スタートページ主張・講演自治体とIT

地方自治体におけるWebアクセシビリティ
の重要性について(岩倉市)

本稿は、2007年12月20日に愛知県岩倉市殿の職員研修で行った講演の要旨を、岩倉市殿のご了承を得て掲載したものです。


いただいたテーマは「Webアクセシビリティ」ですが、ここでは、それに加えて、「利用者に使いやすい」、さらには、「役に立つ」Webサイトにするにはどうするかをテーマにしたいと思います。

Webアクセシビリティ
狭義には、目や手が不自由な障害者・高齢者がWebページを閲覧するときの障害を除くことです。Webサイトのバリアフリーというような概念です。
Webユーザビリティ
障害者や高齢者だけでなく、一般の利用者にとって使いやすいWebページにすることです。一般に、ユーザビリティに考慮することは、障害者や高齢者にも使いやすいWebページになります。それで、ユーザビリティも含めて(広義の)アクセシビリティということもあります。
役に立つWebサイト
そもそも地方自治体がWebサイトを開設するのは、住民への情報通知、住民との意見交換を円滑にするためです。さらに進んで、地域の観光や産業を、地域外へも広くPRすることにより、地域の発展に役立てることにあります。

Webアクセシビリティ

狭義のWebアクセシビリティ、すなわち、障害者や高齢者対象のバリアフリーについて考えます。

Webアクセシビリティは「義務」

Webアクセシビリティを考える際に基本的なことは、Webアクセシビリティを守ることは、障害者や高齢者への「思いやり」ではなく、法律で定められた「義務」なのだということです。

IT基本法
IT基本法(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/hourei/index.html)の第8条(利用の機会等の格差の是正)では、「地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく格差の是正が積極的に図られなければならない」としています。
障害者基本法
障害者基本法( http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/kaisei.html) の第6条の2(国民の責務)では「障害者の人権が尊重され、障害者が差別されない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」としています。
さらに地方自治体には、第19条(情報の利用におけるバリアフリー化)で「国及び地方公共団体は障害者に対して情報を提供する施設の整備等が図られるよう必要な施策を講じなければならない」と義務づけしています。 (同法抄録)

地方自治体WebサイトとWebアクセシビリティ

特に地方自治体のWebサイトは、Webアクセシビリティが求められます。
 地方自治体では、すべての住民に公平な権利を保証する義務があります。ITの普及は、情報弱者が不利になるデジタルデバイド(情報格差)を生む危険がありますが、Webサイトの閲覧ができるかどうかでデジタルデバイドが生じるのは困ります。
 しかも、高齢者社会になりました。障害者の社会参加が重視されています。そのような人にこそ、インターネットの活用は役に立ちます。インターネットが、格差の原因になるのでは困るのです。
 また、電子自治体の発展の最大の成果に、地方自治体のWebサイトの充実があります。災害や医療など人命に関係する情報提供が進んでいます。住民の意見を求める手段として活用されるようになりました。ますます、デジタルデバイドが生じる環境になってきたのです。

「JIS X8341-3」と「みんなの公共サイト運用モデル」

Webアクセシビリティは、「JIS X8341-3」としてJIS規格になっており、地方自治体のWebサイト運営には、総務省「みんなの公共サイト運用モデル」があります。

JIS X8341-3の概要

Webアクセシビリティに関する基本的な基準に、WebアクセシビリティJIS(JIS X8341-3)があります(「8341=やさしい」と覚えましょう)。
本規格は、
 「主に高齢者、障害のある人及び一時的な障害がある人が、
  これらの情報通信における機器、ソフトウェア及びサービスを利用するときの
  情報アクセシビリティを確保し、向上させるために、
  ウェブコンテンツを企画、設計、開発、制作、保守及び運用するときに
  配慮すべき事項として明示したもの(後略)」です。
例えば、次のような事項が定められています(詳細)

これらの事項に対処することが、Webアクセシビリティを実現することなのだといえます。総務省の「みんなの公共サイト運用モデル」は、地方自治体のWebサイトでは、JIS X8341-3を遵守することとしています。

Webアクセシビリティの認知度と取組状況

総務省「地方公共団体におけるホームページ等ウェブアクセシビリティに関するアンケート結果の概要」(平成19年7月)(http://www.soumu.go.jp/s-news/2007/070907_3.html)は、WebアクセシビリティやJIS X8341の認知度、取組状況を次のように示しています。

Webアクセシビリティに関しては高い理解を持っていますが、JIS X8341の内容まで理解しているのは半数に満たない状況です。これらの値は、地方自治体の規模により、大きく異なります。
 なお、ここでの認識度は、担当者の認識度であり、職員全体の認識度はこれよりも低いと思われます。

Webアクセシビリティでの「文字サイズ変更可」「画像に代替テキスト付与(alt指定)」「ページ識別タイトル付与(title)」は、JISでも基本的な事項ですが、約半分はそれらすら対処していないのは困ります。

しかし、多くの地方自治体では、Webアクセシビリティを考慮したWebサイトのリニューアルを進めています。そのため、ここで示された数値は急速に改善されると期待できます。

「みんなの公共サイト運用モデル」の概要

地方自治体のWebサイトの構築・運営を円滑に進めるためのガイドラインに、総務省の「みんなの公共サイト運用モデル」があります。これには「手順書類集」(http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/pdf/051215_1_f-zen.pdf)もつけられています。
 この運用モデルでは、次の事項を強調しています。

JIS X8341-3の遵守
地方自治体のWebサイトは、JIS X8341-3を遵守すべきことを明示しています。
全庁での取り組み
地方自治体のWebサイトには、多くの分野で多くのページがありますので、一部の人だけで作成・管理することはできません。各部署の職員が参加する必要があります。そのためには、首長のリーダーシップをとり、推進組織体制を整えて、全庁的な活動とすることが必要です。
利用者・制作業者の参加
Webサイトが使いやすいかどうかは、提供者ではなく、利用者の視点で検討することが必要です。また、地方自治体では、Webサイトの構築やWebページの作成・更新を庁外に委託することも多くあります。それで、Webアクセシビリティの実現には、職員だけでなく、利用者や制作業者の参加が重視されます。
PDCAサイクルによる継続的運動
JIS X8341-3の要求事項を一挙に実現するのは困難ですし、アクセシビリティからユーザビリティへと発展させることも必要です。また、庁外関係者を含む全庁的な活動です。それで、PDCA(Plan-Do-Check-Action)による組織的かつ継続的な取り組みが重要になります。

「みんなの公共サイト運用モデル」の認知度

残念なことに、2007年7月時点では、この運用モデルの認識度は不十分で、内容まで理解しているのは半分程度、実際に活用しているのは1割程度になっています。そして、運用モデルの認識度は、Webアクセシビリティへの関心度とかなり関係があることがわかります。

運用モデルへの認知度が不十分なように、運用体制も不十分です。

岩倉市では、認識度も高い状況で、これらの3つの事項はすべてクリアしています。同規模自治体としては、岩倉市のWebアクセシビリティは進んでいるといえましょう。

岩倉市では、基本方針もガイドラインも策定済です。

なお、「JIS X8341-3」と運用モデルの内容に関しては、貴庁のIT推進室が、それを職員向けにブレークダウンしたガイドラインが作成されており、それに従うことが、これらの基準を遵守することになりますので、ここでは省略します。


Webユーザビリティ

使いやすいWebサイトにするには、アクセシビリティだけでなくユーザビリティにも考慮することが大切です。

Webユーザビリティとは

Webユーザビリティとは、障害者や高齢者だけでなく、一般の利用者にとって使いやすいWebページにすることです。
 「使いやすい」こととは、利用者が容易に情報に得られるようにすることです。いいかえれば、利用者をまごつかせないようにすることです。地方自治体では、Web閲覧の初心者にも利用してもらうことが必要なので、重要なことです。そして、このような配慮は熟達者にとっても便利です。

ISO 09421-11、JIS Z8521(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-使用性の手引き)では、ユーザビリティとは「特定の利用状況において、特定のユーザーによって、ある製品が、特定の目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザーの満足度の度合い」と定義しています。

有効さ(Effectiveness)
ユーザが指定された目標を達成する上での正確さ、完全性
効率(Efficiency)
ユーザが目標を達成する際に、正確さと完全性に費やした資源
満足度(Satisfaction)
製品を使用する際の、不快感のなさ、及び肯定的な態度

内閣官房は、2009年に「電子政府ユーザビリティガイドライン」を策定しました(後述)。本ガイドラインでは、Webユーザビリティを次のように定義しています。
 利用の有効さ:やりたい作業を確実に達成できるか
 利用の効率性:作業を短い時間で達成できるか
 利用者の満足度:利用した人が、また利用してみたいと思うか

地方自治体のWebサイトとWebユーザビリティ

電子自治体の発展により、Webサイトを介して広報(知る権利)や意見募集(主張する権利)を行う機会が多くなりました。その成果を、より多くの人が平等に享受するためにも、ユーザビリティの向上が求められます。
 また、申請・手続システムも多くなりました。システムは整備したが利用率が低いものが多く、利用率の増大がIT新改革戦略やi-Japan戦略の柱の一つになっています。その一環として、ユーザビリティの向上が重視されています。
 もし、住民全体が等しくWebサイトを利用できるようになれば、次のような効果すら期待できます。

このような状況になるのはかなり将来でしょうが、Webサイトの活用は、行政業務の抜本的な合理化につながり、地方財政の観点でも効果が期待できます。Webユーザビリティは、長期的な戦略として、考えべきことなのです。

Webユーザビリティの評価

Webユーザビリティの評価には、モニターにタスクを与えて実験する方法が広く用いられています。

「電子政府ユーザビリティガイドライン」

本ガイドラインは、中央官庁のオンライン申請システム等を対象にしたものですが、地方公共団体での一般的なWebサイトにも適用できます。

本ガイドラインは、ユーザビリティに関して効果的かつ継続的な向上を図るために、新規開発や保守をする際に、企画、設計・開発、運用及び評価の段階について、総合的な解説をしています。そのなかで、Webユーザビリティを確保するための「共通設計指針」として、次の13項目を掲げています。

本ガイドライン(付属文書にも)では、モニター実験を実施するときの人選、アンケートや実験方法などに関しての解説もしています。
 また、本ガイドライン策定に先立ち、典型的な申告業務を対象に行った「電子政府ユーザビリティ基本調査」(2009年)は、その具体例として参考になります。

職員への認識向上が重要

このように、WebアクセシビリティやWebユーザビリティの向上は、市政の重点項目とすべきものですが、それには多くの課題があります。総務省「地方公共団体におけるホームページ等ウェブアクセシビリティに関するアンケート結果の概要」では、Webアクセシビリティ向上の取組への課題として、次の事項を示しています。

最大の課題は「職員の理解・知識が不十分」なことです。「異動でノウハウが引き継がれない」のも、これに起因していると思われます。Webサイトは、多くの部署が関係しており、多くのページがあるので、少数の担当者だけでは手が回りません。各部署の職員がWebページを作成したり更新したりする必要があります。それができれば、「予算や人手が配分されない」課題も、ある程度は解消するでしょう。しかし、そのためには、全職員がWebアクセシビリティについて、理解・知識を持つことが必要になります。

なお、「効果的な支援ツールがない」も大きな課題ですが、CMSの導入がある程度の解決手段になります。「利用者点検の仕組みがない」に関しては、各種の地方自治体Webランキングなどの活用が考えられます。

外部評価

Webサイト外部評価の必要性

Webサイトは利用者のためにあるのですから、提供者側ではなく、利用者側の視点でWebアクセシビリティやユーザビリティを考えることが必要です。
 そのためには、住民からモニターを募集して、実際に使って改善点を指摘してもらうのが適切です。しかし、それには労力がかかります。

主なランキング調査

多様な団体が、地方自治体のWebサイトを評価して、ランキングを公表しています。そのうち、毎年継続して行っている主なものを紹介します。

日経BP社『日経パソコン』「e都市ランキング」
全国の市区町村に対してアンケート調査を行い、
 ・情報・サービス(40点)インターネットでの情報・サービスの提供
 ・アクセシビリティ(10点)Webページのアクセシビリティの確保
 ・庁内情報化(15点)庁内の情報インフラの整備、業務の情報化
 ・情報化政策(20点)情報化に関する政策の実施
 ・セキュリティ(15点)セキュリティ対策の実行
の5つの点から評価し、ランキングします。
回収率は非常に高く、主な都市がほとんど参加をしているため、自庁のレベルを評価するのに適しています。
この結果は、『日経パソコン』『日経ガバメントテクノロジー』誌だけでなく、Webサイトにも掲載されています。そのため、これから2次加工をするのにも便利です。(2007年度は、http://pc.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070703/276536/
なお、調査方法や評価基準は、 http://pc.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070703/276536/?P=3&ST=govtechにあります
アライド・ブレインズ(A.A.O)「自治体サイト全ページアクセシビリティ実態調査」
同社が開発したホームページ品質解析ツールを用いて、全国自治体のWebアクセシビリティ対応状況を調査しています。実際に全ページを、プログラムが走査してチェックするので、より実際の状況が把握できます。
アクセシビリティの基本対応として画像の代替テキストの有無、発展対応として構造化の程度(ディレクトリの適切性、目的ページまでの深さなど)を重点にしています。
公共サイトの調査結果は、(http://www.aao.ne.jp/service/research/cronos2/)にあります。
ユニバーサルワークス「自治体サイトWebアクセシビリティ調査」
全国47都道府県、17政令指定都市、東京23区のWebサイトを対象としています。
アンケート調査ではなく、同社が定めるチェックリスト(http://www.u-works.co.jp/jichitai/list.htmlにそって、全盲の視覚障害者などのテスターが実際にWebサイトにアクセスして確認し、別途定めた採点基準(非公開)によって採点を行っているのが特徴です。
その結果は、「音声化対応」「操作性」「可読性」「レイアウト」「汎用性」に分類し、0~5の6段階にわけて、 http://www.u-works.co.jp/jichitai/index.htmlで公表しています。

ランキングの活用

このようなランキングは、質問者が重要だと想定した項目と評価基準でランキングするのですから、多分に主観的なものです。また、各地方自治体は、常にWebアクセシビリティ改善しています。そのため、この順位に一喜一憂するのは不適切です。

しかし、外部者が、どのような項目を重視しているのか、その評価基準によると自庁のレベルはどうなのか、他の自治体での状況と比較して自庁の状況はどうかなどを知るにのには適切な資料になります。しかも、これらの調査に回答すると、一般公表資料よりも詳細な資料が得られます。外部監査の一つとして考えるのが適切です。

岩倉市のe都市ランキング

「e-都市ランキング」での、岩倉市の評価を見てみましょう。これは、2007年5月頃に実施したので、リニューアル以前のものを対象にしています。

(拡大図)

失礼ですが、当時の岩倉市はアベレージレベルでした。庁内の情報化やセキュリティ対策など、庁内のIT活用に忙殺され、住民との接点であるWebアクセシビリティや情報サービスまで手が回らなかったのだと思います。
 しかし、今回のリニューアルに伴い、上図に掲げてあるチェック項目の多くが改善されてきましたので、来年度は、順位が大きく上昇すると思われます。

CMSの活用

このたび岩倉市は、WebサイトのリニューアルにCMSを導入しました。CMSは、各部署が分担してWebページの作成や更新を行えるようにすること、その際にアクセシビリティやユーザビリティを確保することに役立つツールです。
 以下、簡単にCMSの説明をします。

地方自治体でのWeb運営とCMS

地方自治体の業務は多岐にわたっています。それで、所轄部門の職員がWebページを作成したり、更新したりする必要があります。ところが、それらの職員はWebページの作成技術も不十分ですし、アクセシビリティやユーザビリティに関する知識も不十分です。それで、誰にでもWebページを作ることができる仕組みが必要になります。
 Webサイトの管理、特にアクセシビリティ対策のツールとして、CMS(Content Management System)の導入が話題になっています。CMSの概要について簡単に紹介します。

CMSの機能

CMSとは、Webサイトの素材データとデザインやルールなどを一元管理するシステムです。CMSの持つ機能は、製品により、あるいは設定によりまちまちですが、一般的に次のような機能を持っています。

デザイン等の統合
各ページが統一されたレイアウトのWebページになります。ページ間のリンクが自動作成され、しかも統一した操作になります。それで、閲覧者が使いやすいサイトになります。
アクセシビリティ対策
例えば画像には自動的に代替テキストが付けられるなど、JIS規格等のルールが強制的に確保されます。さらには、使用禁止用語や個人情報などを検出して注意を促す機能もあります。
Webページ制作の知識不要
このように、誰でも一定のルールに従ったWebページが作成できますので、各部署で分担してWebページの作成・更新が容易になります。それにより、Webマスター(Webサイト構築管理者)の負荷が削減できますし、作成を通して職員のアクセシビリティやWebサイトへの意識向上にも役立ちます。
セキュリティ/責任の明確化
CMSでは、Webページの作成→承認→公開の作業の流れを制御します。決められた項目を決められた担当者が作成すると、承認者にその原稿が送付され、承認を得たら公開担当者に送付されて公開するという手続きがルール化されるのです。しかも、それらの状況がすべて記録されますので、セキュリティ/責任が明確になります。
素材管理
バックナンバー管理により、過去の記事を取り出すことができます。また、記事・写真などを部品化しておき、必要に応じて再利用することができます。
他システムとの連携
例えば毎月同じような統計データをグラフにしてWebページに掲げるとき、Excelデータを変更するだけで自動的にグラフが置き換わるような機能を持つCMSもあります。
 Webサイトの見出しや要約などを構造化して記述し、更新があったときに配信するサービスをRSSといいます。自治体でのRSSサービスが求められていますが、これらを自動化する機能を持つCMSもあります。

CMSの導入状況とその効果

「e-都市ランキング2006」によると、地方自治体はCMSを導入している割合は30.3%であり、CMSを導入した自治体では、アクセシビリティの取り組みも進んでいます。

CMS導入の効果

「トップページへのリンク」や「代替テキスト」はCMSの基本的機能なので、CMSを用いてWebページを作成すれば、ほぼ自動的に実現します。また、「ガイドライン作成」や「テスト・確認」はCMSの機能とは直接の関係はありません。むしろ、このような配慮をしているからこそ、費用をかけてCMSを導入しているのだともいえます。

また、アライド・ブレインズ「2006年自治体サイト全ページアクセシビリティ実態調査」での「データで診る自治体サイト -No.5 調査結果とCMSとの関係」の結果分析によると、必ずしもCMS導入による差異は認められないとのことです。

CMS導入・運用での留意事項

すなわち、CMSを適切に利用すればアクセシビリティ向上に役立ちますが、その運用や全職員への教育などが不適切だと効果が得られないということでしょう。

カスタマイズ(設定)が必要
自治体の環境に合わせて、CMSの持つ機能の選択、追加機能の取り込みが必要です。使いこなしていない状況で、過剰な機能を取り込むとかえって運営できなくなります。
体制の整備が必要
どのようなルールにしてどのように運営するかが問題です。それには、ツールベンダ、Webマスター、各部署担当者あるいは開発外注先も含めた検討が必要です。当初から万全の体制を作り運営することは困難です。目標を設定し、実行し、その結果をみてさらに向上するといったPDCAによる継続的改善が求められるのです。
ツールに満足するな
CMS導入で留意すべきことは、形式主義に陥らないようにすることです。新しいコーナーでは、既存のページとは異なる形式にすることも必要でしょう。また、特に重要なことを伝えるためには、形式にとらわれない記述も必要でしょう。
だからといってルールを無視してよいというのではありません。そのようなケースが起こったときに関係者が相談して、新ルールを作ることが適切です。それがPDCAでもあります。

アクセシビリティを超えて

そもそも地方自治体がWebサイトを開設するのは、住民への情報通知、住民との意見交換を円滑にするためです。さらに進んで、地域の観光や産業を、地域外へも広くPRすることにより、地域の発展に役立てることにあります。
 ここでは、次の3つの動向を紹介します。
 ・RSS(情報伝達のツール)
 ・地域SNS(Webサイトの限界を超える)
 ・広告(地域発展への支援として)

RSS(Rich Site Summary)サービス

RSS(Rich Site Summary)とは、提供者(地方自治体)のWebサイトの更新情報を受信者(住民等)に自動配信するしくみです。
 提供者はRSSフィードという配信情報を作成するだけでよいのです。RSSフィードは、ブログやSNSの場合は自動的に作成されます。従来のWebページも、フリーウェアのRSS自動生成ツールを利用すれば簡単に作ることができます。
 受信者は、RSSリーダーにより自動的に複数のWebサイトから更新情報だけを入手できます。しかも分野やキーワードを設定することにより、自分に必要な情報だけを収集できます。RSSリーダーを組み込んだブラウザが増えてきましたし、フリーソフトもあります。

RSSにより、更新情報を受信者のニーズに応じて提供できるので、サービス向上にもなりますし、アクセス数を増やす効果が期待できます。しかも、メールマガジンと異なり、不特定多数に提供できますし、送信先の個人情報を必要としない利点があります。

地方自治体でのRSSサービスの関心は高くなっています。サイドフィード「第3回 RSS配信状況 調査レポート」2007年によれば、2007年8月現在では、RSSサービスを行っている地方自治体は10.5%であり、これは上場企業の7.4%を超えています。

地域SNS(Social Network Service)

愛知県での地域SNSの例として、
「愛知どすごいネット」東三河市民活動推進協議会(豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市の5市)(http://genki365.net/gnkh02/pub/index.php
「愛知一宮市民活動情報サイト」一宮市地域ふれあい課(地域自治・NPOグループ)(http://genki365.net/gnki/customer/ichinomiya/index.php
があります。どちらも地方自治体と住民が協調して、地方自治体でのWebサイトを補完しています。

SNS(Social Network Service)とは、会員制のブログのことですが、これを市区町村の住民の交流の場として運営しているのが地域SNSです。地方自治体のWebサイトは、行政が運営管理するので制約を受けることが多いのですが、地域SNSでは、むしろ住民主体の自由な交流をする場として、活用が注目されています。 以下、地方自治情報センター「地域SNSの活用状況等に関する調査報告書」2007年のデータにより、地方自治体と地域SNSの状況を説明します。

地域SNSの状況と関心
エリアに地域SNSがある地方自治体はわずか6.6%にすぎませんが、地方自治体の半数は、地域SNSを知っているし、地域SNSは知らなくても全国的なSNSは知っており、約7割の自治体が地域SNSに関心を持っています。そして、現在地域SNSのない地方自治体の69%が地域SNSがあるとよいと考えています。
地域SNSへの期待
地方自治体が地域SNSに関心を持つ理由として、「住民同士の交流促進」や「住民による地域発信」「住民からの意見収集」など、住民の発言を活発にする手段として期待しており、Webサイトとは異なる機能を期待していることがわかります。
地方自治体の地域SNSへの関与
しかし、行政が地域SNSにどのように関与するかについては、現状と期待の間には大きなギャップがあります。既に地域SNSある地方自治体や将来持ちたいと思っている地方自治体は、地域SNSへの関与として、「行政情報の提供」「災害情報や不審者情報等などの提供」などに用い、「行政の広報誌やWebページなどで地域SNSを紹介したリンクしたりする」べきだと思っているのですが、現実にはそのような関与をしているのはごく少数であり、60%以上が特に関与していない状況です。
その理由として、現在の地域SNSの多くは、個人や民間企業が自発的に開設したものが多く、商用目的も兼ねたものも多いので、どのように関係してよいか戸惑うことがあると想像されます。
望ましい運営主体
それで、地方自治体からみたとき、地域SNSの運営主体として、NPOが適切だとするのが4割以上でトップになっています。次に「行政から補助金を提供して地方自治体・NPO・民間企業などが共同運営する」、「民間企業に任せる」などが続きます。このうち、既に地域SNSがある地方自治体では共同運営、ないところでは民間企業が多くなっています。おそらく後者では、地方自治体として関与するだけの経験や余裕がないからでしょう。

バナー広告

地方自治体サイトWebでのバナー広告の増加

最近は、地方自治体のWebページに、民間企業のバナー広告が見られるようになりました。時事通信社の調査(時事ドットコム「バナー広告を新財源に=39道府県が取り組み開始-ホームページに掲載」2007年10月27日)によると、以前から実施している(12月開始の奈良県を含む)が40府県であり、東京都を除く6府県が検討中だのことです。
  以前から実施    22府県
  2007年度に実施 18
  検討中        6
  予定なし(東京都)  1

 また、日本広報協会の調査では、2007年6月末現在、市区町村も含めた自治体のWebサイトの18%で広告が導入されているとのことです。

時事通信社の調査での広告を行う理由は、実施中・予定40府県のうちすべてが「新たな財源確保策」であり、次いで「地域産業PR・活性化のため」が14府県になっています。また、ITpro「サイト広告に乗り出す自治体,その是非を考える」によると、横浜市の2005年度のWebサイトでの広告収入実績は2,300万円、神戸市は1,000万円だったとのことです。

地域産業との関係

Webサイトを構築してもアクセス数が少ないのでは役に立ちません。あくせすする人は、直接そのページのURLを入力するよりも、検索エンジンを介してアクセスするのが通常です。ですから、検索エンジンで上位に表示されることが重要で、そのための工夫であるSEO(Search Engine Optimization)がビジネスにまでなっています。
 SEOのうち最も効果があるのは、著名なサイトからリンクされていることだそうです。地方自治体のWebページは、総じてアクセス数が多く、信頼性が高い特徴があります。ですから、地方自治体サイトからリンクされるのは、アクセス数を増加させるのに適切な手段だといえます。

本来、地域自治体のWebページは住民のためのものですから、地域の産業や観光などを支援して地域経済の振興を図ることは、その目的に合致します。ですから、地域の民間サイトにリンクをすることは好ましいことです。既に地方自治体からの住民への広報誌には、以前から広告が入っていました。しかも、Webサイトは地域外の閲覧者も多いので、地域活性化にはより適した媒体です。

しかし、公共の観点から特定の団体に差別的サービスをすることは不適切です。また、いかに広告だとはいえ、地方自治体の性格として不適切なWebページにリンクするのは困ります。それで、バナー広告をしている地方自治体では、広告主の審査条件を設定しています。また、適切なWebページにリンクすることは、本来地方自治体ページで扱うことを代行してもらえるという利点もあります。

Webアクセシビリティやユーザビリティへの考慮

音声化への考慮
いかにWebアクセシビリティが重要だからといっても、音声ソフトでくどくどと広告を読み上げられるのは困りものです。
 ・本来のコンテンツの後に広告がくるように配置する
 ・ここからは広告であるとを知らせる
 ・あまり煩雑にならないように、読み上げるALTの記述を制限する
などの工夫をする必要があります(広告主との調整が必要ですが)。
また、もし、公的なものと営利目的のものがあるある場合には、それぞれを分離することも必要でしょう。
広告であることの明確化
Webページに埋没した体裁になると、あたかも地方自治体がリンク先の信用まで保証しているようにも受け取られかねません。そのような考慮から、一目で広告とわかるようにすることが求められます。それにはバナー広告の体裁にして、一か所にまとめるのが適切です。
また、「バナー広告について」というようなWebページにより、どのような条件でバナー広告を受け入れているのかを閲覧者にわかるようにすることが重要です。
実際に、ほぼすべてのサイトでこのような配慮をしています。

まとめ

今回のお話が、岩倉市のお役に立つことができれば幸甚です。