BPR、業務革新、チャンピー、IBMクレジット社、カイゼン、ERP、ERPパッケージ
1990年代前半になると、BPR(Business Process Reengineering:単にリエンジニアリングともいう)の考え方が普及してきました。M.Hammer & J.Champy は、BPRとは「(顧客満足の達成のために)、コスト、品質、サービス、スピードのような、重大で現代的なパフォーマンス基準を劇的に改善するために、ビジネス・プロセス(業務の仕方)を根本的に考え直し、抜本的にデザインし直すこと」(野中郁次郎監訳『リエンジニアリング革命』)であると定義しています。
その初期の成功例として紹介されていたIBMクレジット社の例を示します。
IBMクレジット社では、左図のように、顧客からのクレジット申込から契約までに平均6日を要していました。同社では、信用度の調査、契約の査定、金利の決定などを、それぞれの専門担当者が分業で行っていました。実際の作業にかかる時間はわずか90分なのに、各部門への転送や待ち時間が長かったのです。
それを、右図のように、各種の作業ルールを信用データベースに組み込むようにしたところ、9割以上の案件が、専門の担当者でなくても適切な処理ができるようになったのです。それにより、申込から契約までの時間を4時間に短縮することができました。また、人員も削減できたため、100倍の生産性向上になりました。
このような例は多くあります。
(フォードの例)
支払権限を支払部門から検収部門に移管した。購買部門は注文書発行と同時に注文内容を発注データベースに登録する。納入業者が部品を納入すると検収部門が発注データベースを見て納入情報を入力する。小切手はコンピュータから自動発行する。
BPR以前には500名が従事しており削減の必要があった。おそらく当初は10~20%程度の削減を見込んでいたのであろう。ところが。当時提携していたマツダでは5名でこなしていた。いかに規模が違うとはいえ、極端すぎる。それに刺激されて根本的な見直しをしたのだという。その結果、125名にすることができた。1/4になったのである。
1980年代、米国の産業界は、日本の攻勢を受けて低迷していました。それが1990年代には世界最強の国際競争力をもつまでに回復しました。その原動力が積極的なIT投資とBPRであるといわれています。
日本では、1993年に『リエンジニアリング革命』が翻訳されたのを機会に、BPRブームがおこりました。とれとともに、BPRは1980年代の日本製造業が手本だという指摘もありました。
日本では、以前から小集団活動による身のまわりの改善運動が活発でした。これが日本製品の品質面やコスト面での国際競争力を高めていたのです。1980年代には、カイゼンとして世界共通語にまでなり、欧米企業はその仕組みを研究しました。BPRはカイゼンの影響が大きいといわれています。(参照:「カイゼン運動」、
「トヨタのかんばん方式」)
しかし、カイゼンはボトムアップによる現状からの逐次改善のアプローチなのに対して、BPRはトップダウンによる論理的な根本的改革のアプローチです。そして、ITを実現のインフラとして活用することにより、成果の規模を大きくしています。
なお、当時のBPRは、企業内での業務改革が主な対象でした。1990年代末頃から企業間連携により、企業をまたがるBPRとして、SCM(Supply Chain Management)が注目されるようになりました。(参照:「SCM」)
BPRは、2000年代になるとBPMへと発展しました。
BPRは一度だけ実施すればよいものではなく、トップがリーダーとなり、全社的な運動として、PDCAサイクルにより、継続的に進める必要があります。BPRをマネジメントシステムとして実践することをBPMといいます(参照:「マネジメントサイクルとPDCA」)。
BPMを実施するには、ISO9001、COBIT、CMM/CMMIなどのマネジメント規格を組み合わせることが推奨されています。
ERPとは、購買、生産、販売、人事などの企業の基幹業務の全体を把握し、関連する情報を一元的に管理することによって、企業全体の経営資源配分の最適化および経営効率の向上を図ることです。
BPRとほぼ似たような概念ですが、BRPが抜本的な変革を重視しているのに対し、ERPは抜本的な変革だけでなく改善レベルの対策も必要だとしています。
また、情報の一元的管理の観点から、よりITの活用を重視しています。1990年代の中頃に、ERPパッケージという企業活動全般を対象にした市販のソフトウェアが出現しました。それまで購買、生産、販売、人事などの基幹業務を個別に開発していたのを、全社統一的な観点・方法論により統合しようとするものです。
ERPパッケージはBPR実現のインフラであるとされ、大企業を中心に導入が進みました。それまでは、各企業が個別の自社仕様で情報システムを構築していたのですが、ERPパッケージにより出来合いのソフトウェアを購入する傾向、すなわち「MakeからBuyへ」の傾向が進んできたのです。(参照:「ERPパッケージ」、「ERPパッケージとIT部門」)