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情報サービス業の定義と規模

他社の情報システムの開発や運用を受託してサービスを行う企業を情報サービス業といいます。IT技術者を志向する人の多くは、情報サービス業の企業に就職すると考えられます。それで、ここでは、情報サービス業について説明します。

キーワード

受託開発ソフトウェア業、システムインテグレータ


情報サービス業は、情報化の進展に伴い発展してきました。日本標準産業分類は、時代の変化に伴い区分の改定が行われるので、時系列で比較するには厳密性を欠きますが、長期的には大きな成長を遂げてきました。 (図表)
 現在では、全産業のうち情報サービス業が占める割合は、市場規模、GDP、雇用者数ともに2.5%近くに達しています (図表)。 情報サービス業は、日本経済を支える大きな産業分野なのです。

情報サービス業の定義

国での統計調査の基本となる「日本標準産業分類」では、情報サービス業は、大区分「G 情報通信業」(2007年改定以前はH)、中分類「39 情報サービス業」として位置付けられ、さらに細分されています。(図表)

情報サービス業に関係する統計のうち、定期的に調査をして、その結果をWeb公開している主なものを掲げます。

大区分「情報通信業」には、テレビ局や出版社なども含まれます。このうち情報サービス業が占める割合は3/4程度です (図表)。 さらに総務省「情報通信白書」の「情報通信産業」では通信機器メーカーや電気工事まで含まれるので、情報サービス業の割合は、売上高では約20%、従業員では約30%程度です (図表)
 これらは、IT技術者の職場として取り扱うには広すぎます。このような区分を理解していないと誤解を招くことがあります。

中区分「情報サービス業」は、「管理、補助的経済活動を行う事業所」「ソフトウェア業」「情報処理・提供サービス業」の総称ですが、ソフトウェア業と情報処理・提供サービス業には異なる特性があります(図表)。情報サービス業のうち、ソフトウェア業が約70%を占めています。なお、「管理、補助的経済活動を行う事業所」は、新設されたばかりなので、多くの統計では独立した業種になっていません。

390 管理、補助的経済活動を行う事業所
2007年の改訂により新設されました。管理事務だけを行う本社などがこれに相当します。新設であり事業所数が少ないので、各種統計では他の2つにに含まれることが多いのです。
  • 3900 主として管理業務を行う本社等
  • 3909 その他の管理、補助的経済活動を行う事業所
391 ソフトウェア業
  • 3911 受託開発ソフトウェア業 (説明)

    顧客が独自の情報システムを構築するにあたって、顧客の委託により,コンピュータプログラムの作成をしたり、それに伴う調査,分析,助言などを行う事業所です。なお、一般の経営コンサルタント業[8093]は、情報サービス業には含まれません。

  • 3912 組み込みソフトウェア業 (説明)

    組み込みソフトウェアとは、携帯電話や自動車などの電子部品に組み込まれているソフトウェアのことです。組み込みソフトウェア業とは、それらの機器のメーカーから受託する事業所です。以前は受託開発ソフトウェア業に含まれていたのですが、その技術や環境が通常の販売システムや会計システムなどの開発と大きく異なるので、2007年の改定により分離されました。

  • 3913 パッケージソフトウェア業 (説明)

    パッケージソフトウェアとは、OS、オフィスソフトなど、多数の顧客の利用を意図して作成される市販ソフトのことです。パッケージソフトウェア業とは、パッケージプログラムの作成及びその作成に関して,調査,分析,助言などを行う事業所です。マイクロソフトは代表的なパッケージソフトウェア業です。

  • 3914 ゲームソフトウェア業 (説明)

    従来はパッケージソフトウェア業に含まれていたのですが、ゲームソフトは独自の発展をしていることから、2007年の改定により分離されました。

392 情報処理・提供サービス業
  • 3921 情報処理サービス業 (説明)

    これには大きく2つあります。
    ・自社のコンピュータを用いて、顧客のコンピュータ処理を受託する事業所で、計算センター、ホスティングサービス、タイムシェアリングサービスなどともいいます。
    ・帳票などからコンピュータデータを作成することを受託する事業所です。データエントリー業、パンチサービス業などともいいます。中小の情報処理サービス業はほとんどこれです。

  • 3922 情報提供サービス業 (説明)

    不動産情報,交通運輸情報,気象情報,科学技術情報など各種のデータを独自に収集,加工,蓄積し,情報として提供する事業所です。データベースサービス業ともいいます。

  • 3929 その他の情報処理・提供サービス業 (説明)

    市場調査,世論調査など,他に分類されない情報処理・提供サービスを行う事業所です。なお、ニュース供給業[4151]、興信所[8091]、観光案内業(ガイド)[8399]などは情報サービス業以外の産業に分類されます。

情報サービス業の構成では、ソフトウェア業が約75%、情報処理・提供サービス業が約25%です。小分類では受託開発ソフトウェア業が全体の60%強を占めています。そのため、「情報サービス業」「ITベンダ」というとき、受託開発ソフトウェア業のことを指していることがあります。 (図表)

情報サービス業の多様な分類

日本標準産業分類では分類しにくい業態があります。
 情報サービス産業協会では、情報サービス業会員を対象にしています。基本的には日本標準産業分類に従っていますが、会員の構成を考慮して、システムインテグレータ(後述)などの業種に区分したり、小区分を適宜まとめたりしています (図表)

システムインテグレータ(SI)
実際に情報システムを構築するには、単にプログラムを作成するだけでなく、ハードウェア、OSやミドルウェアの利用、ネットワークの構築など多様な分野がありますが、これらの全分野に対処できるベンダは稀です。また、情報システムの規模が大きくなると、プログラム作成だけでも複数のベンダに分割発注する必要もあります。
 ユーザ企業が、多数のベンダに分割発注する場合、全体の調整を図ることや、トラブルが発生したときの原因を特定することが必要ですが、これらを円滑に行うには、高度の知識や経験が求められます。通常のユーザ企業では、そのような人材を確保するのが困難です。
 システムインテグレータとは、建設業のゼネコンのように、ユーザ企業の情報システム開発プロジェクト全体を一括して請け負って、それぞれの分野で適切な企業に分割して発注する業種です。これは元請-下請の関係とはやや異なります。下請に出すというよりも、各分野での専門能力を統合してマネジメントすることを専門とする業種だととらえるのが適切です。 (図示)
アウトソーシング(SO)
システムインテグレータは、個々の開発プロジェクトを請け負うのですが、例えば5年間というような長期にわたって、特定のサービスを一括契約する形態もあります。それをアウトソーシングといいます。
 ユーザ企業(発注者)は、アウト-シングすることにより、自社のIT部門を経営戦略へのITの活用といった戦略的な任務に専心させることができます。また、ベンダ企業(受注者)は、これにより長期的な安定した受注が得られることになります。そのため、大企業ユーザの多くがアウトソーシングをするようになりました。

資本系列から、(コンピュータ)メーカー系、ユーザ系、独立系に区分できます。全体に占める割合は、売上高では3つともほぼ同じなのですが、会社数では独立系が60%程度なのに、メーカー系は10%程度です。独立系では小規模な会社が多く、メーカー系では大規模な会社が多いといえます。(図表)

メーカー系
富士通やNECなど、コンピュータメーカーがハードウェアからソフトウェア、サービスへと事業を拡大しており、しかもサービスの比率が増大しています(説明)

コンピュータが企業で活用されるようになった当初では、コンピュータメーカーとユーザ企業のIT部門だけで情報システムを構築していました。メーカーはコンピュータのハードウェアを売るのは目的であり、ソフトウェアはその付属品に過ぎず、ユーザ企業のシステム開発への支援は、売るためのサービスに過ぎなかったのです。
 それが現在では逆転しています。ほとんどのコンピュータメーカーは、最大の利益がサービス分野になりました。それに対応して、サービス専門の部門や関係子会社を積極的に展開しています。
 当然、大企業が多く、企業数の比率は小さいのですが、従業員数、売上高では大きな比率になっています。
 これまでにメーカーとして長年の関係をもつ顧客があり、分離してからもメーカーの営業を通した受注が得られます。ハードウェアも含めた総合的な受注ができます。しかし、メーカー製品に制約を受けることもあります。

ユーザ系
NTTや野村証券など、従来のユーザ企業から子会社として分離したIT部門が、第三者を対象とした情報サービス業に進出し発展しています(説明)

ユーザ企業では、業務の多角化のため、IT部門を戦略部門化するために、プログラム作成や運用の分野を情報子会社として分社化するようになりました。その情報子会社は、成長発展するために、親会社やグループ企業の枠をこえて、第三者へのサービスに進出するようになりました。独立してからも、親会社やグループ企業から比較的安定した受注が得られます。実際にシステムを活用したノウハウが大きい武器になりますが、専門分野が偏ることもあります。
 ユーザ系のなかに、コンサルタント系があります。経営コンサルタントが、提案の実現にはITの活用が必要であるとしてIT分野へ進出したものです。この場合は、子会社にするのではなく本体が行うことが多いようです。そのため、上流工程に偏る傾向があります。

独立系
当然、メーカー系やユーザ系ではない情報サービス業もあります(説明)

情報サービス分野の成長により、当初からこの分野を対象として設立した企業です。なかには、メーカー系やユーザ系を買収して成長したものもあります。系列からの束縛がないため、どこのメーカーの製品も自由に活用できる長所がありますが、安定した受注先に欠けるため経営基盤が弱い傾向があります。営業力強化が重視されます。
 大企業もありますが、中小の企業が多く、企業数比率にくらべて従業員数・売上高比率が小さくなっています。


理解度チェック: 正誤問題選択問題記述問題