主張・講演情報システム部門の戦略部門化とアウトソーシング

情報システム部門は戦略部門として育成されていない

残念なことに,これまで情報システム部門は(想いは強かったかもしれませんが)戦略部門になるための訓練をしてきませんでした。


情報システム部門は戦略部門になりたいというが・・・

「情報サービス産業白書(1998年度版)」での調査では,3〜5年後の情報システム部門の任務として「システム化に関する社内調整戦略」と「情報活用戦略の立案」が1位・2位になっています。すなわち,情報システム部門は自らをIT業務を強化した戦略部門であるべきだとしています。

情報サービス産業白書(1998年度版)のグラフ

ところが,富士通の先進的企業の研究会であるLS研の会員調査『LS研情報化調査 IT白書(2003年度版)』では,情報システム部門の重要課題のトップが「情報システム化の企画・提案力の強化」になっています。

LS研(2003年)のグラフ
 2003年は1998年から5年後ですし先進的企業なのですから,既に以前の最重要課題は解決しているはずなのに,それが現在でも最大の課題として続いているのです。もっとも,情報システム部門は戦略部門であるべきだということは,1980年代中頃のSISブームで喧伝されましたが,企業でコンピュータが使われるようになった1960年代ですらそういわれていたのです。
 すなわち,情報システム部門は常に戦略部門になろうと(少なくとも口先だけでは)努力してきたのですが,いつになっても実現していないのだといえます。まさに,古くて新しい問題だといえます。
 では,実現できないでいる阻害要因は何でしょうか?

DP業務が戦略部門になるのを阻害する

従来の情報システム部門の主任務であったDP業務そのものが,情報システム部門を戦略企画立案といった業務につかせるのを困難にしています。

日常業務は戦略思考を駆逐する
一般的に情報システム部門は多忙な部門です。しかも,情報システムが広く利用されるようになり,経営環境の激変により情報システムの改訂が頻発していますので,それへの対応で硬直化しています。EUCの普及やインターネットの利用は,教育普及やセキュリティ対策など,従来にはなかった新しい業務を生み出しています。その間をぬって,急速に変化する新技術の習得もしなければなりません。それらを怠ると非難さらます。それに対して「戦略的な提案をしなかった」として叱られることはめったにないのです。それで,重要だとは思いつつも,経営戦略提案などは1日延ばしにされるのです。
リスク回避文化の強制
しかも,日常業務であるDP業務は,「99点,いや99.99点でも0点だ。常に100点で当たり前だ」を要求される業務です。トップや他部門もそれが当然だと思っていますから,日常業務でオペレーションやプログラムが原因のミスがあると大問題になります。情報システム部門は長年その恐怖のなかにいたので,少しでも不安な要素があれば避けたいという本能が育ちます。
 それに対して,経営戦略は本質的にリスキーです。企画した大部分は失敗が予想されるといってよいでしょう。情報システム部門のこれまでの文化は,ハイリターン・ハイリスクの業務には向かないのです。

トップや利用部門も冷淡だった

トップの情報システム部門観−タテマエとホンネ−」や「利用部門情報システム部門の戦略部門化を望んでいない」のように,トップや利用部門は情報システム部門を戦略部門として育成することには冷淡でした。

トップは,情報システムが重要だとはいいながら,実際に経営陣に情報システム部門経験者を取り込んでいませんし,CIOにも他部門からの役員をあてています。しかも,日常的に情報システム部門とのコミュニケーションを活発にする努力も不十分です。経営陣だけでなく,経営スタッフである企画部門への情報システムのわかる人材を配置していませんでした。すなわち,トップは情報システム部門を戦略部門にするための努力をしてこなかったのです。

情報システムを開発するときに,ユーザは情報システム部門から自部門の業務を変革したり組織を再編成するような戦略的提案を期待しません。それどころか,そのようなことは自分たちが考えることであり,情報システム部門は自分たちが考えたことを,迅速にシステム化するのが任務であると考えています
 また,基幹業務系システムの構築・運用や情報検索系システムの利用においても,情報システム部門への依存が多く,情報システム部門の負荷を高くしてしまい,間接的ですが,戦略的な分野で活動する余裕を奪っています(「ユーザの情報システム部門への過度依存症」参照)。

自己努力もしてこなかった

本来,情報システム部門は全社的な情報が集まり,それを分析するツールもあるのですから,自社がどのような状況にあり,そのようになっている原因の調査もできるはずです。また,情報システムの開発で他部門のニーズや状況について討議する機会を持っています。しかも,多くの部門と接触していますので,部門セクショナリズムな一面的ではない全社的に公平な判断ができる部門なのです(これに着眼して,私は情報システム部門は人材育成部門になるべきだと主張しています。それに関しては「情報システム部門を人材育成部門に」を参照してください)。

それにも関わらず,情報システム部門はその機会を活用してこなかったのです。というよりも,それを放棄してきたといってもよいのかもしれません。

データ処理で満足していた
販売システムで売上帳票を作成しても,データが正確に処理されていれば,営業部門に渡せば任務完了として満足していました。部下に「どの商品やどの部門に問題があるのか」どころか「全社の売上はいくらになったか」というような質問をする上司がいなかったのです。
ガバナンスを放棄した
情報技術の発展に伴い,エンドユーザ・コンピューティングが普及したと共に情報システム部門のアイデンティティは失われてきました(「情報システム部門のアウトソーシングは必然的だ」を参照してください)。そのなかで重要なのは,「経営情報委員会」の出現です。中長期計画での情報化の方針や予算での情報化案の採否といった情報化戦略に関する基本事項を,自部門の任務ではなく他部門の合議制にゆだねてしまったのです。
「ユーザ主導」の誤解
情報システムは活用されて価値が生じるのは当然であり,使うのはユーザですから,ユーザニーズを重視するのは当然ですが,それが行き過ぎて「ユーザの要求に従っていさえすればよい」という風潮になりました。それで情報システム部員は「御用聞きSE」になってしまったのです(「利用部門情報システム部門の戦略部門化を望んでいない」参照)。

情報システム部門が沈滞した原因は?

企業にコンピュータを導入した頃の情報システム部門はこうではありませんでした。コンピュータ導入をトップに説得するためには,あの手この手を使い(ときにはウソもいい),実際にシステム化をするにあたり各部門の協力を得るためには,バラ色の設計図で期待させたり,情報化に関心を持たないと時代に乗り遅れるぞと脅したり,さらにはトップの虎の威を借りたりしたものでした。「情報システムは経営戦略の武器」だというのは,1960年代に大企業にコンピュータが導入され始めた頃からいわれていたのです。当時の情報システム部門は企業内で最高の戦略部門であり,チェンジ・エージェンシーを自認していたのです。

それが,いつのまにかこのような状況になった原因は何でしょうか? 結論は歴代の情報システム部長が無責任であったというしかありません。私もその一人として自己批判といいわけを掲げますが,情報システム部門を戦略部門化するには,このようなことを解決しなければなりません。

環境変化に追いつくのがやっとだった
企業の成長も急速でした。情報技術の発達は急速でした。新しい業務を新しい技術で開発することに汲々として,本来の目的である経営にまで手が回りませんでした。当時はそう思っていたのですが,現在からみれば,経営環境の変化も情報技術の進歩もカタツムリのようなものだったのですね。おそらく現在の状況を後から振り返るとカメの速度なのでしょう。
保守による硬直化
情報システムは経営環境の変化により保守改訂をする必要がありますが,保守改訂にはシステムをよく知っているベテランでないとできません。システム化対象が増加するに伴い,保守改訂のために多くのベテラン部員がそれにはりついてしまい,情報システム部門が新しい分野に対応できなくなりました。また,これにより他部門とのローテーションができなくなり,情報システム部門が沈滞ムードになりました。
自信を失った
給与計算や会計処理のシステム化では,やることが明確ですから,しかるべき情報技術を習得すれば成功しました。また,そのようなシステムを開発する方法論も確立していました。ところが,企業競争に勝つための情報システムとなると,何をどのようにしてよいかわからなくなってしまったのです。当然,このようなことはトップすらわからないのですから,情報システム部門だけの責任ではないですが,従来のようなハッタリをいうことができなくなり,次第に狭い世界に閉じこもるようになりました。
マスコミの追い討ち
ダウンサイジングが進んだ1990年代当初では,情報関連雑誌の情報システム部門バッシングがはやりました。「ダウンサイジングにすればコストダウンになるしエンドユーザでも簡単にシステム化ができる。それなのに情報システム部門は,旧来依然とした汎用コンピュータにしがみついている反動派である。よろしく解体するべきである」という論調です。好意的にみれば「情報システム部門よ,戦略部門にならないと将来がないぞ」との忠告なのです。しかし,この頃からトップも他部門もこのような雑誌を読むようになりました。トップはダウンサイジングはわからなてもコストダウンはわかります。他部門は「これまで情報システム部門がモタモタしていたのは,それが原因だったのだ」と解釈します。これにより情報システム部門の威厳は地に落ちたのです。
その後
グループウェア,インターネット,ERPパッケージなどの出現は,情報システム部門の存在の重要性を低下させました(前出:「情報システム部門のアウトソーシングは必然的だ」)。
 このような状況になると,情報システム部員の覇気が低下します。上司が旗を振っても部下に往年のチェンジ・エージェンシーを期待することができなくなります。

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