主張・講演情報システム部門の戦略部門化とアウトソーシング

CIOの任務と現状の問題点

CIO(Chief Information Officer)とは,情報担当役員のことで,経営の観点から企業の情報活用をマネジメントします。CIOが情報システム部長を兼任することもありますが,日常的な管理は情報システム部長に任せて,CIOは政策決定や多部門に関する事項を掌握するのが通常です。情報化に関する最高責任者であり,ITガバナンスの総元締です。
 ここでは,CIOの役割が時代とともに変化してきたこと,現在のCIOの状況などについて考察します。


CIOの任務の変化

経営者は情報化に積極的に関与するべきだとは,企業にコンピュータが導入されるようになった頃からいわれていましたが,1980年代から職制として重視されるようになり,現在では社長自身がCIOになるべきだともいわれるようになりました。

第1次(1980年代後半)SIS→素人CIO

1980年代中頃にSIS(Strategic Information System:戦略的情報システム)の概念が普及して,「情報は第4の経営資源」とか「情報技術は競争優位確立の武器」だといわれるようになりました。
 経営の観点から情報システムをマネジメントするためには,情報技術の専門家である従来の情報システム部長ではなく,経営者が直接に情報システムを運営するべきだとされ,CIOの職制が導入されるようになりました。

CIOには経営と情報技術の両方の知識経験が求められますが,当時の役員クラスに情報技術知識を持つ者はほとんどいないので,情報技術の素人がCIOとして任命されることが多かったのです。あまりにも「経営」を強調すると,その対語である「技術」を蔑視しがちです。「情報システム部門は情報技術に特化した技術バカ」だから「SEあがりをCIOにするな」いう風潮が生じ,情報システム部門の社内的地位は急激に低下したのです。

第2次(1990年代前半)ダウンサイジング→情報技術を持つCIO

1980年代末頃から,パソコンの価格性能比向上やLAN技術の発展により,ダウンサイジングが大規模に行われるようになりました。
 米国では,汎用コンピュータを全廃して,基幹業務系システムさえもCSS(クライアント・サーバシステム)環境に移行するようになりました。ところが当時は(現在でもそうですが)情報技術のパラダイム変革期であり,パソコンも通信も信頼性が低く,しかも不連続的な革新が頻繁に発生していました。そのような環境において,どのような技術を選択すれば将来的に有利であり,リスクが回避できるのかが大きな課題になりました。
 ところが頼みとする情報システム部門は既に地盤低下していますし,素人CIOには適切な方向を示すだけの能力はありません。それで「経営的視点なら社長(CEO)でもわかる。情報技術を知らないCIOは去れ」ということで,素人CIOが粛清され,経営面と技術面に通じたCIOが出現したのです。

それに対して,日本では完全なダウンサイジングは行われませんでした。CSS環境は導入され汎用コンピュータの削減はしましたが,依然として基幹業務系システムの多くは汎用コンピュータが残ったのです。それで,米国のような深刻なCIO問題は発生せず,素人CIOが生き残ってきたのです。
 実はこれが現在のCIO問題や情報システム部門問題に大きく影響するのですが,それに関しては後述します。

第3次(1990年代後半)インターネット→経営者=CIO論

インターネットの爆発的な発展は,経営全般に大きなインパクトを与えています。もはや情報戦略は経営戦略と同義語であり,トップ自身がCIOになるべきだともいわれるようになりました。このような状況では,CIOだけでなく全経営陣が経営と情報の双方に関する知識能力が求められますし,CIOはさらに高度な能力が要求されます。

ところが,日本では未だに第1次の素人CIOが多いのです。逆に,第3次CIOとして適切な人材を得た企業では大きな成果をあげています。次節では,それについて考察します。

CIOの現状

現在のCIOの状況はどうだろうか。これに関して,「日経情報ストラテジー」2004年2月号が「IT投資で成果を出す変革的CIO」として,2003年10月に有力企業を調査したものを分析した特集を組んでいます。また,富士通の先進ユーザ企業の研究会であるLS研では,メンバー各社にCIOに関する調査をしています(LS研IT白書,以下の数字はユーザ企業のみ)。双方も同じような結果になっています。

 日経情報ストラテジーLS研IT白書
CIOの有無と役職
(CIOは多いが
役職は低い)
最高決定機関メンバー:45.7%
取締役:11.0%,執行役員:13.0%
非役員:17.6%,その他:5.6%
いない,無回答:7.1%
専務以上:20.9%,常務:27.6%
取締役:17.9%
その他:8.1%
いない,無回答:26.1%
CIOの専任度
(兼任が多く換算
すれば50%程度)
専任:   27.2%
3/4程度: 4.3%
1/2程度:19.5%
1/4程度:49.0%
80%以上:25.3%
30%以上:29.3%
30%未満:42.4%
無回答:   3.0%
CIOの主な経歴
(IT部門が少ない)
または経験年数
(よく替わる)
主な経歴
情報システム:32.6%
経営企画:  20.7%
経理・財務: 13.0%
営業・販売: 12.7%
その他:   21.0%
CIO経験年数
5年以上:32.3%
1年以上:35.4%
1年未満:29.3%
無回答:  3.0%

役職が低い

CIOは,経営戦略策定に携わり情報化戦略の円滑な実現を図るのが任務ですから,社務全般を総合的に把握できる役職,通常は常務以上の役職であることが適切です。上のグラフでの「全社の意思決定機関のメンバー」がそれに相当しますが,半分にも達しません。役員でない者や執行役員がCIOとしての任務を遂行するには,かなり個人的力量に左右されるでしょう。

兼任状況

情報システムを戦略的に活用するには,戦略部門である経営企画部門やマーケッティング部門を兼任することは適切であるともいえます。しかし,CIOの役割には,下のグラフのように重要な任務があります。これらを兼任で任務をまっとうするのはかなり困難でしょう。実際に,専任度が30%以下の兼任CIOのときには,予算策定のような定例的な任務では差はありませんが,CIOの最も重要な任務である「ITビジョン/戦略の策定」では大きな違いが生じています。
 その違いは,業績の差にもなります。専任のCIOがいる企業は兼任CIOの企業と比べて,業績が向上しています。もっとも,業績向上が情報活用によるものかどうかは不明確ですし,業績が好調だから専任のCIOをおく余裕があるのだともいえますが,これだけ大きな違いがあることには注目するべきでしょう。

CIOの任務

CIOの経歴

CIOは,その任務上,ある程度の情報技術の知識経験が必要なはずですし,それには情報システム部門の経験が最も適していると思われるのですが,その経歴を持つCIOはむしろ少数派なのです。それどころか,「日経情報ストラテジー」1999年1月号によれば,上場企業の2/3では情報システム部門出身の役員が1人もいないのだそうです。
 また,CIOの継続期間が短いのも問題です。上の表から類推すると平均2年〜3年程度であり,役員任期が2年だとすれば再任されない確率が半々だということにことになります。しかも情報システムの経歴が乏しいのです。
 頻繁に交替するCIOに対して情報システム部門などの関係者がマジメに御前説明をするでしょうか? 専任度の低い先任者が十分な引継ぎをするでしょうか? そのような状況で本当にITを理解して抜本的な方針を決めることができるでしょうか? 方針を策定したところで,最高責任者がすぐに替わる環境ではどれだけの実現強制力があるでしょうか? 「腰掛けCIO」では,ダメなのです。
 自社製品の基本的な特徴を知らないマーケティング担当役員や財務諸表が読めない財務担当役員を想像できるでしょうか? CIOはかなり奇妙な存在だといえます。「CIOにとっては,情報技術知識は不要」なのでしょうか? 情報技術知識は必要だとしても「情報システム部門の経験はCIOの任務とは無関係」なのでしょうか? それとも,情報システム部門の経験が必要なのだが「情報システム部門出身者は役員として不適切者」なのでしょうか?

前述のように,日本では「第2次CIO」を体験しませんでした。それで「第1次CIO」がそのまま今日まで生き延びてきたのではないでしょうか。
 当然ながら第3次は第2次の上に存在するのですし,インターネットのインパクトはダウンサイジングの比ではありません。いまこそ情報技術知識を持つCIOが求められているのです。


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