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CIOに必要な知識・スキル


CIO(Chief Information Officer)は組織における情報戦略の最高責任者です。そのため,CIOには、ビジネスとITに関する幅広い知識・スキルが要求されます。日本と米国の政府による基準「CIOコアコンピタンス」紹介します。

クリンガー・コーエン「CIOコアコンピタンス」

米国では,1996年のクリンガー・コーエン法(ITマネジメント改革法)が成立し,それに基づき,有識者がCIOコアコンピタンス案を作成した後に、大学関係者と検討を加えた上でクリンガー・コーエン・コアコンピタンスとして米国政府がオーソライズしました。その後改訂が行われています。ここでは2006年版を対象にします。
「2006 Clinger-Cohen Core Competencies Learning Objectives」 (http://www.cio.gov/documents/2006ClingerCohenCCLearningObj.pdf)
その体系:「小尾敏夫・岩崎尚子「CIOに必要な83の能力」日経情報ストラテジー,2007年5月号,p.89 (cc2006)

米国では,各大学にカリキュラムの作成を依頼し、そのカリキュラムをCIOカウンシルが認定することによって、コースの卒業生にCIOの認定が与えられる仕組みになっています。

2006年に改訂されましたが,大項目での改訂はなく,次のように日本版とほぼ一致しています。内容では日本版が行政への特化が強いのに比較して,それが比較的弱く民間CIOとの共通点が高い傾向があります。また,2004年に日本版が追加した項目を2006年版で取り入れている部分もあります。

  米国版CIOコアコンピタンス       日本版CIOコアコンピタンス
  1.政策と組織              1.政府、自治体の仕組み
  2.リーダーシップと管理能力       2.組織の管理と人材育成
  3.プロセス・変革の管理         3.業務の管理と変更管理
  4.情報資源戦略・計画          4.情報資源戦略および計画
  5.IT成果評価のモデル・手法      5.パフォーマンス管理
  6.ITプロジェクト・プログラム管理   6.プロジェクト/プログラム管理
  7.資本計画と投資管理          7.投資評価
  8.調達                 8.調達
  9.電子政府・電子商取引         9.電子政府/eビジネス/電子商取引に関する動向
  10.情報セキュリティと情報保護     11.情報セキュリティと情報保全
  11.エンタープライズ・アーキテクチャ  10.エンタープライズ・アーキテクチャ
                       12.アクセシビリティとユーザビリティ
  12.技術経営と評価           13.社会環境と技術

経済産業省「CIOコアコンピタンス」

政府においては,府省での政策統括責任者(CEO)である大臣もしくは事務次官とともに、官房長(一部府省は事務次官)を中心とした省庁幹部がCIOになっています。また,CIOをサポートする補佐としてCIO補佐官が配置され、専門的知識から助言を行うとともに、実際の省庁の情報化に関する活動を行っています。

(拡大図)

当面はCIO補佐官は民間の有識者から任命していますが,その任命基準を明確にするため,また,内部での育成をするために,CIOについてその位置づけや、必要な能力、活躍できる体制、人材の育成などについて基準を作る必要があります。

CIOがその任務を達成するには,「経験」「知識」「人的資質」「ツール」「組織」が必要になります。

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それで,経済産業省は、2004年に米国のCIOコアコンピタンス(後述)を参考に、「CIO育成のためのコアコンピタンスと学習項目の調査研究 報告書」 (http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/data/report/r5/r5.pdf)を発表しました。CIOがもつべき知識・スキルとその学習項目案を示しています。

ここでは,CIOが持ちべき経験と知識について,13の大項目,82の中項目,589の小項目を列挙しています。そして,それぞれの項目について,一定のレベルであることが目標とされています。
「5.2 日本版CIOコアコンピタンス案と学習項目案」(小項目省略) (meti-cio-coreconpitance)

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IT戦略本部の「CIO知識体系」

https://cio.go.jp/assets/ciobok_mapping_2-1.pdf

①経営戦略
主に企業に蓄積された情報や情報技術(IT)を活用したビジネスモデルの変革を担うために必要となる経営学や社会潮流に関する知識を指す。
②情報活用戦略
企業内外の情報を蓄積、分析し、活用する際に必要となる概念や具体的な手法に関する知識を指す。
③業務・プロセス改革
業務改善・プロセス改革を実施するにあたり求められる、企業の業務プロセスを分析する手法(モデリング手法)や業務改善手法に関する知識を指す。
④IS戦略・ITガバナンス
企業の全社戦略や事業戦略の実現を目的として、企業グループ全体の複数の情報システム(IS)を最適に利活用するための計画の立案・実行に必要な知識を指す。また、IS戦略・ITガバナンスは対象範囲は広範なため、さらに「IT投資管理」「組織、人材育成」「IT技術変革潮流」「ITリスク管理」に分けて整理している。
  • IT投資管理
    企業全体の視点から、情報システムに関する投資管理の仕組みを構築し、コスト及び効果の見直しや調整を行うための概念、手法に関する知識を指す
  • 組織、人材育成
    企業のIT活用を円滑に行うことを目的として、企業のIT人材の育成、評価、及び組織運営の仕組みを構築、管理するための概念、手法に関する知識を指す
  • IT技術変革潮流
    ISの最適化を検討する際の前提として、情報システムの歴史と進化の変遷や基礎的なITに関する知識、最新のIT動向に関する知識などを指す。
  • ITリスク管理 企業のITに関するリスク(情報セキュリティ・コンプライアンス等)を管理するための概念、手法に関する知識を指す。
IS実行管理
IS(情報システム)の個別プロジェクトの目的の達成のために求められる計画の立案・実行に必要な知識を指す。また、IS実行管理は対象範囲が広範なため、さらに「プロジェクト管理」「IT調達管理に分けて整理している。
(IS実行管理の知識は、主にIT部門長に求められる知識あるが、CIOにおいても基本的な知識を有する必要がある。)
  • プロジェクト管理
    ISの構築にあたり、想定する品質、コスト、納期を達成するために適用するプロジェクトマネジメント技法に関する知識を指す。
  • IT調達管理
    ISの適切な調達を行うために求められる調達戦略立案、外部委託先管理等に関する知識を指す