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無線通信

学習のポイント

本章では、以前の携帯電話(フューチャーフォン)やスマートフォンなどモバイル端末を総称して携帯電話といいます。携帯電話での通信には、主に屋内での無線LANと、モバイル環境での3G/LTEがあります。本章では、後者について学習します。

キーワード

電気通信事業者、キャリア、MNO、MVNO、MVNE、SIM、SIMカード、3G、4G、WiMAX、LTE、回線交換方式、パケット交換方式、SMS、RCS、VoIP、IP電話、VoLTE、090、050、無線基地局、eNode B、セル、マクロセル、スモールセル、チャネル、位置登録、ハンドオフ、ハンドオーバー、ローミング、CSFB、コアネットワーク、EPC、RNC、無線ネットワーク制御局、HSS、PDN、PDNコネクション、MME、S-GW、P-GW、第5世代移動通信システム、超高速、eMBB、低遅延性、URLLC、多数同時接続、mMTC、Sub6、ミリ波、MIMO、ビームフォーミング、GF、Grant Free、5GC、5Gコアネットワーク、C/U分離、SA、NSA、フル5G、パブリック5G、ローカル5G、プライベート5G


携帯電話の契約

電気通信事業者(キャリア)

携帯電話を利用するには、ドコモ、ソフトバンク、auのようなキャリアなどと加入契約しますが、キャリアとは、正式には電気通信事業者といいます。→参照:電気通信事業法

MNO(Mobile Network Operator:移動体通信事業者)
キャリアともいいます。通信事業者のうち、モバイル用の回線網、無線基地局や多様な通信設備をもっている事業者です。
MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)
自社で回線網を持たずに、MNOから回線網を借りて通信サービスを提供する事業者です。数百社のMVNOがあります。
  • 単純再販型MVNO
    回線設備を全く持たないMVNOです。MNOの通信サービスと全く同じものを、料金だけ変えて販売する形態です。
  • レイヤー2接続型MVNO
    無線基地局より向こうのLTEの機能群をEPC(後述)といいます。これらはMNOが運営していますが、そのうち、P-GWを自分がもつMVNOです。LANのデータリンク層を自分が管理するので、通信速度の制御、料金の設定などのサービスをMVNOが行うことができます。
    P-GWだけでなくS-GWまでも持つMVNOをレイヤー3接続型MVNOといいます。
MVNE(Mobile Virtual Network Enabler:仮想移動体サービス提供者)
主としてレイヤー2接続型MVNOの運営を支援する事業者です。技術的な対策、利用者への課金・請求業務、MNOとの橋渡しなどを行います。

SIM(Subscriber Identity Module)カード

3G/LTEにより通信するために携帯電話機に装着するICカードです。SIMカードには契約情報や電話番号が記録されています。いうなれば、SIMカードとは携帯電話の利用証明書だといえます。MNOやMVNOと契約したときにSIMードが渡されます。

SIMフリー
従来は、キャリアが独自のSIMカードを設定していたため、他のキャリアの携帯電話機に乗り換えると、新規のSIMカードが必要になり、電話番号も変更することになっていました。
このような抱え込みは消費者の不利益になることが指摘され、SIMカードの仕様を統一して、どのキャリアに乗り換えても、携帯電話機を変えても、前のSIMカードが使えるようになりました。それをSIMフリーといい、それができる携帯電話機をSIMフリー端末といいます。
また、キャリアを乗り換えても電話番号を変える必要がないことをMNP(Mobile Number Portability)といいます。
格安SIM
MVOでは回線や設備の設置や維持に多大な費用をかけています。携帯電話機の販売会社としての店舗も必要です。ハードウェアの携帯電話機はメーカーが生産しますが、自社戦略に合致する仕様をメーカーに求めるので、開発コストもかかります。
それに対して、(単純再販型)MVNOは、SIMフリー端末とSIMカードをネット販売し、ネット上でサービス展開できます。回線の借用料を支払いますが、全体として少ない費用で運営できます。
それにより、安価で大手キャリア対応のSIMを提供することができます。それを格安SIMといいます。MVNO各社で通信品質や価格は多様です。キャリアとは別会社なので、キャリアが提供する特別なサービスが使えないし、音声通話のない「データ通信専用プラン」もあります。
プリペイドSIM
一定料金を前払し、残高があれば使えるSIMカードです。携帯電話機と一体になったプリペイド携帯もあります。通常は期間限定があり、再チャージができます。
通常は基本料金がないので、利用回数が少ないときは低額ですみます。海外旅行者などに便利です。また、子供が使いすぎないようにプリペイドにするケースもあります。

懸案事項


携帯電話の通信方式

携帯電話の通信方式の発展

参照:携帯通信端末の歴史

3G・4Gの代表的プロトコル

3GPP(3rd Generation Partnership Project)

各国の無線通信標準化団体・組織が参加した標準化団体。3G携帯電話の標準規格W-CDMA関連の仕様策定を目的として結成されました。その後のLTEや5Gなどの規格に関しても中心的な役割をもっています。

WAP(Wireless Application Protocol)

無線LANでインターネット閲覧などのサービスを行うための標準仕様です。メーカーや機種の違いを吸収し、3G時代に主流になりました。

CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)

3G携帯電話に使用された無線通信方式の一つで、符号分割多重により同じ周波数帯を共用します。発信者の音声信号に固有のコードを付けて、複数の発信者からの信号を同じ周波数帯の電波にして送信します。
 W-CDMA(Wideband CDMA)はCDMAを広帯域化させた通信方式で、FOMAなどに採用されました。

WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)

固定端末(自宅のパソコンなど)から直接に離れた無線基地局を接続する規格(IEEE 802.16)でもあり、それに準拠している端末機のことです。→参照:「
 その後、広帯域の無線データ通信サービスとして、モバイル環境での利用も普及しました。それをモバイルWiMAXといいます。さらに、WiMAX 2(IEEE 802.16m)、WiMAX 2+へと発展していました。下り最高110Mbps、上り最高10Mbpsになり、WiMAX 2.1では一部の仕様がTD-LTE規格と互換性をもつようになりました。
 通信速度はLTEより高速ですが、主にデータ通信に限定されること、対応する無線基地局が少なくサービスエリアが限定されるなどの欠点があります。

LTE(Long Term Evolution)

従来の3G(第3世代携帯電話)の新通信方式として策定されましたが、現在では、4Gやスマートフォンを対象とする高速通信方式になっています。3Gでは音声通話は回線交換方式を用いていましたが、LTEでは音声通話もデータ通信と同様にパケット交換方式でインターネットを使うことになりました。


音声通話とデータ通信

回線交換方式とパケット交換方式

基本的には、音声通話は回線交換方式、データ通信はパケット回線交換方式を用いています(注)。

回線交換方式は、通話している間は回線上の一定の帯域幅を占有して通話をします。そのため、外からの影響がないので、音声品質が保証されています。反面、震災時や災害時などで電話が集中すると輻輳(混雑)が起こり、つながらない状態になります。それを回避するために、狭い帯域幅で通話できるようにする技術が進んでいます。
 NTTやKDDIなどのキャリアがそれぞれの公衆交換電話網(PSTN:Public Switched Telephone Networks)を敷設しています。そして、異なるキャリア加入者とも通話ができるように、相互乗り入れをしています。
 固定電話と異なり、携帯電話では利用地域が特定できません。そのため、国内では090、080、070で始まる電話番号が付けられています。

インターネット利用時間のほとんどは画面を見たり入力したりする時間であり、データの転送時間は非常に短いので、利用時間中回線を独占するのは不適切です。パケット回線交換方式は、データをパケットという小さなサイズに分割して通信し、一つの回線に多数の人が相乗りします。パケットに付けられたヘッダにより宛先を判別します。
インターネット回線は特定のキャリアが存在しません。キャリアは携帯電話とインターネットを接続するだけの役割です。

(注)公衆交換電話網からIP網への移行

通常の固定電話は、公衆交換電話網(PSTN)を使用するアナログ通話です。しかし、インターネット環境、モバイル環境での利用が進むのに対して、固定電話の加入数の減少、設備の老朽化や無電柱化(地下ケーブル化)が進んでいます。それにより、順次PSTNを廃止してIP網(デジタル回線)へ移行する予定になっています。

SMS(Short Message Service:ショートメール)
携帯電話同士で相手先の電話番号だけで約70文字以下のテキストメッセージを送受信できる機能です。通常の電子メールがインターネットのパケット交換方式で通信するのと異なり、SMSは音声通話のように電話回線(回線交換方式)を使っています。
例えば、音声着信時に電話に出なかった場合「着信有り」の表示がなされますが、これもSMSの機能を応用したものです。
RCS(Rich Communication Services:+メッセージ)
SMSを進化させて、テキストメッセージだけでなく写真(画像)や動画も送受信できますし、コンテンツの共有もできるようにしたものです。
VoIP(IP電話)
インターネットを用いた(パケット交換方式による)音声通話です。050で始まる電話番号がそれです。固定電話やパソコンでも利用できますが、スマートフォンで広く使われています。
近年はインターネットの発展により、パケット交換方式でも回線交換方式とほぼ同等な通話品質が得られるようになりました。また、通話しながらインターネットが利用できます。
インターネット利用なので、通話コストはかなり低額になります。
VoLTE(Voice over LTE)
LTEで音声通話を行うことでIP電話とほぼ同じです。IP電話はベストエフォートで帯域保証をしていませんが、VoLTEは帯域を保証してから音声通話を行います。
人間の耳で聞こえる範囲は20Hz~20kHzです。これまで通話機能では300Hz~3.4kHzだったのが、VoLTEでは50Hz~7kHzに、さらにVoLTE(HD+)では50Hz~14.4kHzに拡大されたため、より高品質な再現が可能になりました。
通話する双方の携帯電話がVoLTE対応になっていないと効果がありませんが、最近の携帯電話機は対応機種になっています。

電話番号

携帯電話の通信料金

各キャリア、MVNOが多様な料金体系をもっています。また、一定量までは定額料金に含まれることが多く、明確に分離するのは困難です。

回線交換方式による音声通話やSMSでは、キャリアが保有する回線網を利用します。同一キャリア内での通話は安価(無料)、他キャリア間での通話は高価になります。

データ通信やIP電話などは、インターネットを使います。パケット交換方式ですので、一つの回線を多くの利用者が利用しています。そのため、利用時間ではなくパケット数(通信バイト数)により課金します。
 また、インターネットではプロバイダなどが加入者からの料金から分担してキャリアから回線を借りるので、個々の利用に関しての費用は発生しません。キャリアはインターネット回線に接続するだけのサービスになります。そのため、料金はかなり安くなります。通常の電話にくらべてIP電話は数分の一の費用になります。


携帯電話の通信の仕組み

携帯電話機と電話回線網やインターネットとの通信は、
 1 携帯電話機と無線基地局との間の無線通信
 2 無線基地局と諸通信設備(コアネットワーク)との間の通信
   3GやLTEなどの方式による回線
 3 コアネットワークと電話回線網やインターネット回線との接続
に分割されます。
 携帯電話は無線通信だとはいえ、それは1の部分だけで、それ以外は主に光回線などによる有線通信なのです。

携帯電話機と無線基地局の間の通信

無線基地局(eNode B)

屋外で(Wi-Fi接続ではなく)携帯電話で通信するには、街中に設置された無線基地局(無線アクセスポイント)との間を無線で接続します。
 携帯電話は、通話していない状態でも、自分の位置情報を発信しています。位置登録のときに該当する無線基地局の周波数(チャネル)を携帯電話に伝えています。それで、携帯電話を使うときに自動的に周波数を合わせるので、利用者は意識しなくても無線基地局と接続できるのです。
 LTEでは、無線基地局あるいはその機能をeNode Bといいます。

無線基地局の規模

一つの無線基地局がカバーする地域範囲をゾーンあるいはセルといいます。
 無線は地形や建造物の影響を受けやすく電波が届きにくい場所が生じます。狭いゾーンを対象にした無線基地局が必要になります。
 携帯電話機と無線基地局との間は同じ周波数(チャネル)で交信しますが、広範囲では携帯電話が多いので、チャネル不足になり通話できない状況(輻輳)が生じます。隣接したゾーンの無線基地局では混線を防ぐために異なるチャネルにする必要がありますが、遠隔地の無線基地局では小出力の無線が届かないので同じチェネルにしても混線しません。
 そのため、環境に応じて多様な規模の無線基地局があります。

携帯電話の特徴と仕組み

(注)携帯電話と無線基地局間の周波数帯

電波の周波数が近いと混信が発生します。また、周波数により
 ・伝送速度:周波数が大きいほど高速通信ができる
 ・到達距離:周波数が小さいほど遠くまで送れる
 ・通過性:途中に建物などの障害物があっても回り込める。周波数が小さいほど通過性が高い
などに違いがあり、それぞれの用途に適した周波数帯があります。
 無線利用は急増しており、周波数帯は有限ですので、国が用途により周波数帯を割り当てています。携帯電話などの移動体通信用には、700MHz~900MHz、1.5GHz~2.5GHz帯が飛び飛びに割り当てられています。さらに、これらの帯域を細分化して各キャリアに割り当てています。
 このうち、700MHz~900MHz帯の電波は、小型の設備で通信できる、到達距離が長く、通過性が高いことから、使い勝手がいい周波数帯なので、プラチナバンドといいます。

コアネットワーク(EPC)

基地局以降の仕組みをコアネットワークといい、LTEでのコアネットワークをEPC(Evolved Packet Core)といいます。
 現在の代表的な方式は、以前から利用されてきた3Gと、近年主流になっているLTE(4G)です。それらのイメージを下図に示します。3Gでは音声通信は回線交換方式を用いていましたが、LTEでは音声通信もIP電話のようにパケット交換方式になりました。

現在の携帯電話機は3GとLTEの双方に対応しています。データ通信(インターネット利用)やIP電話を用いるときはLTEを用いればよいのですが、090などの電話番号で電話するときには3Gを用いることになります。
 3Gへの切り替えは、CSFB(Circuit Switched FallBack:回線交換フォールバック)という機能により自動的に行われます。利用者は、「電話をする」アイコンを操作するだけで、切り替えを意識する必要はありません。

 

3Gでのコアネットワーク

HLR(Home Location Register:ホームメモリ局)
携帯電話番号や端末識別番号などの利用者情報を管理するデータベースです。携帯電話の存在場所は変化するので、相手の電話番号で呼び出すとき、その携帯電話の位置情報(どの交換機のゾーンにいるか)が必要になります。
携帯電話のプロバイダに加入すると、携帯電話番号はホームメモリ局のHLRに登録され、その携帯電話機の現在の位置情報を記憶し更新しています。
RNC(Radio Network Controller:無線ネットワーク制御局)
複数の基地局を束ねてコントロールする中継基地。基地局が受けた通信を、データ通信と音声通話に識別し、それぞれSGSN、MSCへ渡します。
SGSN(Serving GPRS Support Node:パケット交換機)
データ通信のときは、SGSNを通してパケット交換方式でインターネットに接続します。
MSC(Mobile Switching Center:移動通信交換機)
音声通話のときは、MSCは公衆網(有線の通信回線)を通して相手側のMSCと接続します。相手の携帯電話との接続が確立したら、回線交換方式で通話をします。
POI(Point Of Interface:関門交換局、ゲートウエイ交換局)
モバイル通信事業者は独自の回線網をもっています。しかし、例えばドコモの契約者とソフトバンクの契約者の間で通信ができるようにするため、相互乗り入れが必要になります。その変換をするインタフェースをPOIといいます。
携帯電話から固定電話への(その逆も)接続を行うには、関門交換局を介して行います。

LTEでのコアネットワーク(EPC)

3Gでは〇〇局のように機能をハードウェアとして扱っていましたが、LTEでは機能として扱うようになり、コアネットワークの内部で実現することになりました。仮想化したといってもよいでしょう。
 LTEでは、音声もVoIP(Voice over IP)としてパケット交換方式に統合しました。回線の高速化や高多重度化により、パケット交換方式でも音声品質がよくなり回線交換方式にする必要がなくなったこと、モバイル環境での利用が急増することから、回線の利用効率が重視されるようになったからです。

HSS(Home Subscriber Server)
3GでのHLRとほぼ同じです。
PDN (Packet Data Network) コネクション
LTEでは携帯電話の電源が入ると同時にIPアドレスが付与されます。そして、携帯電話 ~eNode B~S-GW~P-GWの間にPDNコネクションというLAN経路が確立します。
MME(Mobility Management Entity)
Control-planeの窓口でコアネットワークの制御を行います。HSSを参照して利用者、端末、利用位置(基地局)などを確認したり、相手先までの通信経路の設定を要求したりします。そして、携帯電話~P-GW間のPDNコネクションを確立します。
S-GW(Serving Gateway)
eNode BとUser Planeを中継する機能と。MMEとControl Planeの通信に必要な信号を中継する機能をもっています。User Planeのうち、パケット方式で外部ネットワークに送られるデータをP-GWに渡します。
P-GW(PDN Gateway)
P-GWは、LTEでのPDNと外部ネットワークの接点です。パケット方式で外部のネットワークと通信するにはIPアドレスが必要ですが、そのIPアドレスを割り当てるのがP-GWです。

5G(第5世代移動通信システム)

5Gの概要

5Gとは

5G(5th generation mobile communication system、第5世代移動通信システム)とは、従来の4G(LTE)に次ぐ新世代の無線通信技術です。単にスマートフォンなどのモバイル通信が高速になるだけでなく、社会全般に大きな影響を与える通信インフラとして期待されています。


出典:総務省「総務省 第5世代移動通信システム(5G)の今と将来展望」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000633132.pdf

5Gの主要性能

          4G(LTE)  5G     5G/4G
    通信速度  最大1Gbps   最大10Gbps   10
    遅延速度  約10ミリ秒  約1ミリ秒    1/10
    同時接続数 数台/1基地  100台/1基地 10
          10万台/k㎡  100万台/k㎡  10

5Gが実現すべき特性として、「超高速」「低遅延性」「多数同時接続」が挙げられています。

超高速(Enhanced Mobile Broadband、eMBB)
4Gでは、通信速度が下りで最大1Gbps程度、上りで最大数百Mbps程度なのに対し、5Gの要求条件では、下りで最大20Gbps程度、上りで最大10Gbps程度と、4Gの10倍以上の高速になることが見込まれています。これは有線通信の光回線での2Gpbsをはるかに超えています。
4k/8kなどの高精細映像や大容量コンテンツをモバイル環境で送受信できます。精緻な画像が必要な医療分野、動きの速いスポーツ分野などでの利用も期待されます。
低遅延性(Ultra Reliable Low Latency Communications、URLLC)
スマートフォンでの電話では、電波状況により途切れたり聞きにくかったりすることがあります。それは遅延(タイムラグ)が発生しているからです。5Gではエンドツーエンドで1ミリ秒の低遅延になるといわれています。
低遅延性は、自動車の無人運転やロボットの遠隔操作の安全性に重要な特性です。
自動運転を例にすれば、時速100kmで自動車を運転する際、障害を発見してからブレーキ・システムが始動するまでに、4Gでは1.2mも走行してしまいますが、5Gでは2.8mまで短縮されるそうです。
多数同時接続(Massive Machine Type Communications、mMTC)
同時接続数が大幅に増加します。これにより、非常に利用者が多い場所でも、つながりやすくなります。また、多様な機器を制御するIoTのインフラとなることが期待されています。
4Gの時代では、携帯電話やスマートフォンで利用することを想定しているため、多数のデバイスを同時に接続することを主目的とした設計にはなっていませんでした。ところがIoTが普及しつつある現在では、これまでの100倍程度の同時接続が必要になっています。

5Gの支援技術

高周波数帯の利用
5Gでは、次の周波数帯が割り当てられています。Sub6とは「6GHz未満」の意味です。
          周波数帯         周波数帯域幅   4G     <3.6GHz          20MHz
  5G Sub6 4.5GHz帯、4.7GHz帯  100MHz
     ミリ波  28GH帯、29GHz帯   400MHz

 高周波数帯になるほど周波数帯域幅を大きくすることができるので大容量通信ができます。ミリ波5Gでは4Gの20倍のデータを送る高速通信ができます。
 この観点では、全てミリ波にすればよいのですが、高周波数帯なると到達距離は短くなり、直進性が強いことから障害物の裏側には伝わりにくくなるので、多数の基地局(アクセスポイント)が必要になります。また、未だミリ波対応の機器は普及途中です。
 それに対してSub6では、基地局数を節約できますし、確立している4Gの技術や経験が応用できます。高速性は犠牲にしても5G環境を実現するために、この周波数帯が移行対応として割当てられているのです。
MIMO(Multiple Input Multiple Output)
MIMOとは、送信機と受信機の双方で複数のアンテナを用いて通信品質を向上させる技術です。
 送信データをあらかじめ複数の信号(ストリーム)に分割し,それらを複数のアンテナから同じ周波数帯域で同時転送します。
 MIMOは4Gでも用いられていましたが、空間多重数2、周波数帯域は20MHzで総通信帯域は40MHzしかありませんでした。それを空間多重数を8~16、周波数帯域を500~800MHzとし、総通信帯域を8GHzと大幅(200倍)な通信容量を持つ「超多素子アンテナ」が開発されています。
ビームフォーミング
電波を細く絞り、特定の方向へビームとして発射する技術です。高周波数になると距離減衰が大きくなり到達距離が短くなる(周波数が2倍になると1/4に減衰する)のですが、この技術により電波が強くできるので、到達距離を長くすることができます。
GF(Grant Free)方式
低遅延を実現するための仕組みです。端末からデータを送信するごとに、その無線信号を送るための周波数および時間の無線資源の使用許可(グラント)を基地局からもらう処理が必要で10ms程度の通信遅延を発生させていました。その手続きを省略したグラントフリーでは、この手続きを省略して、各端末がグラントを得ずに即座にデータを送信させることができます。また、この技術は多数同時接続にも効果的です。
MEC(Mobile Edge Computing、Multi-acssess、Multi-access Edge Computing)
エッジコンピューティングとは、センサなどのデータ発生源や制御対象となる機器の近くでネットワークを形成して、入力-出力の時間(遅延時間)を短縮することです。IoTの分野で注目されています。
 MECは、スマートフォンなどのモバイル環境や大量の同時アクセス環境において、低遅延通信と多数同時接続を可能にする技術です。
 5Gでは、一つの基地局のカバー領域は狭いが、逆にいえば、一定面積をカバーする基地局数を設置すれば、その全体としての多数同時接続能力は非常に大きくなりますし、そのネットワークは狭い範囲で分散されるので低遅延通信が実現します。

5Gコアネットワーク(5GC)

LTE(4G)のコアネットワークEPCに相当する5Gのコアネットワークを5GCといいます。それらの概念図を掲げます。

5GCの特徴(EPCとの比較)

5Gの種類

SA/NSA方式

ここまで記述してきた5Gは、純粋の5GでSA(スタンドローン)方式あるいはフル5Gといいます。
5Gは優れたシステムではありますが、高周波数帯を用いるので到達距離が短いし、直進性が強く障害物を回り込むことが苦手です。そのため、基地局を数多く設置しなければなりません。また、4GのEPCと5Gの5GCとは互換性なく、4G対応の基地局やスマートフォンは使えません。そのため、5Gに移行するにはコスト的に高い壁があります。
それを回避するための移行仕様に、NSA(非スタンドローン)方式があります。通信制御には既存のEPC使い、4Gの基地局であるeNBに加えて5G対応の基地局(gNB)を新設します。制御信号にはEPCを用いますが、データ伝送には高速なNRを用います。これにより、SAの超高速、低遅延性、多数同時接続のうち、超高速だけは実現できます。

スマートフォンも5G対応のものだけでなく、4G・5G対応のものがあります。NSA環境の地域ではNSA、SA対応の地域ではSAを利用できます。

構築・運用者による区分

パブリック5G
一般に5G(第5世代移動通信システム)とはパブリック5Gのことです。大手通信事業者が全国的に提供・展開しています。都市部を中心に段階的に整備が進んでいます。
ローカル5G
通信事業者ではない組織が、無線局の免許を取得し周波数帯の割当てを得て、5Gネットワークを構築する形態です。
 自治体はパブリック5Gが遅れている地域でネットワーク整備として行うケース、企業が建物・敷地内に専用ネットワークとして構築するケースがあります。Wi-Fi に比較して、通信が安定している上にセキュリティも強固ですし、ハンドオーバー技術を用いて、より広い面積の場所でスムーズに利用できます。特に、工場の敷地内でロボットによる自動運転や遠隔制御を行う「スマート工場」に適しています。
プライベート5G
通信事業者が利用組織の建物・敷地内に専用の5Gネットワークを構築する形態です。ネットワークスライシングとは、ネットワークを仮想的に分割(スライス)して、より効率的に利用者の要件に応じたネットワーク環境を提供するための技術です。各社の用途に応じて、通信速度を高め、容量を大きくした「超高速・大容量スライス」や、通信遅延を限界まで短縮した「超低遅延スライス」など、最適な5Gネットワークをカスタマイズして提供できます。