電子書籍ビジネスと電子書籍リーダーの歴史
●1971年 Project Gutenberg発足(書籍のデジタル化運動の始まり)
1980年代後半~1990年代前半:オフライン電子書籍
当時はオンライン環境が整っていなかったそれで大量データの配布にはCD-ROMが使われていた。
1985年 CD-ROM『最新科学技術用語辞典』(三修社)
これが国内最初のデジタル書籍だといわれている。
その後、『広辞苑第三版CD-ROM版』(岩波書店)、『模範六法昭和62年版CDーROM版』(三省堂)、CD-ROM版『現代用語の基礎知識』(自由国民社)などが刊行された。
CD-ROM書籍では、読みやすくするための工夫、検索や参照の機能が求められる。持ち歩くには小型化も必要である。それに応えて、書籍リーダー専用機が出現した。

出典:Yahooニュース「DD-1―ソニー」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?
a=20120719-00000030-it_ebook-sci
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- 1990年 Sony Data Discman DD-1
1990年にソニーはCD-ROMで提供された書籍(辞書)を読む専用機「Data Discman DD-1」を発売(右図)。これが世界初の書籍リーダー専用機である。
「現代国語辞典」「ニューセンチュリー英和辞典」「新クラウン英和辞典」「コンサイス外来語辞典」「ワープロ漢字辞典」を収録したCD-ROMが添付されており、多様な検索機能を持っていた。現在では電子辞書に分類されよう。
発売当時の価格は58,000円で専用機としては高価であったが、小型で検索機能や操作性が優れており、大きな評判になった。
- 1991年 Macintosh PowerBook170
1991年にMacintoshは当社初のノートパソコンPowerBookシリーズは発売、その最上位機種170は書籍リーダー機能を搭載した。米国での書籍リーダーの最初だとされている。
- 1993年 NEC デジタルブックプレーヤ DB-P1
フロッピーディスクに多様な書籍を搭載した。逐次、多くの出版社の協力により現代文学のベストセラーを拡充したので、新しい出版形態の到来だと注目された。文学以外でも、ビジネス、学習、囲碁・将棋、占い、クイズなど多岐のコンテンツも含むようになった。現在でも囲碁ソフトの分野では定評がある。
●1992年 Voyager社 EB(Expanded Books)発表(初期の電子書籍フォーマット)
●1997年 青空文庫(電子図書館活動)
1990年代後半~2000年代前半:Web利用の電子書籍
1990年代中頃からインターネットが普及し、パソコンはWebブラウザを標準装備するようになった。それに伴い、Web上で電子書籍を購入、ダウンロードして閲覧する仕組みが出現、定着した。
- 1996年 電子書店パピレス開始
Web上にある書籍をオンライン決済で購入してパソコンにダウンロードする形態の日本初の電子書籍販売サイトである。小説をはじめ、実用書、漫画、写真集から、動画やゲームまで広いジャンルを扱っている。
通常形式のコンテンツはIEなどのブラウザで読め、特殊形式のコンテンツは無料のリーダーソフトが提供される。ダウンロードせずに、直接ブラウザで読むこともできる。
・1995年 天谷幹夫 株式会社フジオンラインシステム設立
・1995年にパソコン通信上で「電子書店パピレス」開始
1996年にインターネットでも、2003年に携帯電話でも
・2000年 「株式会社パピレス」に商号変更
- 1999年 シャープ「ザウルス文庫」開始
現在ではスマートフォンを対象にした電子書籍が多いが、スマートフォンが普及する以前に携帯情報端末PDA(Personal Digital Assistant)があった(参照:「PDAの歴史」)。1990年代中頃では、シャープの「ザウルス」が国内最大のシェアを持っていた。
ザウルス文庫は、ザウルスに電子書籍を配信するサービスである。
シャープは、ザウルス文庫の過程で、日本語特有機能を考慮したXMDF(ever-eXtending Mobile Document Format)という電子書籍フォーマットを開発した。
その後、シャープは、2006年に「SpaceTownブックス」、2010年に同社メディアタブレット「GALAPAGOS」に対応しTSUTAYAと共同で電子書籍サービス「TSUTAYA GARAPAGOS」を設立。2011年に「SpaceTownブックス」はサービス終了した。
- 2000年 「電子文庫パブリ」
大手出版社の角川書店、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋が共同で「電子文庫出版社会」を設立。電子書籍のダウンロード販売サイト「電子文庫パブリ」を開始。
コミックはほとんどなく、一般の単行本を幅広く取り扱っている。
電子書籍フォーマットを統一せず、複数のフォーマットがあり、そのための専用リーダーを含む
「パブリアプリ」を提供している。利用方法は、パブリのWebサイトで会員登録して「パブリアプリ」をインストール。購入した書籍はパソコン、携帯電話、スマートフォンにダウンロードする。
2010年には同会を母体にして日本電子書籍出版社協会(21社)が設立され、「電子文庫パブリ」の運営を引き継いだ。
- 2000年 eBookJapan
eBookJapanは、株式会社イーブックイニシアティブジャパンが運営している電子書籍販売サイトである。特に名作マンガを中心にしている。
会員登録して専用のブックリーダーをダウンロードして書籍を購入するが、直接ダウンロードするのではなく、当社独自の「トランクルーム」というサーバに保管し、それからパソコンやスマートフォンなどの機器で読むことができる。
・2000年 鈴木雄介、イーブックイニシアティブジャパン創立。電子書籍配信開始
・2001年 手塚プロダクションと契約を締結。講談社(2004年)や光文社(2006年)などと提携。
これらを通して、コミック分野で成長した。
・2007年 国内で初めて「トランクルーム」サービスを開始。2011年無料化
・2008年 iPhone/iPod touch用ブックリーダー「ebiReader」をリリース
その後スマートフォン分野での利用を拡大
・2011年 東京証券取引所マザーズ市場に株式上場
- 2000年 「楽天ブックス」設立
これは、アマゾンのように、紙の書籍をオンラインで購入するサイトで、電子書籍サイトにはない。2011年にカナダkobo社を買収して電子書籍に参入した。
- 2003年 「Yahoo!コミック」開設
コミック単行本の配信に特化したサイト。現在では「Yahoo!ブックストア」に改称している。
●1998年:電子書籍コンソーシアム発足
●2001年 Adobe 「AcrobateBook Reader」
電子書籍リーダーもWeb環境に対応した。専用リーダーも高度化したが、2000中頃になると、特に日本では携帯電話が電子書籍リーダーの主流となっていった。
- 2004年 松下電器「ΣBook」
松下電器(現パナソニック)による電子書籍リーダー。同社が運営する「ΣBookサイト」「10DaysBook」で電子書籍を購入。見開き表示、SDメモリーカードスロットを搭載。長時間使用可能の省エネ対応、著作権保護機能などで話題を呼んだ。しかし、2005年には生産終了となる。
- 2004年 ソニー「LIBRIe」
多くの新技術を採用した電子書籍リーダー。
・ソニーの電子図書フォーマット「BBeB」(BroadBand eBook)に準拠。BBeBはデータ容量が小さいのが特徴。
・世界初にE Ink方式を採用。紙に近いコントラストでの表示、電力消費量が少ない。
・あえて画面を片面にして構造の簡素化と軽量化を図る。
電子書籍販売サイト「Timebook Town」は会員制のサービスで、60日間の利用期限が付くレンタル方式を採用。
なお、ソニーは2006年に米国で「SonyReader」を発売。Amazonの「Kindle」とともに、米国で電子書籍ブームが起こるキッカケになった。
2000年代中頃:携帯電話での電子書籍閲覧が進む
- 2003年 携帯電話での電子書籍閲覧
第3世代携帯電話は、2001年にNTTドコモがW-CDMA方式を開始したのを最初に、2003年頃には広く普及していた。高速通信が可能になり、パケット定額料金制度が導入されたため、携帯電話配信市場が拡大した。
それを利用して携帯アプリとして電子書籍のビューワー機能が提供されるようになり、2004年には携帯電話向けの電子書籍配信サイトも急速に増加した。その後、日本の電子書籍市場は携帯電話が中心になり、2009 年度では携帯電話向け市場が全体の89%を占めるまでになった。
参照:日本での電子書籍利用の特徴
2000年代後半:電子書籍の大きな変化
- 2004年 「GoogleBooks」
2004年、Googleは書籍の全文検索サービス「Google Print」を開始、2005年に「GoogleBooks」に改称した。
通常のGoogle検索では、Web上にあるコンテンツだけが検索・表示の対象になるが、GoogleBooksでは、Web以外(Googleが紙の原本からコピーしたなど)の書籍も対象にしたのである。検索結果として、著作権切れの書籍であれば全ページ(著作権がある書籍では内容の一部)が無料で表示される。
Googleは、これらに先立ち、大学や図書館の蔵書の電子化を行う「Google図書館プロジェクト」を発表、作業を進めており、その蓄積分をこのような形で公開したのである。これは著作権に関係するので、大きな論争になった。
参照:「GoogleBooksと著作権論争」
- 2007年 Amazon 「Kindle」発売
Amazonの「Kindle」は、オンライン書店の実績を生かしたコンテンツの豊富や、価格の安さ、機能の洗練性などにより、米国での電子書籍ブームを引き起こした。
・2009年 Kindle DX(-デラックス)
9.7インチディスプレイを搭載し、PDFリーダーを標準搭載
・2010年 電子書籍サービス「Kindle store」の売り上げがハードカバーの書籍を上回る
「Google eBooks」開始
●2007年 EPUBの策定(国際的な標準フォーマット)
2010年:日本での電子書籍元年
2010年頃に、日本の電子書籍を取り巻く状況が大きく変化して大ブレークした。それで、2010年が日本での電子書籍元年だといわれている。
- 2010年 Apple iPad発売、iBooks開始
iPadは、Appleのタブレット型コンピュータ。これまでにもPDAやタブレットパソコンはあったが、iPadはデザインの洗練性、機能の豊富さにより、圧倒的な人気を獲得、この分野での独占的な存在になった。新機能の中でも電子書籍機能が大きく注目された。
これ以前の2007年に、AppleはスマートフォンiPhoneを発売し大ヒット商品になったが、日本では当時、電子書籍リーダーとしての利用は少なかった。それが、iPadの普及により、iPhoneでの電子書籍が改めて注目されるようになった。
- スマートフォンでの電子書籍利用
日本では携帯電話の多機能化が進んでいたので、スマートフォンの普及は遅れていた。それが2008年にiPhone 3GSの発表とソフトバンクの積極的なキャンペーンにより関心が高まり、2009年には爆発的な普及が始まった。さらに2010年にはAndroid搭載機が多く発表され、スマートフォンの国内市場が確立した(参照:「スマートフォンの歴史」)。
スマートフォンは携帯電話と比較して表示画面が大きいし、操作的にも電子書籍リーダーに向いている。それで、スマートフォンは瞬く間に電子書籍リーダーの主流となり、現在ではほとんどの配信サイトがスマートフォン対応をしている。
- 配信サイトの多様化
従来の電子書籍販売サイトは、専門サイトや複数出版社の共同サイトなどが主であった。それが2010年頃から、多様な組織がこの分野に参入してきた。
・大手出版社が独自の電子書籍サイトを持つようになった。
2012年「出版デジタル機構」発足
・新聞業界・放送業界のサイトが電子書籍を扱っている。
・自治体が発行する図書、職員の著作などを電子書籍化する自治体もでてきた。
・草の根的なサイトは以前から多数あったが、参入が容易になり増加している。
- 2012年 楽天のKobo社買収
カナダのKobo社は世界有数の電子書籍企業である。楽天はこれまで紙の書籍を取り扱う「楽天ブックス」をしていたが、Koboを買収することにより電子書籍サービスに参入した。同時に標準フォーマットEPUB形式を採用することを表明、他社の電子書籍リーダーでも読めるようにする計画だが、自社でも「kobo Touch」を発売。
日本最大のネット販売企業である楽天の参入は、電子書籍業界に大きなインパクトを与えると注目されている。
●2011年 EPUBの日本語対応
2010年代前半:日本での電子書籍定着と専用端末生産終了
2012年には、Amazon.comとGoogleが、電子書籍リーダーと電子書籍店舗の日本上陸をした。両社が同じような戦略により熾烈な競争を始め、それにより日本での電子書籍が広く普及した。
Kindleの日本上陸
Amazon.comのKindleは日本でも期待されていた。既に日本語表示にも対応済みであったが、品揃えに必要な出版社の同意に時間がかかり、2012年になって日本での発売が開始された。
それとともに、電子書籍を販売するコンテンツ配信チャネルとして
「Kindleストア」が開設した。Kindleだけでなく、AndroidやiOSを搭載したスマートフォンやタブレットでも「Kindle無料アプリ」をインストールすれば、電子図書を閲覧できる。
原則として出版社との合意による価格設定になるが、紙の本よりもかなり安価になっている。著作権の切れた古典等には無料のものもある。
Googleの本格参入
2012年、Googleはスマートフォン用電子書籍リーダーアプリ「Google Play ブックス」の日本向けにもサービスを開始した。AndroidだけでなくiOS用もある。
従来、Googleはスマートフォンやタブレット分野ではAndroidを提供するだけであったが、ブランド名「Nexus」でハードウェアも提供するようになった。Googleはハードウェア製造機能を持たず、Android端末メーカーに委託している。
2010年にNexus One(HTC製造)を発表。2012年にNexus 7(7インチ、ASUS)、Nexus 10(10インチ、サムスン)を発表した。
専用端末からの撤退
国内電機メーカーも電子書籍市場に参入した。国内の電子書籍市場は急速に成長し、2014年には1000億円になった。しかし、ハードウェアとしての専用端末は、
・電子書籍閲覧がタブレットやスマートフォンなどの利用にシフトした
・GoogleのKindle、楽天のKoboなどとの競争で劣勢状態が続いた
ため、国内メーカーはあいつぎ撤退し、2014年にはすべて生産を終了し、今後は配信サービスに注力するようになった。
日本での電子書籍利用の特徴

出典:インプレスR&D「電子書籍ビジネス調査報告書2012」
http://www.impressrd.jp/news/120703/ebook2012
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- 市場規模の日米逆転
2009年頃までは、日本の電子書籍市場は米国よりも大きかった。2009年の電子書籍市場は、日本が574億円だったのに対して米国では331億円だったという。
それが、Kindle旋風により、米国では急速に電子書籍が普及し、紙の書籍出版を超えるようになった。米国出版社協会は2012年第一四半期電子書籍の売上高がハードカバー(ペーパーバックを除く)を上回ったと発表した。
それに対して日本では、やや足踏み状態が続いた。しかし、将来的にはスマートフォンの普及により急速に普及し、2016年には2千億円の規模になる(インプレスR&D)と予測されている。
2016年には日本市場は13億ドル、米国市場は210億ドルという予測(Pricewaterhouse Coopers)もある。
- 携帯電話・スマートフォンの比率が大きい
日本では、携帯電話の多機能化、通信価格の定額制が進んでいたので、電子書籍専用リーダーは米国のようには普及せず、携帯電話での閲覧が主になっている。通勤途中などモバイル環境での利用が多いので、パソコンはほとんど使われていない。
2010年頃からスマートフォンでの閲覧が急速に伸びており、配信サイトのほとんどがスマートフォン対応になってきた。そのうちに大部分がスマートフォンになるだろうと予測されている。
- コミック系が大部分
移動中に携帯電話で読むには、細かい文字の羅列や長編の文芸書は不適切である。また、日本では伝統的に出版におけるコミックの割合が高く、特に若者の読書ではコミックが高い割合を占めてきた。日本での電子書籍の大部分がコミックであることは当然の結果であろう。
それに伴い「ウェブコミック」も日本の特徴である。当初は単行本をスキャンしたものを1話単位で販売していたが、2006年頃から、単行本出版を意図せず、書下ろしを電子書籍に載せる形態が多くなってきた。
コミックや写真集のうち、いわゆる「エロ系」の比率が高いことが、電子書籍発展の健全性の観点から問題視されている。
電子書籍の推進、標準化の歴史
従来は、電子図書配信サイトが独自のフォーマットを作り、それを閲覧するためのリーダーを開発してきた。それを普及するために、コンソーシアムを結成してきた。しかし、電子書籍の普及には、電子書籍が多様な機器で閲覧できるようにすること、一つの機器で多数の配信サイトの書籍が読めるようにすることが重要である。それをここではフォーマットの標準化という。
2010年頃の日本では、ボイジャのドットブック系とシャープのXMDF系が主流のフォーマットであった。それが2007年に米国の電子出版関連団体が標準フォーマットEPUBを策定し、米国でその採用が進んだ。日本では国の政策としてもフォーマット標準化の重要性が認識され、EPUBに日本語対応仕様を提案、2011年にEPUB3.0で実装された。日本の多数の団体がこれを採用することを表明、今後の標準になるとされている。
- 1992年 Voyager社 EB(Expanded Books)発表
電子書籍の仕様の標準化や作成ツールで初期に普及普及したのがEBである。
1987年にAppleのアトキンソン(Bill Atkinson)は、ハイパーテキストを利用した最初の商用ソフトウェアであるHyperCardを開発した。EBはHyperCard2.1をベースにしたもので、
・行間のスペースや文字フォントなど、既存の「本」の体裁を徹底的に模倣した。
・多様な検索、マーキング機能、注釈機能、マルチメディアとの連携など、電子書籍の利点を追求した。
・安く簡単に誰でも電子出版を行なえる仕組みを提供した。
などの特長があり、多くの書籍リーダーがEBを採用した。
その後、Voyager社の日本法人「ボイジャ社」により日本語対応が行われ、1998 年には、縦書き閲覧ビューアソフト「T-Time」が発売された。2000年には「ドットブック」となった。
- 1998年:電子書籍コンソーシアム発足
電子出版が現実化してきたことは、出版界に大きなインパクトを与える。それで多数の出版社、電子書籍配信業者、リーダー機器メーカーが集まり「電子書籍コンソーシアム」を結成した。
電子書籍ファイル形式の統一が重要な課題であったが、当時は日本語環境にマッチした業界標準がなく、リーダー機器メーカー間の争いになったため、有効な決定をえることができなかった。
配信手段では、インターネットがブロードバンド以前の低速度だったので、衛星通信が想定された。利用者は書店に出向いて、書店に設置されている「メディアスタンド」で衛星通信でダウンロードするという方法であった。これでは利用者にとって魅力がない。
それに出版社は、電子出版は再販制度の対象にならず、それが紙の出版に影響するのではないか、紙の出版が低下するのではないかとの懸念により消極的になった。
そのため、1999年には電子書籍コンソーシアムの実証実験を行ったのだが、成果が得られず、2000年には解散してしまった。
- 1999年 シャープ「XMDF」
シャープは、ザウルス文庫の過程で、XMDF(ever-eXtending Mobile Document Format)という電子書籍フォーマットを開発した。日本語特有の縦書き、ルビ、外字などを扱う機能を重視ており、日本国内で広く普及した。
- 2001年 Adobe 「AcrobateBook Reader」
Adobe Systemsは、1993年にファイル形式PDF(Portable Document Format)を開発、Adobe Acrobatに搭載した。
Acrobat eBook Readerは、読者が電子書籍を読むための「Adobe Acrobat eBook Reader」と、オンライン書店向けのサーバー製品「Adobe Content Server」があり、前者は無料でダウンロードできる。なお、現在では「Adobe Reader」に統合されている。
PDFは、OSによらずでほぼ同様の状態で文章や画像等を閲覧できる特性を持っており、現在では文書ディジタル化の業界標準になり、2008年にはISO規格になっている。しかし、電子書籍での利用は限定的であり標準フォーマットにはならなかった。
- 2007年 EPUBの策定
米国の電子出版関連団体IDPF(International Digital Publishing Forum)は、電子書籍フォーマットの標準形式EPUB(Electronic Publication)を策定した。
XMLをベースにしており、既存の各種フォーマットやリーダーの機種の制限を受けないので、移植性が優れている。オープン仕様であり、用途を問わず許諾を得る必要なく自由に、無料で利用できる。
Googleをはじめ多くの組織が、EPUBの採用に同意し、米国での業界標準になってきた。
- 2011年 電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト
総務省は「新ICT利活用サービス創出支援事業」の一環として「電子書籍交換フォーマット標準化プロジェクト」を設立、日本電子書籍出版社協会などの団体や他官庁との連携を進めてきた。
標準フォーマットとしてEPUBに注目、これに日本独自の仕様も加えるように積極的な提案・交渉を重ねた結果、2011年にそれらを含めた多国語対応にしたEPUB 3.0になった。多くの団体がこれをベースにした標準フォーマットを採用することに同意した。2012年に日本電子書籍出版社協会は「EPUB3 制作ガイド」を発表。EPUB3 での不備な点やあいまいな点などの統一化を図っている。
著作権との関連
著作権に抵触しない分野でのデジタル化運動
歴史的な絵画や古文書の実物は時間経過とともに損傷するので、精密な写真を元にデジタル化して保管する作業は以前から図書館などで行われてきた。
また、著作権のない著作(古典、作者没後一定期間経過した作品や、国や自治体が作成した文書など)をデジタル化して保存し、一般に公開しようという文化活動が、公共図書館や民間ボランティアで進められてきた。ここでは後者(書籍の分野)に限定する。
- 1971年 Project Gutenberg
当時イリノイ大学の学生だったマイケル・ハート(Michael Stern Hart)が提唱し推進した「Project Gutenberg」が大規模な電子図書館運動のの最初だといわれている。
当初は、スキャナやOCRソフトがなく、多数のボランティアの手作業で入力されていたのだという。2000年に、スキャンされたテキストを、インターネットを通じて校正できる仕組みになったが、そこでの作業は多数のボランティアによっている。ASCIIコードを使う以外は、ボランティアに任されているので、ほとんどの書籍は英文のテキストであり、太字や斜体などは無視され前書きや欄外の注が削除されていることもあるという。
著作権に抵触しないことが確認されたものだけを公開し、公表物はパブリックドメインとして、一定のルールにより自由な複製、配布を認めている。
Project Gutenbergにはベネディクティン大学やカーネギー・メロン大学が運営や財政援助をしていたが、2000年に、NPO法人「Project Gutenberg Literary Archive Foundation」が設立された。現在でもこのプロジェクトは進行している。
- 国立国会図書館での電子図書館プロジェクト
国立国会図書館がその蔵書を電子化する作業が進んでいる。
・1994年 パイロット電子図書館プロジェクト開始~1999年
・1998年 国立国会図書館電子図書館構想
・2000年 電子図書館サービス実施基本計画
・2007年 デジタルアーカイブポータル(PORTA)を正式公開
・2009年 著作権法改正、国立国会図書館法改正
国会図書館での資料保存目的電子化での著作権者許諾を不要に
国等のインターネット資料を許諾なく収集可能に
・2011年 国立国会図書館デジタル化資料公開
- 1997年 青空文庫発足
日本での民間運動では富田倫生が呼びかけ人となって発足した青空文庫が有名である。これも登録された書籍は無料で自由に閲覧できる。
ジャンルは広範囲にわたるが、特に明治時代・大正時代の文学作品が多い。この運動も多数のボランティアによって作業されている。テキストファイルやHTMLファイルにしているが、原著の忠実な復元のために、JIS漢字以外の字種の扱いやルビの記述方法など厳しいルールを設定している。
Google Books論争
- GoogleBookとは
2003年 Googleは「Google Print」(後に「Google Books」に改名、「Google 図書館プロジェクト」ともいう)計画を発表した。本のタイトルだけではなく内容(全部あるいは一部)まで閲覧できる。当初は各大学に所蔵される著作権に問題のない書籍だけが対象だったのだが、そのうちに絶版書籍も対象にするようになり、現在販売中の書籍も対象になるのに及んで、著作者や出版社から猛烈な抗議が起こった。
- 米国での訴訟と和解
2005年に、米国作家協会や米国出版者協会が著作権侵害でGoogleを提訴、2008年「著作権者はスキャンされた書籍1冊あたり最低600ドルの補償を受け、今後生じる広告収入の63%を受け取る」ということに和解した。
- 日本への波及と結果
和解案では「ベルヌ条約加盟国に及ぶ」となっていたので、米国の裁判結果が他国にも適用されると解釈される。しかも、事後承諾という強引なやり方が問題になった。それで、日本や欧州で大きな反対運動が起こった。
一時は、日本の作品を対象外にすることになったが、結果として、2012年に日本ペンクラブは、Googleが作者や出版社から削除要請に応じることで和解した。
日本ペンクラブ「日本ペンクラブ・Google 共同声明」
参考URL