スタートページ主張・講演経営者・利用部門のためのIT入門第4章 個別システムの調達(2)

ERPパッケージ


給与計算や財務会計などの業務は、ほとんどの企業でシステム化していますし、多くの企業が同じような処理をしています。それで、ベンダが標準的なソフトウェアを構築しておき、それを利用するほうが便利です。それをパッケージといいます。特定業務を対象にした個別業務パッケージは、1980年代でも「MakeからBuy」へというキャッチフレーズで普及していました。
 1990年代になると、ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージが注目されるようになりました。ERPパッケージとは、統合業務パッケージともいわれ、企業の業務全体をカバーするパッケージのことです。大企業では1990年代にERPパッケージへの移行が行われ、現在ではほぼ飽和状態になっており、中堅・中小企業が対象になってきました。

多くの企業がすでにERPパッケージを導入しているので、ここでは、その運用を見直す観点から、利点よりも留意点を主にします。

ERPパッケージの利点

パッケージの利用には、次の利点があります。

ERPパッケージには、個別業務パッケージの利点に加えて、次のような利点があります。

ERPパッケージ導入・運用での留意点

ERPパッケージが広く利用されるのに伴い、問題点も多く指摘されるようになりました。

継続費用への留意

いったんERPパッケージに移行したものを、自社固有のシステムに戻すのは膨大な費用と時間がかかります。ERPパッケージの導入は、後戻りができない決定なのです。
 ERPパッケージに限らず一般にソフトウェアは買取費用だけでなく保守料がかかります。これはERPパッケージそのものの機能アップを対象としたもので,個々の企業での業務アプリケーションの機能改善のためではありません。ですから,当初開発した情報システムに全然手を加えなくても費用が発生するのです。
 保守料はERPパッケージによりまちまちですが,なかには買取価格の20%以上のものもあります。ですから5年ごとに新しいERPパッケージを購入しているようなものです。高価なERPパッケージの場合には,毎年1億円以上の保守料を払うようなケースもあります。
 また、ERPパッケージのバージョンアップにより、サーバ、クライアントのOSやネットワークシステムを最新のものに変更する必要が生じることもあります。このような費用は多大なものになります。それが重荷でバージョンアップが行えないという現象もあります。

高価なERPパッケージを導入すると、その成果をあげるために、できるだけ多くの業務をERPパッケージで実現しようとしますが、これは不適切です。例えば、利用部門は非定例的・非定型的な情報入手を要求します。ERPパッケージもそれに応じた機能をもっています。しかし、そうするとERPパッケージはますます肥大化します。アドオンも多くなります。EUCにすべき分野はERPパッケージと分離して、ERPパッケージをできるだけ身軽にしたほうが、結果として安全だし、費用を抑えることができます。

BPRの実現を目的とする

ERPパッケージ導入には多大の費用がかかりますので、単にシステム改訂のコストダウン対策としたのでは、その効果は十分ではありません。ERPパッケージの効果をあげるには、業務の仕方や組織構成などを抜本的に変革すること、すなわちBPRを行うことが必要です。ところが、ERPパッケージによる情報システムは稼働したが、BPRが実現されていないことがよくあります(その例)

ERPパッケージでのシステム構築はしたが,本来の目的であったBPRの実現ができていないという現象が多くあります。「日経コンピュータ」(2002年7月1日号)や「日経情報ストラテジー」(2002年7月1日号)でそれを特集しています。このような特集が組まれること自体が,ERPパッケージに期待した目的が達成されていないこと,アプローチに問題があったことを示しています。
 ERPパッケージによるシステム開発は、その経験がないこと、対象が大規模であることなどにより、多くのトラブルがあり苦労します。予定したよりも費用がかかり納期が遅れがちです。担当者も経営者も、ともかくシステムを構築することに関心が集まり、本来の目的を見失うことになるのです。

カスタマイズ(アドオン)の抑制

自社環境に合わせることを(広義の)カスタマイズといいます。それには、部門構成を定義するとか、定額償却/定率償却を選択するなど、メーカーが想定しておりパラメタで指定できる(狭義の)カスタマイズと、メーカーが想定していない自社独特の処理で、プログラムを作成する必要のあるアドオンがあります。
 アドオンを多く行うと、ERPパッケージの利点が生かされません。それどころか、ERPパッケージのバージョンアップのたびに、アドオンした部分が正常に動くことを確認する作業が発生します(その例)
 カスタマイズ(アドオン)を極力抑えることが、ERPパッケージ導入を成功させる秘訣だといわれています。すなわち、ERPパッケージに合わせて、業務の仕方を変えることになります。逆に、自社固有の機能が重要な業務にERPパッケージを用いるのは不適切です。

大手の給湯器メーカー(ノーリツ)は、1996年から4年がかりで構築したERPパッケージ(SAP社R/3)によるシステムを、運用に入る直前に、全面廃棄にして16億円の特別損失を計上しました。
 同社は生産管理や受注管理で優れた方式をもっていました。それで、ERPパッケージを導入するのに、自社の優れた方式を取り込もうとして、多くの外付けシステム(アドオン)を開発しました。それで開発費用が大きくなったのです。さらに、ERPパッケージをバージョンアップするときには、外付けシステムの動作検証や修正にさらに数億円の追加費用がかかると予想されました。その費用をかけるのであれば、自社でカスタムメイドするほうが安上がりだと判断したのです。

適切なERPパッケージとベンダの選択

カスタマイズを少なくするということは、システムに業務を合わせることになります。また、ERPパッケージには、製造業に適したものや小売業あるいは医療業界など特定の業種に特化したものなど多様です。それで、自社ニーズとERPパッケージの機能を比較検討(フィット・ギャップ分析という)して、適切なERPパッケージを選択することが重要です。

ERPパッケージそのものは単なるプログラムの集合体です。それを自社のニーズとマッチさせ、BPR実現に結びつけるには、適切な経営コンサルタントや優秀なベンダの協力が必要です。ビジネスパートナーとして適切なコンサルタント、ベンダを選定することが重要です。

経営者の継続的なリーダーシップが重要

情報システムの構築にあたっては、ユーザニーズを満足させることが重要だといわれてきました。ところが、カスタマイズを抑えることはユーザニーズが満たされないことになりますし、BPRという経営戦略の実現が目的であるとされます。すなわち、「ユーザ主導から経営主導へ」の大変換なのです。
 また、多大な費用がかかること、業務改革への利用部門の協力を得ることなどから、通常のシステム開発と比較して、さらに経営者の積極的なリーダーシップが重要になります。このことは、導入時には経営者も自覚しているのですが、時間が経過するのに関心が低くなる傾向があります。それが上記のような留意点が顕在化してきた原因になっていることが多いのです。