スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第6章 IT推進組織とその運営

CIOに必要な知識スキルと現実


CIOに必要な知識・スキル

CIOは、ITの最高責任者であり、経営戦略とIT戦略を統合することが任務ですから、経営とITの双方に関して、広く高い知識スキルが求められます。

CIOのコアコンピタンス

CIOがもつべき知識スキルの標準として、日本では、 経済産業省「CIO育成のためのコアコンピタンスと学習項目の調査研究 報告書」、米国では「Clinger-Cohen Core Competencies Learning Objectives」があります。これらは、中央官庁などを対象にしていますが、表現を変えれば民間企業でも使えます。
 経済産業省のものでは、CIOが持つべき経験と知識について,13の大項目,82の中項目,589の小項目を列挙しています。そして,それぞれの項目について,一定のレベルであることが目標とされています。 参照:「CIOに必要な知識・スキル」

CIOに必要な知識・スキル (拡大図)

EA:IT推進の方法論として

上図に「エンタープライズ・アーキテクチャ」があります。これは通常EAと略され、政府では「業務・システム最適化計画」としています。組織全体の業務と情報システムを全体最適の観点から体系的に整理するための方法論です。
参照:「EA」経済産業省「EAポータル」

CIOがEAの詳細まで習得するのは困難ですが、その概念と体系はIT戦略の基本ですので、理解しておく必要があります。また、EAでは標準的な図表化を進めています。最近「可視化」とか「見える化」がいわれていますが、その手段として重要です。CIOにとって、図表を作る能力は求めないにしても、「読んで理解する」能力は必要です。関係者がいかに「見える」ようにしても、経営者が「見る能力がない」のでは、コミュニケーションが成立しません。

COBIT:ITガバナンスのチェックリストとして

ITガバナンスをするための着眼点、現状レベルの把握、将来計画などを行うための標準としてCOBIT(Control Objectives for Information and related Technology)が有名です。COBITはCIOの業務マニュアルだともいえます。その概要だけでも理解しておくことを勧めます。
参照:「ITガバナンスとCOBIT」

兼任CIO、素人CIOが多い

このように、CIOにはITの分野でも広く高度な知識スキルが求められます。米国では、SIS、ダウンサイジング、インターネットなどIT活用でのパラダイムシフトに対応して、CIOに求める任務が変化し、その過程においてCIOがプロフェッショナルな職務として認識されました。そのようなCIOはほとんど専任になっています。
 それに対して日本のCIOは、他業務との兼任が多く、ITに関する知識スキルが低い状況です。例えば、COBITやEAという言葉すら聞いたことがないCIOが多くいるのです。
参照:「CIOの任務と現状の問題点」

素人CIOでは困る

このようなCIOが、戦略部門としてのIT部門を適切に指導できないのは当然です。理解できるのはカネのことなので、アウトソーシング先への支払いやシステム開発の予算管理にばかり関心を持ちます。IT部門も戦略部門としての訓練を受けていないので、アウトソーシング先のコスト計算や価格交渉、プロジェクトの予算超過防止などが主要な任務になってしまいます。
 経営者の多くが、IT部門が「提案をしないこと」に不満をもっています。しかし、CIOが具体的な問題提起や具体的な質問をしなければ、まともな提案はできません。自分からは問題を示さずに、「提案せよ」というだけで、提案の欠点を指摘するだけで建設的な方法を示さない「赤ペンCIO」になりがちなのも困ります。
 また、いつになってもIT用語を理解しないのも困ります。CIOはIT部員に対してはIT技術者同士なのです。日本人同士の会話に日本語を禁止するようなもので、IT部員は「あの人と話すと疲れる」ので敬遠してしまいます(蛇足:疲れる理由)

●話が通じない
 IT部員は英略語を乱発し、それがIT部門の欠点だとよくいわれます。IT部員が留意すべきなのは当然ですが、CIOも努力しなければなりません。CIOはITを統括することも任務なのですから、IT部門とは内部の関係です。それなのに、素人CIOはIT用語を理解しようともしません。
 例えば、OSという用語を使わないことにしましょう。「基本ソフトウェア」と訳しても何が基本なのかわかりません。ハードウェアやソフトウェアをコントロールするもので執事のようなものだといってもピンときません。それに、OSというたびにこんな表現をしたのでは、落語の寿限無のようになってしまいます。当初は聞き返しても早期に基本語は理解してほしいものです。
●部外者的言動は困る
 CIOがIT部門に対して、利用部門の立場から指導するのは適切なことです。しかし、出身部門の代理人のような立場になるのは困ります。利用部門からの要望には支援するが、IT部門の悩みに「そのようなことはIT部門内部の問題だ」として無関心なCIOもいます。また、兼任の他業務に熱心でCIOとしての業務にあまり関心を持たず、IT部門にあまり顔を見せない人もいます。
 このようなことが続くと、IT部門は「あの人と話すと疲れる」し、「どうせあの人は部外者だ」と思うようになり、CIOとのコミュニケーションを避けるようになってしまいます。

では、なぜ兼任CIO、素人CIOが多いのでしょうか? やや偽悪的ですが、次のような人選が行われているのではないでしょうか。
 最大の理由は、CIO候補者になるべき経営陣に、ITがわかる人がいないからでしょう。それは経営陣が(タテマエはともかく)ホンネでは、ITを軽視しているからです。ITなど知らなくても経営者になれるからです。
 これは、IT部門出身者は経営者になりにくいことになり、IT部門の社内的地位が低いことの背景にもなっています。しかも、CIOをIT部門担当役員だと認識しています。社内的地位が低い部門を担当するCIO業務が軽視されるのは当然です。
 それで、CIOなどは誰でもよいということになり、取締役間でのパワーバランスの関係で、部下が少ない人にCIOも兼任させるような状況になるのです。