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システム構成(集中と分散)の歴史

「経営とITの関係の変遷」の一環として、コンピュータの構成(集中と分散)の歴史的な変化を取り扱う。集中・分散には、機器構成の観点や管理の観点など多様な観点があるが、ここでは機器構成、特に機器の設置場所に注目する。

なお、集中・分散は企業の置かれた環境で大きく異なるし、提言されてから大多数の企業が実施するまでの期間は長い。ここでの記述は「~がいわれていた」というような意味だと解釈してほしい。


参考文献

参考URL

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全体の流れ

1980年代までは、汎用コンピュータによる集中処理が行われていた。1980年代にはパソコンが利用部門に配置されるようになり、部分的な分散化が始まった。1980年代末から1990年代前半にかけてダウンサイジングが進み、クライアントサーバシステムが普及した。しかし、汎用コンピュータは部分的に残り、全般的なダウンサイジング環境に移行するのは2000年代である。

当初のダウンサイジング環境では、場所による分散化であったが、2000年代になると、インターネットのブロードバンドにより安価な高速通信が可能になると、集中処理への回帰が行われるようになった。しかし、これまでに従来の汎用コンピュータはオープン環境に対応した大規模サーバに変身していた。すなわち、オープン環境での集中処理だといえる。

インターネットの普及により、商取引をインターネットサーバで行うようになり、そのサーバを社外の計算センターに置くことが多くなった。さらに、2000年代中頃から、ASP、SaaS、クラウドコンピューティングなど、自社の一般業務を社外サーバで行う動向が進んできた。これは、社外サーバへの集中化だともいえるし、複数のベンダを利用するならば分散化だともいえる。


集中・分散の歴史

汎用コンピュータ時代

汎用コンピュータとグロッシュの法則

コンピュータ導入当初は、本社に1台のコンピュータがあるだけだった。支店等にデータ入力機器はあったが、データ処理は1台のコンピュータで行っていた。

対象業務が拡大されるとともに、工場や支店にもコンピュータが設置されるようになった。工場では本社コンピュータで扱わない業務がある。支店では売上データなどは本社コンピュータに送って処理するが、その結果を待っていたのでは時間がかかるし、ローカル的な利用もしたいというのが理由である。
 しかし、基本的には本社集中であった。1965年にグロッシュ(Herbert Grosch)は「コンピュータの性能は価格の2乗に比例する」というグロッシュの法則を提唱した。この法則は汎用コンピュータ時代を通して認識されており、なるべく少数のコンピュータで集中処理するのが適切だとされた。

パソコンの普及

1980年代になると、パソコンがオフィスで使われるようになった。しかし、LANによる接続は未だ行われておらず、次の2つの形態での利用であり、いずれも汎用コンピュータによる集中処理を脅かすものではなかった。

社外計算センターの利用

導入検討時期に、コンピュータ導入で留意すべき事項を習得するために、社外の計算センターを利用して給与計算などを行うのが通常だった。自社にコンピュータが設置されても、技術計算やORなど大規模処理は社外計算センターを利用していた。また、特殊なプログラムを利用するために、社外計算センターを利用することもあった。

オープンシステム時代

クライアントサーバシステム

「パソコンの性能は18か月ごとに2倍になる」というムーアの法則(Gordon E. Moore、1965年)に従い、パソコンの価格性能比は急速に向上した。しかも、汎用コンピュータがメーカーごとに異なるアーキテクチャ(基本仕様)で互換性が乏しいのに対して、パソコンはWindowsのような業界標準に基づくオープン仕様であるため、価格だけが競争要因になる。そのため、1980年代末には、1台の汎用コンピュータよりも多数のパソコン群のほうが安価であることが顕著になった。パソコンとの間では、グロッシュの法則が崩壊したのである。
 この間に、パソコンはGUI環境になり、多様なユーザフレンドリーな機能が発展した。LAN技術も普及した。それで、1980年代末から1990年代にかけて、汎用コンピュータによる集中処理からパソコンをLANで接続した分散処理へ移行するダウンサイジングが進んだ。
 ダウンサイジング後のシステムをオープンシステムといい、汎用コンピュータ時代のシステムをレガシーシステムという。

ダウンサイジング環境での代表的な形態はクライアントサーバシステムである。汎用コンピュータに代ってサーバが処理をするという点では集中ではあるが、サーバが利用部門に分散されている点では分散であり、一般的に分散とされている。
 クライアントサーバシステムは、事業所を単位に設置されることから、場所依存の分散化である。大阪支店サーバには大阪支店の販売課や経理課のデータが集められ、全社処理に必要なデータが本社の汎用コンピュータに送られる。

場所依存分散の欠点と再集中化

クライアントサーバシステムが業務で重要になるとともに、「サーバ1台に人身御供1人」が必要となり、その管理に手間がかかることが問題になった。
 また、運用でも問題が出てきた。大阪支店の販売課員が知りたい情報は、大阪支店経理課の情報よりも本社販売本部や他支店販売課の情報である。大阪支店内の販売状況と全国あるいは他支店の販売状況と比較検討したいのである。経理課でも同様である。
 そのようなニーズに応えるには、大阪支店サーバというような場所依存サーバではなく、販売部門サーバというような業務依存サーバのほうが適切である。

従来、事業所間ネットワークには、高速専用線が使われており、長距離専用線の価格が高いことが問題になっていた。それが、1990年代後半にインターネットが普及し、2000年代中頃にはブロードバンドが普及した。それにより、事業所間の通信費用が急激に廉価になった。
 そうなると、本社にサーバを集中させることがコストダウンになる。ところが、本社に販売部門サーバや経理部門サーバなどをハードウェアとして乱立させるのはコスト面でも運用面でも不都合である。それらのサーバ機能を一つの筐体にまとめるほうが適切になる。
 一つの筐体にしたサーバは従来の汎用コンピュータだとすれば、汎用コンピュータによる集中処理と同じだということになる。

ところがこの間に、汎用コンピュータが一変した。通信ではTCP/IP、OSではUNIXやWindowsOSなど、オープン環境への対応が進んだのである。並列機能も強化された。それで、巨大なファイルサーバ、データベースサーバのような機能になったのである。

しかし、場所依存のクライアントサーバシステムが不要になったのではない。LAN環境での運用には必要である。ここでは業務処理の面で、場所依存サーバの価値が低下したというだけのことである。

Web時代

インターネット関連サーバの外部化

インターネットの普及に伴い、会社紹介や製品PRなどのWebサイトを立ち上げるようになった。このような形態は、これまで経験がないこと、他のシステムとの連携の必要がないことなどの理由により、プロバイダのサーバを使うのが通常だった。
 その後、社内外のメール機能、Webサイトでの受注機能が加わったが、当初ではこれまでの成り行きから、引き続きプロバイダのサーバを使うことが多かった。プロバイダ側もそのようなアプリケーションを用意して、サービスの拡大を図った。アプリケーションまでサービスするプロバイダをASP(Application Service Provider)という。
参照:「運用外部委託の種類」

受発注機能など、他システムとの連携が必要な業務が増大するのに伴い、自社にWebサーバを設置する企業も増大したが、反面、セキュリティ対策や運用管理の観点から、あえてプロバイダ側にサーバを置くことも多い。また、取引を拡大するために、業界共同での取引サイトであるe-マーケットプレイス、楽天市場のような対消費者取引のためのバーチャルモールに参加することも多い。
参照:「EC(電子商取引) 」

クラウドコンピューティング

2000年代中頃から、SaaS(Software as a Service)あるいはクラウドコンピューティングが注目されるようになった。ハードウェア(サーバ)、ソフトウェア、データなどのコンピュータ資源をすべてベンダ側におき、自社にはクライアントを設置するだけでよい形態である。その意味では、コンピュータ導入頃の「社外計算センター利用」への回帰だともいえる。
 インターネットの高速化・低廉化に伴い、自社設置のコンピュータを使うのと同等な応答時間が得られるようになったこと、提供されるアプリケーションを利用することにより、システム開発から運用までの費用や時間を節約できることから注目されている。
参照:「SaaS/クラウドコンピューティングの概要」

歴史的には、ASP→SaaS→クラウドコンピューティングと概念が拡大してきたが、ここでは、同じようなものだとする。

クラウドコンピューティングは、情報システムの「所有から利用へ」の変化だといわれている。すなわち、自社にコンピュータがない状態になるのである。このようなクラウドコンピューティングをパブリッククラウドという
 しかし、すべての業務をプロバイダが提供する環境で行うのには限界がある。それで、自社独自でクラウド環境を構築するプライベートクラウドも注目されている。この場合も、サーバを自社に設置するか社外に設置するか多様なケースがある。

クラウドコンピューティングは、自社コンピュータで行っている業務の一部をクラウドコンピューティングに移行するとすれば分散であるし、すべての業務(これには支店サーバやパソコンで行っている業務も含む)を特定のプロバイダのサーバで処理するのであれば集中である。また、業務により複数のプロバイダを使い分けるのならば分散だともいえる。さらには、プロバイダ側からいえば、多数のサーバに分散しているだろう。
 このような環境では、「集中か、分散か」ということ自体が無意味になる。


トピックス

仮想化

仮想化には多様な観点があるが、ここではアプリケーションやデータがどのサーバに存在しているかを、システムに管理させることにより、プログラマや利用者が知る必要がないことだとする。

汎用コンピュータ時代では、単一コンピュータ(OS)の配下に限定されていたが、プログラムやデータがディスクや磁気テープなどの媒体の種類に関係なく統一的な仕様で保管できた。どのディスクのどのディレクトリに存在するかはOSが管理していた。

クライアントサーバシステムの発展形態に3層構造がある。そこでは、ハードウェアに関係なく論理的に機能をプレゼンテーション(操作や表示の機能)、ファンクション(アプリケーション)、データに区分し、管理システムがアプログラムやデータの物理的な存在場所を管理する。プレゼンテーション機能を使っている利用者に知らせることなく、状況に応じて、プログラムやデータを他のサーバに移すことができる仕組みである。
参照:「LAN環境でのシステム形態」
 この管理システムがネットワーク接続先の管理システムと連動すれば、支店の利用者に影響なく、支店サーバにあったプログラムやデータを本社サーバに移すことができる。

仮想化技術はWeb環境でも急速に発展している。データが増大してあるサーバに入りきらない場合は、あらかじめ指定しておいた空いているサーバに自動的に分割して保存できるし、処理効率の面から特定のサーバにまとめることもできる。
 もはや、利用者にとってプログラムやデータがどこにあるかを知る必要はなくなった。集中/分散は、機器の性能、コスト面、運用面の問題であり、その環境の変化に従って随意に変更できる時代になったのである。

クライアントの変化

汎用コンピュータやサーバの端末(クライアント)の変遷を簡単に振り返る。これは、利用者個人レベルでの集中・分散だといえる。