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BABOK


BABOKの目的

BABOK(Business Analysis Body of Knowledge:ビジネス分析の知識体系)とは、ビジネス分析(BA)、すなわちシステム開発における「要件定義」以前での「超上流工程」を円滑にするために、その工程の関係者がもつべき知識や業務の進め方を体系化したものです。

この工程は、要求者(経営者や利用部門)のニーズを適切に把握して、情報システムへの要件としてまとめる工程です。情報システムを内製する場合には、IT部門への要求事項の作成、外注の場合には、ベンダへのRFP作成の工程になります。
 この工程を適切に行うためには、要求者がニーズを明確に示すこと、要求者へのヒアリング等を通して隠れたニーズや真のニーズを引き出すこと、それらのニーズを整合性をもって評価することなどが必要です。
 役に立つ情報システムにするには、この工程を適切に行うことが最も重要ですが、関係者の個人的手腕に頼っていました。BABOKは、そのベストプラクティスを示したものだといえます。
 また、この工程では、多くの関係者が関与しますが、円滑に進めるには、関係者が共通の用語・概念、方法論、留意事項などを理解していることが重要です。BABOKは、そのための知識を体系化したものだともいえます。いいかえれば、BABOKはユーザ企業とITベンダにとって,要件定義における「共通語」を提供するものだともいえます。

BABOKの推進組織

BABOKはカナダに本部を置く非営利団体のIIBA(International Institute of Business Analysis)」が策定したもので、逐次バージョンアップが行われています。日本では、2008年にIIBA日本支部が設立され、注目を集めるようになりました。

BABOKの構成

ここでは「BABOK 2.0版 2008年」をベースにして解説します。

知識エリア

知識エリアとは、BAを実施するときに必要となる知識を体系的にエリアに区分して、それぞれのエリアで行うべき作業をあげて、どのような情報を用いて、どのような成果を得るのか、それに必要な知識・スキルは何か、その作業を進めるための留意点などを示しています。
 次の7つ(6+1)の知識エリアで構成されています。
   ビジネス分析の計画とモニタリング(Business Analysis Planning and Monitoring)
   要求の引き出し(Elicitation)
   要求の管理と伝達(Requirements Management and Communication)
   企業分析(Enterprise Analysis)
   要求分析(Requirements Analysis)
   解決策の評価と妥当性確認(Solution Assesment and Validation)
   基礎能力(Underlying Competencies)

これらの知識エリアの関係は、次のようになります。

「企業分析」「要求分析」「解決策の評価と妥当性確認」は、要件定義を行うまでのプロセスです。
 「企業分析」は、企業の状況を分析して、解決すべき課題を明確にします。経営戦略策定の段階です。「要求分析」は、企業分析の結果を受けて、課題解決のために、何をすればよいかを検討します。情報化計画策定段階あるいは個別情報システムの要件定義の前段階になります。
 これらの分析結果は、「解決策の評価と妥当性確認」により、相互に矛盾はないか、優先順位はどうか、情報システムとして解決ですかどうかなどを検討します。このプロセスでの結果が、情報システムへの要件になります。

「要求の引き出し」と「要求の管理と伝達」は、上述プロセスを円滑に行うための知識です。
 分析をする以前に、要求をすべて列挙する必要があります。そのために多様な関係者にヒアリングなどを行いますが、関係者はあまりにも当然だと思ってあえて要求しないこともありますし、適切な表現で要求していないこともあります。うまく要求を引き出すための技術が必要になります。
 「要求の管理と伝達」とは、要求を体系的に整理して関係者に伝達すること、参照しやすいようにデータベース化することです。

「BAの計画とモニタリング」は、全体のプロジェクトをPDCAサイクルとしてとらえ、これらの仕組みを継続的に改善するために、全体の計画を作成したり、実施状況を調査して調整したり改善します。
 「基礎能力」は、独立した知識エリアというよりも、他の知識エリアを十分に理解するための前提となる知識・スキルを取り扱っています。

各知識エリアの構成

各知識エリアで行う作業を分解したものを「タスク」といいます。例えば、「要求分析」のエリアは、5つのタスクに分解されます。
  要求に優先順位をつける
  要求を構造化する
  要求を具体化しモデル化する
  仮定と制約を定義する
  要求を検証する
  要求の妥当性を確認する

そして、それぞれのタスクについて、
  インプット(タスクを開始するために必要な情報)
  要素(タスクの細分化と留意事項)
  テクニック(活用すべき技法:DFD、ユースケース、ウオークスルーなど)
  アウトプット(タスクの成果物)
について、その一覧表と解説を加えています。(「要求分析」の例)

「要求」について

BABOKでは、「要求」を次のように分類しています。(→参照:「要求、要件、機能」)

基礎能力

「基礎能力」は、各知識エリアを通して必要となる基本的な知識やスキルを列挙しています。次のような知識・スキルが掲げられています。その必要性と内容が示されているだけで、それを得る手段方法や知識そのものを解説したものではありません。

BABOKの対象者

BABOKは、経営戦略の策定から情報システムへの要求までの工程を取り扱っているのですから、情報システムの開発者ではなく、利用者が中心になるべきです。また、BABOKで示している知識やスキルも、「基礎知識」からもわかるように、IT専門知識はほとんど必要としません。
 本来、BABOKの対象者は、ユーザ企業での経営者、利用部門、IT部門であるべきです。ところが現実には、ベンダ企業のほうが関心をもっているようです。

SABOK

BABOKに類似したものに、日本システムアナリスト協会(JSAG)が策定を進めている、SABAK(Systems Analyst Body Of Knowledge:システムアナリストの知識体系)があります。  SABOKは、情報技術者試験や共通スキル・フレームワークなどと整合性をもち、システムアナリストの位置付けを明確にするのが狙いで、BABOKに比べ、より実践的なガイドラインとなることを目的としています。