タブレットPC(スレートPCともいう)とは、タッチパネルディスプレイを搭載し、指や専用ペンで画面操作できる携帯用パソコンのことである。
専用ペンや指でタッチするディスプレイは、文字画面のCRTディスプレイの時代から存在した。しかし、その当時は接触位置の判定は粗くてよく応答速度も要求されなかった。現在のタブレットPCとは異なるのでここでの対象にはしない。
ほとんどのスマートフォンのパネルはタッチパネルなので、タブレットPCとスマートフォンの区別は不明確であるが、ディスプレイのサイズがスマートフォンでは6インチ以下の小型であるのに対して、タブレットPCでは10インチ、B5版程度であることが多い(ハガキ大の小型機もある)。
形状による分類
- ピュアタブレット型
キーボードをもたず、ディスプレイと本体が一体となって、1枚のボードのような形状になっている。
- コンバーチブル型
外見は通常のノートパソコンの形状である。ディスプレイを外側になるように折りたたんで、ピュアタブレット型のように操作することができる。
- ドッキングステーション型(複合型)
ディスプレイだけを取り外せる形状である。ドッキング状態でデスクトップとして用い、取り外してピュアタブレット型として用いることができる。
認識方法による分類
- 専用ペンによる方式
電磁誘導方式という。先端に電磁コイルを取り付けた専用ペン(スタイラスという)を画面に触れることにより、電流が発生して信号が伝わる。なお、専用ペンでは、電磁誘導方式と静電容量方式の両方で使えるものが多い。
- 指操作ができる方式
静電容量方式という。指操作が行える。指先とパネルとの間での静電容量の変化により位置を検出する。表面型と投影型の2つがある。
表面型は、指がセンサに触れることにより位置検出ができる。仕組みが単純なので、比較的大型のディスプレイでも安価にである。投影型は、指が触れるとその付近をスキャンして静電容量の変化を検出する。位置を精密に判別できるだけでなく、複数の接触位置を検出することができる。
- マルチタッチができる方式
マルチタッチとは、iPhoneなどのスマートフォンでの画面の拡大や回転などの操作をするときに必要となる操作である。投影型静電容量方式ならば、複数の接触点を検出して、マルチタッチを実現できる。しかし、構造が複雑なので、パネルが大きくなると高価になる。そのため、従来では小型パネルのスマートフォンや携帯電話に用いられていたが、2010年頃からタブレットPCにも採用されるようになった。
●Windowsの発展
タブレットPCにおいては、Windowsは必ずしも先駆的なOSではないが、その時代のニーズをよく反映している。
- 1991年 「Windows for Pen Computing」とりあえず対応した段階
- 2002年 「Windows XP Tablet PC Edition」ペン入力、特殊OSの位置づけ
- 2006年 「Windows Vista」指入力可能、OSの標準機能に
- 2009年 「Windows タッチ」マルチタッチ機能
タブレットPCの歴史
1990年代:タブレットPC構想の時代
- 1977年 Alan Kay and Adele Goldberg、論文「Personal Dynamic Media」
アラン・ケイはパソコン概念の提唱者であるが、この論文で、現在のタブレットPCに通じるDynabookの構想を示した。
- 1991年 GO社、「PenPoint」
- 1992年 AT&T、「EO440」
PenPointは、カプラン(Jerry Kaplan)が開発したペン入力インターフェースによるタブレット式携帯情報端末用のOSで、EO440は、それを搭載したタブレットPC(むしろPDAに近いサイズ)である。
PenPointは、ペンでの文字入力や操作指示など独創的なアイデアが多く、徹底したオブジェクト指向で設計されているなど、コンピュータ技術面で大きなインパクトを与えた。しかし、実際の利用にはあまりにも時期尚早であり、ビジネスとしては成功しなかった。
- 1991年 Microsoft、「Windows for Pen Computing」
- 1992年 IBM、「ThinkPad 700T(IBM 2521 ThinkPad)」
- 1993年 Apple、「Newton MessagePad」
PenPointの動向に対抗して、Microsoft、IBM、Appleなど大手ベンダが参入した。
MicrosoftはWindows 3.1を拡張して「Windows for Pen Computing」を発表。パソコンメーカーにペン入力機種の開発を提案した。
ThinkPadはIBM(後にパソコン事業部はLenovo(中国)に売却)のパソコンシリーズ名であるが、当初はペン入力のタブレットPCであった。その初代機種が700Tである。10インチサイズであり、通常のタブレットPCだといえる。OSはPenPointである。
Appleは、独自の「Newton OS」を搭載したPDA「Newton MessagePad」を開発した。この機器はPDAに属するが、当初の計画ではPDAよりもEO440のような機器を目指したといわれる。
これらの機器もビジネスとしては成功しなかった。
2000年代前半:Windows XP系タブレットPC
2002年にMicrosoftは、Windows XPにペン入力パソコンに必要な機能を組み込んだ「Windows XP Tablet PC Edition」を発表した。Windows XPの高い人気もあり、多くのパソコンメーカーがこれを搭載したタブレットPCを発表した。
2000年代後半:指操作が可能に
タッチパネル搭載機の普及
マルチタッチ方式への発展
- 2007年 Apple、「iPhone」
スマートフォンであるが2点検知をするタッチパネルを採用、使うことで,操作が簡単になるがけでなく、「楽しさ」もアッピールした。
- 2007年 デル「Latitude XT」(同社報道発表)
- 2009年 HP「TouchSmart tx2」(同社報道発表)
Windows Vistaに改良を加えたマルチタッチ機能搭載タブレットPC
- 2009年 Microsoft、「Windows タッチ」
Windows 7がタッチ操作系統を「Windows タッチ」として標準搭載した。Windows での初めてのマルチタッチ技術を採用。
多くのメーカーがWindowsタッチ対応パソコンを発表した。
2009年「Windows® タッチ」機能に対応したノートパソコン「MTシリーズ」
2010年 NEC、「Valuestar W PC-VW670WGシリーズ」
2010年:iPadのインパクト
2010年では、
・Apple1社のiPad
・Windows7で標準提供される「Windows タッチ」対応機
・オープンソースのAndroid対応機
のタブレットPCが鼎立している。
iPadの出現
Appleは2010年にiPadを発売した。2007年に発売したスマートフォンiPhoneの機能を受け継ぐタブレットPCである。ディスプレイは9.7インチ(ほぼA5版)、OSはiPhoneと同じiOSでマルチタッチをサポートしている。豊富なアプリケーションをサポートし、特に電子書籍リーダー機能が話題を呼んだ。
非常な人気を呼び、米国では発売初日(4月3日)で30万台を販売、80日間で300万台を超えたという。
Androidタブレット
Androidは、Googleが開発したスマートフォンやタブレットPC用のオープンソースOSである。iPadに対抗して、Androidを搭載したタブレットPCが開発されている。2010年発表の主な機種を列挙する(スマートフォンに近い小型ディスプレイのものを除く)
- 2010年 東芝「FOLIO 100」10.1インチ/li>
- 2010年 サムソン(韓国)「Samsung GALAXY Tab(GT-P1000)」7インチ
- 2010年 Archos(仏)「Archosシリーズ」2.3~10.1インチ
- 2010年 マウスコンピュータ「LuvPad AD100」10.1インチ
- 2010年 オンキョー「SlatePad TA117」10.1インチ、企業向け専用端末
Microsoft Surface RT
2012年、MicrosoftはWindows 8を発表した。それまでのWindowsと異なり、スマートフォンやタブレットPCなどのタッチパネル方式を標準としている。
Windows 8の発表とともに独自のタブレットPC Surface RTを発売、2013年に日本でも販売を開始した。OSは、Windows 8のARM版(ARM社が開発したモバイル系のマイクロプロセッサ・アーキテクチャ)であるWindows RT。Intelプロセッサとの互換機能がないため、従来のWindows用アプリ(デスクトップアプリ)対応できず、Windows ストアからダウンロードするアプリのみがインストールできる。
タブレットPCは普及するか?
タブレットPCは、1992年、2002年にも話題になり、各メーカーが新型タブレットPCを開発したが、いづれも継続的な成長にならなかった。それに対して、2010年代のブームは、パソコン全体への影響が大きいだろうと予測されている。
1992年のブームでは、ハードウェア・ソフトウェアの性能や機能が低く、利用者に満足を与える状況ではなかった。軽量な携帯パソコンとして、在庫確認用など企業での特定用途に利用されることが多かった。
2002年のときは、手書き文字入力が主なアッピールであった。たしかにメモ程度の入力ではキーボード入力よりも手書きのほうが簡単である。しかし、そのために価格が上がるのを正当化するのは困難であった。
すなわち、これまでは、個人消費者にとって、通常のパソコンと比較して、魅力のある付加価値が乏しかったのである。それは、ペンが指になっても大差はない。
2010年のブームには、それらと異なる環境がある。大きな変化が生じたのは、携帯電話やスマートフォンの普及による影響が大きい。指で画面を操作することの簡便さと快感を味わった利用者は、パソコンにも同じ機能を求めるようになった。逆に、フルキーボードが必要だとの気持ちが少なくなってきた。
さらに重要なのは、アプリケーションの変化である。画像、音声、映像など、指で操作するのに適したアプリケーションが多様になってきた。それらのコンテンツが豊富に提供されるようになってきた。特に電子書籍では、キーボードやマウスによる操作より指操作が適している。ノートパソコンでは重すぎるし、スマートフォンでは画面が小さすぎる。電子書籍はタブレットPCのキラーアプリケーションなのである。
ノートパソコンとタブレットとの境界があいまいになってきた。ディスプレイ部分を取り外してタブレットPCとして利用できるノートパソコンは、キーボードやディスク等を接続できるタブレットPCだということもできる。
2012年に発表されたWindows 8は、PC全体に大きな影響を与えた。Microsoftが、キーボード/マウス方式からタブレットのようなタッチパネル方式を標準としたのである。
このように、現在のブームはタブレットPC自体の変化というよりも、利用者側の変化やアプリケーション・コンテンツの変化に起因しているのが特徴である。これが、どう影響するかは未知数であるが、従来のパソコンがタッチパネル操作を重視するように変化することは確実であろう。