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無線LAN

学習のポイント

家庭やオフィス内での無線LANの仕組み、プロトコル(方式)、セキュリティについて学習します。なお、携帯電話などのモバイル環境での無線通信に関しては、「無線通信」で取り扱います。

キーワード

無線LAN、無線LANルータ、親機、子機、アクセスポイント、アドホックモード、インフラストラクチャモード、SSID、ESSID、ゲストSSID、周波数帯、ゾーン、チャネル、2.4GHz帯、5GHz帯、電波干渉、通過性、チャネルボンディング、MIMO、CSMA/CA、周波数ホッピング方式、ハンドオーバー、IEEE802.11、WiMAX、Wi-Fi、ホットスポット、モバイルWi-Fi、テザリング、テザリング、Bluetooth、NFC、IrDA、ワイヤレス給電


無線LAN

無線LANとは、無線により構内通信網を構成する技術です。自宅やオフィスでパソコンや携帯電話など(無線端末)を無線LANサーバ(アクセスポイント)と無線で接続してLANを構成して、端末同士で通信したり、端末から無線LANサーバを介してインターネットに接続したりします。
 ケーブル配線が不要になるので、すっきりするだけでなく、端末の置き場所を変えたり移動したりできるので、小規模屋内LANは無線LANにするのが一般的になってきました。

Wi-Fi
Wi-Fi(wireless fidelity)とは、Wi-Fi Allianceによって認定された、無線LAN(無線機器間の相互接続性)の規格群(IEEE 802.11)および規格準拠を認証された製品のことです。現在では、ほとんどの無線接続がWi-Fi規格に準拠しています。それで、一般に無線LANのことをWi-Fiということが多くなりました。
WiMAX
無線端末から直接に無線基地局へ接続する規約・機能です。LTEなどのようにモバイル環境でも利用されますが、そもそもは固定端末から無線基地局に接続してインターネットを利用することを目的としていました。
3G、LTE
これらは、モバイル環境で携帯電話やパソコンから無線基地局を介して、電話やインターネットを利用するときの規約です。これに関しては「無線通信」で扱います。
セキュリティ
無線は電波が四方に広がりますので、有線環境とは異なるセキュリティ対策が必要になります。これに関しては「無線セキュリティ」で扱います。

無線LANの仕組み

親機と子機の構成

無線LANでは、パソコン側の無線子機と無線LANルータ(無線親機、アクセスポイントともいう)の間を無線で接続します。
 子機はUSBでパソコンと接続しますが、ノートパソコン、タブレット、携帯電話(スマートフォン)などでは内蔵されているのが通常です。
 無線LANルータも同様に、アンテナが外から見えるものと、ルータに内蔵されているタイプがあります。アンテナ本数が少ないものは内蔵タイプが多いようです。
 通常の無線LANルータは、ケーブル接続のルータ機能やインターネット接続機能なども持っています。

図では、アンテナがルータに一体化していますが、ルータから延長ケーブルで他の場所に設置することもできます。
 また、複数の無線LANルータと無線子機の間に無線LAN中継器を設置して、無線到達距離を伸ばすこともできます。
 このように無線LANルータから離れて電波を受ける機能だけに限定してアクセスポイントというこもあります。この場合、アクセスポイントは、リピートハブあるいはブリッジの機能になります。

無線LANの形態

子機・親機の接続

無線環境では、第三者の子機から社内の親機と接続することが容易です。それに関しては無線環境でのセキュリティ対策を参照してください。

SSID
無線LANでは、他の無線との混線を避けるため、不正なアクセスを防ぐため、無線LANルータとパソコンの間のネットワークに名前をつけ、それが一致しないパソコンとは通信しない仕組みがあります。その名前(識別名、最大32文字までの英数字)や仕組みをSSID(Service Set IDentifier)といいます。IEEE 802.11で規定されています。
無線LANルータにはメーカーが設定したSSIDがありますが、設置時に利用者が変更できます。
パソコンから無線LANルータに接続しようとすると、受信している電波のSSIDが表示されます。通常は最寄りのSSIDがデフォルトで選択されます。
ESSID
ESSID(Extended SSID)とは、SSIDを複数の無線LANが存在するESS環境でも使えるよう拡張したものです。
無線LANでは、パソコンを他の場所に移動しても接続できる長所があります。同一アクセスポイントの電波が届く範囲(BSS環境)ならば自由に移動できます。他のアクセスポイントの場所(ESS環境)に移動するするときには、自動的に接続を切り替える処理(ハンドオーバー、ローミングともいう)が必要です。同じESSIDをもつアクセスポイント間でないとハンドオーバーできません。
WPS(Wi-Fi Protected Setup)
SSIDや暗号化キーなどの設定を容易にする機能の標準規格です。事前に親機(無線ルータ)に設定してあるこれらの項目を、簡易な操作(ボタン操作あるいはPIN入力操作)で子機(端末)に転送して自動的に設定できます。
ゲストSSID
来訪者が持参の端末からインターネットに接続するときのSSIDです。識別名を教えたり社内の無線LANに接続されたりするのは困ります。それを解決するために、正規のものとは別の臨時のSSID、パスワードを設定する機能をゲストSSID機能、ゲストポート機能といいます。その機能をもつ無線LANルータならば、簡単な操作で設定できます。
MACアドレス
SSID/ESSIDにより接続すると、アクセスポイントはパソコンのMACアドレスを取得してパソコンを特定します。それにより同一アクセスポイントに接続されているパソコン間での混線が防げます。

無線と周波数

周波数帯

  • 無線局免許は不要
    無線による発信をする設備を無線局といい、無線局を開設・運営するには、原則として無線法による免許が必要ですし、使える周波数帯が定められています。
    しかし、無線LANに使用される電波は弱く、実質の有効距離は屋内で50m、屋外で100m程度です。しかも、周波数帯が厳格に規格化されています。そのため、無線LANでの利用のほとんどは無線局免許は不要です。
  • 周波数割り当て
    無線通信では、親機と子機が同じ周波数で通信します。いくつもの通信機器が同じ周波数帯(Frequency band、バンドともいう)を用いたら混信してしまいます。そのため、無線LANは2.4GHz/5GHz帯、地デジは470MHz~770MHzというように用途により細かく規定されています。
  • チャネル
    無線LANでは、割り付けられた周波数帯(例えば2.4GHz帯)を5MHz間隔のチャネル(ch)と呼ぶ周波数帯に分割します。そして、アクセスポイントが近傍に複数あるときは。電波干渉を防ぐために、アクセスポイントごとに異なるチャネルを使用するように設定します。

無線LANの特性(2.4GHz帯と5GHz帯の違い)

無線LANでは、以前から2.4GHz帯が使用されてきましたが、利用の増加により 5GHz帯も使用するようになりました。現在では、両方の帯域をサポートする機器が普及してきました。。
 親機である無線ルータは、2.4GHzと5GHzを同時に発信できますが、パソコンなどの子機は、両方の帯域をサポートしていても、同時には一方の帯域にしか接続できません(SSIDの選択)。
 両者の違いを列挙します。

  • 伝送速度
    2.4GHz帯は、IEEE 802.11b/g/の規格で、高速のgでも600Mbpsですが、5GHz帯のIEEE 802.11acでは5Gbpsの高速です。しかし、これらの値はベストエフォート(理想的)値であり、実環境ではかなり低い値になります。
  • チャネル数
    2.4GHz:13チャネルがありますが、チャネル幅が狭く(5MHz)、チャネル間で重なるので、ひとつのチャネルを中心周波数として選び、左右のチャネルも使います。そのため、同一地域で同時に使えるチャネルはかなり少なくなります。
    5GHz:19チャネルあり、チャネル幅が広く(20MHz)、チャネル間の重なりもありません
  • 電波干渉
    電波干渉とは、他機器との周波数が重なることによるノイズの発生です。接続できない、通信速度が遅いなどの現象になります。
    2.4GHz帯は、電子レンジ、コードレス電話、無線のマウス・キーボード、Bluetoothなど多くの家電機器・情報機器でも使用されるので、電波干渉が起きやすくなります。
    5GHz帯は、無線LAN以外ではほとんど使用されない帯域なので、電波干渉が起きにくく安定した通信が可能です。
      IEEE802.11の周波数帯
           2.4GHz 5GHz
        11b  ○
        11g  ○
        11a      ○
        11n  ○   ○
        11ac      ○
        11ax  ○   ○
  • 通過性
    電波は壁や床などの障害物があると減衰します。障害物を通り抜ける性質を通過性といいます。周波数が高くなると通過性が弱くなります。そのため、パソコンとアクセスポイントの位置が、遠く離れた部屋に設置されていたり、コンクリートの壁や床があったりするときは、2.4GHz帯のほうが適しています。

無線LANの高速化

  • チャネルボンディング
    複数の通信チャネルをまとめて一つの通信に使用することで通信の高速化を図る技術のことです。 チャネルを複数使用すれば帯域幅が広がるので、より多くのデータを一度に送信でき、通信を高速化できます。
  • MIMO(multiple-input and multiple-output)
    複数アンテナを利用して高速化する技術です。無線LANルータの仕様に4×4とある場合、4ストリームといい、送信アンテナ数が4本、受信アンテナ数が4本搭載されていることを示しています。これらのアンテナは異なる周波数で受発信するので、4台のパソコンを同時に使っても衝突が起こることがありません。それ以上のパソコンを接続すると、1つのストリームに複数のパソコンからのパケットが相乗りするので、実効速度が低下することがあります。

CSMA/CA

CSMA/CA(CSMA Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス/衝突回避方式)は、IEEE802.11のプロトコルで、有線LANのイーサーネットでの、CSMA/CDに相当する衝突に関する制御方式です。

無線送信をすることは、送信する周波数を伝送中占有することになります。通常は占有する順序は早い者勝ちで、DCF(Distributed Coordination Function)といいます。次のルールで衝突を回避します。

  • 送信する周波数と同じ電波が流れていなければ送信できるのですが、確認のためにDIPS(DCF Inter Frame Space)という時間だけ待ちます。
    これが必要なのは、処理性能が遅く、すぐにフレーム送信できない機器では送信準備期間が必要だからです。
  • さらに、ランダムバックオフというランダムな時間を待機します。他の利用者との公平を保つためです。
  • DIPS+ランダムバックオフの後で再度検出をします。検出されなければ、送信できます。
    検出したら、最初からやり直します。

受信側(アクセスポイント)からは交信可能だとの確認フレーム(Ack)を返送します。このときは、DIPSよりも短いSIFS(Short Inter Frame Space)だけ待ち、ランダムバックオフなして送信します。これにより、Ackは他のフレームより優先して送信されます。

(注)無線LAN以外の無線通信機器にはCSMA/CA機能をもっていません。Bluetoothや電子レンジなどが同じ周波数帯を使っていると、勝手に送信するので、無線LANだけが(不当に?)待たされてしまいます。

CSMA/CA with RTS/CTS

無線LANでは、電波を通しにくい遮蔽物があると、端末があるのに信号が流れていないと判断して通信しようとして衝突することがあります。これを「隠れ端末問題」といいます。それを回避するのがRTS/CTS方式です。
 データ送信が同時に発生しないように、端末からアクセスポイントに送信許可を求めることをRTS(Request To Send)、アクセスポイントからの送信許可をCTS(Clear to Send)といいます。これを行うことにより、隠れ端末があっても、その間は待つことにより衝突を回避します。

衝突以外の制御方式

周波数ホッピング方式

周波数選択の方式です。極めて短かい時間(0.1秒程度が多い)ごとに周波数を変更することにより、ノイズの少ない周波数を選択したり、ノイズが発生時に他の周波数で通信したデータによって訂正できる方式です。
 耐障害性が高く、通信の秘匿性も優れているが、伝送速度の面では劣ります。多対多の大規模通信に適しています。

ハンドオーバー

同じアクセスポイントの領域なら、パソコンを自由に移動できます。
 異なるアクセスポイント領域に移動するときをハンドオーバーといいます。SSIDが同じならば、自動的にチャネルが変更され、利用者が意識することなく、作業を続けることができます。
 異なるSSIDのアクセスポイント領域に移動するときは、新しいSSIDに切り替える必要があります。パソコンに利用できるSSID群が表示されるので、それから該当するSSIDを選択します。これを自動的に行う機能もあります。


無線LANの規格

標準規格 IEEE 802.11

IEEE 802.11は、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、米国電気電子技術者協会)が策定した無線LAN関連の規格で、多くの無線機器はこれに準拠しています。

 周波数帯最大伝送速度
IEEE 802.11b2.4~2.5GHz11Mbps
IEEE 802.11g2.4~2.5GHz54Mbps
IEEE 802.11n2.4~2.5GHz600Mbps
IEEE 802.11ac5GHz5Gbps
  • IEEE 802.11b
    1997年に策定された規格。現在ではほとんと使われていません。
  • IEEE 802.11g
    IEEE 802.11bと同一周波数を用い、上位互換性を保ちつつ、高速化を実現した規格。
  • IEEE 802.11n
    2009年に策定され、2.4/5GHzの2つの周波数帯を使用でき、MIMO技術などにより最大600Mbpsの伝送速度を実現
    ・MIMO(Multiple Input Multiple Output)複数のアンテナを同時に使用して1つのデータストリームを分割、多重化して同時に送受信することで単位時間あたりのデータ送受信量を増加させる技術
  • IEEE 802.11ac
    2014年に規格化され、現在の主流になってきました。nの方式を引き継ぎながら理論的には最大で6.9Gbps。
  • 将来規格
    11ad、11ay、IEEE 802.15.3eなどが検討されています。30GHz〜300GHzのミリ波帯を使い、100Gbpsもの高速になるといわれています。

WiMAX(World Interoperability for Microwave Access)

WiMAXは、異なる機器間での相互接続性確保を目的とした業界団体の名称ですが、そこで策定された無線通信規格(IEEE 802.16に準拠)もWiMAXといい、その認証を得た通信機器をWiMAX準拠といいます。WiMAX準拠の機器間では通信できることが保証されます。
 WiMAXは、高速ブロードバンドの末端部分の規格として主にデータ通信に利用されます。当初は家庭やオフィスでの固定中距離通信を対象にしていました。ADSLやFTTHのような工事は不要で、WiMAXだけでインターネットを利用できることが注目されました。
 その後、広帯域の無線データ通信サービスとして、モバイル環境での利用も普及しました。それをモバイルWiMAXといいます。

Wi-Fi(Wireless Fidelity)

家庭内や職場内で、無線LANが普及してきましたが、Wi-Fiはその代表的な規格です。
 WiMAXやLTEが長距離の基地局と通信する通信規格なのに対して、Wi-Fiは数m~数十mの距離にある無線LANのルータとの接続規格です。
 無線通信の国際標準規格にIEEE 802.11規格があります。Wi-Fiとは、無線を利用する機器がIEEE 802.11規格に準拠しており相互接続ができることを、業界団体Wi-Fi Allianceが認めたことを示す名称です。Wi-Fi認証機器間では標準化された通信方式ができます。その通信方式がWi-Fiですが、近年はほとんどの機器がこの方式になっているので、無線LANの同義語とされることが多いです。

ホットスポットとモバイルWi-Fi
Wi-Fiによる標準化が進んできたため、街中にWi-Fi対応の無線LANルータ(アクセスポイント)を設置することにより、その付近からモバイル機器をインターネットに接続できます。すなわち、家庭やオフィスでの無線LANを公衆化したものです。その接続ができる場所のことを、ホットスポットといいます。
 ・インターネットプロバイダなどの商業目的で街中に設置したもの
  自治体などが住民や観光客の便宜のために設置することも多い
 ・公共施設、駅や空港、ホテル、飲食店、コンビニなどが、利用者向けに公開したもの
  近年は、電車や航空機など高速移動体内でも利用できるようになってきた
 このような環境でWi-Fiを利用することをモバイルWi-Fiといいます。

このようにどこでもインターネットが利用できるのは便利なことですが、多くのホットスポットはセキュリティ対策が不十分な状況です。

  • SSIDステレス化がされていないので、正規の利用者以外に端末からホットスポットに侵入されやすい。
  • プライバシセパレータ機能を付けていないので、同一ホットスポットに接続している子機同士での通信ができてしまいます。それで、通信内容や端末内容を知られたり、ウイルスを送り込まれたりすることがあります。
テザリング(tethering)
ホットスポット以外のモバイル環境で、モバイル端末機能のないパソコンなどからインターネットを利用したいときに役立つ機能です。
パソコンとスマートフォンなどのモバイル端末をUSBケーブルや無線LANで接続し、スマートフォンをモバイルルータのように利用してインターネットに接続します。

その他の無線通信

Bluetooth
数m程度の短距離では数百kbpsの低速な無線通信技術。パソコンとマウスやイヤホンなどの周辺機器、家電機器などとの通信に利用されます。
Bluetooth搭載端末同士が通信できるエリアをピコネットといい、ピコネットには必ず1つのマスタ端末(パソコンなどが親機に相当)が存在し、7個以下のスレーブ端末(周辺機器などが子機に相当)との間で1対nの通信を行います。
Bluetoothでは、ピコネットに存在するスレーブ端末を自動認識して通信できるのが特徴です。
2.4GHZ帯を79個の周波数チャネルに分け、システムとの干渉の影響を抑えるために、周波数チャネルをランダムに切替えて通信を行う周波数ホッピング方式を採用しています。マスタ端末とスレーブ端末間の通信は同一周波数で時間をスロットに分けて切り替えます。
BLEビーコン
BLEビーコンは比較的短距離のWSNを支える通信技術です。
 BLE(Bluetooth Low Energy)とは、消費電力を極度に小さくした(乾電池程度の電力で100日~1年間稼動)、比較的転送可能距離が長く(10m~数百m)、BLE対応端末だけでなく従来のBluetooth対応機器にも接続できます。スマートフォンやIoT機器、ウェラブル機器などに用いられます。
 Beaconとは、無線局などから発信される無線信号を、移動体に搭載された機器に送受信して、位置情報などを把握する仕組みの総称です。
 例えば、Beacon端末を特定の場所に設置することで、近くを通る人のスマートフォンアプリに対してプッシュ通知をするとか、高速道路などに設置したBeaconから渋滞や交通規制などの情報をカーナビゲーションなどの車載器に送信するなどで利用されています。
ZigBee
転送可能距離が短く(30cm程度)、転送速度も非常に低速(20Kbps-250kbps)である代わりに、安価で消費電力が少ない(乾電池程度の電力で100日~数年間稼動)という特徴を持ち、超小型機器の実装に向いています。
無線ICタグ
RFID(Radio Frequency Identification)といいます。SuicaなどのICカードや商品ICタグなどの無線ICタグが広く普及しています。ICタグが子機に相当し、その情報を読み書きするリーダ/ライタが親機に相当します。
ICタグが使用する周波数帯はISO/IECで割り当てられています。
・長波(135kHz以下):超短距離用(最大 約30cm)。水や金属の影響を受けにくく生産現場や回転すしなどで利用
・短波(13.56MHz):短距離用(最大 約60cm)Suicaなどの非接触ICカードに利用
・マイクロ波(2.45GHz):中距離用(最大 約1.5m)商品タグやコンテナ管理などで利用
・UHF(95.2-95.4MHz):長距離用(最大 約4m)ロケーション管理など物流分野で利用
参照:(用途からの説明)RFID
LPWA(Low Power Wide Area)
LPWAの特徴は、次の三つです。
 ・省電力:ボタン電池で数年間動作
 ・長距離通信:数十kmの通信が可能
 ・低速度通信:100kbps程度(Wi-Fiは1Gbps程度)
IoTではセンサからのデータ伝送が主になります。そのデータ量が温度や水位など数個のデータですから、伝送速度はあまり制約にはなりません。遠隔地で監視・制御が可能で電池交換が少ないのはIoTやM2M(機械間通信)での利用に適しています。
LPWA規格は、無線免許を要するもの、不要なものがあり、多様な種類があります。
         短距離    長距離
  消費電力大  無線LAN  LTE、5G
      小  Bluetooth   LPWA
NFC(Near Field Communication)
通信距離が数cm~20cm程度に限定された近距離通信です。
非接触型ICカードの技術を応用したもので、交通系の改札でのSuicaのようなICカード、スマートフォンをかざすだけでの操作などに使われています。
IrDA(Infrared Data Association)
赤外線を使った無線通信規格です。 通信可能範囲は30cm~2m程度。最大データ転送速度が115.5kbpsのものと4Mbpsのものがあります。
赤外線は可視光線に近い周波数帯ですから、通常の電波の影響を受けません。また、見えない間では通信できないことがあります。通信方向に指向性があるので,接続対象の機器同士を向い合せて通信を行ないます。
家電機器を制御するリモコンのほとんどはIrDAが用いられています。その他、デジタル・カメラやスマートフォンなどをパソコンと接続するのにも使われています。

ワイヤレス給電

電源ケーブルの接続や金属電極の接触を行わずに、電力を伝送する技術です。
最近ではスマートフォンをはじめとした、一般消費者用のエレクトロニクス機器や電気自動車といった身近なものだけでなく、医療機器、産業機器などでの利用に向けた開発が進められ、実用化も行われています。

ワイヤレス給電を大きく分けると、非放射型と放射型になります。
非放射型は、ファラデーの法則や共振現象などの応用で短距離給電を対象にしています。
放射型は、電波(光)受信方式給電で電波や光を受信して電力に変換するもので、長距離給電を対象にしています。

    ワイヤレス給電        (かなりあいまいです)
     ├非放射型         受電力   到達距離 代表的充電対象
     │ ├電磁型
     │ │ ├ 電磁誘導方式  10W程度 数cm  スマホなど小型充電器
     │ │ └ 磁界共鳴方式  200W  数m   電気自動車、ロボット
     │ └── 電界結合方式  1kw程度 数cm
     └放射型
       ├── マイクロ波給電 数W    数m~∞ センサネットワーク
       └── レーザ光給電        ∞    航空宇宙分野、ドローン

電磁誘導方式
電磁誘導方式の原理は、「コイルを貫く磁束に変化を与えることによって起電力が発生する」というファラデーの法則です。 給電側(充電器)と受電側(スマートフォン)の機器にコイルが内蔵されています。充電器のコイルに交流電流が流れると、近くにあるスマートフォンのコイルに誘導磁束が発生し、コイルに電流が流れます。それをスマートフォンが電力に変換し、バッテリーを充電します。
数cm程度の距離で10W程度の電力を給電できます。欠点は2つのコイル面がずれると給電できない(効率が下がる)ことです。
回路構成が簡単で、小型かつ低コストで実現でき、最も一般的なワイヤレス給電方式です。スマートフォンや電動歯ブラシなど小型機器の充電器(ワイヤレス充電器)に利用されています。
(補)Qi(チー)
WPC(Wireless Power Consortium)が策定した主に電磁誘導方式を対象にしたワイヤレス給電の国際標準規格です。
磁界共鳴方式
共振(共鳴)とは、同じ周波数で振動する2つのものを近づけて置き、一方を振動させるともう一方も勝手に振動しはじめる現象のこと(例:音叉の実験)。磁界共鳴とは、一方のコイルにある周波数の電流が流れることで発生した磁場の振動が、同じ周波数でもう一方のコイルに伝わり、電流が流れる仕組みです。
 50~200W程度の電力を数m離れた距離に送れることから、電気自動車の充電装置に広く使われています。また、2つのコイルの面が少々ずれていてもよいので、無人搬送台車、エレベータ、ロボットなど狭い範囲での移動体の自動充電にも使えます。
電界結合方式
送電側と受電側にそれぞれ電極を対面させ、送信側で高い周波数の電気を流すと相手側電極にも電気が流れる現象(高調波電流)で伝送する方式です。
 双方の電極を誘電層を挟んで密着して送るのが基本ですが、電極面積を大にすれば、数mm~数cmの距離を送れます。構成部材がアルミや鉄を使用できるので低コストであること、伝送効率がよいこと、送電側と受電側の向きの制約が少ないことなどの利点があります。
マイクロ波給電
電波受信方式給電の代表です。通常の無線通信と同じように、送電アンテナから電波(マイクロ波)を発信し受電アンテナで受けるのですが、電波をエネルギーと考えて、受信側の整流回路(ヒ化ガリウム整流ダイオード)で直流に変換される仕組みです。
 この方式の弱点は効率が低いことです。整流回路の効率が低いだけでなく、電波ですから四方に拡散するので、距離が長くなると受信電波は弱くなります。伝送効率は最大でも5%程度です。
 論理的には数万km先まで給電できますが、それを現実に電力して活用するには無理があります。通常は10m程度の屋内で1W程度の電力を得るのが主流で、センサと制御機器をつなぐセンサネットワークでの給電手段として利用、IoTの重要技術になっています。
 国もこの分野の研究や実用化を重視しており、総務省は2019年に「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム作業班」を設置、技術的条件の検討を行ってきました。
(補)宇宙太陽光発電
人工衛星から電力をマイクロ波に変換して地上に送信するという構想が検討され、近い将来の実用化にむけて研究開発が進められています。
レーザ光給電
THz帯のレーザビームを面発光で送信、ソーラーセルと同じように半導体で受信し、半導体の光電効果を利用して光エネ ルギーを直接電気に変換することで電力を伝送する方式です。
 マイクロ波給電と異なり、レーザビームは発散角が小さく、数百mの距離ではビーム径はほとんど拡大しないので、長距離給電に適しています。
 設備に費用がかかるので、以前は航空宇宙分野を中心に研究が進められていましたが、近年は災害監視用無人飛行機やドローン、一般のロボットなど比較的短距離への給電が試みられています。