主張・講演情報システム部門の戦略部門化とアウトソーシング

情報システム部門の分社化とアウトソーシング


アウトソーシングの変遷

プログラマやオペレータなどの情報システム部門の一部業務を外部に委託することは,1960年代でも一般的なことでした。しかしここではそのような形態は無視して,情報システム部門業務の大部分を外部に委託することに限定します。この形態のアウトソーシングも,かなり以前から行われていましたが,1990年以前と以降では大きな違いが見られます。

 年代特徴
第1次1970年代システム要員の確保
第2次1980年代多角化志向,砂糖とアリ?
第3次1990年代戦略的アウトソーシング
第4次?2000年代リストラ目的?

注:アウトソーシングの統計について
 「アウトソーシングをしているか?」というようなアンケート調査は多く行われていますが,回答者により「アウトソーシング」の意味が異なりますので,結果の解釈には注意が必要です。
 ある回答者は,自社の情報システム部門のDP業務全体を廃止して他社に委託することを指しており,ある回答者はシステム開発やオペレーションに外部要員を用いていることもアウトソーシングとしていることもあるからです。

第0次(以前,中小企業は現在も)
中小企業では,自社に情報システム部門を組織するのは無理ですし,一部の業務に大型コンピュータを設置するのは経済的に無理があります。このような場合には,アウトソーシングが行われます。いわば規模の経済性によるアウトソーシングといえましょう。
第1次(1970年代)自社向け情報子会社
主に銀行で情報子会社を設立する動きがありました。銀行オンラインなど大規模システムの開発が行うために多数の要員を確保する必要がありましたが,従来の就労管理等による制約で自社行員として採用するのは不適切でした。また,銀行業務に対する規制により,他社に対して情報業務サービスを行う分野に進出できない事情もありました。それで,情報子会社を設立して,そこに銀行業務を行わせるようにしたのです。銀行以外の大企業でも同様な理由により情報部門の子会社化が行われました。業務拡大に伴う要員確保と社内事情による子会社へのアウトソーシングです。
第2次(1980年代)外部進出情報子会社
低成長経済に入り製造業の本業は不振になりました。そのなかにあって情報分野は成長していましたので,その分野に進出するために情報システム部門を子会社化する風潮が進みました。
 その子会社は外部進出に成功して発展したものもありますが,その多くは親企業およびその関連企業や取引先の業務を受ける企業も多くありました。子会社化により,統計的には製造業から情報産業へのシフトが進んだように見えますが,大局的に見ると,アウトソーシングをしたというよりも,それまでグループ外に外注していた業務をインソーシングしたともいえます。

情報子会社の問題点

景気の低迷により,安易な計画で分離した情報子会社は,問題点が多く指摘されるようになりました。

情報子会社の取り扱い計画

このような理由により,情報子会社の親会社への吸収,情報子会社の売却なども行われるようになりました。
 右のグラフは,「情報子会社の取り扱い計画」に関するJUAS(情報システム・ユーザ協会)による2003年の調査です。

  1. 親会社機構から情報子会社へ業務を移管する
  2. 現状維持
  3. 情報子会社を本社機構へ業務を吸収する
  4. 情報子会社を縮小し,アウトソーシングする
  5. その他

第3次(1990年代以降のアウトソーシング)

第2次までのアウトソーシングは,子会社を設立してそこに業務を出すことが多いので,厳密な意味ではアウトソーシングとはいえないかもしれません。それに対して1990年代のアウトソーシングはかなり異なります。

戦略的アウトソーシング
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の概念の普及により,自社の経営資源をコア・コンピタンスに傾注するために,そうではない分野での外部経営資源の内部取込みを図るものであり,このようなアウトソーシングを戦略的アウトソーシングといいます。
DP部門からIT部門へ
1980年代後半から,情報技術は経営戦略の武器であるというSIS(戦略的情報システム)の概念が普及しました。従来の情報システム部門は,情報システムを開発したりコンピュータの運用をするといった業務が主要な業務でした。これをDP(データ・プロセシング)業務といい,経営戦略と情報技術を統合するような戦略的な業務をIT業務といいますが,SISの普及により,情報システム部門はIT部門に変貌することが期待され,「経営情報企画部」などに改組した企業も多くなりました。しかし,情報システム部門をIT業務にするには,DP業務が邪魔になります。それを受ける環境も整備されてきました。それでこのような業務をアウトソーシングすることが進行しています。
リストラ目的のアウトソーシング
経営収支の悪化による人員整理すなわちリストラが日常化してきました。それを目的としたアウトソーシングも多く見られるようになりました。

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