スタートページ> 主張・講演> 経営者・利用部門のためのIT入門> 第4章 個別システムの調達(2)
インターネットの高速化・低廉化に伴い、ハードウェア(サーバ)やソフトウェアなどのコンピュータリソースをベンダにおき、自社にはクライアントを設置するだけでよい、すなわち「所有から利用へ」の変化が注目されています。ASP(Application Service Provider)、SaaS(Software as a Service)、クラウドコンピューティングなどの用語や概念が使われていますが、ほぼ同じようなものだとしてよいでしょう。文字通り雲をつかむような漠然とした概念です。
クラウドコンピューティングは、クラウド(ネットワーク、ベンダ)にあるコンピュータリソースを利用する形態ですが、次の3つの機能からなっています。なお、ここでの「サービス」とは、業務およびその処理のことだと理解しておけばよいでしょう。
クラウドコンピューティングを利用することにより、次の利点があります。また、これらの利点が得られるような利用をするのが適切です。
(注)小売業と卸売業の業務を統合した情報システムが構築されていたとしましょう。多数の小売業や卸売業が加入すると、従来個々のWebサイトで構築していた受発注業務を同一のサイトにまとめることができます。相互に情報公開の協定を結べば、あえて受発注作業を行わなくても情報システム内で自動的に行うことができます。納品書や請求書の発行、決済業務まで不要にできるかもしれません。
これまで社内環境で構築してきた業務システムを、クラウドコンピューティング環境に移行することにより、収入を得る機会があります。また、企業間連携システムに発展させて、取引先拡大を図ることができますし、新しいビジネスモデルを構築することができます。
すなわち、ユーザ企業がベンダ業務に進出するための容易な環境が得られたことになります。
現在はクラウドコンピューティングの初期の段階です。そのため、実際には多くの限界があります。
「受注」「在庫確認」「出荷」などのサービス単位で、それぞれ複数のベンダを使いわけることができれば、自社のニーズにマッチした情報システムが構築できます。本来は、ここでの「サービス」はSOAでの「サービス」と同じ概念のはずで、このような細切れの単位で提供すべきです。ところが現実には、ベンダ間での互換性がありません。
そのため、一部の機能が不適切なので利用できないこともあります。逆に、一つのベンダに抱え込まれることにもなります。
ベンダ提供の標準処理のカスタマイズや独自の情報システムを構築できるといっても、現実はかなり困難です。ASPといわれていた頃、多く利用されていた分野は、電子メールなどのグループウェア機能であり、SaaS用に改造したERPパッケージでした。現在でもその傾向が残っています。一般にクラウドコンピューティングに適している分野は、市販パッケージが使える分野、他の情報システムとの連携が少ない分野だとされています。
逆に、自社固有の機能やコアコンピタンスな業務に利用するのは不適切な状況です。これらを自社コンピュータに残すのであれば、「所有から利用へ」が中途半端になり、全体としてコスト高になってしまうこともあります。
●セキュリティについて
データまでもクラウドに置くとなると、セキュリティの不安があります。しかし、一般的には、自社よりも高い対策を講じているので、むしろ安全だといえます。
問題なのはHaaSです。データサーバがどこにあるのかわかりません。土地や人件費が安価で自然災害の少ない海外に設置されていることが多く、その場合は、設置国の法律や政策の影響を受けます。極端な場合、日本がその国と敵対関係になったら、情報は盗まれるし、処理もできなくなります。輸出禁止事項に抵触する情報を禁止国のサーバに置くことが法律違反になるかもしれません。企業の存亡が他国の手に握られることを容認するか、それともコスト高になっても国内サーバに限定するかが問題になります。