TQCの発展
日本の製造業では、従来から職場の人たちが自主的に品質管理や業務改善を行う活動が盛んでした。それをQCサークルや小集団活動といいます。
当初はQC(品質管理)の向上を目的としていたのですが、次第に生産現場全体の改善運動へと発展し、TQC(Total Quality Control、統合的品質管理)と呼ばれるようになりました。さらに工場だけではなく事務作業などにも取り入れられ、企業全体の改善運動へと発展し、TQM(Total Quality Management)とも呼ばれるようになりました。
TQCの典型例はトヨタのかんばん方式です。このような活動により、日本製造業は優れた品質の製品を安価で生産できる体制を確立し、1980年代には、日本の国際競争力はナンバーワンになったのです。
かんばん方式の優秀性、それを支えるTQCは、世界に注目され、「カンバン」が世界共通語になりました。欧米でも類似の小集団活動が展開されましたが、トップダウンでのアプローチが進み、BPRやSCMなどの経営技法へと発展しました。
TQCの推進
TQCを推進するには3つの柱があるとされています。
- QCサークル
恒久的な組織であるが、内部での上下関係・命令関係はないという組織にします。
- 方針管理
QCサークルの活動を総合的に支援し、方向付けして効果をあげるために、
・長期計画、期間方針(重点実施項目)の策定
・実行段階での支援
・診断、評価
・QCサークルへのフィードバック
などPDCAサイクルを適切にまわす管理者が行う活動です。
- 日常管理
TQCを日常的な継続的な活動として維持発展させることが必要です。管理者の支援が求められます。
現場の作業改善
日本でのQC運動は生産現場での作業改善運動と深く結びついています。
- 3ム運動
- 作業でのムダ・ムラ・ムリをなくす(頭文字)。
尾文字を並べて「ダラリ追放運動」ともいいます。
- 5S運動
- 次の日本語の頭文字
整理:要不要を選別し、不要なものを処分する
整頓:必要なモノは必要な時に使える状態にする
清掃:ゴミや汚れの無い状態にする→整理・整頓につながる
清潔:清掃の状況維持、作業員の服装等(仕事への心構え、規律)
躾け(習慣):上記4Sの習慣化
これに「節約」(コスト意識をもつ)と「Safety」(安全)を加えて7Sといいます。
TQCを支える理論・技法
品質管理の重要性は、既に1920年代頃から認識されていました。1950年代~1960年代にはさらに重要視されるようになり、多様な技法が開発されました。
- 統計的手法
- 品質管理では、実態の把握や分析に数学的(統計的)な理論や手法が必要です。単純な分布図から多変量解析のような高度な技法が応用されています。
- 時間研究(Time Study)
- 作業時間分析法ともいいます。作業を細かな要素作業(「手を伸ばす」、「掴む」など)に分け、それらの時間を観測、記録し、分析することで、作業方法、作業条件、作業環境を検討し、改善につなげる手法の総称です。
- ワークサンプリング法(瞬間観測法)
決められた時刻に、稼働分析の対象となる作業者や設備の稼働状況を瞬間的に捉えることで、稼働状況の構成比率を求める手法です。
- ストップウォッチ法(直接時間分析法)
実際の作業の動作をストップウォッチあるいはVTRを使って実際に測定する手法です。これにより、要素作業に必要な時間を測定できます。
当然、熟練者と初心者では作業速度が違います。何らかの手段で「標準的作業者」の時間を設定します。なお、観察作業者と標準的作業者の必要時間の比をレーティング(rating)といいます。
- PTS法(Predetermined-Time Standards)
あらかじめ要素作業の動作標準時間を設定しておき、ある作業に要素作業がどの順序で何回行われるかの分析から、その作業に要する標準期間を求めます。
- サーブリッグ
要素作業につけた記号(アイコン)です、一連の作業はサーブリッグ記号で表現できます。PTS法の図示に用いられます。
- IE(Industrial Engineering)
- 時間研究の分野は、その後、行動科学、社会科学、システム工学などを活用して、生産現場全般の改善・向上、さらには経営管理の技術として発展し、IEと呼ばれるようになりました。
時間分析・稼働分析の作業測定、工程分析・動作分析・運搬分析などの作業分析、さらにそれらを組み合わせた技術からなっています。
小集団活動で広く活用される技術になっています。
- VE(Value Engineering)
- 必要な機能・品質を最低限の原価で得るために、設計や材料の仕様の変更、製造方法の変更、供給先の変更など社内外の知識を総合して組織的に永続的に行う活動です。
- QC7つ道具
- TQC(主に品質管理の分野)を行うのに必要な方法や図法を厳選して、容易に使えるようにしたものです。日本でのTQC運動実施での強力な技法になりました。後に「新QC7つ道具」も追加されました(参照:QC7つ道具)。
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米国でのTQC類似技法
米国でもTQC運動に類似した運動が盛んになりました。日本でのTQC運動に比べて論理的でマニュアル整備が進んでいることから、日本でも普及しました。
- ZD(zero defects)運動
- 無欠点運動。従業員自身の創意工夫によって仕事の欠陥をゼロにし,製品の品質や信頼性の向上を実現して、企業全体の生産性向上を図る運動です。
- 6σ(シックスシグマ)運動
- 6σとは不良品発生率を3.4/百万に抑えることですが、その数値自体にはあまり意味はなく、高品質・高信頼性を実現することを目的とした運動です。MAIC(Measurement:測定、Analysis:分析、Improvement:改善、Control:改善定着の管理)という行動プロセスを基盤にしています。TQCと比較して、統計学的な手法を取り入れた定量的評価を中心とした手法で、トップダウンでの実施が特徴です。
TQC運動とBPR
異論はありますが、BPR,SCMなどの経営技法は,日本製造業でのTQCやカイゼンを,米国が研究した結果生み出されたといわれています。
TQCとBPRを比較すると,次のような特徴が見られます(やや極端な比較にしています)。
- TQCでは、現場の自主的な活動によるボトムアップなアプローチであり、BPRでは経営者によるトップダウンなアプローチで推進される。
- TQCでは、現状からの改善を重視しているが、BPRでは、現状破壊を伴う抜本的な改革ととらえている。
- BPRのほうがIT活用を重視している。
この違いは、(当時の)日本と米国の経営文化の違いによると思われます。また、両者ともに重要なアプローチですから優劣比較は不適切です。しかし、米国方式のほうが、短期間で大きな成果を得るのに適していますし、経営戦略と密着した活動になります。その違いが企業の競争力の違いとなり、1990年代になると、日本製造業の国際競争力は低下してしまいました(参照:国際競争力ランキング。それを挽回するために、米国流の方法を逆輸入しているのです。