主張・講演情報システム部門の戦略部門化とアウトソーシング

トップの情報システム部門観
−タテマエとホンネ−

タテマエではトップは情報システム部門を戦略部門である(になってほしい)といっているのですが,ホンネではさほど重視していないのではないでしょうか。また,本当に情報システム部門を戦略部門にしたいと思っているのであれば,情報システム部門の取り扱い方法を間違っているように思われます。トップには,これが矛盾であるかどうか再確認してほしいし,情報システム部門には,タテマエとホンネを見極めてほしいのです。

なお,最近は状況が大きく変化していると指摘されますが,それは一部の先進企業に限られた現象だと思われます。問題を明確にするために,あえて1990年代のデータを中心にします。


トップは情報が重要だといっている

富士通総研(1994)が日米のトップにアンケートしたところ,ほとんどのトップは情報は第4の経営資源だと思っているし,半数以上が情報システム部門は戦略部門だと認識しているとの結果でした。また日経コンピュータ(1996年10月)によれば,トップの過半数が情報システムの重要度は(他の戦略−おそらく営業戦略や財務戦略でしょうね−)以上に)きわめて重要だといっています。このように,情報に関するトップの認識は以前から高かったし,現在では,もっと高い数字になっているでしょう。

情報の重要性のグラフ

しかし,トップが情報化に具体的にどの程度関与しているかとなると,かなり怪しくなります。下のグラフは,それについてのアンケート結果です。

  1. 経営トップがITを単なる「合理化や省力化ツール」ではなく,経営改革・事業改革における「付加価値創造」の源泉・ツールと位置づけている。
  2. 経営トップが「ITを活用して具体的に何をやりたいか」を明確に意思表示している(経営とITを結びつけた具体的指示)。
  3. 経営会議などの経営トップレベルの会議で全社のIT戦略を十分討議している。
  4. ERPの全社導入などリスクの高いプロジェクトについては,経営トップがステアリングコミッティの長となり,進捗状況の報告を定期的に受けている。

「ITは経営改革の価値創造ツール」というような抽象的な認識度は高いのですが,「明確な意思表示」をしたり「経営会議などで十分な討議」をしているかとなると,Yes/Noが同程度になり,「ステアリングコミッティの長」としての具体的な関与となると,否定的なほうが高くなっています。

トップの情報への理解度

トップの情報システムへの満足度

次のグラフは,トップが自社の情報システムに対する満足度です(Cでは情報化投資への満足度であり,原データを加工しています)。年代とともに満足度が改善されていることがわかります。

[A]の時期では,他の戦略よりも重要な情報システムに不満が多いことが問題です。既にCIOが設置されてから長いのですから,これは役員であるCIO自身の責任です。CIOの指導能力が欠如していたのです。

これが[B]になると急速に改善されています。では,1996年秋から1998年末にかけて,全企業的に情報システムが急激に再構築されたのでしょうか? 当時の一般企業が採用していた方法論では,基幹業務系システムの大幅な再構築には数年かかりました。この期間の前半は,バブル崩壊で情報化投資が抑制されていた後遺症で,たいした改善はできなかったはずです。また後半は西暦2000年問題が大騒ぎされていた頃ですから,その前に大規模な改訂が行われたとは思えません。
 西暦2000年問題の解決とともに従来の情報システムが整理されました。それを機会にERPパッケージの導入も盛んでした。[C]の時点は,それらの収穫の時点です。ですから,[B]と[C]の間で満足度が急速に改善されるはずですが,[A]〜[B]と比較すると,その改善度はあまり高くありません。

[A]→[B]の間に大きく変化したのはグループウェアとインターネットの普及です。それまではトップはコンピュータに触れる機会がなかったのに,この時期になると自分で使うようになったのです。また,この期間はトップに報告されるレポートが急速に数表からグラフに変化した時代でもあります。おそらくそれがトップの満足度をあげたのでしょう。
 それに対して,[B]→[C]では基幹業務系システムの成果が中心になります。大掛かりな投資をしたわりには収益向上に反映しなかった(これもCIOの責任)こともありましょうが,このような活用は,トップには実感できないのでしょう。
 そう考えると,トップは基幹業務系システムには関心を持たず,自分の身の回りに起こった電子メールやレポートの体裁などのほうに関心を持っているのだということになります。

景気と情報化投資

情報化投資が経済に与える影響が大きいことを説明するのに,1990年前後での米国と日本の情報化投資の比較がよく用いられます。米国では積極的な情報化投資により1990年代を通して経済発展をしたのに,日本では情報化に遅れたために,その後の経済復旧も遅れたのだと指摘され,「失われた10年」などといわれています。ここでは,視点を変えて,当時の日本での情報化投資の特徴を考えます。

日本経済は1988年から深刻な不況に入りました。この図の情報化投資とは設備投資に占める情報化投資の比率ですが,一般の投資に比べて急激であること,増減が他の投資に先行することがわかります。トップは景気が悪くなると,販売や生産よりも情報への投資をカットしたのです。また,先行して増加に転じるのは,情報技術の発展が急速なので,将来に希望がでてきたら遅れをとっていた情報に投資するというのでしょう。たまたまこの頃はダウンサイジングやグループウェアが普及してきたときでした。この急速な投資はそれが原因であると思われます。

トップは「苦しいときには情報なんかにかまっていられない」と思っているのです。情報が他の戦略よりも重要だという意見とは矛盾した行動です。

トップと情報システム部門の関係

どうもトップは情報システム部門とは付き合いたくないようです。

情報システム部門出身の役員は少ない

もしトップが情報が重要だというのであれば,経営陣にそれがわかる人を加えるべきでしょう。ところが,「日経情報ストラテジー」1999年1月号によれば,上場企業ですら役員のなかに情報システム部門経験者が皆無である企業が3分の2もあるのです。営業部門経験者,経理部門経験者が役員に一人もいない企業を想像できますか? 同様に,CIOの職制を設けている企業は多いのですが,情報システム部門を経験した人は少ないのです(CIOに関しては別章「CIO」を参照)。財務諸表も読めない財務担当役員が想像できますか? すなわち,トップは経営をするには情報技術は不要であり,少なくとも情報システム部門が行っているような業務の知識は不要だと思っているのです。

これに関しては「情報分野が歴史が浅い」ことを理由にする人もいますが,上場企業では,現在の役員が新入社員の頃にはコンピュータが入っていたでしょうし,「情報関係の人数が少ない」との意見には,情報システム部門を経験した人数は営業部門はともかく経理部門や人事部門より多いのではないでしょうか。ですから情報関係は歴史が浅いとか特殊だからということを理由にするのは無理があります。

トップと情報システム部門のコミュニケーション

一歩譲って,トップとしては情報技術を理解すればよいので,情報システム部門に在籍する必要はないとしましょう。それでは,どのようにして理解するのでしょうか? 一般に日本のトップはあまり情報システム部門に顔を出しません。それどころか別会社にしている企業もあります。それに対して販売部や経理部には,特別な用事がなくてもトップがよくきますね。

「トップと情報システム部門の間のコミュニケーションがない」「情報システム部門は経営状況を把握していない」といわれ,それが情報システム部門の落度のようにもいわれます。しかし,情報システム部門がトップに面談を申し込むのと,トップが情報システム部門を訪問したり呼びつけるのと,どっちが簡単でしょうか? トップはこのような問題を解決しようと努力はしていないのです。その理由は・・・「情報などにかまってはいられない」からです。

なぜ情報システム部門の戦略部門化が必要なのか

経営戦略と情報技術の統合が重視され,情報システム部門は「経営情報企画部」のような戦略部門になるべきだといわれていますし,多くの企業でそうしています。

これは,裏返しにいえば,本来それを行うべきCIOをはじめとする経営陣や企画部門に,それができる人がいないということです。なぜいないのでしょうか? 「いままで重視してこなかった」というのは詭弁です。役員選出は少なくとも1年に1回の機会がありますし,企画部門への人事異動はさらに機会があるでしょう。それをしないのは,役員や企画部門には情報技術者を加えたくないからだと考えるのが妥当でしょう。

そうなると,名称は戦略部門になりましたが,本当に「経営」や「企画」に関与する戦略的な部門として活用しようとしているのか,活用できるのかが心配になります。


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