルがあります。
なお、これをアンケート調査して分析することをPSM(Price Sensitivity Measurement:価格感度分析)といいます。

新製品の価格設定

製品ライフサイクルの導入期における価格設定には大きく二つの戦略があります。

●多段階価格設定
 これは戦略というより、市場の変化による価格対応というべきかもしれません。
 製品ライフサイクルの導入期ではスキミング戦略により、開発投資を短期間に回収します。参入者が出現し導入期になったときには、既に初期投資を回収しているので、コスト競争で優位になります。
 その利益を、成長期から成熟期にかけて、製品差別化に投資することにより、価格を維持しながらシェアを拡大できます。成熟期では、計画的陳腐化を行い成熟期を延命させる戦略をとります。
参照:「PPM」

フリーミアム戦略

フリー(free)とプレミアム(premium)を組み合わせた造語です。
 基本的な機能やサービスを無料で提供し、特別な機能やカスタマイズされた付加価値サービスを有償で提供するという販売戦略です。
 典型的な例がインターネットから入手できるフリーソフトウェアです。限定された機能だけを試用版として無料提供し、フル機能をもつ有料の製品版への移行を勧めます。
 試用版を普及させることにより、多数の利用者を獲得することができ、製品版の購入促進につながります。あるいは、その試用版を利用した高度な関連ソフトの販売へつなげることができます。試用版には広告を表示することにより、試用版だけでも広告収入を得ることもできます。
 価格戦略というより、ビジネスモデルとして理解するほうが適切かもしれません。

サブスクリプションモデル

Subscriptionとは新聞や雑誌の定期購読を表す言葉ですが、スマーフォンやソフトウェアを中心にした従量課金制や月額固定制のことをいいます。サブスクリプションモデルとは、「モノからコトへ」に価値を移し、継続課金で収入を得るビジネスモデルです。典型的な例としてコーヒーサーバがあります。サーバ本体は無料にして、専用のコーヒー代金で利益を得ます。

価格設定の観点では、柔軟な料金プランの提示が重要になります。
 試用版の提供や一定期間無料体験などを提供することで、「ともかく使ってみる」環境を提供する場合もあります。期間が過ぎると、
 ・より機能が高いサービスにアップグレードする
 ・サービスをダウングレードして低価格あるいは無料にする
などのオプションで継続利用を提案します。
 ペネトレーション戦略や多段階価格設定の一つだともいえますが、フリーミアム戦略の手段でもあり、価格設定はかなり複雑になります。

Place:チャネル戦略

Placeは「場所」というよりも、
・市場細分化:ターゲットとする市場(顧客層、地域)
・チャネル:生産から顧客までの供給経路
と理解するのが適切です。

ロジスティクス
原材料調達から生産・販売に至るまでの物流チャネルのことです。しかし、ロジスティクスというとき、物流の諸機能を高度化し、調達・生産・販売・回収などの分野を統合して、需要と供給との適正化を図るとともに顧客満足度を向上させるためのマネジメントと捉えるのが一般的です。

流通チャネル戦略

製品を販売するには流通経路(チャネル)が必要です。チャネルには、チャネルの長さとチャネルの幅があります。

チャネルの長さは、メーカー→消費者(産地直送)(長さ1)、メーカー→小売業→消費者(長さ2)、メーカー→卸売業→小売業→消費者(長さ3)などまちまちです。
 小売業や卸売業などが存在することにより、取引が一括して行えるし、在庫の調整も円滑にできる利点があります。しかし、チャネルごとにマージンがかかるので、生産者価格と消費者価格の間に大きな違いが発生する欠点があります。
 一長一短がありますが、傾向としてチャネルの短縮化が進んでいます。インターネットの普及がそれを可能にしてきました。

チャネルの幅とは、チャネルの各段階で使う流通業者の数のことです。メーカーにとって、3つの代表的な政策があります。

複数チャネルとその統合

マルチチャネル
顧客に対して複数のチャネルを提供する戦略です。複数のチャネルには、実店舗、カタログ、テレビショッピング、Webサイトなどがあります。チャネルが多いほど、より多くの顧客接点ができるので、販売機会が増加します。
マルチチャネルは、クロスチャネルやオムニチャネルを含む総称のこともありますが、未だ各チャネルがばらばらに運営されている状態を指すこともあります。
クロスチャネル
クロスチャネルでは、複数のチャネルを在庫管理や顧客管理などのシステムを背後で連携させることで、各チャネル間のデータの違いなどが防げますし、全体の管理も容易になります。
顧客側からは、いくつかのチャネルを通して、多様な情報を入手できる利点があります。
オムニチャネル
オムニとは「すべての、あらゆる」の意味で、オムニチャネルとは顧客の接点を統合することで、クロスチャネルをさらに発展させたものです。顧客はそれぞれが独立したチャネルではなく、1つのブランドの複数の接点として捉えることができます。
店舗やEC(電子商取引)サイト、電子メール、ソーシャルメディアといったチャネル(顧客接点)をシームレスに統合し、どのチャネルでも顧客に最適な購買体験を提供して、顧客の利便性を高めます。

Promotion:販売促進戦略

顧客(企業も含む)に実際に商品を買ってもらうために、広告やセールス活動をすることです。

AIDMA

顧客の購買心理プロセスは、AIDMAの順序で推移するといわれています。各段階で適切な活動をする必要があります。
・Attention (注意、注目) その製品の存在を知り、
   (顧客の注意を引く紹介広告)
・Interest (関心) 興味をもち、
   (顧客に商品を訴求し関心を引く)
・Desire (欲求) 欲しいと思うようになり、
   (顧客に商品への欲求があり、それが満足をもたらすことを納得させる)
・Memory (記憶) Motive(動機)それが記憶され、キッカケを得ると、
   (店舗陳列やダイレクトショッピング)
・Action (行動) その製品を購入する。
   (顧客に行動を起こさせる店員活動)

AIDMA類似のモデル

プッシュ/プル戦略、アウトバウンド/インバウンドマーケティング

販促手段は、プッシュ戦略とプル戦略に区分されます。メディアを用いたマーケティングでは、ブッシュ型のアウトバウンドマーケティングとプル型のインバウンドマーケティングがあります。

近年は、インターネットやスマートフォンの普及により、消費者は製品購入前にWebサイトでの情報を検討しており、従来のDMなどは開封されないのが通常になってきました。このような購買行動の変化により、プッシュ戦略アウトバウンドマーケティングからプル戦略インバウンドマーケティングへの移行が進んでいます。


市場分析(マーケティング分析)

顧客の細分化には顧客のグループ分け、顧客の購買には商品やブランドのイメージ調査など、マーケテイング戦略には多様な調査・分析が必要です。実際、多くの分析手法が活用されています。これまでにも多変量解析のような統計的手法が適用されてきましたし、近年ではAIが活用されるようになってきました。
 ここでは、有名な分析手法のいくつかを紹介します。

顧客分析

どのような顧客層をターゲットにしたビジネスを展開するか、顧客満足を得るにはどのような顧客層にどのようなサービスをするかなど、顧客のグループ化(クラスタリング)とその特性把握をします。

デシル分析

デシルとは「10等分」の意味。顧客を購入金額で10等分して各グループの購入比率や売上構成比を求め、売上や利益への貢献層を見つけたり、各グループに応じたマーケティングをします。非常に単純ですが、適切なグループ分けになるとはいえません。

RFM分析

主に小売店での顧客グループ化の方法です。
 POSデータと会員カードなどを突き合わせることにとり、各顧客の
  ・Recency=最新購入日
  ・Frequency=購入頻度
  ・Monetary=累計購入金額
を求め、デシル分析のようなアプローチをします。

コホート分析

消費者動向を調べるのに、消費者を幾つかのグループに分けますが、コホートとは「同じ時期に近しい経験をしている人々のグループ」を指す言葉です。
 「団塊世代」「デジタル世代」など、同じ世代に属する人は同じような行動をするし、年齢を重ねても、時代が変化しTも、行動のベースになるものはあまり変化しないという傾向があります。また、ネット販売では、その人が初期段階でとった行動は、その後の同じような行動をする傾向があります。
 共通の行動や意識を示すことに注目した、消費者の行動を分析する手法です。

商品・ブランド分析

コレスポンデンス分析

主成分分析の応用手法です。例えば商品についてアンケートにより特性(価格、デザイン、ブランドなどのイメージ)を列挙してもらいます。その多数の特性を、似たもの集めにより2次元座標に散布図のように図示します。
 この分析により、重点となる特性を絞りこんだり、複数の他社商品の結果と比較して自社商品のアピール特性うを発見したりできます。

コンジョイント分析

購入者が重視する商品特性の組合せを分析する統計解析技法(多変量解析)です。
 新商品テレビを例にします。テレビの購入選択には、価格、サイズ、解像度、録画や3Dなどの機能、メーカーなどの多様な要素(属性)があります。
 コンジョイント分析では、これらの要素が購入意向や満足度にどの程度寄与しているかを調べるのに用います。
 多数の類似商品を列挙し、多数の消費者にアンケートして、買いたい順に番号を入れてもらいます。それを各種の分析技法を組み合わせて分析することにより、購買に敏感な属性を把握したり、複数の属性間の関係を把握したりできます。
 このように、個別属性の評価ではなく、商品全体の評価(全体効用値)により分析するのが特徴です。

PSM分析

Price Sensitivity Meter(価格感度メーター)の略語です。
 消費者にある商品(検討商品)を示して
  高いと感じる価格、安いと感じる価格、高すぎて買えないと思う価格、安すぎて買いたくない価格
を回答してもらい、
  上限価格、下限価格、妥協価格、最適価格
を知ろうとするものです。


その他のマーケティング戦略

サービスマーケティング

モノではなく無形のサービス提供を主とする企業のマーケティング戦略です。美容院、遊園地、旅行代理店などで重要となる戦略です。サービスマーケティングには次の特徴があります。

このような特徴のもとで、適切なマーケティングを検討するには、通常の4Pに加えて、次の3Pを加えた7Pが必要だといわれています。

ソーシャルマーケティング

「従来のマーケティングの発想を行政機関など非営利組織が取り込むこと」の意味もありますが、ここでは「社会公共志向マーケティング」のこととします。一般企業が、社会全体の利益や福祉向上を意識して活動するマーケティングです。
 従来からCSRなどが行われてきましたが、近年はSDGs(循環型社会)への取組みが重視されるようになり、営利企業といえどもこれにどのように取り組むべきかの戦略が求められれいます。それをマーケティング戦略として推進しようとするものです。

ソーシャルマーケティング戦略を設定し公開することにより、次のような効果が期待できます。

ソーシャルメディアマーケティング(SMM)

ソーシャルメディアネットワークとは「万人が参加できる双方向発信のメディア」ネットワークの総称です。参加者が情報の発信者、伝達者、受信者になることによってひろがる情報ネットワークです。ソーシャルネットワーク(SNS)と似た概念ですが、Facebook や Instagram のような「みなの好むコンテンツ」的なネットワークの広がりに注目しており、ソーシャルネットワークを含む広い概念だといえます。

ソーシャルメディアマーケティングとは、ソーシャルメディアネットワークを活用するマーケティング概念です。

インターネット普及期では、AIDMAに替わる購買行動プロセスモデルとして、電通が提唱したAISASがありました。
  Attention(注目)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(購買)→Share(情報共有)
ここでのポイントは Search(検索)でした。いかに自社が関与するサイトをGoogleやYahoo! などの検索ポータル検索ポータルの上位に表示させるか、ネット広告にアクセスさせるかが重要な戦略でした。

しかし近年では、Facebook や Instagram のような「口コミ」型のソーシャルメディアネットワークによる購入行動の比重が大きくなってきました。自分から探索するのではなく、自動的に大量に押し寄せる情報の中に話題になっている商品・サービスがあり、それに興味を持って購買行動に移るようになってきたのです。
 このような状況では、いかに自社製品や自社の評判(ブランディング)を「話題」として提供するかがマーケティングのポイントになってきます。

ソーシャルメディアガイドライン

ソーシャルメディアネットワーク(SNSも含む)の普及は、ビジネス機会の創出だけでなく、深刻なリスクの顕在化も伴います。
 誹謗・中傷、それに伴う炎上、フェイク記事の増大は大きな社会問題になっています。
 まして、企業が虚偽あるいは不適切な発信をすることは、コンプライアンスの観点から許されません。

総務省では2013年頃から「スマートフォン安心安全強化戦略」の一環として、主に学校を対象に、「ソーシャルメディアガイドライン」づくりを進めてきました。
 現在では、行政機関や企業でも独自のガイドラインを作成する組織が増加しています。


イノベーター理論

1962年にロジャース(Everett M. Rogers)が提唱した新製品や新サービスの市場浸透に関する理論です。商品購入の態度を購入の早い順に五つに分類しています。イノベーター理論は、プロダクト・ライフサイクルと合わせて、市場分析や需要分析に活用されます。

キャズム理論

キャズム克服の重要性

chasmとは溝のことです。アーリーアダプターを対象にした導入期で成功した製品が、アーリーマジョリティを対象にする成長期に移行する際に、多様な制約条件に対応できず、キャズムに落ちで消えていくことが多くあります。キャズム理論とは、キャズムを乗り越えるためのマーケティングアプローチを示した理論です。

イノベーターとアーリーアダプターの層での市場規模は市場全体のわずか16%です。この段階では市場に認められず消えてしまうこもしれません。それが、アーリーマジョリティが加われば50%になります。この段階になれば成熟期ですので「金の生る木」として、安定した利益を得ることが可能です。

イノベーターとアーリーアダプターを対象にした初期市場では「新しさ」に価値がありますが、そのそれに対して、アーリーマジョリティ以降の層は、商品に「安心感」を求めます。しかし、16%の規模では「安心感」をもたせるには不十分です。このギャップがキャズムの発生する原因なのです。

キャズム克服の方法

バスモデル(Bass Model)

F. M. Bassによって提案された新製品, 特に耐久消費財の普及過程を説明するモデルです。ここまでの手法はあくまでも経営戦略手法であり、必ずしも数学的・理論的な裏付けはあいまいです。それに対して、バスモデルは数学モデルで、理論の定式化による明確化が目的で、マーケティング・サイエンスの分野の理論です。実務の適用は実務者の応用に任されています。なお、バスモデルは需要予測手法の性格もあります。

Bassは、購入者を
 イノベータ:他からの影響を受けずに購入する層
 イミテータ:他からの影響を受けて購入する層
に分類しました(「イノベータ」はイノベーター理論でも使われていますが、意味が異なります)。

バスモデルは、次の微分方程式で定式化されます。
    dF(t)/dt = (M-F(t))×(p+q・F(t)/M)
        F(t):時刻tまでの販売数
        M:マーケットの大きさ(最大販売数、ライフサイクル全期間での販売量)
        p:革新係数、q:追従係数 イノベータ、イミテータになる確率
 簡単に説明します。
    時刻tから時刻t+dtまでの販売数
    =tにおける潜在購入者数
    ×(イノベータの購入割合+イミテータの購入割合)
  イノベータは、他から影響を受けないので、購入割合=革新係数×1
  イミテータは、これまでの販売量/最大販売数に比例して影響を受け購買すると仮定
      購入割合=追従係数×販売量/最大販売数

バスモデルでは、M、p、qの未知パラメータがあり、市場導入前に需要予測を行うには何らかの方法でこれらのパラメータを設定する必要がありますが、新製品投入後数期のデータがあれば、それによりパラメータ値を推定できます。

初期市場のマーケティング戦略

インフルエンサーマーケティング

インフルエンサーとは、社会的に影響力を持つ人物のことです。インフルエンサーマーケティングとは、インフルエンサーに依頼して、企業や商品、サービスの情報を拡散してもらうことによる認知度や興味・関心の向上を目的としたマーケティング手法です。
 これは明白にCMですが、閲覧者には著名人によるPRのようにみえます。

典型的なインフルエンサーマーケティングはブログやSNSを利用したものです。
 著名人に売上の一部を還元するなどの条件で、ブログやSNSに商品広告をPRのような表現で掲載してもらい、それによって、購読者を取り込もうとするものです。さらに多数の人に「いいね!」の書込みを依頼したり、複数の著名人とインフルエンサーマーケティング契約をしたりすれば、その効果は非常に高くなります。

インターネットによるCMに関しては、Webマーケティング、消費者を対象にした効果的なWebサイト構築に関しては、BtoCサイト運営での留意点で扱います。

リーンスタートアップ

コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間でつくり、顧客の反応を的確に取得して、顧客がより満足できる製品・サービスを短期間で開発していくマネジメント手法です。「低コスト」「短期間」がキーワードです。

ソフトウェア開発でのプロトタイピング型開発に似た考え方です。「構築→計測→学習→再構築」のサイクルを短期間でまわします。

ブランド戦略

ブランドは、商品、サービスの知名度向上やイメージの向上などに大きく影響します。

CM・PR戦略

企業や商品の知名度をあげる手段に、CM(コマーシャル、広告)とPR(パブリックリレーションズ)があります。
 広告は自社のWebサイトや自社のパンフレットを用いる場合もありますが、多くはインターネットやテレビなど掲載メディアに依頼します。ここでは後者に限定します。

広告では、掲載料金を支払って広告枠を購入し、企業側の意思による内容を掲載します。PRは、メディア側の意思で掲載するのですから、料金は発生しません。
 閲覧者は、PRのほうが第三者による評価だとして信頼性が高いと考えます。掲載メディアの信頼性が高ければなおさらです。

企業では、メディアにPRとして取り上げられるように、メディアが関心を持ちそうなことを知らせる努力が効果的です。また、週刊誌などでは、読者の関心を得るために、企業動向や新商品の調査をしています。そのなかには掲載謝礼が発生することもあり、閲覧者にとっては、CMとPRの区別があいまいなこともあります。

CM掲載メディアでは、従来はテレビと新聞が主力でしたが、かなり以前からWebでのCM広告料金規模が新聞を抜き、現在ではテレビと同程度になってきました。
 しかもWebでは、SNSなどでの口コミサイトが盛んであり、そこではCMとPRの区別が不明確な記事が多く掲載されています。

CI(コーポレート・アイデンティティ)

企業文化を構築し特性や独自性を統一されたイメージやデザイン、またわかりやすいメッセージで発信し社会と共有することで存在価値を高めていく企業戦略です。
 企業全体に関する経営戦略ですが、企業の好感度が消費行動に与える影響が大きいことから、マーケティング分野でのCI戦略が重視されています。

IMC(Integrated Marketing Communications)

実際とは異なる広告、不要で頻繁なダイレクトメールなどを体験することがありますが、IMCとは「企業が発信するCM、PR、ダイレクト・マーケティング、製品品質表示などあらゆるマーケティング・コミュニケーション活動を、消費者の視点で再構築し、戦略的に統合するべきだ」という指導概念です。CIやブランド戦略もIMCの一つと考えられます。