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ランチェスターの法則

学習のポイント

ランチェスター(Lanchester)の法則とは、2つの軍が戦うとき、残存兵力がどのように変化するかを数学的なモデルにして、兵力の大きい軍と小さい軍の戦略を論じたものです。経営の分野では、シエア獲得のマーケティング戦略として発展しています。
 理論的体系ではORに分類できますが、実際の利用面では経営戦略技法のPPMを実践するときの方法として位置付けられます。

キーワード

ランチェスターの法則、シェア


ランチェスターの法則の定式化

変数

A軍とB軍の関係についての諸元を次の変数で表します。
  a:A軍兵力の初期値
  b:B軍兵力の初期値
  a:時間tにおけるA軍の残存兵力
  b:時間tにおけるB軍の残存兵力
  E:武器性能比=A軍の武器効率/B軍の武器効率

ランチェスターの法則には、第1法則と第2法則があります。
 第1法則では、兵士が1対1の戦闘をするような場合で、このときには、一方の兵力は他方の戦闘力に比例して減少する、すなわち、
   軍の戦闘力=武器性能×兵力
と仮定します。すると、
   -a=E(b-b) ・・・ 第1法則
が成立します。

第2法則では、
   軍の戦闘力=武器性能×兵力
と仮定します。近代の戦争では、航空機や銃砲を用いることにより、一人が多数に対して攻撃が可能になので、このほうが実際によく合っているといわれます(この法則は第1次世界大戦後頃のものです。現代では3乗、4乗になっているかも知れません)。
 この場合には、
   -a=E(b-b)・・・ 第2法則
となります。

数値例と吟味

これらの法則から、兵力の大きいほうが勝つ(当然なことですが)ことがいえます。
 a>b,E=1として、b=0(B軍全滅)とすれば、
   第1法則:a=a-b
   第1法則:a=√-b
となります。

例えば、a=50,b=40(BはAの0.8の兵力)とすると、A軍の残存兵力は、
   第1法則:50-40=10
   第2法則:√50-40=30
となります。
 すなわち、第1法則ではA軍も壊滅的な損害を被るのに、第2法則では損害が小さいのです。しかも、ちょっとした兵力の差(0.8)でも優勢なほうが、圧倒的に有利になるのです。

武器性能比Eについて考えます。a=0,b=0とすれば(両軍全滅)、
   第1法則:a=E×b   ∴E=a/b
   第2法則:a=E×b   ∴E=(a/b
となります。上の数値では、第1法則の場合はE=1.25,第2法則の場合はE=1.56になります。
 すなわち、劣勢のB軍がA軍と対等な戦闘力をもつためには、第2法則になるとさらに大きな武器性能が必要になる(装備費用が増大する)のです。

ゲーム

兵力数と戦闘能力の異なる2軍の戦闘をシミュレーションするゲームを作りました→ 「戦闘ゲーム」

ランチェスターの法則の応用

ここでは、Aが強者、Bが弱者であるとします。また、戦争とビジネスを混同して表現することもあります。

戦闘環境(事業分野)の選択

Aは、第2法則がはたらく大規模戦闘を選択し、Bは第1法則が支配する戦闘を選択するのが適切です。ローマ軍は平野での整然とした歩兵隊列での戦闘で勝利しました。信長は狭い谷間の桶狭間で、鉄砲という武器性能を用いて勝利しました。現在では、米軍はイラク戦争の正規軍の戦いでは圧倒的な勝利を得ましたが、ゲリラやテロの制圧には手を焼いています。

ビジネスでは、Aはリーダー的な大企業で多角的な事業を行っています。チャレンジャーあるいは中小企業であるBが、Aのすべての事業分野で競争を仕掛けたのでは負けるのに決まっています。それで、特定の分野に資源を集中してその分野だけで競争すれば、Aの兵力を分散させることができ、Bのほうが優勢になることができます。
 大企業間での例では、チャレンジャー企業であるアサヒが、スーパードライという局地分野に傾注することにより、リーダー企業であるキリンに勝ち、その余勢をかって、キリンと対等なトップ争いにまで成長した例が有名です(→参照「キリンとアサヒ」)。また、中小企業やベンチャー企業が、大企業では手を出さなかった新規分野やニッチ分野で成功し、その分野でのトップの座を獲得している例は多数あります(マイクロソフトやヤフーなど)。

これらは、市場セグメンテーション(市場細分化)といわれます。例えば、40代で独身のキャリア女性に絞ったサービスを展開するとか、スーパーをある地域だけに限定集中させて、その地域でのリーダーになる、天文台の望遠鏡レンズの研磨など需要が少ない分野で高度な技術によりオンリーワンの企業になるなど、多様なセグメンテーションが考えられます。

ランチェスター戦略でのシェア目標数値

ランチェスターの法則は、日本で1960年代に田岡信夫と斧田太公望などによりマーケット戦略へと発展し、「ランチェスター戦略」としてシェアの目標数値を導き出しました。
 その成果として、7つの数値があります(私は、これらの数値がどのようにして得られたのか知らないので、結果だけを示します。

既にリーダー地位があるときのシェア目標値として、次の2つがあります。

73.9%(≒3/4)上限目標値
絶対的な独占状態です。これ以上のシェアを得ようとすると無競争状態になり、むしろ市場活力を失わせることになります。
41.7%(≒40%)安定目標値
圧倒的に優位な地位が確保でき、安定した事業を展開できる状態です。細分化した市場で、ともかく40%以上のシェアを獲得することを目的とすべきだといわれています。
26.1%(≒1/4)下限目標値
一般に業界トップ、リーダーと認知される地位を確立できる状態です。しかし、この地位は不安定なので、さらなるシェア拡大が必要です。

乱立状態あるいは他にリーダーが存在する場合では、上の下限目標値(26.1%)のなかで、どれだけのシェアをもつかが目標になります。

19.3%(=26.1×73.9)上位目標値
乱立した競争状態において、上位グループに属するために必要なシェアです。弱者中の強者になる値です。
10.9%(=26.1×41.7)影響目標値
市場で顧客および競合他社から強く認知されるようになる値で、本格的な競争の足掛かりとなる値です。
6.8%(=26.1×26.1)存在目標値
競争者からは存在が認められるが、市場への影響力はない状態です。負け犬の状態だともいえます。これを撤退の基準とすることもあります。
2.8%(=6.8×41.7)拠点目標値
市場からは存在すら認知されていない状態。市場に橋頭堡を築くことを目的に、市場参入時の最初の目標値として利用されます。