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モバイル端末(携帯電話、スマートフォン、タブレットPC、ノートパソコンなど)でインターネットを利用するには、通常はNTTドコモなどのキャリアが提供する携帯電話通信網に接続する。
それとは別に、駅や喫茶店あるいは街中で、無料あるいは有料で大容量コンテンツを受信できる無線インターネット接続サービスがある。それを「公衆無線LAN」という。
公衆無線LANのアクセスポイントは、駅構内、喫茶店などの店舗・商店街、新幹線や飛行機内、電柱やビル屋外など、人が集まる様々な場所に設置されている(これをホットスポットともいうが、厳密にはNTTコミュニケーションズの商標である)。
携帯電話通信網ではアクセスポイントを無線基地局という。周囲数百メートルからキロメートルまで広いエリアをカバーしている。それに対して、公衆無線LANのアクセスポイントは、店内や狭い範囲(数メートル~数十メートル)をカバーしている。
そもそも無線LAN(構内回線網)は、事務所や家庭内でのLANで利用されていた。それを公衆の集まる場所に設置したのが公衆無線LANである。
公衆無線LANは、携帯電話回線網と比較して、一般的に次の特徴がある。
公衆無線LANに限らず、無線LANの通信方式の規格は、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers、電気・電子技術学会)が策定したIEEE 802.11シリーズが国際規格になっている。
IEEE 802.11は、次のように発展してきた。
1997年 IEEE802.11 2.4GHz 2Mbps
1999年 IEEE802.11b 2.4GHz 11Mbps
1999年 IEEE802.11a 5GHz 54Mbps
2003年 IEEE802.11g 2.4GHz 54Mbps
2009年 IEEE802.11n 2.4/5GHz 65~600Mbps
2013年 IEEE802.11ac 5GHz 433Mbps~6.93Gbps
携帯電話などの機器がIEEE 802.11規格に合致していることを認証する機関がWi-Fi Alliance(Wireless Fidelity)である。
公衆無線LANの多くはWi-Fi認証を受けた機器の利用を前提としている。また、多くの携帯電話やスマートフォンは、Wi-Fi認証を受けている。そのため、「公衆無線LAN=Wi-Fi」と混同して使われることも多い。
外出先でWi-Fiを使うには、公衆無線LANを利用する以外に、各キャリアが提供している「Wi-Fiルータ」を用いて、自分が加入している携帯電話回線網からWi-Fiを利用できる。
Wi-FiがLANなのに対して、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)は、携帯電話回線網のような広域接続を提供する規格あるいはサービスで、WiMAXアクセスポイントから周囲数キロメートルで利用できる(WiMAXは厳密には公衆無線「LAN」ではないが、ここではあえて区別しない)。
WiMAXはIEEE802.16規格に準拠しており、Wi-FiのようなIEEE802.11規格では使えない。そのため、アクセスポイントには、WiMAXダイレクトのものと、IEEE802.11とIEEE802.16を変換する機能のあるものを設置している。
WiMAXに対応しているモバイル端末がならば、WiMAXダイレクトのアクセスポイントに直接接続できる。それがない端末では、コンバータ付のアクセスポイントに接続するか、外付けのWiMAXルータを介してWiMAXダイレクトのアクセスポイントに接続する。2013年現在、日本国内では、UQ WiMAX(KDDI系列)だけがサービス提供している。
公衆無線LANサービスには、
携帯電話キャリア等のオプション契約をした会員型
公共施設やホテルなどで自由に使える自由型
これには無料サービスと有料サービスがある
などがある。その境界はあいまいで、一時的に利用権を得るゲスト型もある。
携帯電話キャリアは個別に公衆無線LANアクセスポイントを設置している(設置数は2012年頃)。
NTTドコモ(docomo Wi-Fi)約5万か所
KDDI(au Wi-Fi SPOT)約10万か所
Softbank(Softbank Wi-Fi Spot)約25万か所
UQ WiMAX(UQ Wi-Fi)
スマートフォンなどの購入時に、これらのキャリアとパケット定額プランに加入することにより、無料で公衆無線LANサービスを利用できる。1日だけの利用をする契約もある。
NiftyやBiglobeなどのインターネットプロバイダもWi-FiやWiMAXを利用できるサービスをしている。
自治体の住民サービスや店舗の来客サービスとは異なる無料の公衆無線LANサービスがある。
この頃の日本では、無線LANは主に事業所内や家庭内のLANで使われており、公衆無線LANとしては使われていなかった。
IEEE802.11b対応の製品が普及するとともに、日本でも公衆無線LANへの関心が高まり、多様な実証実験が行われた。
これらのうち、スピードネットのような固定無線サービスは、ADSLやFTTHのほうが高速で安定していたため普及しなかった。街中での実験は、当時はスマートフォンやタブレットがなく、ノートパソコンも現在と比較すると重く、それを街中で利用する環境になかった。
それに対して、駅や店舗で利用する形態は、本格的なサービスに移行するケースが多かった。しかし、当時はIEEE802.11bで低速(ベストエフェクトで11Mbps)だったこと、ノートパソコンが主対象だったことから、急速な普及には至らなかった。
それまで携帯電話の通信方式は事業者ごとに異なっていたが、1999年にITU(国際電気通信連合)は次世代携帯電話の標準方式として、IMT-2000(International Mobile Telecommunications 2000)を勧告した。2GHzの周波数帯を使い、有線電話並みの高音質の音声通話や最大2Mbpsの当時としては高速データ通信の仕様であった。
それに準拠した携帯電話および携帯電話回線網などのシステムを3G(第3世代)という。それで現在でも携帯電話回線網が3G回線と呼ばれている。
2003年策定のIEEE802.11gは54Mbpsになり、当時のADSLと同等の回線速度になった。 また、無線LANの弱点とされていたセキュリティ面でも、2002年にWPA(Wi-Fi Protected Access)、2004年にWPA2が策定され、ユーザ認証機能や暗号鍵の自動更新機能を含むようになった。
さらにこの頃からノートパソコンがパソコンの主流になり、小型化・軽量化が進むとともに、これらの機能を搭載するようになってきた。
それとともにアクセスポイントの設置場所も増え、利用者も急激に増大した。公衆無線LANサービス有料契約者数は、2004年6月には5万人程度だったのが、2005年3月末には約12万人になった。
公衆無線LAN有料契約者数の推移(6事業者)
出典:
情報通信研究機構 情報通信ベンチャー支援センター「無線ブロードバンドの概説」
元資料:総務省「電気通信サービスの供給側/需要側の動向調査(平成16年度)」
及び総務省「ブロードバンド契約数等の推移」
2010年前後に公衆無線LANを取り巻く環境が変化し、公衆無線LAN契約数も急速に増加した。
公衆無線LANサービス契約者数需要予測(Wi-Fiサービス)
出典:
ICT「公衆無線LANサービス市場に関する需要予測」2011年
スマートフォンやタブレットPCが急速に普及した。これらはモバイル環境で使うことを前提としている。そのため、公衆無線LANを利用する機会が多くなった。
2012年にWi-Fi CERTIFIED Passpoint(以下Passpoint)が策定された。これは、携帯電話回線網とWi-Fi回線網の相互連携、キャリア間の相互接続を目的としている。
この頃になると、WiMAX網が整備されてきた。WiMAXではパケットに関係しない月額固定料金なので、文字通り「使い放題」になる。ヘビーユーザに適した回線網である。最近のスマートフォンでは、WiMAX機能を搭載しており、携帯電話回線網とWiMAXのどちらに接続するかを指定したり自動選択できるようになった。
WiMAX網は、UQ WiMAX(KDDIグループ)だけが運営している。利用者はUQ WiMAXと直接契約できるし、各キャリア等がUQ WiMAXと契約しているので、その料金オプションとしてWiMAXが使えるようになっている。
2011年に発生した東日本大震災の際は、多くの携帯電話プロバイダが公衆無線LANを無料開放した。その後も、長期間にわたり被害地で無料提供している。
公衆無線LAN整備の重要性が認識され、アクセスポイントの増設、キャリア間の連携が進んでいる。東京メトロはすでに多くのキャリアが有料のアクセスポイントを配置しているが、さらに無料サービスのアクセスポイントを設置するという(災害用だけでなく、運行情報、ニュース、沿線の商店や観光地、イベントの案内といった情報を提供)。
国も災害対策のために公衆無線LAN推進政策を講じている。国土交通省は、道路沿いに公衆無線LANアクセスポイントを設置して、既に全国の国道に沿って敷設してある光ファイバを無線LANの中継回線として利用する構想で、2013年に実証実験を行う。また、地方自治体のアクセスポイントの設置も相次いでいる。