情報化投資には,ハードの配備,データベースの整備,ユーザ教育などのインフラ投資と,販売システムや流通システムの開発のような個別アプリへの投資があります。インフラが整備されていれば,その上に構築する個別アプリの開発費用は安価になります。しかし,インフラ投資はそれだけでは利益を生まないし,インフラ投資の段階ではどのようなアプリが乗るのかを明確に把握することができません。すなわち,両者では異なる判断基準が必要なのです。
情報化投資は大きくインフラ投資と個別アプリ投資に区分することができます(当然,その中間もありますが)。
インフラが整備されていれば,個別アプリの開発にかかる費用を低下させることができます。
全事業所をオンラインで結ぶ販売システムが提案されたとします。その利益が5千万円(単位は適当に考えてください)であるとします。A社では,既にインフラを4千万円かけて整備しています。このシステムが3千万円で構築できるとすれば,この投資は承認されるでしょう。そして,2千万円の利益が出ると共に,インフラの整備も進みます。それに対してインフラ整備が遅れているB社では,このシステム構築のためにパソコンやネットワークの整備からユーザ教育までの費用がこれにかぶさってきますので,その費用を3千万円(目的が限定されるのでA社の4千万円よりやや安くなる)とすれば合計6千万円になります。この投資は却下されます。
次に,同じような流通システムが提案されたとき,A社では先のインフラがあることにより2千万円ですむのでこれも実施され,さらに3千万円の利益が得られます。B社ではまた6千万円になるので却下されます。このようにして,A社では多くの情報化投資が実施されてその利益を早期に得ることができるのに,B社では最初のハードルを越えることができないために,いつになっても投資をすることができない状態で留まります。これが繰り返されればA社とB社の差は歴然になるでしょう。これは単に投資利益で差がつくだけでなく,これらのシステムがA・B間の競争に関係するシステムの場合には,システム化の遅れにより競争に負けてしまう危険すらあります。
ここから重要な結論が導けます。ある程度の企業収益があり,その時期にインフラ投資を行った企業は,その後の個別アプリにより,さらに収益向上が期待できます。それに対して,いつも収益に余裕のない企業やインフラ投資を怠った企業は,その収益向上の手段を失ってしまうのです。
個別アプリ投資の評価も難しいのですが,インフラ投資は本質的に効果を見積ることが困難です。それを無理に費用対効果を明確にしようとしても,担当者の労力がかかりデッチあげの稟議書になってしまいます。インフラ投資は戦略的投資であると認識することが必要です。
インフラ投資はそれだけでは明確な利益は得られません。パソコンを配置してネットワークを整備するインフラ投資では,パソコンやグループウェアによる効果のうち,それらを活用して仕事を便利にすることは比較的短期間に実現するでしょう。しかし,それだけで投資を正当化することは望めません。
それによって人員削減や業務の高付加価値化が実現できればペイするかもしれませんが,その実現には長期間かかるし,実現の保証もありません。
インフラ投資の大きな効果は,その上に構築される個別アプリが短期間に安価に構築できることにありますが,その効果を見積るには,すべての個別アプリを確定して,個別アプリ構築においてインフラの有無がどの程度コスト削減に影響するかが比較検討できなければなりません。これは現実的には不可能でしょう。タヌキの皮算用になってしまいます。
インフラ投資は情報システム全体の基盤になるものですから,その変更はかなり困難です。ところが,情報技術の発展は急激であり,しかも予見できない変化が起こります。先走って導入した技術とは全く異なる技術が業界標準となることもあります。導入した技術があるために,かえって新しい技術を導入できないなどということがよく起こります。次のようなことは,その時点では誰もが予見できなかったのです。これからもそうでしょう。
しかし,それを気にしていたのでは,いつになってもインフラ投資はできません。リスクが大きいことを知りつつ投資に踏み切ることや,情勢が変化したときには埋没費用を気にせず方針変更をすることは,経営者でないとできません。それで,インフラ投資こそ経営者が関心を持つべき戦略的投資なのです。